俺にとっての幸せとは、こうして過ごす毎日なのだと、少し解りはじめた。特別な日に特別なことをしてもらうのがそうなんじゃなくて、もっと、例えば昼飯にラーメンを茹でるとして、二袋一緒に茹でたとして、一緒に茹でた麺が茹で上がったとして、おつゆの入った丼に入れ分けるとき、どんなにお腹が空いていても相手の方のに一口多く盛ったりして、海苔も三枚千切って一対二に分けたりして、面倒くさくてもネギを切って乗せてあげたりして。箸が二組あったり、マグカップがふたつあったり、冷蔵庫の中に二人分の食料があったり、そういう、毎日に相手がいるということが、何ら問題なく受け入れている、その「無意識」が、とてもかけがえの無い物なのではないかと、思うようになった。俺にはヴィンセントがいて、ヴィンセントには俺がいる、それが、当たり前であるということ、意識せずとも変わらない日々是平穏無事幸福であるというのが、真に幸せなことなんじゃないかと。それこそ、弛緩してしまってもいいくらいの勢いで。
ベッドに入るたびに、泣いてしまう。泣きたくなくても泣かされてしまう。その涙を特別美しいと言ってくれる、わざわざ言葉に出さなくてもあんたが毎日俺を愛してくれていることは知っているよと。だけどこれは俺のやり方だから無理強いはしない。相手のこと、愛するのが、当たり前であるように、当たり前に、なるように。
ヴィンセントが愛しい。その情熱は……、恥ずかしげも無く「情熱」なんて言葉を使うが、ほんもの、だから、これからずっと続いていく、……日々の濃さに期待、「愛情」がここでの議題、ずっと抱き合っていたい、何度でも言いたい、愛してるって言いたい、でも言葉だけじゃ足りない、だからほんとに愛し合いたい、それ以外に信じない、あんたの美しい肢体、ずっと触っていたい、痛いくらい抱き合いたい、辛いくらい愛し合いたい、そんな俺の気概、いっそ女になりたかったから擬態、だけどそれでとんだ醜態、でも晒しても平気な奇態、せっかく与えられたこの機会、だから言いたい、ただあんたのことが大好きだい。 何がいいってさ……。
うん、ヴィンセント、あんたの、何がいいって、ぜんぶだよ、全部。全部すべてまるッと。本当に。とりあえず、はい、じゃあ、そうですねどこからいこうか?
あんたの声の話をしようか。
「……おはよう」
エフブンノイチというのが振動の種類で、それを「1/f」と書くと知ったのは、今年の夏に買った扇風機にそう書いてあって、なるほどそのモードだと確かに強すぎず弱すぎずのリズムで風が送られてきてとってもいい感じ。
そんな感じなんです、ヴィンセントの声はそんな感じなんです。俺の鼓膜を揺らすんです、1/fの揺らぎで甘く優しく、落ち着いたトーン、わかんないだろうなあ……、あの声で起こされる、朝の悦びは。お蔭様で前夜腰が抜けてもまた朝の恒例行事になってしまうように、起こされてしまうわけで。いろんな意味で。グッドモーニング・アンド・スタンドアップ。
勿論、声だけじゃない、同時に、声に紙幅全て使ってしまっても構わない。でもそれじゃあ、いろいろと何だし。また、次の機会にでも。
昨夜の終わりと同じ格好、すなわち互いにトランクス一枚しか身につけてない。さすがに布団を退けられると寒い。
「……元気だね、クラウド」
くすっと笑って、ダークブルーのトランクスは愛と元気の印だ。
「まだ、元気じゃないよ、半分眠ってるよ」
「じゃあ、もっと元気にしてあげようか」
「……会社に遅刻しちゃうよ」
優しい彼にそう言えば、布の上からそっと手のひらを乗せて、大丈夫だよと。
「五分あれば支度は出来るからね……」
そう言って、顔を寄せる。
「ん……、いい匂いだ」
「布ごしでも解るのか?」
「解るよ……。君の匂いなら僕にはすぐに解る」
卑らしい口の開け方、淡い色の唇で包み込み、喉の奥から溢れてくるような熱い吐息で湿らせる。布をこする舌の触感は遠く感じられても、直接されるのよりも下手したら強い快感、ほらもう、元気でしょう?
こんなに幸せなのに、涙を零してしまうなんて、馬鹿だろう? 嬉しいなら嬉しいって、笑えばいいんだ、嬉し涙なんて言うけれど、泣けばやっぱり幸せじゃなくなってしまうもの。だから、笑おう、笑おう……、しても、零れる涙。いつも戸惑ったように手を伸ばして、その指で、そっと掬い取る。
「……嫌?」
「……まさか」
「……ときどき、心配になってしまうよ。そんな風に泣くのだから」
「ごめん」
「謝らなくてもいいよ……」
「俺は、してほしい」
「……安心したよ。気持ちよくなってくれるなら、僕は幸せだから」
うん、俺も、幸せだよ。
幸せすぎて……、すぐ、駄目になってしまうほどに。湿った舌が布の厚さを侵食して、べったりと張り付くようになってくるころには、俺は、誰にも見せられない姿になって、聞かせられない吐息を漏らして、ああ、もう実際、駄目なんだ、腰が浮いて揺れて泳いで喘いで、盛ってるのが丸分かり。参っちゃうよな……まったく。ああ、寝起きだから小便がしたい。でも、そんなことを言ったらまた、独特のリアクションで俺を感じさせてしまうんだろう。
「出そう」
俺は言った。けどヴィンセント、喉の奥、ちょっと笑って、布の下へ、ちゃんとした愛撫はくれない。意地悪だ。
「ヴィンセント、出そう」
言っても、聞こえない振りをして、侵食する涎で俺を悩ませる。
剥がしていく。もういいかな、って気にさせる。ヴィンセントがしたから。俺は寝てるだけで、ってことに。
既に濡らされていたから、改めて濡れることにとりたてて嫌悪感を抱きはしなかった。それは幸いなこと。知らないうちに強く掴んでいたタオルケットから力を緩めてはじめて、布の吸い付く感じが、ちょっと嫌かもって思った。だけどもう遅い。
「お漏らししちゃったね、クラウド……」
俺に覆い被さって、微笑みを含んだ声で、耳朶をくすぐる。
「……ごめん」
「いいよ……、可愛いから」
すぐに冷たくなった布を、まだ熱を持ったところを、その手が汚れてしまうのも構わず、撫でる手つきは、いやらしいくせに、気品がただよって、低俗と高貴の狭間をふつうに歩いているみたいだ。卓抜したバランス感覚。
「ヴィンセント、下、濡れてるの嫌だ。脱がせてよ」
「なぜ?」
耳の窪みの味を、面白そうに味わいながらヴィンセントはまた俺の耳朶を鼓膜を産毛を揺らす。
「汚れてるし、ベタベタして気持ち悪いよ、脱がせて」
ふっ、と息を吹き入れて、満足したか、身を起こして、俺のみっともない姿を見下ろす。
「腰を上げて」
従うと、両手でトランクスの腰のゴムを掴んで、ずり下げる。すうっと冷たい、朝の空気が俺の淫らな夜を撫でて抜けた。両足を上げて、パンツ脱がされて、赤ん坊か俺は。オムツを代えられているみたいな、変な気分になる。
俺自身の足がジャマになって見えないヴィンセントは笑っているみたいだった。
「いい眺めだ……。それに、いい匂いだよ」
今更、恥ずかしい、なんてウブな気持ちにはならないけど、やっぱりちょっと、居心地は悪い。
両足、トランクスから抜いて、彼は股の間から、今度は直接。緩いゼリーみたいな精液を啜る。その音、ぞくぞくする。俺のから出た精液をヴィンセントが飲んでいる、なあ、そういう事実が、俺の身体を熱くするのだ。強い尿意を覚える。
「……ヴィンセント、ちょっと」
「……どうしたの?」
上目遣いのルビーにどきりとする。その視線がまた、ちびりそうなくらいに美しい。逆にそんな俺が、とても醜い。
「トイレ、行きたい……」
「ああ……そうか」
ヴィンセントはまた、笑う。事あるごとに見せるこの微笑みに俺は、魅せられる。俺の前だけで、俺の前でだけ。勿体無いくらい使い回すその微笑み、喉の奥から聞こえる笑い声が好きだ。
「起きたばかりだしね、……実を言うと僕も行きたい。……とりあえず、してもいいよ?」
「……ここで、か?」
「うん……、飲んであげるから」
ふっ、と笑う。気が緩んで漏らしてしまいそうになった。
「変わった趣味だな」
「僕は君のなら、平気だ」
「……俺も……、あんたのなら平気だ」
「嬉しいよ……、クラウド」
上半身を起こす、ヴィンセントはまだ半分勃起したままの俺の蛇口を口腔に包み込む。
「……いいのか?」
ヴィンセントは目顔で頷いた。
そこに力が篭っているときに、排泄をしようとするのは一苦労だ。本来の目的じゃないものまで出てきちゃったりする。筋肉がそういう風に働くからだ。力を抜きながら力を入れるような感じ。小便一つするのにも不便なんて、だったら素直にトイレに行けという話。だけど美しい恋人が、自らこうして口を汚そうとしている、その姿に心を揺さ振られなかったらそれは嘘だ。
そうっと、微妙な力加減で。
出す。ヴィンセントの閉じられた瞼の向こう、赤い眼球がほんの少し動いたように思えた。
こく、こく、と、俺の尿を飲み込む音がする。零さないように飲み込むのは大変だろう、眉間に皺が寄る。口を外す訳にはいかないから、ほとんど一気飲みみたいなもの。苦しそうに見える。辛そうに見える。だけど、決してヴィンセントは、俺が全部出し切るまで、口を離さなかった。全部出し切っても、口を離さなかった。
俺は激しく興奮していた。
ようやく口を離して、ヴィンセントはそっと息を一つ、吐き出した。
「……すっきりしたかい?」
「ああ……、したよ、ご苦労様……。あんたも、したいんだろ?」
「……そうだね、飲んでくれるの?」
「あんたが飲ませてくれるなら」
人に見られたら何と言われるか。
また、にっこり笑って、彼はベッドの上に立つ。悔しいことに、彼のそれはまだ、全然立っていなくて、平穏。俺があんなに乱れても、平気でいられるその神経が憎い。
「本当に、飲めるんだね?」
彼の蛇口、俺のよりもずっと豪華な蛇口に口をつけて、昨日の、たぶん俺の、残り香が鼻に抜けてくのを感じながら、俺は肯いた。
「苦しかったら、零してもいいから」
先っぽから、すっと、思ったよりずっと、勢いのいい、さらりとした液体が、間もなく溢れ出し、俺の口の中を満たした。口の中はヴィンセントの香りでいっぱいになる。喉を通り抜けてく液体は、少ししょっぱくて、喉ごしがいいとはあまり言えないかも、だけど、精液よりかは、さっぱりと、飲み下せる。
こんなの俺だけ? まさか。愛を知る全てのものが、みな、同じだ。これを、知ってる、こう出来ることを、知ってる。味を知らなくとも、やり方を知らなくとも、愛するものの全てを愛する全ての愛する者が、愛する事を知らなくても愛する事が出来る。
息が続かなくなって途中で、口を離した。零れだした液体、口に受けきれない、顎を胸を濡らす、ヴィンセントはちょっと焦ったみたいな顔になる、珍しいこと。だけど今更止められるはずも無い。
「……苦しくなるなら、やめておいたほうがよかったね」
「飲みたかったんだ。寝起きで喉、乾いてたし……、あたたかくて、気持ちいいよ」
「そう、そうだね、寝起きはトイレに行きたいのに、喉がカラカラなんだ。……これが一番効率のいいやり方かもしれない」
ヴィンセントは少し笑った。
「続きをしても構わないか」
胸を濡らしたのを、指で拭き取って、舐める。これを美味しいと思える心を持つ人間はきっと数え切れぬほどに。愛している、伝えたい、やり方を選ばぬ人間は、星の数ほどに。
「して下さるのでしたら」
気障に言う。そんな台詞の似合うような状況ではないけれど、様になる。もはや、羨ましいというより、たたえる言葉しか思い浮かばない。素敵だ、と。
「別の液体も飲みたいので」
他のどこより肉っぽいところが、ほんとうに俺たちに生えててよかったと思える。ほんとうに俺たちが男で、よかったって。非生産的と言われるかもしれなくてもだ、産まれるものが無かったらそれこそ何でするのかわからないだろう?恥ずかしいくらい多くの物がポコポコポコポコ産まれて来ちゃうから、俺たちは愛し合う訳で。
だから、やめらんない。
大きさは違えど、覆われた毛の色は違えど、同じように刻まれた、皺や亀裂は、こんなに姿の違う俺たちが、全く同じ器であるということを知ることが出来る場所。俺たちは同じ、同じ男。同じ、人間。愛しているという感情の点でも共通。
ほんとうに……。食べてしまいたいくらい愛しくて可愛いヴィンセント……、大好きだから、あんたに気持ちよくなって欲しい、と思う訳だ。あんたがよくなる為なら、どんなふうにだって踊ろうと思う訳だ。色白の太股に跡を付けてしまおうとか、膝の毛を噛んで抜いて飲んでしまおうとか。
「……まだ出ない?」
「もうすぐ、出るよ」
「……早く出した方がいいんじゃないか? 時間が……」
小便飲んだりしてる間に、そろそろ動き出さなくてはならない時間帯に差し掛かっている。ヴィンセントは一瞬枕元の時計を見て、すぐまた俺に視線を戻した。
「もう遅刻だよ」
「……急げばまだ間に合う」
「急いだりするもんか」
「……早く、いってくれればいいんだ」
「ゆっくり楽しみたい。それに、……口だけでは。君の中も味わいたいよ、クラウド」
目覚しが鳴きはじめた。手を伸ばしてそれを取り、裏側にあるタイマーのスイッチを切った。その俺の手から、ヴィンセントが奪い取り、裏側の蓋を明けて、電池を抜いてそのへんに放った。
「大好きだよクラウド……。君のことが、大好き」
こんなに嬉しいのにまた泣きそうになったのを隠す為に、顔を伏せて、食いついた。なんていい匂い、なんて美味しいんだろう。俺も、大好きだ。ヴィンセントの全てが愛しい。髪も額も目も耳も、鼻も唇も舌も頬も、声も喉も項も肩も、胸も心臓も骨も輪郭も、腰も、尻も、性器も、尻の穴だって、太股も膝も脹脛も足の指先も、爪も。
体液も全て。
やっと、口に出してもらえた滑らかな精液も。
あんたを形作る全てのものを、祝福しながら生きたい。
今朝から俺が口にしたのは、ヴィンセントのおしっこと精液だけだ。これが朝ご飯、というのも可。
呼吸を整えながら、くしゃくしゃと撫でてくれるのに、ついつい甘えて、猫のように摺り寄せてしまう。
「嬉しくて仕方が無い……、ほんとうにもう」
彼は困ったような笑みでそう言う。
「何でそう、幸せにしてくれるの?」
「……こっちの科白だ……」
「お互い様だとしても……、ときどき本当に申し訳ないくらい」
彼は湿っぽいベッドに腰を降ろし、俺と目線を同じくする。
「君がいま、立っているのは、どうして?」
「あんたのをフェラしたから」
「うん……、それが、すごく、嬉しい……」
抱き寄せられて、頭を上手に撫でられて、感動する。そんな程度のことでならいくらでも。ていうか俺の方こそ。
「ほんとうに、大好きだよ……、クラウド。愛してるよ……」
うん、って、肯く、声が、掠れてしまった。何だよ、まただよ。俺もたくさん、愛してるって言いたいのに、俺の知ってる限りの言葉で伝えたいのに、のに、涙が零れてしまう。どうしようもなくなってしまう。大好きな大好きな、俺の大好きなヴィンセント。俺の大好きなヴィンセント。あんたの側にいるだけで俺は、泣いてしまう。あんたが俺のことを好きだと、そういうことを確認するたび、俺は、泣いてしまう。まるで幼稚園児みたい。
ただ、愛しているというしるしは、肯くことだけ。
俺にとってかえがきかないひと。汚れたシーツは洗えばいいけれど、この人はもう、俺には誰かが代りになれるような存在じゃない。散々壊れた俺を守った。何が楽しいのか知らないが、俺の側にいた。俺は本気でこの人を幸せにしたいと思う。あの頃傷つけていたのを、癒して、幸せの極限まで持っていきたいと。そして、願わくはこの人より先に死にたい。その為ならどんな努力でもしよう。俺は、死ぬまで、ヴィンセントの側にいたい。
「愛しているよ、クラウド……。私はお前を、誰よりも、愛している」
ぼくの方こそ、あなたを。
許される限りこれからも、ずっと。
愛していきたいと。
「じゃあ、行ってくるからね」
「気を付けて」
スーツ姿がよく似合う。羨ましい。俺はどうも、なんだよな。男らしさ三割り増し、眼鏡で知的度五割り増し。目が悪い訳じゃないのに。でも、かけてると大分ちがうんだって。
玄関先でキス。まるで新婚みたい。付き合いはじめてはや五年、それでこれは立派。今や近所迷惑の名物バカップル。愚かな俺を麗しいヴィンセント、この構図が、今、またやってるわよヴァレンタインさんのところいい御身分よね十時過ぎに重役出勤だなんてと思いながら通り過ぎてった森本さんの奥さんと犬の大五郎の記憶に残るとすれば、幸せ。
「今日は、遅い?」
「いつもと同じくらい。君に会いたいから、仕事、頑張って早く終わらせるよ」
「楽しみに待ってるよ」
玄関先、ただでさえ遅刻してるんだから早く行けよって話。なのに、もうかれこれ五回目のキス。俺たちは社会適応出来ない。
「晩御飯は何がいい?」
「君の作るものなら何でも」
「あんたの欲しいもの作ってる方が楽しいし、きっと上手に出来るよ」
「そう? ……それじゃあ、そうだな、魚が食べたいかな」
「焼く? 煮る? 生の方がいい?」
「……生がいい。君に乗せて食べたいな」
「何言ってんだよ。……そういう所、オヤジ臭いぞ」
ふふっと彼は少年みたいに笑う。
「いいじゃない。実際いい年なんだし。……それに、夜が楽しみな方が、仕事にも身が入る」
「馬鹿。……いい加減行かないと、早く帰ってこれなくなるぞ」
「……ああ、そうだね。まったくもう……、ずっとこうしていたいのに、世間っていうのは意地悪だね」
顔を寄せて、六回目の口付け。舌が入ってきた。ひく、と首筋に快感が走る。もっと、と舌を伸ばしたところ、彼の舌は抜かれた。
「じゃあ、行ってくるから。……一人でしちゃ、駄目だよ?」
「……そんな……」
「愛してるよ、クラウド……」
頭に手を置いて、ラスト、俺のおでこに。散歩から帰る途中らしい森本さんの奥さんと大五郎が見ないようにして見ながら通り過ぎていった、まったくあそこんちはどうなってるのかしらこんな真っ昼間っからいかがわしいわほんとに男同士でなんてああほんと理解できない大体仕事はどうなってるのかしらまったく。
覚えといてね、俺たちのことを。
「行ってきます」
「気を付けて、ね」