NOVEL

週末は命懸け4「慟哭」 -3-

 扉が重い音を立てて開いた。俺は両目を見開く。大男が目隠しされた太田知子の腕を引いて、階段を降りてくる。その後ろを、楠木が歩いてくる。ドアをグラサン掛けた黒服の男が、押し開け固定してる。……たぶん通路にも誰かいる。連中、楠木除いて全員拳銃を所持してる。背広の裏にずっしりとした膨らみがある。……つまり、あれさえ抜けばいつでも俺達を軽く『始末』出来るって事だ。……冗談じゃない。
「……確かに、間違いじゃないらしい」
 俺が言い放つと、びくりと太田が肩震わせた。息を呑んで、こちらを見る。……もっとも、目隠しのせいで俺の姿は見えない筈だが。
「だけど俺は用心深いんだ。目隠しを取って、もっと間近で見せてくれないか?」
 立ち止まってそれ以上、こちらへ近付かない男に言う。
「……出来れば声も聞きたいな? 話もしてみないと、信用できない」
 大男は楠木を振り返る。楠木は溜息ついて、顎で俺を指し示して、促した。大男は太田を連れて、俺の目の前まで来る。
「……久本……君?」
 おそるおそる、太田が呟いた。俺は大男をじろりと見る。大男は太田の目隠しを外した。太田が両目を見開いて俺を見る。
「……どういう事!?」
 俺は苦笑した。
「……太田知子、で間違いないよな?」
「どうしてなの!?」
 太田が泣きそうな声で叫んだ。俺の手は後ろ手に縛られたままで、伸ばせないから代わりに微笑した。……太田を安心させるように。
「大丈夫。……心配するな」
「……心配するなって……どういう事なのよ!!」
 ……どういう事って……そんな事、言われても俺も困るんだけど。
「……『俺』が『要る』んなら、当然、太田は解放するんだよな?」
 俺は楠木の方を向いて言った。楠木は無言で苦笑した。俺は大男を見る。
「『確認』はした。もう目隠しはして良い。……自分の顔見られたくないだろ?」
 大男は太田に目隠しを施す。太田は信じられない物見るような目で俺を見ていた。
「……それとも『死体』が欲しいか?」
 楠木は苦笑した。
「……それで『交渉』は終わりですか?」
「……太田を『解放』したら、全面的に『協力』してやって良い」
「……信用できますかね?」
「……それが『ルール』って奴だろ?」
「……可愛らしい顔して随分な事考えるんですね」
「……さっさと太田を解放しろ。ただし、『現場』を必ず俺に見せろ。じゃなきゃ信用しない」
「っ!!」
 太田が声にならない悲鳴上げる。
「何考えてるのよ!! あなた!!」
「……君は巻き込まれただけだ。心配するな。こういう事は日常茶飯事だ」
「……日常茶飯事って……!!」
「……慣れてるから安心しろ。君の困るような事にはならない。……連中が『バカ』じゃなければな」
 わざと冷たく突き放した。
「……そんなっ……!!」
「……うるさいよ。『邪魔』なんだ。悪いけど口挟まないでくれないか?」
「……なっ……!!」
 俺は楠木に向き直る。
「……『人質』は二人より一人の方が『管理』しやすいだろ? 太田の家はごく普通の一般家庭だから、大して金は無い。地位がある訳でもない。長くいれば長くいるほど、デメリットの方が増えるんじゃないのか?」
「……用件はそれだけですか?」
 俺は笑った。大男は俺を見ている。……けれど、隙だらけだった。ついでに太田の管理もおざなりだ。男の不意をついて飛びかかって首筋に歯を当てる。大男の絶叫に構わず噛みちぎる。大男は首筋を押さえて後方へ仰け反るように、退いた。俺は太田を自分自身の身体で庇って、背中で押し倒す。太田は悲鳴を上げて床に転ぶ。男達の銃口が一斉に俺にぴたりと向けられる。
「……と、まあこれくらいの事は軽く出来るんだが……」
 そう言って、血相変えてる男達を見回し、それから楠木を見る。
「太田が『解放』されたら猿轡噛んでやっても良いぜ。……『厄介』だろ?」
 楠木は大仰に溜息ついた。
「……確かに『厄介』ですね」
 それから苦笑する。
「……それを『証明』する為に?」
「噛み付かれたいなら好きにすれば良いけど?」
「……『不利』になりますよ」
「俺は『交渉』してるんだ。……どうする?」
 真っ直ぐに楠木を見遣る。
「……『解放』すれば良いんですか?」
「心配なら太田を『解放』した後、別の場所に隠れ家を変えれば良い。そうすれば太田の口から、監禁場所について言及されても、平気だろう? 時間が経つほど、お前達に『不利』になる。今頃必死で俺の行方を捜してるだろうよ。……判ってるんだろう? 『行動』起こすなら早い方が良い。県内はもうヤバイんじゃないのか?」
 にやりと笑ってそう言ってやる。
「……判りました。『要求』を呑みましょう」
「決まりだな」
 楠木がゆっくり近付いて来る。俺は用心しながらそれを見る。
「……噂には聞いてましたが、実際この目で見るとぞっとしますよ」
 俺は答えない。
「……確かに『噛む』という方法は『有効』ですね。……相手に『恐怖』を与えるには。それが華奢で可愛らしい『人間』の姿してると言うのは……本当、ぞっとしますよ」
 俺は無言で楠木を睨む。楠木は太田の腕を取って助け起こす。
「……随分乱暴なやり方ですね?」
「……お喋りな男だな」
 何か狙ってるのか? 俺は楠木に注意しつつも、他の連中の動きにも耳を澄ます。男達はじりじりと俺の周りを包囲しようとしている。
「両手両足の自由奪われてる人間がそんなに『恐い』か?」
 男達の足が止まった。
「お前らちゃんと『付いてる』のかよ? ただのクソガキがそんなに恐いか? そんな事しなくても、どうにか出来るんじゃねぇの? こんなクソガキの一人や二人。それともビビっちゃって『安心』出来ない?」
 楠木が苦笑した。
「あんまり刺激しないで下さい。勢い余ってあなたを殺したりしたら、どうするんですか?」
「そいつはお前の『不手際』だろう。俺には責任無い」
「……自身の『生命』についてはどうお考えで?」
「お前達が目的遂げる前に、俺を『殺す』としたら、お前達が『無能』って事だろう? その時は俺も運が無かったと諦めるより他に仕様が無いだろう? ……もっとも、それはお前達が『無能』な場合に限るが」
「……随分ですね?」
「『無能』と呼ばれて怒るようなら、それは『図星』って事だろうが」
 吐き捨てると、楠木は苦笑した。仲間の一人を呼んで太田を引き渡す。その様子を注意深く俺は見つめる。微動だにせず。
「……あなたのせいで、あなたの身柄は私が運ばなければならないようですね」
「何なら自分の足で歩いてやっても良いぜ?」
「それは『遠慮』させて頂きます」
 そう言って楠木は俺を抱き上げる。俺は楠木から目を離さない。楠木は苦笑した。それから周りの連中に目線で促す。男達は地下室の階段を昇り、通路へと出る。俺楠木と共に外へ出る。
「……目隠しさせて頂きますよ?」
 俺は頷いた。楠木は一旦俺を下ろし、目隠しをしてもう一度抱き上げる。エレベーターで上へ戻り、駐車場らしき場所で車に乗せられ(今度はトランクではなく座席)走り出す。車は二台。方向感覚を狂わせる為か、やたら細かく右折・左折を繰り返し、郊外の緑地公園へ連れて行かれた。俺の目隠しが外される。前を走っていた乗用車から、目隠しと猿轡噛まされたままの太田が下ろされ、ベンチへ座らされる。前の車はそのまま走り去る。それを追い掛けて俺達の乗ってる後続車も走り出す。
「……もう宜しいですね?」
 俺は頷く。黙って猿轡と目隠しされる。更に俺は布袋に詰められた。それで本当、何も身動き一つ出来なくなる。車は更に走った。俺はギシギシ車に揺られて、目が回りそうになりながら、懸命に現在位置を計算しようとしていた。不意に、正確に鳩尾を、拳で殴られた。呻き声すら上げられずに、俺は瞬時に真っ暗になって……気が遠くなった。……バカ野郎……今度やったらただじゃおかねぇぞ……!! 楠木!!
 俺は気絶した。

 どのくらい眠ったのか……。時間感覚が今度こそ本当に判らない。目の前が回る。頭痛と腹痛。それから身体が熱っぽくてひどく怠い。発汗もしてるから、どうやら熱があるらしい。全身がギシギシ言ってるけど、振動はないから車じゃない。どうやらスプリングの上。……ベッドに寝せられてるとみた。随分『改善』された訳だ。目隠しと猿轡はされたまま。……ただ、後ろ手にされてた腕が頭上付近で紐で縛られてるだけ。足は自由になってる。……ただ、この消耗じゃそれは何ら『救い』にはならないって事。……薬飲ます気は毛頭無いんだろうな、連中。この身体は解熱剤も鎮痛剤も抗生物質も何も与えられて無い。それは『今』の俺には結構な拷問だ。……こんなじゃとても『自力』で脱出は無理だな。悔しいけど。
 仕方ないから『別』の方向性で行こう。しかし、連中一体何が『望み』なんだ? 営利誘拐? 金銭目的? それとも怨恨? ……七年もいた『久本』を裏切るんだから……『何か』あるんだろう。
 俺は溜息をついた。ことり、と右の方で物音がした。それで初めてそこに、誰かいる事に気付いた。けど、そいつは何も言わない。注意しなければそこにいる事も感じさせないくらい、ひっそりとした気配。息遣いもかなり控えめで。それでも生きて呼吸してるのに間違いは無い。『監視役』って訳だ。猿轡のせいで顎から頬、耳にかけて痛む。たぶん頭痛の要因の一つにもなってる。その時、右足下斜め向こうから、がちゃりという音がして誰か入ってくる。
「……どうだ」
 楠木の声。部屋にいる誰かはジェスチャーか何かで答えたらしかった。そのまま歩く音殆どさせずにこちらへ来る。
「……お加減はいかがですか?」
 目隠しと猿轡されてる人間にそういう事、聞くか? ……他には出来ないから首を横に振る。楠木は手を、俺の額に当てた。
「……成程、まだ熱が高いようですね。解熱剤を用意しました。……今、猿轡を外して差し上げますが、ここは大声出しても人の来ない場所です。従って、そういう事はするだけ無駄です」
 俺は特に反応はしなかった。楠木は猿轡を外す。
「……てっきり『見殺し』する事に決めたのかと思ったぜ」
 言うと、楠木は小さく笑った。
「……口を開けて頂けますか?」
 俺は素直に口を開けた。錠剤が二つ、それと水が流し込まれる。口を閉じて、ごくんと飲み込む。冷たい水が気持ち良い。喉を降りてく感じが。
「……もっと水をくれ」
「物怖じしない方ですね」
「……『熱』で大量の水分が失われてる。まだ『生かしておく』つもりあるなら、当然だろう?」
「……あなたにあまり元気になられても、困るんですがね」
 そう言って楠木は溜息をつく。
「使い物にならなくなってもか? 楠木」
「……『命令』が『得意』ですね。口を開けて下さい」
 口を開くと、冷たい水が適量、注ぎ込まれる。俺はゆっくりそれを嚥下した。
「……『人質』にメシも食わさないのか?」
 言うと、楠木が息を吐いた。
「……どうしたものでしょうかね?」
 俺は思わず眉間に皺を寄せた。
「……お前、俺を『餓死』させる気か!?」
「……まさか。……ただ、私にはそのつもりはありませんが『結果的』にはどうなる事か……」
 冷たい汗が、背中を滴り落ちた。
「……『取引』次第……なのか!?」
 楠木は小さく笑った。
「テープレコーダーを用意してあります。あなたの頑固な『お父上』に何かご伝言して下さいます? お気を変えて下さるよう」
「……俺に……『命乞い』しろとでも!?」
 楠木は笑った。
「そんな事は申し上げてませんよ。ただ、説得して下されば良いのです。『親子』でしょう?」
 こいつ……『俺』と『久本貴明』がどういう関係の『親子』だか判って言ってるのか!? 一ヶ月単位の『会話』ですら両手の指で数えられる程しか、してない関係だぞ!? 奴が『俺』を本当に『息子』として認識してるかどうかも怪しい。『親父』に比べれば中原の方が『親しい』くらいだってんだぞ!? ……なのに、俺に一体何言えって言うんだ!!
「……話す事なんて何も無い」
「……それで宜しいんですか?」
 意味ありげな声で、楠木は言う。
「『命乞い』するくらいなら、ここで潔く死んだ方がマシだ」
「……それはとても潔いですね」
 含みのある声で。脳裏にちらりと厭な予感が横切った。不意に、目隠しを取られた。楠木が顔を間近に寄せてきた。……何を、と言おうとして口を塞がれた。
「っ!?」
 楠木はひどく冷たい目で、至近距離で俺を見つめながら、唇の中に舌を滑り込ませてくる。俺は必死に頭を振って抵抗する。けど、両手で押さえ込まれる。……気持ち悪い。嘔吐しそうだ。激しい嫌悪。口の中、まさぐられて執拗に舐められる。思わず、じわりと涙が滲んできた。楠木はようやく顔を上げた。
「……何か言いたい事は?」
「お前!! 変態か!?」
 涙を堪えながら、俺は怒鳴り睨み付けた。
「……それ以上何かされたくなければ、『ご伝言』を」
 ……最低……。こいつ、中原よりも『凶悪』だ。俺の周りはこういう連中ばっかりか!? 冗談じゃねぇよ!! 俺が一体何したって言うんだよ!!
「……そう言われても、お前達の『望み』が判らなければ、『説得』のしようが無いだろう」
「知らなくても結構ですよ。……『お父上』が我々の『要求』呑まなければ、酷い目に遭わされると訴えて下されば、それだけで」
「……俺に……『自分』を『助けてくれ』と……言えと言うのか!? 俺の口で!? どの面下げて!?」
「……『中原さん』の窮地には出来たでしょう?」
「それとこれとじゃ全然話が違う!!」
「……どうして? 『中原さん』の時は出来たでしょう?」
「あれは『他人事』だからやっただけだ!!」
「……他人事? おかしな事おっしゃいますね」
「……俺じゃ止められないからだろう。たぶん放っておいたら確実に『死ぬ』事だけは判ってたから、そうしただけだ。必要最低な『手段』講じないで、成り行きを傍観するのは俺の主義じゃない。だからといって『必要以上』の事をするつもりは毛頭無い。……煩わしいだけだからな。俺ははっきり言って『他人』の都合なんてどうだって良い。『俺』の決めた事だけが『俺』の『行動』の『倫理』だ。……したがって、『俺』は『説得』なんて絶対しない。それくらいなら俺を殺せ。……まあ、もっともその場合最悪『無期懲役』か『死刑』だな。……俺は『未成年』だし誘拐・監禁と合わせれば数年くらいじゃ出て来れないだろう? 『営利誘拐』は罪が重いんだ。殺さない限りはたぶん『死刑』は無しだがな」
「……誘拐犯にそういう『挑発』する訳ですか?」
 面白そうに、楠木は言った。
「もっとも? お前が捕まるつもりが無いとか、『死刑』でも構わないってんなら、わざわざ俺が忠告するまでも無いんだが?」
「……本当可愛げのない『御曹司』ですね。さすがは『久本貴明』殿のご令息というところですか」
 そういう言われ方、されたくない。俺は憮然とした。
「『協力』するとか言って『随分』ですね?」
「……『協力的』だろう? これ以上どう、『協力』しろと?」
「……『高圧的』ですね」
 は!? 何それ。……そんなつもり、毛頭無いぞ!?
「……自覚無いんですか?」
 何を……判らない。楠木は深い溜息をついた。
「……それは確かに『頭痛薬』ものだ……」
「……何の話だよ?」
「……判りました。その気が無いとおっしゃるなら、気は進みませんが別のやり方で参りましょう。……ちょうど、復讐したがってる奴もいますし」
 俺は眉間に皺を寄せた。楠木は俺のいる場所からは死角になってる位置にいる男に、目線で何か促した。男は部屋の外へ出て行く。
「……何をするつもりだ……?」
「あなたが『決定』した事ですよ。もう後には引けません。潔く受けて下さい。こういうのは私のやり方ではないのですが……あなたの蒔いた『種』です。死んだりしないで下さいね」
 物凄く厭な予感がした。
「…………おい?」
 楠木は薄く笑みを浮かべた。そこへホームビデオカメラを持った男と、先程首筋を噛み切った大男が入って来た。……大男は何か物凄く厭な気配を纏っていた。陰惨な……ひどく暗い『憎悪』。それと俺には理解不能な……何かおぞましいもの。思わず身震いしそうになった。それでも、キッと大男を睨み付ける。大男は睨めつい目で俺を見る。ひどくおぞましいものを感じる。物凄く。
 楠木は無言で立ち去る。代わりに他に三人の男が入室してくる。皆、にやにやしている。……何だ? 俺は眉間に皺を寄せた。ざわざわと、厭な予感が背筋を這い昇る。けど、それが何なのかいまいち俺には判断付かなくて。
「……さっきは良くもやってくれたな」
 嗄れた低い声で、大男は言った。俺は返事をしない。
「今度はさっきみたいな真似はさせねぇぜ。とことん後悔して貰う」
 俺は無言で男を睨んだ。
「そうやって粋がっていられんのも、今の内だけだ。……おい、カメラ回しとけ。お坊ちゃんの嘆き喚く姿をしっかり映せよ!」
 厭な感覚は収まらない。男達のにやにや笑いが更に深くなった。……大男がおもむろに自分の上半身のシャツを脱ぎ捨てる。無数の傷痕のある褐色の筋肉男。シュワちゃんもスタローンもびっくり、てな感じだ。……暑苦しい男。
 ぎょっとした。大男はギシリ、と音を立てて俺の寝てるベッドに足を掛けた。
「……なっ……!!」
 物凄く、厭な予感がした。
「ちょっと待て!! お前……っ!!」
 俺は必死で身を捩って左足で大男を蹴る。大男は構わず俺の膝に手を掛け、開こうとする。
「何考えてんだよ!! 変態か!? お前!!」
 ぞっとした。物凄くぞっとした。必死で抵抗する。男の腕が伸び、パジャマの上衣が引き裂かれる。俺は声にならない悲鳴を上げた。
「バカ野郎!! あんたら変態か!?」
 叫んだ途端、大男が拳で俺の頬を殴る。避けられなくて、まともに喰らう。……口の中、灼熱感。……切れた。俺は口の中の血を、大男に吐き掛ける。大男は残忍な笑みを浮かべる。……絶対泣くもんか。やろうとしてる事は良く判った。……判ったけど、絶対屈服なんてしてやらない。
「対等条件じゃ敵わないから、こういうやり方か? 『卑怯』だな。それにひどく『弱虫』だ」
 睨み付けてやる。大男は厭な笑い方する。
「……いつまでそうやって強がれる? 女みたくヒイヒイ言わせてやるぜ」
「……てめぇみたいなゴリラみたいなチ○ポコで、喘ぐ女がいるのかよ?」
「……何!?」
「……『見かけ倒し』って奴だよ。知らねぇの? ゴリラってああ見えて『小さい』んだぜ。ガタイに比べて『ブツ』がよ」
 せせら笑ってやる。男は逆上して殴りかかる。今度は肋骨。さすがに一瞬、息が出来なくて、げぼげほと咳き込んだ。……苦しい!! 骨に響く。鎮痛剤無いから……最低。また折れたらどうすんだよ!! ボケ!! コルセットしてるけどまだ……!!
「……おいおい、乱暴して『殺す』なよ。早く『お楽しみ』すんだろ? テープ終わっちまうだろうが」
 見物してる男の一人が、ヤジを飛ばす。……畜生、てめぇら。他人事だと思って。
「……知ってるか? 一方的なセックスしか出来ない男は、独りよがりで女に快感なんて与えられなくて、一人密室でマスターベーションでもしてりゃ十分な『カス野郎』なんだよ」
「……なっ……!!」
 大男は顔を真っ赤に染めた。
「……おい、そいつの『挑発』に乗るな。……そいつはお前に自分を殴らせてダウンさせて、それ以上の『苦行』させないつもりだ」
 見物の男の一人が言った。俺は舌打ちしたくなるのを堪えた。大男は激情を堪えてにやりと笑う。
「……何だ、そういう事か」
 デカイだけで単細胞で頭足りない木偶の坊。コイツは殴る事とヤる事しか、満足に考えられないらしい。
「……てめぇら、他に『娯楽』ねぇの? 寂しい連中だな。どうせなら『美少女』さらって来てヤッた方がマシじゃねぇの?」
「俺達はお前でも別に構やしないぜ。自分でやる気はちょっと無いけどな。……そこのそいつは、乗り気だからちょっと付き合ってやれよ。焦らさないでよ」
 その台詞に、他の見物男どもがどっと笑う。
「うるせぇ!! 黙ってろ!!」
 大男が真っ赤な顔で後方へ怒鳴り散らす。それから俺に向き直る。ぞっとするけど、表情には出さない。負けたら終わりだ。
「相手の両手拘束してないと、ヤれないのかよ?」
「その手には乗らないぜ。坊主」
 そう言って大男はズボンの後ろポケットから、折り畳みナイフを取り出す。片手でくるりと回して刃を開き、ぴたりと俺の首筋に当てる。それから自分のズボンのジッパーを下ろして中身を取り出した。何考えてんだか、もう勃ってやがる。
「……舐めろ」
  俺は眉をひそめた。
「……んな汚いモノ、触りたくもねぇよ」
「……ナイフ突き立てられたいか?」
「……やれば?」
 しらりとした顔で言い放つ。大男はナイフを強く押し当てる。じわりと血が滲む。それでも俺は表情を変えなかった。大男はカッとして俺の口をこじ開ける。無理矢理に俺の口の中押し込んだ『それ』に俺は噎せ掛けて、それでも必死で歯を立てた。男は悲鳴を上げて飛びすさる。男達の嘲笑が部屋の中こだました。涙目になりながら、俺は連中を睨み付ける。大男は自分の『ムスコ』を押さえて呻いてる。肩先に大男の落としたナイフが落ちてる。切っ先が俺の首筋を掠って大きく浅い傷を作った。じくじくと痛む。じんわり血が滲み、伝ってシーツに染みを作る。位置が違ってれば、腕の縛め解けたのに。……口の感触、気色悪い。ベッドに落ちないよう、床に唾を吐き捨てる。……酷く厭な感触。最低。……あんなモノ、二度と口の中入れたくなんて無い。
「……強情な『お姫さん』だな」
 見物の一人が言う。
「いきなり突っ込んだりするからだろ? ノセてからヤりゃあイイんだよ」
「じゃあ、お前がやってみろよ」
「俺は遠慮しとく。そういう『趣味』無いからな」
 ……こいつら。
「おい、テープ勿体無いぞ。どうすんだよ、この先。止めりゃ良いのか?」
 カメラ回してる男が言う。
「……それもそうだな。……おい、お前。お前やれよ」
「……えーっ? 俺? ジャンケンだろ? この際」
 見物連がジャンケン始めた……。何考えてるんだ。こいつら……。
 その時、扉が開いた。

To be continued...
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