俺にそんなことを言う権利があるのかどうか解らない、けれどやっぱり言わしてもらうと、俺は今晩はあんたに夕飯を作って欲しい。こんな暑い日に日の前に立つのはちょっと遠慮したいし、今から材料買いに行くのはいくらあんたとふたりでと言っても億劫だ。だけどそれ以上に、なあ、やっぱり夕食はずっとあんたが作ってくれないか? あんたの方が、上手だ。
夏場は麺類。のどごしがいいから。昼も、上手に作ってくれた冷製パスタだったおいしかった。夜も麺類……でも栄養偏るな、夏ばてしたくないしな。俺は思い付かない、何がある? 冷蔵庫覗いてみても、漠然とイメージが湧くだけで。やっぱりあんた作った方がきっと上手く行く。俺の料理が食いたいなんて、すごくすごく嬉しいことを言ってくれるけれど。それは「料理」ではなくて「俺」の方が、嬉しいことに上位にくる要望であるからして、やっぱり料理の味はかなり落ちてしまう。俺は「あんた」と「料理」、もちろん「あんた」の方がずっと上であることは間違い無いけれど、あんたはそれでも、料理の腕を抜いたりしないから、やっぱりあんたに作って欲しい。
「駄目か?」
「怠け者」
「怠けてるわけじゃ、ない」
ヴィンセントは排泄される場所を食事する場所で味わう。
「どうだか……」
俺の汗が流れ落ちて、ヴィンセントの肌に転がる。俺は、身を、すこし捩りながら、ふとこれだけ汗をかいてれば夏ばてもしないだろ、と思った。目の前にある、ヴィンセントの赤く白いペニスの茎、何かのたべものを想起させるほど、俺は食欲を刺激された。
「何でもいい。……別に……昨日の残りを暖めて飯を炊くだけでも、私はかまわないんだが」
食事の話題にはもっとも適していない環境で、それでもお腹を空かせながら。食うということでは一致しているかもしれない。欲の種類が違うというだけで。肉欲。字面だけ見たらば、美味しそうだ。
「くっ……」
でも実際、晩御飯……なにに、しよう?
何でもいいと言ってくれるけど。味の悪いものでもやっぱり、何か、作らないといけないよ。あんたが飲み食いするものだから。ビールが、確か切れてたな。
あとで買ってこないと。
糞……、めんどくさいな……ふたりだけど。
「……腹が、減ったな……」
「だからか……」
ヴィンセントは苦笑いをする。
「美味しそうに、舐めてるから」
「ほんとうは」
口に含んだり、出したり、舐めたり、を繰り返して味わっていた。
「……、ほんとうは」
ヴィンセントは、言わずとも解る、というふうに、俺の肛門にまた、舌を捻じり込む。
ああ……もう……全くもう。
お互いこんなことに使う舌で飯を食って美味しいなんていうんだぜ?
俺たち、身体間違ってるきっと使い方。お口はご飯を食べる為、舌はご飯を味わう為。お尻の穴は、出す為にあるはずなのにな。
「……もう、やだ。腹が減ったよ」
たまらない、舌から、逃げて仰向けになる。ヴィンセントは起き上がり、俺の腰を抱え、唾液に塗れた肛門に唾液に塗れた陰茎を、遠慮無く挿し入れる。マナー違反の音が聞こえ、俺は腕で目を隠す。腰が動きはじめ、……なあ、お食事中にそんな、汚い言葉言うのよせよ、喋りながら食べるのは、いいことだけどさ……。
「出して……いい?」
「……うん、いい……早く」
はあ……。
腹一杯。もったいないから、一度口に入れたものは出さない。
実際クーラーかかってるんだからじっとしてれば汗なんてかくはずない。それを、何やってるんだろう資源の無駄遣い、びしょびしょになるまで汗かいて、シーツには二人分の人型。そのうえシャワー浴びて水道代まで無駄遣いして。本当に。いいんだけど俺は。
ヴィンセントは好色家ではない、と思う。もともと禁欲的な男だ。性的なことに関してだけじゃない、物欲、収集欲、食欲、財産欲、どれも、人並み以下の低いレベルのものだ。なのに、俺に関することだけ、あんたは贅沢だよな? 嬉しい、すごく嬉しいんだ、だけどな。それも時と場合に……よるもんだろ? ウチの風呂場狭いんだから。隣に音筒抜けなんだから……嬉しいんだけど。 性欲旺盛……俺にだけ、ね。嬉しい。
「お前と一緒にいれば」
左手で乳首右手で性器触りながら、器用だな、耳元で、ささやいて言葉尻、みみたぶ舐める。
「これだけで時間が経ってしまう」
「腹、減ったって……。あとで……」
「嫌ならやめるけど?」
「嫌じゃないけど」
ヴィンセントは身を引いて俺を見る。何が嬉しいんだ? 俺が嬉しいんだ……、そういう視線で、俺を見てる。男の身体。嫌だったこともあったけどな。いまは割と平気。自分は男だと安心して思えるようになったし、こんなふうに笑える。
「あんた、腹へってないのか?」
「十分に減ってる」
「あんたが作ってくれるんなら、やらせてあげなくもない」
「やるとかやらないとか……。そういう表現は好きじゃないな」
「おなじことだろ。お上品になんて言えるかよ」
咎めるように乳首を抓ってくる。
「だが……、うん、……それもそうだ」
俯いて、微笑む。
「マナーが悪いね……僕たちは、お互い」
俺より十センチ以上高い影が重なる。下半身、突起した部分が擦れ合う。
「あついな……」
「どっち? 暑い、熱い?」
「どっちもだよ。それと……腹が減った」
「……。もう」
と、ヴィンセントは俺に壁に手をつかせて。入れてくれない。その代り、指入れて、握って扱いて。
「……ケチ……」
正直、前は少し痛い。後ろも、たぶん腫れてる。それでもあんたが、欲しいというのは俺にとってすごく、尋常なこと。
「いっちまえ、早く……。そうしたらご飯を……インスタントラーメンでも何でも、作ってあげる」
「何で……インスタントラーメン」
「めんどくさい」
「嫌だ、指じゃ嫌だ、ヴィンセント、あんたのチンコが食べたい」
「贅沢品だよ」
結局……俺が作った。
「結局……、カップラーメン」
ヴィンセントは苦笑いしつつも、一分三十秒ほどで蓋を開けた。
「インスタントラーメンとどっちがいいかなって、迷ったけど」
「それでも愛が篭ってればおいしいよ」
「皮肉か」
ヴィンセントが音を立てて、風情もへったくれもないインスタントラーメンを食べる。
「……それに、俺の涎が入ってたらどうする?」
ノーリアクションで、彼は麺をすすり、スープを一口飲んだ。それから熱い息を吐いて。
「入ってるんだ? ……ご苦労様」
「いや、入ってないけどな」
「サービスが悪い」
「何」
「君の精液が入ってたって食べられるよ、僕は」
「どうも」
「麦茶ぐらい注いできたら?」
立ち上がる。二つのグラスと、ボトルを持って戻ってくる。ちょうど三分のタイマーが鳴ったところだ。「……あんた、いじっただろ」
「知らないな」
ちゃんと蓋をしてあったはずの俺のラーメンなのに。
「……何かした?」
「食べてみれば解る」
「……」
平気。あんたのなら唾液だろうが精液だろうが小便だろうが。寧ろ歓迎。
「……何も入ってないじゃないか」
「そう。よかったね」
飯を食いおわる頃に俺は気付く、ほんの僅かな量の媚薬、俺のからだを狂わせ、ああ、また俺のお腹は減ってしまう、だけどそんなものなくたって万年空腹状態の俺、気付いてるんだろうけど。
俺がここにいる意味は、俺が生き、楽しむためだけであってはならないはずだ。呼吸一つも無駄にしないためには、何かの理由を求めなければならないはずだ。まっすぐ立って歩くことすら、貴重だと思えるのだったら、この呼吸一つだって、大切にしていかなきゃいけない。
俺は、ここにいるだけじゃ、いけないんだ。そんなこと、わかってる。せっかく隣にヴィンセントがいても、彼に苦労をかけるような自分ではありたくない。
仕事に行って帰ってきたあんたが疲れていないはずなくても、俺がお帰りを言うために出ていくと美しい笑顔でただいま。その顔が、笑顔が、美しい笑顔が、俺のためだけにしか浮かべない美しい笑顔が、堪らなく嬉しかった。俺を見て、俺を見て、俺だけを見て、俺だけをその赤い瞳で見て、低いカッコイイ主人公役というよりは美形の悪役の声優みたいな声で、俺にこの世の中でたった一人のあんたの恋人である俺に、言う「ただいま」が、堪らないくらい、実際のところその事実だけで幸せすぎてどうにかなりそうでやろうとおもえばやれてしまうくらい、ほんとうに、幸せ。
だったけど今は幸せじゃない。
俺が選んだ、今考えてみるとどうなのかというような柄のネクタイを今日も締めていったヴィンセントは、扉を開けてただいまを言う。美味しくもない飯を楽しみに、家中漂うスパイスの臭いに、「今日はカレー?」と。
「ビーフ? それとも……」
「ビーフカレー」
「そう。……よかった、嬉しいよ。昼にね、食べようかどうか少し迷ったのだけど、やめておいて正解だった」
そして、両腕伸ばして、俺を抱き寄せる。寄せただけじゃない、締める。社会参加するために、一時期よりも大分大分大分短く切ってすっきりした後頭部に、俺は手を伸ばして、その、さわやかな襟足を指で遊ぶ。
いやいやいやいや、こんなことをするつもりでは……。
「早く着替えて来いよ」
突き放して、突き放すように言う。
そう、こんなことじゃ、たぶん駄目なんだ。俺は、ヴィンセントと生きている、ヴィンセントに付随して生きていてはいけないんだと、そんなことを。
確かにヴィンセントは優しくて優しくて、俺はいつだって泣きそう。外ではそんな素振りをちっとも見せないのに、俺といると。ヴィンセントの心は大空よりも広い、きっと宇宙なんかよりもずっと。それは俺にまつわることに限られてはいるけれど、しかし、いや、そう、すごい嬉しい……。今でも時々、俺が女じゃないってことに、辛くなって、どうしても、我慢できなくなって、やっぱり嫌なんだ本当のところやっぱりあのひとの子供が欲しい、しんどく、なって、耐えられなくって、泣いてしまうときにも、ヴィンセントは、俺を、優しく、そっと、抱きしめて、私はお前が好きだよ、僕の知っている君の全てが好きだよ、大好きだよ、って……。俺が、そうされることを、拒んで、怒って、殴って、引っかいて、蹴っ飛ばして、も、大丈夫だよ、ここにいるよって……。
こんなことじゃいけないんだ……。
カレーを掻き混ぜながらそんなこと考える。にんじん、たまねぎじゃがいも肉、こんなことじゃいけないんだ。
「美味しいな……」
俺が選んだTシャツに短パンという俺用の格好でカレーを食べる。汗一つかいていない。
「上手だね、クラウド。君の作るカレー、ほんとうに美味しい」
「……そんなことない」
俺は汗をかいて、水を一口飲む。正直、自分ではそんな旨いとは思えない。レトルトのほうがまだ、って感じだ。にんじんまだ固いし。
優しいんだね、ヴィンセント。
「おかわり貰えるかい?」
「ああ……」
あんたは優しい。俺が何したって怒らないし俺のすること全てを受け止める。俺のことなら全部肯定。きっと世間はこれを「優しい」とは言わないんだろうけれど、俺はあんたのくれる、あんただけの「優しさ」が好きだ。ベッドの上でも、俺の身体の隅々まで舐めて、「お前は旨い」「君は美味しい」って。「つまらないことは全て僕に預けておしまい。今は私を感じることだけ考えろ、君の痛みは全部僕が飲み込んであげるから」って、いやいやいや。
まず、そうでないところからはじめたい。
「休んでおいでよ。僕が洗っといてあげるから」
「いい。俺が洗う」
「……指が荒れてしまうよ、綺麗な指が」
「いい。俺が洗うんだ」
仲良くしよう、ずっとずっと仲良くしてこう。そう思いながらの、こんな毎日。俺だけソファに座って人差し指を出して。こんな風景。きっと世間からしたら蕁麻疹出るくらいのラブラブバカップルでも、俺たちが本当の意味での幸せをどうしても捕らえ損ねていることはもう再確認不要なこと。
「気を付けなくては駄目だよ。君の指は綺麗なんだから」
人差し指の腹に、一センチ程の深い傷が刻まれている。赤く染まったタオルを剥がすとまた、鮮やかな血が溢れ出す。
「ほら、君の赤い血。勿体無いね」
ヴィンセントは痛そうに笑って、俺の指を口に咥えた。そして、吸う。舌が当たると痛いのを知っているんだろう、やさしく、そっと、だいじそうに、指を血を吸う。その吸い方は、乳首やペニスを吸うときのやり方とは少し違って、もっとずっともちろん、実質本意。
だけど彼が目を瞑って長くて黒いまつげを伏せて、俺なんかの指をこんな風に気を使って吸ってるんだなんて思えば、俺は、いつもベッドや、それ以外の場所で彼が、俺なんかの乳首やペニスを吸ってくれる時に覚えるのと同じ感情を覚える。 少し、しみる、それも、ヴィンセントがくれる痛み。俺の肛門を痛めないように開いて、ゆっくりと押し入ってくる圧力もまた、ヴィンセントがくれる痛みだ。汗と尿と精液と雄の臭いがするような、夏の午後に一番嗅ぎたいと渇望するような臭いだ。俺の大好きな臭いを伴う痛みだ。
物凄く、愛しい。痛くても、痛がってたとしても俺の根底には、ちゃんとある、大好きの気持ちが。
こんな風に、俺がミスをしたときに癒してくれるあんたを見るたびに俺はあんたのことがどれだけ好きなのか解って、だけどミスをしなきゃそんなことも解れない自分がとてもとても、嫌いだ。俺はあんたのことが大好き、そんなのわかってるはずなのに、これから一生死ぬまで変わらない気持ちだと、俺が死んでも変わらない気持ちだと、俺は知っているくせに、こんなことがあるたびに、忘れていたんだということに気付く。ほんとうに大好きだという気持ち、例えばあんたの指が荒れたりしないように皿洗いをする瞬間に、俺が忘れているなんてことはありえないはずなのに、だけどこんなとき、とても強く感じる。
ヴィンセントが大好きだ。
こんなに大好きだ。なのに、どうして忘れてしまえるなんて。ありえない。皿を取り落とした瞬間に、指を切って血が噴いた瞬間に、あんたが俺にすぐかけてきて大丈夫ってきいた瞬間に、こんなにひどく知らなければいけないほど、俺は忘れていた。
優しく、彼は俺の指を咥える。傷口を刺激しないように、優しく、優しく、優しく。
あんたのことが好きだって、どうしたら、俺は、忘れないでいられるだろう。ずっとずっと思い続けていられるだろう。
贅沢なことだけれど証が欲しい。俺はヴィンセントのことが心から好きだと、心が枯れたって好きだと、あんたがもしも俺を憎むようになったって好きだと、信じ続けられて、永遠に忘れたりしない証が欲しい。俺は、あんたが、好きだ、どうしようもないほどに、忘れたりなんか、したくない。
ずっとずっと大好きだ。
指の痛みだって忘れたくはない、だけどあんたがくれた癒しと唾液も忘れたくはないしなくしたくはない。あんたがずっと欲しい。
ずっと、例えばこうしてヴィンセントが指を咥え続けていてくれたなら忘れることなんてしたくったって出来ない。
艶めかしい口の中のやわらかな感触、指の根本の方に時折当たる門歯の感触、一定のリズムでかかる鼻からのゆっくりした吐息の感触だって、今だから鮮烈。 忘れたくなんて無い。
ずっとこうしていて。
口の中、ヴィンセントの唾液に、痛みが軽くなってゆく。
彼が口を離した。形の良い唇の端に、俺なんかの血を付けたまま、綺麗に微笑む。
「血って……、蠱惑的な味がするね……。君の味がする」
「……俺の……、俺の血なんだから……、当たり前だろう」
「うん……。そうなんだけどね……、根源の味がするんだ……、君、そのものの……、僕がとても好きな味だ。もっと舐めていていいかい?」
「……好きにしろよ」
「ありがとう」
ヴィンセントはまた口の中に俺の指を収めた。美味しいなんて、思ってくれているんだ? 涙が出るほどに嬉しい。
俺は左手を、下半身に持っていった。鈍い痛みを伴いながら、俺のペニスはズボンの中で醜くその体積を膨張させている。ヴィンセントが好きだという気持ちが、まずそこに出てきてしまう。
でも、形は醜いだろうけれど、好き、という気持ちをここが忘れることはありえないのだと、俺は安堵する。
右利きの俺が左手一本でズボンのボタンを外し、ジッパーを下ろし、トランクスの中から性器を取り出すという一連の動作は苦労を伴った。俺のペニスの亀裂には液体が浮き出ていて、トランクスには説明が要る染みが付いていた。ヴィンセントは目を閉じたままで俺のを咥え続けている、けれど音や臭いで気付いているだろう。
左手で、俺は、俺の性欲の直接的原因に成りうる要素を孕みながらも今のところそれとは全く関係無いヴィンセントの顔がすぐそこにあって俺を真面目に癒してくれているというのに、握って不器用に動かした。ちっともうまくいかない、あんまり気持ち良くない、そう思っているのに、自分のしている行為の馬鹿げた無為さに、俺は吐息を詰まらせた。
ヴィンセントは、何も動揺することなんか無く、俺のに右手で触れた。右手で、俺の睾丸を摘まむようにしてびっくりさせてから、俺の左手をどかして、液体で濡れた先端の方も、興奮して血管が浮き出てる茎も、無作為のリズムで形を変える陰嚢も、順々にあますところ無く、指を手のひらをつかって愛撫してくれる。その目は相変わらず伏せられていて、口では指を咥えたままで、右手だけが、俺の汚らしい部分を、淫らな動きで愛してくれているのだ。俺は左手で、シャツの裾から手を入れて、しこりのようになった乳首を、親指と中指で摘み、人差し指で撫でた。
いつか妊娠してここから母乳が出るようになったら。そんなことを考えたり言ったりするとヴィンセントはとても悲しそうに笑って、だけど私はどんなお前でも一番好きだから。
「……気持ちいいかい?」
ヴィンセントが口を外して、だけど目は閉じたままで聞いて来た。
「見えないから……解らないけれど、とても熱いね、クラウドのここ……。……見えないから余計に解る、君のが、僕の手の中で震えている」
ヴィンセントは赤い唇で、俺を煽るように言う。俺は下腹部にちくちくするような痛みを覚えて、涙を零した。
「ヴィン……、動かして俺の……、動かして」
「気持ちいいの?」
「気持ちいい……、気持ちいい。もっと、もっとして、いきたいよ……ヴィンセント、俺いきたい」
「いいよ」
ヴィンセントは立ち上がると、ソファの、俺の座ってる後ろ、俺を後ろから、抱くような感じで。脇腹のところから手を出して、右の耳をかんで左手で、俺が弄ってなかった方の乳首を弄る。
「ア、う、……ッ、ん、……くぅ……」
「気持ちいいんだ?」
「……気持ちいい、……いいよお、ヴィンセント、いい……」
「どこが良いの?」
「……全部、あんたのいじってるとこぉ、ぜんぶ、きもちぃ……」
耳朶に舌を滑らせながら、ヴィンセントは吐息とともに俺に聞く。
「どこ……? 全部って、……どこ……?」
その響きにも、俺は、どうにかなりそう、下手をしたら、漏らしてしまいそうなほど、気持ち良くなってしまう。
「耳も、おっぱいも、チンチンも、……あんたの、ぜんぶ、好き、気持ちいい、気持ちいい!」
……俺、いま、何て言っただろ……?
「そこを……、……どう、して欲しいの?」
「……擦って、扱いて……もっと、もっともっと、俺のチンチン、いっ……い……ッ、ひぃ、うっ」
「もう、出そう……だね、……いいよ、何も、考えないで、出しちゃって……僕の手で」
「あ、あ、あ、あああ、っ」
ヴィンセントの、人差し指と親指が、俺の包皮の上からカリの所を強く擦ったとき、俺はヴィンセントに背中を預けて射精した。一度、二度、三度と、Tシャツに、頬に、生臭い飛沫が飛び散った。尻を弄られた訳でもないのに、こんなに出たなんて。
ヴィンセントは俺の精液でベタベタになったその右手で、そのまま暫く、扱き続けていた。ゆっくりと速度を落としながら。耳朶をずっとぴちゃぴちゃと舐めたりしゃぶったりしてくれながら。
手が、ようやく停まる。ずっと震えていた俺は、でもまだ震える。
「……喜んでもらえた?」
「う、ん、ん……、ん」
「嬉しいな……。大好きな君のそんな声が聞けて……。僕はほんとうに幸せだよ」
甘い、甘い響きの、甘い響きの言葉とともに、ヴィンセントは俺を抱きしめた。