NOVEL

堂森食品(株)営業二課 -6-

「あーっ、疲れた、疲れた!」
 終業時間。わざとらしいくらい大きな声を上げて、伸びをしたのは神田川さんだった。
「あ、砂原! お前の歓迎会、まだやってなかっただろ。今日暇か? 皆で飲みに行かねぇ?」
「え……?」
「ほら、篠田の旦那も! 俺.、今日飲みたい気分なんだよー。都倉、お前今日空いてる?」
「俺は別に良いけど」
「サキちゃんは?」
「俺もOK。神田川のお誘いだったら地球の果てまででも行っちゃうよ」
「あはは♪ さんきゅー。……[なだ]ぁ、お前どーよ?」
「俺が行かない訳に行かないだろうな。行くよ」
「おっしゃー、ソレでこそマブダチ!」
 神田川さんは妙にハイテンションで灘さんの手をぱしっと叩く。
「かちょー、かちょー! 利根崎[とねざき]課長ってば今夜OKですか?」
「私も行って良いのかね?」
「モチのロンでしょ! 利根崎課長を呼ばずして誰を呼ぶって言うんですか!」
「……仕方ないな、三万出そう。それが目当てなんだろう?」
「そんな事ありませんって! でもいただけるもんはいただきますデス、課長サマ。あっ、もしもーし、なっがたくーん!」
  神田川さんは課内全員に声をかけて、全員参加を取り付けてしまった。その妙なノリとてきぱき加減に、俺は感心した。それにしても生き生きとしてるな、神田川さん。
「はいっ、これで全員参加ね! ……で、勿論行くだろう? 砂原」
 これで行かないという訳にはいかない。
「あ、はい」
 篠田さんは何か言いたげな目で神田川さんを見ている。
「んだよ? 文句あるか?」
「……相変わらずだな」
 溜息をつくように、篠田さんは言った。
「で、篠田の旦那。来るだろ? 勿論」
「俺に一番飲ませたかったんだろ。お前は」
「やだなあ、ソレ自意識過剰って奴よ、旦那。俺が飲みたかったの! な、砂原。今日は楽しく飲もうぜ!」
 たぶん……気を遣ってくれてるんだ。
「はい、有り難うございます」
「ほらぁ、砂原はこんなに素直にお礼言うんだぞ? 篠田クンも見習ったらどうよ?」
「慣れ慣れしいんだよ、お前はいちいち」
「ああーんっ、都倉ぁ! あんな事言うんだよー!! 篠っち冷たぁーいっ!!」
 神田川さんは大げさな泣き真似をして、都倉さんに抱きつく真似をした。付き合い良さそうな都倉さんはよしよしと神田川さんの頭を撫でる。
「うんうん、可哀想にね。でも神田川、口数多すぎだよ」
「う〜わ〜ひどい〜。都倉も俺のせいだって言うんだーっ」
「カンちゃーん。俺の胸で慰めてあげるよー」
 と、これまた付き合いの良さそうな灘さんが言って、
「ナダッチー!!」
 と神田川さんが抱きつくフリをした。
「どうして俺のところに来ないのさ」
 不満そうに黒崎さんが言った。
「だって、サッキー、ヨコシマオーラが出てるからさぁ」
「俺のどこがヨコシマだっ!!」
 ……漫才?と俺は首をかしげた。都倉さんがくすくす笑ってる。灘さんはにやにや笑いながら、黒崎さんに言う。
「黒崎ってば嫌われてるな」
「嫌われてないって! な? そうだろ? 神田川!!」
「えー? どうかなー? カンちゃん判んないー」
「俺をイジメて楽しいかっ?!」
「サキちゃんが伯父さんに頼んで俺を副社長にしてくれたら、考えてあ・げ・る♥」
「出来る訳無いだろっ! 言ったら怒られる! 俺もう泣くぞ!!」
「ごめん、ごめん、サッキー。愛してるからさー」
「本気で?」
「う・そー」
「がちょーん」
 ……あの……いつの時代のネタですか……?
「お前ら……行くんならもう出るぞ。行かないんだったら……」
 篠田さんの言葉に、神田川さんはしゃんと背筋を伸ばした。
「わっかりました、殿! 今すぐ目的地に向かいます、ラジャーです!!!」
「……あの目的地って……?」
 今までの会話に何処に行くって話はまるで出なかったけど……。
「ああ、うちの『飲み会』は……」
「斜め向かいの『かたくら』って居酒屋でやる事に決まってるんだよ。すっげー安くて近くて品数豊富、んでもって我が『堂森食品』のお得意先『片倉物流』直営のチェーン店! 覚えておいた方が良いよ、砂原」
「お前、うるさい」
「しどいっ!! 篠田! 親切穏やか人格者の神田川君に向かって!!」
「真の人格者は自分の事を人格者だなんて絶対言わない」
「あああっ! 篠田クンがっ、篠田クンがぁあっ!!」
「はいはい、でも時間が勿体ないから行こうね? 課長も出資してくれる事だし。今日は飲まなくちゃ」
 都倉さんが言った。神田川さんはけろりとした顔でこちらを向いた。
「じゃ! 『営二』全員レッツゴー!」
「お前が仕切るな」
「いーじゃん、俺が幹事なんだからさーっ」
 ……本当、仲良いな。篠田さんと神田川さん。そう思ったら神田川さんと目が合った。
「よっしゃあ、砂原。今日はお前が酔い潰れるまで飲ますぞ!」
「だから新人をいじめるのはよせ」
「虐めてないって。な? 砂原」
「……酔い潰れるまではよしてください。出来れば」
「なんだよー。折角の金曜日なんだぞ? そんなつまんない事言ってちゃ駄目じゃないか」
「だからお前と一緒にすんな」
「篠田の方が俺をイジメめてるってば。なー? 灘ぁ」
「ノーコメント」
「お前なんかマブダチじゃないやい!」
 子供のように拗ねてみせる神田川さんを、周囲の人たちが宥めてる。さっきの気まずい雰囲気が嘘のようだ。神田川さんは、この課のムードメーカーなんだ、とようやく気付いた。
「ところで黒崎さんの伯父さんって誰ですか?」
 すると都倉さんが目を丸くした。
「え? 知らなかった? 黒崎って、副社長の甥なんだよ?」
「えっ!?」
「有名な話だと思ったんだけどな。新入社員には知れ渡って無いのかな?」
「初耳です」
「それはほら、不肖の甥だから隠してるんじゃないの?」
「お前が言うな! 不肖の息子!」
 神田川さんの台詞に、黒崎さんが返した。
「……不肖の息子?」
「あ、知らない? 実は神田川はー……」
「だーっ! 言うなーっっ!!」
 ……楽しそうだ、神田川さんと黒崎さん。
「社長の息子」
「えっ……えええっ!?」
 これには本当驚いた。って言うか! 社長の息子って言ったら次期社長!?
「の妻の弟」
「……え?」
「だから何しても辞職にならないって説があるよね?」
 ……えっとソレはつまり。
「社長とは赤の他人」
 神田川さんは言った。
「でも俺は未来の社長なの。今のうちに恩売っておいた方が良いんだよ♪」
「そうなんですか?」
「……本気にしない方がいいぞ、砂原。それ全部嘘だから」
 全部嘘って……何処から何処まで? 俺はびっくりして篠田さんと神田川さんと黒崎さんを見回した。
「サキぴょんの事だけは本当」
 と澄ました顔で神田川さんは言った。俺はがっくりと力抜ける。……何なんだ、このひとたち。
「篠っちーも一回騙されたんだよねー?」
「変な名前で俺を呼ぶな」
 そうこうするうち、『かたくら』に着いた。
「こんばんはー。神田川っす。お久しぶりー」
「いらっしゃい! 相変わらずの色男だねぇ」
「店長相変わらず趣味イイね。目の付け所が違うよ! 色男他十二名、奥の座敷空いてる?」
「色男十三名様! お座敷!! ……空いてるよ、どうぞ、どうぞ」
 なんか滅茶苦茶ノリがハイテンション。営二メンバー全員が席に着く。
「最初はビールで良いよな!?」
「おーっっ!!」
 何か皆さんノリが良いんですけど。
「砂原、無理しなくて良いからな」
「あ、はい」
 篠田さんは普通だ。俺は良く判らないけど──普通会社ってこういうもんなんだろうか? 皆まだ一滴も飲んでない筈なのに、まるでアルコール入ってるかのようなノリとテンションだ。ノれてない俺はひょっとして浮いてるんだろうか、と思ったが篠田さんは普段通りだし。課長は課長で、いつも通りだ。そう言えば利根崎課長、怒ったところ見た事無いな。こんな問題ありそうなメンツばっかりの職場なのに。
 ビールがジョッキで回ってきて、全員に行き渡る。つまみの料理も並べられたところで、神田川さんが立ち上がった。
「それでは! 『営二』のこれからの繁栄と業績アップと新人砂原遼平君の前途を祈って! 乾杯の音頭を!! 利根崎課長! お願いします」
 利根崎課長が立ち上がる。全員ジョッキ片手に立ち上がる。
「それでは皆さん、今日は無礼講で、でも程々に。皆さんの健康と明るい未来に、乾杯!」
「カンパーイッ!」
 ビールジョッキをこれでもかと言わんばかりに神田川さんがぶつけまくる。時折ビールがジョッキから溢れてこぼれ落ちる。神田川さんの表情からすると、何だかわざとやってるみたいだ。
「砂原! ようこそ、『営二』へ!! ま、色々頑張れ! 何か困った事あったら先輩が相談乗ってやるぞ!! こう見えて俺は結構頼りになるからな!」
 神田川さんはジョッキをピッチャーに持ち替えて近付いて来た。
「……本当に頼りになる奴は、わざわざそんな事言う必要無い」
「まあ、色男にはやっかみがつきものという事で! 気にすんな、砂原!!」
「あ……はぁ……」
 テンション高いなぁ。神田川さんはにこにこ笑って言う。
「ほら空けろよ、グラス。待ってるんだからさ!」
「え? お……俺ですか?」
「他に誰がいるって言うんだよ? 心おきなく飲ませてやるから感謝しろ」
「だから新人いじめはよせと言ってるだろう」
「イジメじゃないって。ほら、篠田も早く空けろよ。次がつかえてるんだからさ」
「何で最初に砂原のところへ来るんだ」
「だって砂原ちゃんは今日の主役だぜ? 主役には最初に注がなきゃ」
「お前の飲ませ方は尋常じゃないんだよ。砂原、気を付けろよ。こいつ人に飲ませて自分は飲まないって卑怯者だからな」
「あっ、ひどぉい! 人格者神田川サマに向かって」
「だからそれはさっき聞いたネタだからもういい」
「俺は皆に楽しんで欲しいだけなのに」
「お前にそういう殊勝な言葉は似合わないんだよ」
「ま、そう言わず、どうぞ、どうぞ。篠田センセイ。課長の出資で飲み放題よ。飲まなきゃ損、損。ほら、飲んで」
「いいか? 砂原には勧めるなよ? 代わりに俺が飲んでやるから。どうせお前はそのつもりなんだろうが……」
「だぁから、ソレは自意識過剰。考えすぎだって!」
「……どうせお前が企んでる事なんか判ってるんだからな」
「ヤだなぁ、センセ。飲む前から既にアルコール入ってるっぽいよ」
「お前にだけは言われたくない」
 そう言うと、篠田さんはぐっとジョッキをあおり、飲み干した。顔色一つ変えずに。
「よっ! イイ飲みっぷり!! 最高!! さっすが篠田先生!」
 言って神田川さんはジョッキにビールを注ぎ込んだ。
「ワリっ。入れすぎ。ゴメンよ、ダンナっ」
 縁までギリギリ。泡がこぼれる前に篠田さんは慌てて飲んだ。それから俺の方を向く。
「……いいか? 砂原。これが神田川のいつもの手だ。少しでも余計に飲ませようという腹だから、気を付けろ。ところで砂原、お前アルコールは強い方か?」
「強くもないですけど、弱くも無いです」
「そうか。適量は知ってるか?」
「あ、はい。たぶん。……大学で鍛えられましたから」
「最初はビールだけだけど、すぐに日本酒とか焼酎とかカクテルが出てくるからな。気を付けないと酒量を超える。こいつら酒癖悪い奴らばっかりだから、何されるか判らないぞ」
「え?」
「そんなに脅しかけちゃやーよ。ダンナ。砂原ちゃん、この人の言う事は話半分に聞いておけばいいから。俺たち善良なイイ人よ?」
「本当に善良な人間はそんな事言う必要無い」
「まあそう言わず飲んで、飲んで! 篠田の飲みっぷり俺に見せてよ?」
「さっきも見ただろ。そろそろ他行け」
「えー、ケチー」
「ケチじゃない。やっぱり俺を酔わせようって魂胆じゃないか」
「だぁからソレは自意識過剰。またねー、砂原ちゃん」
「あ、はい……」
「無視しておけばいいぞ。こんな奴。構うと余計図に乗るからな」
 篠田さんはいつもの篠田さんだけど、何となく口数が多くなってる気がする。顔色は変わってないけど……。
「篠田さんはお酒強いんですか?」
「弱くは無いかな。二課の酒豪共に比べたら普通だと思う」
「二課の酒豪共って誰ですか?」
「都倉、灘、神田川だよ。こいつらバカみたいに飲むんだ。もっとも、神田川は何だかんだ言ってあまり飲まなかったりするから、結局どれだけ飲むんだか誰も知らないらしいけどな。昔、都倉・灘・黒崎・神田川の四人で飲み比べした時、最後に残ったのが神田川だったって話は聞いた事あるが」
「そうなんですか。篠田さんも同期なんですよね?」
「ああ。俺は……あまりあいつらとはつるまないから」
 ……という事は、灘さんも股間揉みメンバーなんだろうか。
「どうした? 砂原」
「いえ、別に」
 篠田さんは真面目だからな。きっとああいうノリには付いていけないんだろう。判る気はするけど──篠田さん一人で、淋しくはないんだろうか? 他の同期メンバーは親しいのに。仲間外れにされてるって事は──無さそうな気がするんだけど、でも神田川さん以外は篠田さんと距離置いてるっぽい気がする。篠田さん、神田川さんの事うるさいとか言ってるけど、本当は少しは嬉しいんじゃないかな。だって、何か二人で話してる時、厭だと言ってる割には、結構楽しそうだし。なんだかんだ言って、二課の他の誰より神田川さんと話してる事多いし……。
「砂原? どうした? 気分悪いのか?」
「いえ。大丈夫です」
 本当は──篠田さんに話したい事、聞きたい事はいくらでもあったんだけど。今俺、何か聞いたりしたら詰問とかになりそうで。根上さんってどういうひと? 篠田さんにとってどういう存在? そのひと、何処にいるの? 今でも会ったりするの? 俺とそのひと、どっちが好き?
「……篠田さん……」
 じっと見上げると、篠田さんはふっと目を細めた。
「……砂原」
 優しい笑顔。それを見た瞬間、何だか幸せな気分になった。
「篠田さん」
 囁き声で。篠田さんが耳を寄せてくる。
「うん、何だ?」
「……俺のこと、好きですか?」
 篠田さんの唇が緩んだ。
「好きだよ」
 その言葉を聞いた瞬間、もう何もかもどうでも良いような気になった。
「俺の事だけ?」
「砂原だけだよ」
 ……幸せ。
「……篠田さん……」
 そこへ。
「さ・あーて! 飲んでますか〜? 篠田のダンナっ、砂原ちゃん! 夜はまだまだこれからよっ!」
 神田川さんが割って入るように現れた。篠田さんのジョッキにまた溢れるくらいビールを注ぎ、次いで俺のジョッキにも注ぎ込んだ。
「わっ……!」
「あっはっは。篠っちひょっとしてビール飽きた? 日本酒出そうか? それとも焼酎? 先生はお冷やじゃなくて熱燗ONRYだったよね! 注文希望何かある?」
「……お前は……」
 篠田さんは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「いやあん♪ もっとお酒で乱れてくれなくちゃイ・ヤ♥ ほーら、いつまでも格好つけてないで、本性さらけ出してハジケちゃいなよ! なっ!」
「……お前ははじけ過ぎだ」
「まー。そー言わずにぃ。どーぞ、どーぞ。お飲みなさい。足りないなら幾らでも注いであげるし、注文するからさぁ」
「それでお前は今、一滴でも飲んでいるのか?」
「えー? 飲んでますよぉ。当ったり前じゃん。酒の席で飲まないなんて失礼、この俺がすると思う?」
「お前は飲んでいても飲んでいなくても、ちっとも変わらないからな」
「はーい、飲んで飲んで」
 神田川さんは無理矢理篠田さんの口にピッチャーから直接ビールを注ぎ込もうとする。
「なっ……おまっ!! ……何考えてるんだっ!!」
「酔っても冷めても、世の中同じだったら、酔って寝るのが一番だって! 酒は人生最大の友よ!」
 ……楽しそう。
「砂原君、こっちおいで。たまには篠田以外の先輩とじっくり話してみるのも悪くないよ」
 都倉さんがにっこり笑って、俺を手招きした。
「あ、はい」
「あ! 砂原! 行くなっ……!」
 え? 振り返った時、篠田さんは開いた口の中に、ピッチャーの口をを直に入れられて、ビールを流し込まれていた。
「…………」
「砂原君、こっちおいでよ」
 再度言われて、俺は都倉さんのところに近付いた。都倉さんは黒崎さん、灘さん達と日本酒を飲んでいた。
「日本酒得意?」
「得意って訳じゃありませんけど、結構好きです」
「OK。じゃ、どうぞお一つ」
 未使用のおちょこを渡され、熱燗を注がれる。俺はそれを一口飲んだ。
「あー、駄目、駄目。一息に飲み干すもんよ、もう一度」
 黒崎さんが言った。
「え……そうなんですか?」
 すると都倉さんはにっこり笑った。
「いや、別に必ずそうしなくちゃいけないって訳でも無いよ。でも確かに俺も気持ちの良い飲みっぷり見ると気分良いなぁ」
 そういう……もんなのかな?
「都倉、なんか年下OL口説くオヤジ上司みたいな口っぷり」
 にやにや笑って、灘さんが言う。
「そんな言い方してないよ」
 都倉さんが言うと、
「お前の言い方、なんとなくいやらしいんだよ」
 灘さんは言うと、くぅっとおちょこを傾げて飲み干した。皆、目元がうっすらと赤い中、都倉さんだけが白い顔だ。いつも通りの穏やかな笑顔。
「しっかし、神田川も相変わらずバカだなぁ」
 灘さんが言った。
「あれは絶対月曜、篠田さんに怒られるよね」
 黒崎さんが言った。
「それもレクリエーションの一つでしょ? 神田川は何でも楽しんじゃうから」
「あー。確かになー」
「喜んでやってるとしか思えないよね」
 そうか。都倉さん達もそう思ってるんだ。
「本当、あの二人仲良いですよね?」
 言うと、灘さんがぷっと吹き出した。
「そ、そんな風に見えるんだ?」
「笑っちゃ悪いよ、灘。確かにそう見えるんだから」
 都倉さんがたしなめるように言った。
「え? 俺……変な事言いました?」
「いやぁ、変って事も無いけど、篠田が聞いたら厭がりそうだなぁと思ってさ」
 くっくっと笑いながら、灘さんが言った。
「篠田さんって、神田川と初対面の時から、神田川と口利くの厭そうだったもんね」
 黒崎さんはしみじみ言った。
「そうなんですか?」
 こっくりと黒崎さん、灘さんが頷く。
「それはもう、天敵と言わんばかりに。神田川はまあ、ああいう感じでさ。あいつも本当メゲないよなぁ」
「何だかんだ言って、打たれ強いんだよね」
「しょっちゅう殴られたり蹴られたりしてるくせにさぁ」
「本当バカだよね」
 バカだよね、と言いながら何となく三人とも楽しそうで嬉しそうだ。きっと皆、神田川さんのこと好きなんだなぁ。
「神田川さんって皆に好かれてるんですね」
「え?」
 三人全員がびっくりしたような顔で俺を見た。……あれ? 俺何か変な事、言った?
「ん、ああ……そうだな。俺たち皆神田川のこと好きだな」
 灘さんがにやり、と意味ありげに笑って、黒崎さんや都倉さんをちらり、と見た。一瞬、三人の間に、何か火花のようなものがちらついた気がして、俺はどきりとした。
 都倉さんがにっこりと笑う。
「神田川ってイイ奴だからね。バカだけど一緒にいて楽しいし、あれで結構気を遣うとこあるし。ま、ドツボにハマってる事もあるけど、それはそれで見ていて面白いんだよね」
「カワイイんだよね。見てると。膝にのせてほおずりしたくなっちゃう」
「黒崎、お前ソレ、セクハラオヤジっぽい」
  俺は笑った。

To be continued...
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