NOVEL

週末は命懸け2 「罪」 -7-

「……失態続きですね」
「…………」
「好印象どころか悪印象ですよ。……さあ、これから先、一体どうなる事やら……」
「……お前、喜んでるだろ」
「そんな筈無いでしょう?」
 嘘だ、絶対楽しんでる。この男はそういう奴だ。きっとまた、ろくでもない『期待』に思いを馳せているに決まってる。そして隙あらば『導火線』に嬉々として『火』を付けるに違いない。……頭痛い。
「……で? これは思惑通りなんですか? それとも手違い?」
「……冷静さを欠いてる自覚はある」
「やっぱり『あれ』ですか?」
 睨み付ける。が、中原に効果は無い。にやにや笑ってる。
「あれから調べてみましたが、『滝川家』の方は問題無いですよ。確かに息子は失いましたが、他に兄もいますし、若くて急逝したものだから、かえって『写真界の貴公子』とか出版業界で取り上げられて、写真集も売れてるし、今度追悼個展なんかもやるらしいですから」
「……中原!!」
「ま、問題なのは『中西家』ですが、通院はしてないようですし、医療費はそれ程掛かってない筈です。どうやら『放任』のようですから。あそこは手を出すと余計おかしな事になりそうですが」
「……おかしな事?」
「ま、自宅行けばすぐ判る事ですが、とんでもない『家』ですよ。下手にでたら、酷い目に遭いますから顔出さない方が良いですよ」
「……それって……」
「『金融』の方のブラックリストに載ってるくらいですからね。判るでしょう? こう言えば」
「……まさか、医者に行く金も無いのか!?」
「それもあるでしょうけど、当人達がその必要性を感じて無いようですから。でも郁也様が責任感じる必要はありませんよ? ああいう連中は甘やかす必要ありませんから」
「!?」
「借りた金返すって当然の事出来ない人間が、他人の善意なんてもの理解する筈無いですから、くれぐれも関わらないで下さいね。これは忠告です。下手な同情なんかしたら、どういう事になるか今更私が言わなくても判ってらっしゃるでしょう?」
「……でも、中西聡美は本当は通院の必要性があるんだな?」
「……強制的なものではありませんよ。当人が不都合を感じて無ければ、必要ありませんから」
 中原はにっこり笑った。
「……わざとだな?」
 拳が、震えていた、
「わざとだな!? 中原!!」
「……わざとだなんて人聞きの悪い」
 俺のせいか!? 俺のせいなのか!? 全部!!
「少なくとも『久本』の名を出せば、強請のネタになるだけですし、『匿名』で『善意』の資金提供しても、その親の『酒代』になるだけの話ですからね。何をしても無駄ですよ」
「……それをわざわざ俺に報告する意図は何だ!? 中原!! 俺にっ……お前は俺にっ……何をっ……何を『期待』してる!?」
「……自己嫌悪なんて無駄ですよ。『後悔』なんてものも。何もかも取り返しなんて付かない。『過去』なんてものは綺麗さっぱり忘れるか、でなければ『良心』なんてものを持たないかでしょう? 考えるから悩むんです。気にしなければ、良い事ですよ」
「……お前っ……!!」
 思わず、睨み付けた。
「俺には理解出来ませんね。たかがそれくらいにあなたが拘る『理由』が」
「……っの人でなし!!」
 中原は冷笑した。
「……確かに俺には、普通の人間にある感情の一部が欠けてるんでしょうよ。でも、俺はそれで困った事はないし、悩んだ事もありませんね」
「そんなものが当然だとでも言うのか!?」
「俺はたぶん『異常』なんでしょうよ。だけどあなたも『普通』ではいられない筈でしょう? 少なくとも、俺が出会ったばかりの頃は『普通』じゃなかった。……今のあなたは俺には『偽物』にしか見えませんよ。判る筈のないものを判ってるつもりになってる。愚かしい『人間』のフリをしている『生き物』だ」
「お前に俺の何が判ると言うんだ!!」
「……判らないんでしょうね? 俺が初めてあなたに会った時、どれほど嬉しかったか。ようやく同じ言葉で通じ合える『生き物』に会えたと思ったのに」
「てめぇが勝手にそう思い込んだだけだろうが!!」
「……そうですよ。俺の勝手な思い込みだ。その思い込みで俺は十年費やした」
「それが俺にどう関係ある!!」
「……無駄にさせないで下さいよ」
「知った事か!! お前が勝手にやった事だろう!!」
「……何も知らない癖に」
「知る訳無いだろ!!」
「……俺は諦めの悪さだけは天下一品でしてね。ここまで付き合わされたんだから、それだけのものは頂かないと割に合わないんですよ」
「……何をっ……!!」
「……大丈夫。あなたに危害は加えませんよ。あなたには、ね」
「……中原?」
「大丈夫。不安になる事なんてありませんよ」
「……お前、何を……何をするつもりだ?」
 背中に戦慄が走る。
「……そんな心配するような事しませんよ」
「……何をするつもりだ!?」
「郁也様は気にする必要ありませんよ」
「何かするつもりだろうが!! お前は!!」
「大丈夫。あなたには『全然』関わりのない事ですから」
「それが信用できないって言ってるだろ!?」
「心配しなくても、あなたが後生大事にしてるもの、どうこうしたりしませんから。あなたがどう思おうが、俺は少なくともあなたの『敵』に回るような事だけはしませんからね」
 何処か突き放した物言いで、淡々と。けれど、僅かに感傷じみたものを含んだ声色で。
「……『人間』でいたいなら、そうしていれば良い。好きなだけ『人間』のフリをなさって下さい」
「おかしな事言うな!!」
「……おかしいのはあなたでしょう? 本当は『理解』なんてしてないクセに」
「うるさい!! 俺の気持ちなんか判りゃしない癖に!!」
「……ええ、判りませんよ。少なくとも俺は『他人』に同情したり、心配したりしませんから」
「……っ!!」
「『嫉妬』だと思って結構ですよ」
「……何を……っ」
「俺は『人間』じゃないですから」
 真顔で。
「……中原……」
「……今更、どうだって良い事ですけど」
「……中原……?」
「……信じられるものがあるうちは幸せですよ。今の内に、幸せを味わっておいて下さい」
「……お前、俺をどん底に突き落とすつもりか?」
「まさか。『大切』な郁也様にそんな事する訳無いでしょう?」
「嘘寒いんだよ、お前の台詞」
「本心ですよ。あなたを不幸にするつもりは毛頭ありません」
 結果的にそうなる事はあっても、とでも続きそうな口振りで。
 ぞっとした。何でこんな男に見込まれてしまったんだろう。どうしてこんな奴に目を付けられてしまったんだろう。……それよりも、一体何でこんな男に一瞬たりとも油断したりしたんだろう。コイツがとんでもない奴だって事は、俺は十年前から良く判ってた筈だ。こんな男、見捨てたって全然構わなかった筈だ。気にする必要も、庇う必要も、情けを掛ける必要も何も無かったんだ。俺はバカだ。この男に一体何を期待してたんだろう。……判ってる。コイツを助けたりしても、ろくな事にならないって俺は十分判ってた。ただ、それがどんな結果を生むかなんて考えやしなかった。考えようとも思わなかった。……ただ、哀れで。見捨てるに忍びなくて、『同病相哀れむ』だ。別に奴の古傷を舐めてやりたかった訳じゃない。俺に昭彦の事なんて言えない。ただ、あの時の……『妹』の事を洩らした中原が、『母』を亡くした俺自身に良く似ていたから、俺は『俺』を見ているようで、つい手を出した。そうじゃなかったら、助けようなんて『死んで欲しくない』なんて思いはしなかった。自己満足も良いところだ。後の事など何も考えてやしない。結局、俺は『俺自身』を救いたくて、嘆いてる『俺』を助けたくて、『介入』しただけだ。そうじゃなければ、中原になんて関わる気毛頭無かった。……責任取る気もない癖に、この男に『死んで欲しくない』と思ったんだ。
「……中原……」
 半ば、諦めたように呟いた。とんだ『疫病神』だ。
「……何です?」
 にやりと笑う。溜息つく。
「……中西の、事なんだけど……」
 ほう、とでも言いたげに眉を顰めて見せる。
「……少し、調べてくれないか?」
「……どうしたんです?」
「……厄介な事に、俺の『友人』がちょっかい出しててな。俺の予想、たぶんそのうち役に立つから、色々と調査と……それから……」
「……藤岡君ですか?」
「余計な口は挟むな。とにかく、行動範囲とかの調査と……出来れば妙な行動に出ないよう、本人には気付かれないようガード出来るか?」
「……護衛ですか?」
 中原は呆れた、と言わんばかりに目を丸くする。
「……あなたがそんなお人好しな台詞言うとは、驚きです。そんなに気に入ってるんですか?」
「俺がじゃなくて、昭彦がな」
 言ってしまってから、しまったと気付いた。これじゃ白状したも同然だ。クソッ。
「……ああ、成程ね」
 意味ありげに、中原は笑った。
「……本当、藤岡君には『甘い』んですね」
「そういう問題じゃないだろう。大体、俺の責任でもあるんだ」
「……知ってるんですか?」
「……いや。けど、出来れば真相は知られたくない」
「……厄介ですね」
「だから言ってる」
「そういう意味じゃなくて、『あなた』が」
 憮然とする。
「……今に、足を引っ張られますよ」
「……うるさい」
「……まあ、でも……あなたにとっては『聖域』なんでしょうから……仕方ないですね」
「あのな、そういう言い方は……」
「……違いますか?」
 見透かすような目で。ぐっと詰まる。
「とにかく、頼む。……『手当』は必要か?」
「……何か下さるんですか?」
「……『無料奉仕』は厭なんだろう?」
「……そうですが……今回はやめておきますよ」
「……何?」
「何かあった時、困るでしょう?」
「……どういう意味だよ?」
「そんな殊勝なあなたは少々『恐い』のでね。いざという時、貸しは多い方が良い」
「……厭な言い方するな。何か企んでるのか?」
「……変に借りを作ると、色々と面倒じゃないですか」
「その言い方が気になると言ってるんだ」
「『弱味』になったり、『交渉』のネタになったりするのは厭なので、出来ればフィフティ・フィフティかこちらに分が多い方が良いんです」
「……それは何か? いつでも俺の『敵』に回っても良いようにか?」
「違いますよ。……こっちが『弱味』握ってるか、でなければ『貸し』を多く持ってる方が、いざという時に役立つじゃないですか」
「……だからその『いざという時』ってのは一体『どういう時』だ?」
「それは言えません」
「……あのな」
「『いざという時』は『いざという時』です。俺は郁也様と違って誰か一人に肩入れしたくないので」
「……どういう意味だ?」
「同じ事は貴明様にも申し上げてますよ? 俺は『契約』には確かに従いますが、『誰か』の『味方』にはなりたくないんです。俺の『負担』になるのでね。『重荷』なんて要らないんです。だから『貸し』を作りたくない。『いざという時』どうにも動きの取れないような『しがらみ』なんて要らないんです。『契約』が切れた時はすっきりしていたいのでね」
 …………それって。
「……『契約』が切れた時はいつでも『敵』に回るって事か?」
「……先の事なんて誰にも判りませんよ? それに俺はそんな事は一言も申し上げていません」
「……だってその言い方じゃ……」
「それは『誤解』というものでしょう」
 にっこり中原は笑った。人の好さげな顔で。
「……ただ、俺は『他人』と『対等』で『平等』な関係が作れないだけです。それに、貧乏性だから『好待遇』には『疑い』を持たずにいられないだけですよ」
「……それは『信用出来ない』って意味か?」
「そうは申し上げてませんよ。勿論郁也様の事は信頼差し上げてます」
 嘘寒い台詞。
「……そんな色っぽい目をしないで下さい」
「誰がだ!!」
「ご自覚なさらないのなら申し上げますが、郁也様の『流し目』は随分『色気』があって『悩殺的』です」
「……あんまりふざけた事ばっか言ってるとぶっ殺すぞ」
 中原は乾いた笑みを洩らす。……そりゃ、そっちに掛けてはお前の方が上手だろうが。
「……殺せるもんなら是非とも殺して頂きたいですね」
 にやりと笑って言ったりするし。この男。
「……謝れとでも言うのか?」
「謝るんですか?」
「謝る気は無い」
「……それでこそ郁也様ですね」
 お前、俺の事、一体何だと思ってる?
「そこで謝られたりしたら、つまらないですから」
 ……最悪。げっそりする。
「……どうでも良いけど、頼まれてくれるんだろうな?」
「任せて下さい。、一人、回しておきますよ。それで十分でしょう?」
「……頼む。……『飛び降り』をするそうだから」
「……『飛び降り』?」
「……本人曰く『鳥』なんだそうだ」
「はああ、『鳥』ね。……『野鳥』ですか?」
「は?」
「滝川守の有名なシリーズに『野鳥』があるんですよ。一冊持ってますが……見ますか?」
「……『写真集』?」
 意外だった。中原がそんな物買うなんて。
「……興味あったか?」
「今回の為に少々、ね。健気でしょう?」
「……誰がだ?」
「またそういうつれない事を……」
 くすくす笑いながら。……またそういうくだらない事を……。頭痛がする。
「……『野鳥』が好きなのか?」
「……この場合、『過去形』でしょう? 好きかどうかはともかく、『野鳥』シリーズは数が多く、現在刊行されている彼の写真集では一番評判があります」
「……成程……それで『鳥』か……」
「憶測ですよ? ただ、知ってる人は『滝川守』と聞けばまず最初に『野鳥』を思い出すそうですから」
「……そうか……」
「彼の最後の仕事も『野鳥』でしたしね」
「…………」
「ただ、次に出るのは『人物』ですけどね」
「『人物』?」
「これはまだ一部にしか知られてない情報ですが、『少女』だそうです。まあまだ本決まりでも無いですが」
「……それってまさか……」
「……恐らく『中西聡美』でしょう?」
「……そうか……」
 今更……けど……。
「……俺に出来る事は何も無いからな……」
 中原が何か言いたげに俺を見た。気付いたが、俺は無視した。俺は『神様』なんて信じないから。『最悪』の『結果』にならないように……。他人にどう見えたって良い。出来る事をするさ。それが精一杯だ。……それだけが。

「郁也!!」
 物凄い形相の昭彦を見た時、正直、逃げ出したくなった。それくらい、本気で怒ってた。
「……お前、俺に何て言った?」
 ひどく、強張った声で。
「……何恐い顔、してんだよ?」
 茶化しても無駄だった。
「……どうして、中西さんと太田さんの事、黙ってた?」
 何となく予想してたけど、血の気が引くのを感じていた。
「……何が『信用しろ』? お前……俺を一体何だと思ってる?」
 真っ白なくらい蒼い顔で。眉間に深い皺寄せて、恐いくらい真剣な顔で。
「……太田さんが……お前のせいだって……」
 だからもう、シラを切るのはやめた。
「だから俺は放っておけと言ったんだ」
「……それはどういう意味で?」
「……どうにも出来ないだろう?」
「そういう問題かよ!! バカ!!」
「……昭彦、新聞読まないだろう?」
「お前、俺を怒らせる気か!?」
「……何も気付かなかったじゃないか」
「そういう問題か!? お前、俺が知らなかったら、一生言わないつもりだったのかよ!!」
「……昭彦に言ったからって解決したりしないだろう?」
「お前、そういう考えかよ!?」
 噛み付くような顔になる。……判ってるけど。
「……お前に言ったってどうしようも無いだろう。何かどうにか解決する訳じゃない。言うだけ無駄だ。何の解決にもならない」
「だから俺に何も言わなかったってのか!?」
「……仕方ないだろう」
 お前に余計な事考えさせるだけだ。
「俺達友達だろう!? 信用できないのか!?」
「……そんな事、誰も言ってない。そういう問題じゃない。ただ、余計な事言って……」
「俺のしてる事、余計な事か!? 俺がお前の心配するの、余計な事かよ!?」
「……って言うかお前は……」
「そんなに俺に頼るの厭か!? そんなに弱味見せるの厭か!?」
 あんまり食ってかかるから……。
「……そうだよ」
 そう言ってやりたくなる。
「カッコ悪いだろ?」
 笑って言ってやりたくなる。昭彦は、傷付いた顔して。
「……そんなに厭かよ……!!」
「……無駄だからな」
 俺は笑って言ったりするし。
「……どうしてだよ!! どうしてお前、そういう奴なんだよ!!」
 それは、昭彦がそういう奴だからだよ。判らないか?
「そんなに俺が信用ないかよ!!」
「……信用なんて問題じゃない。昭彦に言っても、何の問題解決にもならない事だ」
「それで俺達『友人』なんて言えるのかよ!?」
「……お前、何か酷く勘違いしてないか?」
「何!?」
「……『友人』だったら何だって洗いざらい、喋らなくちゃいけないのか? 強制的に?」
「……郁也っ……お前……っ!!」
 昭彦は、非難の目つきになった。俺はお前のそういう傲慢なとこ、嫌いだよ。
「俺にはそういう趣味、無いぜ」
「郁也!! お前って奴は……っ!!」
「……話したい事とか、話しても良いって事なら幾らでも話してやるぜ? 必要性があるならな。けど、俺とお前がいつ、そういう関係だった? 俺がお前にそういう事話す必要性があるとでも言うのか?」
「どうしてお前ってそういう奴なんだよ!!」
 昭彦が力一杯怒鳴る。俺は自嘲的に笑った。
「……お前に話して解決するなら、幾らでも話してやったけど?」
「俺に弱味見せるの厭なら厭と言えば良いさ!! どうしてお前はそういう言い方っ……!!」
「……どういう言い方すればお前のお気に召す? 実は心細かった。お前に言いたいけど言えなかった。そうとでも言えば良いか?」
「お前!! 冷たいんだよ!! 一人で悩んだりしないで、ちゃんと俺に言え!!」
「……昭彦に言って何がどうなるとでも?」
「二人で解決した方が良いだろう!!」
 だからお前は傲慢だって言うんだ。
「……俺がどれだけ考えても、糸口なんて見つからなかったのに? 解決法なんて一つも判らなかったのに? お前って随分偉いんだな?」
「そういう事じゃないだろう!! 一人で悩むなってそう言ってるんだ!!」
「……お前に愚痴って泣けとでも?」
「……お前、そんなに俺に弱味見せるの厭か!?」
「ああ、厭だね。そんな事したら、気兼ねなくお前に偉そうな顔できなくなるじゃないか」
「どうしてそう誤解招く表現しかできないんだ!!」
「……誤解……?」
「誤解だろ!? お前、人に自分誤解させてそんなに楽しいかよ!!」
 ……本当に昭彦って嫌いだ。何処まで行ってもお人好しで、お節介で考え無しで。
「少しは俺を頼れよ!! 弱味見せたって良いだろ!? 俺は笑ったりしないし、出来る限り力になる!!」
 ……そういうバカな事言ったりするし。
「俺はいつだってお前の事、バカにして優位に立ってなきゃいけないんだよ。じゃなきゃ、どうしようもないだろ? 俺が……お前の事頼って一体何のメリットがある?」
「メリットとかそういう問題か!? 俺達『親友』だろ!?」
 そういう青春じみた古臭い台詞、恥ずかしげも無く言ったりするし。
「……バッカじゃねぇの?」
「だったら何だよ!! 俺は郁也の力になりたいだけだよ!! 少しは頼って欲しいって思うだけだよ!!」
 本当にこいつ……バカだ。バカで……どうしようもない。付ける薬なんて無い。どうしようもない奴。
「……昭彦……」
 俺は昭彦にもたれ掛かった。
「……郁也……?」
「……どうしてお前……そんなにバカ?」
「……って言われても……仕方ないだろ。性分なんだから」
「……性分だから、そういう事言うのかよ?」
「郁也の事、好きだからだろ?」
 だからそういう事、恥ずかしげも無く言うなって。こっちが恥ずかしくなるから。
「……バカじゃねぇの? すっげーバカ……バカバカしくって聞いてられねーよ……」
「……郁也……」
 何か、情けない事に涙腺緩んできた……。仕方ないから顔、昭彦の肩先押し付ける。
「……あんまり恥ずかしくなるような事、言うなよな。聞いてるこっちが頭おかしくなる……」
「……郁也……お前……」
「……余計な事言うな。言うんじゃねぇぞ? ったくお前と来たら本当……」
「……泣いてる?」
「……気にするな。気にしなくて良いから。暫くこうさせとけ。すぐ、済むから……」
「……郁也……お前……」
「……本当お前のバカさ加減には……ったく……」
「……郁也……」
 昭彦は溜息ついた。
「……もう少し、素直になれよ」
「……うるせぇよ。ゴチャゴチャ言うな。鬱陶しいんだよ、お前」
「全然説得力ない……」
「……だからうるさいって。暫く黙ってこうさせとけ。暫くだ」
「……我が儘なんだから……」
「……放っとけ」
「放っとけって郁也……言ってる事とやってる事違う……」
「ちったぁ静かに出来ないのかよ……バカ昭彦」
「……お前ね……」
 肩先から伝わってくる、昭彦の体温。少しずつしっとりしてくる。昭彦は文句言いながら、俺の背中に手を回してきた。右手で頭、撫でたりする。……はっきり言って、普段なら男同士でこんな事、気持ち悪いって思うけど。昭彦の手は意外にひんやり冷たかったりして。
「……だからさ、俺は何か疎外された気分で……厭だったんだ。だから……今度こういう事あったら……ちゃんと話してくれよ? 郁也」
 そんな保証、何処にもないけど。頭撫でる昭彦の手が、何故かひどく気持ち良くて。俺は思わず頷いた。約束守るつもり、毛頭無いのに。
「……大丈夫、ちゃんと何とかなるよ。……何とかする」
 昭彦は、何の確証も無い癖に、断言したりするし。……何処から来る? その自信。信じられない。……俺は睡魔に襲われる自分に気付きながら、そのまま身動きできなかった。
「……郁也……?」
 問い返す昭彦の声も、遠く……。

To be continued...
Web拍手
[RETURN] [BACK] [NEXT] [UP]