4日目
猫は、四六時中俺についてまわる。ついてまわるだけで、別に何の得になる事もしてくれない。俺が医学書を漁る側で、柱で爪を研ぐ。俺がうたた寝をすれば、上に乗って来る。息抜きに雑誌を広げれば、机の上に寝そべり雑誌を枕にする。
「……少しは離れないか」
雑誌を頭の下から引き抜いて言うと、いつもの通り、また泣きそうな目になる。
「ザックスは、俺と一緒、いや?」
「嫌とか良いとかいう問題じゃなくて……、そばにいる分には構わないけど、ここまでぴったりくっつかなくても良いだろ。隣の椅子に座るとか……」
「うん……、じゃあ、そうする」
そう言って猫――クラウドは、俺の隣の椅子に座る。座って、腕を俺の腕に絡ませて来る。雑誌なんて読めたもんじゃない。吐き出した息に、クラウドの抜け毛が舞った。
そう……、俺は、この猫に「クラウド」という名前を付けた。可笑しいなんて思わない。俺と同じ姿をしてる、というか、細胞レベルで俺と同じなのだから、それ以外呼びようがない。クラウド弐号、偽クラウド、クラウドセカンド、クラウド・ツー……、いずれにしろ「クラウド」が付いてしまうのだから面倒くさい。自分で自分の名を呼ぶというのは、意外とすぐ慣れるものだ。幼児が自分で「あっくん」だの「みっちゃん」だの言うのと同じ事だ。
で……、俺を何と呼ばせるか、も同時に浮上する問題であって。
お兄ちゃん、兄ちゃん、兄貴、兄上、ちょっと捻って、お父さん。
どれも頂けない。と言って、俺も「クラウド」ではどうにも落ち着かない。猫の名前を決めるより、こちらの方がずっと厄介だった。結局、「十四歳の俺に一番近い人物」の名にしようと決めるまで丸一日かかり、そこからザックス、セフィロス、ルーファウスと並べて決めるのに半日かかった。結局、ザックスを選んだ。それは別に、ザックスが特別どうという訳ではなくて、セフィロスと名乗れるほど完璧じゃないし、ルーファウスと呼ばせられるほど偉くも無い。ザックスはそう言った点では、とても身近で、いい。そんな理由で採用した俺のことをきっと怒ったりはしないだろう。
「ん……、ザックス」
「……トイレ?」
「……うん」
椅子から立ち上がり、手を引っ張ってトイレに連れて行く。三日で十五度目。ズボンを降ろして皮被りの小さなちんちんを摘み上げて、させるのも、もう慣れた。ひょっとしたら子育ての才能があるのかもしれない。
「ねぇ、お腹空いたよ」
時計を見ると、十二時半。体を全く動かさなくなったから、食物への欲求も研ぎ澄まされていないけれど、でも確かに、口寂しい気がする。頃合いだ、立ち上がって冷蔵庫を開ける。一緒に覗き込むクラウドがすぐに鮭の切り身に伸ばした手を制止して、夕べの残りを出して、レンジで暖める。
「あれは夜のオカズなんだ」
「…………」
面白くなさそうな顔。 三十六色の絵の具よりももっと、無限大の色を持っている顔だ。自分の顔をまじまじと見て、そう想ってしまった。十四歳、どういう「俺」だったか、思い出して苦笑い。八色もあれば充分足りただろうに。
「疲れないか? 顔が」
馬鹿な問いかけをしてみたり。首を傾げてきょとん、そんな表情、俺は生まれてこの方したこともない。
レンジで温まった夕べのオカズを、昨日買ってきた猫用餌箱に盛り付ける。何せ、手がこれだ、フォークもスプーンも持てない。だから、犬食いもとい、猫食いみたいに、顔で食わせるほかない。いつも食後は口の回りがベタベタになってしまうのだけど、両手で不器用に使うフォークで机中汚されるよりはいい。筆記体で「Cloud」、俺の名を記した、俺以外の誰かの物。
「クラウド、ほっぺた……」
「んぅ」
「……もっと落ち着いて食えよ。取ったりしないから」
この三日間で、俺がしたことは別に、この猫に名前を付けて俺も改名して、エサバコを買った、それだけじゃない。例の、オネショされたズボン、洗うの忘れて染みが落ちなくなってしまったので、彼用のパジャマとパンツを買ってきた。それから、家中どこに居ても解かるように鈴を買ってきた(もっともこれは、先に書いたとおり、常に俺に付きまとっているから、意味はなかった)。そして、彼の年齢について、俺なりに考えを纏めた。 クラウドの知識は、やっぱり俺の十三、四歳当時のそれに準じたレベルであるらしい。字も読める。爪を使って書くことも出来る。計算も出来るみたいだ。つまり、頭は悪くない。 ただ、その知識と精神との間に、大きな隔たりがある。やってることはまるで三才児――若しくは、人間以下。試しに尋ねてみた。
「……お前、何してるときが一番楽しい?」
間髪入れず帰ってきた。
「ザックスといるとき!」
珍しく甘える猫の理由と同じだ。幼児に好かれても、なぁ。
とにかく、精神は非常に、幼い。俺と同じ顔で、すぐとなり、俺がかまってくれないからと首の鈴をちりちりと鳴らしてみたりする姿は、何とも言えない恥ずかしさがある。
と。ここまでのことだけだと、俺は完全にクラウドのことを、実験体みたいな見方をしているという誤解を招くかもしれない。クラウドは偶然に生まれてしまった生き物、それを格好の研究対象として……? 宝条じゃあるまいし。
クラウドを、一人の人間として見る努力も、している。俺は俺なりに考えた。どうして俺は、すぐにクラウドを消さなかった? 結論を言うのが、何だか照れくさい。だけど言ってしまおう。クラウドは、クラウドだから、俺と同じなんだ。そして同時に、それは俺がなぜ「ザックス」と名乗れるかということにもつながって来ると思う。
クラウドは俺がいなきゃ、三日ともたずに死んでしまうだろう。それほどまでに、弱い存在だ。まだ生まれて三日、この狭い書斎しか知らない。俺だけを見て過ごしている。怖いことも哀しいことも、結局は知らない子供だ。
それは、十三歳の時の俺に、とても似ていると思った。 何も知らない子供だった。だけど、ザックスという一人の男に、守られていた部分が大いにあった。ザックスがいなかったら、辛い訓練だって、耐えられたかどうか解からない。
俺が離れようとすると、すぐ猫は「行かないで」という。「一人にしないで」と泣き出す。それって、つまり、…コジツケの気配も少しはするけど、ザックスを喪った俺と同じ気持ちなんだと思う。二度と帰ってこないということが、堪らなく怖い、ツライ、カナシイ。今だって考えると泣きそうになるほどの、胸が捩れる痛み。俺がいなくなる事で、誰かにそれを味あわせたくないと思った。それは、俺と同じ姿をしている猫に対してなら、余計に肩入れするような気持ちも。まるで、本当に俺を見ているみたいな気になる。
棄てるなんて出来るはず、ない。
だから中途半端に生き延びさせるよりも、同居人、「人」、として扱っていくことに決めた。まるで、俺のように大切にしていくべきなんだと思った。 でも今俺がクラウドに対して抱いてる気持ちはやっぱり、「ペット」と同じだろう。飯を食わせてトイレに行かせて、それ以外、大した事もしていない。
「なにしてるの?」
「……調べ物だよ。お前の体についての」
これだって、飼ってる猫が病気しないための方法を探ってるようなものだ。人間として扱うっていう、具体的な定義は解からないけれど、でも俺がしてるのは、どっちかっていうとペット的取り扱い。
けれど、俺は傲慢にも、今はそれでいいと、思ってる。 一人の家族として、弟のように見られる日は、この状況に慣れてからでも遅くはない。ちょっと、まだ動転してて落ち着かない部分だってある。どうせ一生生きなきゃいけない、それは、生きながら考えればいいんだ。
『--年-月-日 魔獣三体の細胞を組み込み完了。魔獣の細胞にはジェノバを組み込み済』
走り書きを見つけた。
「……お前も、俺と一緒だ」
痛みを知らない顔が、俺を見上げた。
一生付き合っていくなら、イイトコロを見てあげられるように、なろう。幸い、俺は何もしてないのにこの子に好かれているようだし、あとはもう、俺がこの子を好きになれるよう、時間を使っていけばいい。これ以上不幸になんて、なりようがない。幸せになる術を傲慢に見つけてったって、責められやしない。
「あ、っと、毛、舐めるなよ。あとでキモチ悪くなるから」
「にゃ……」
猫はグルーミングをして、胃の中に入った毛玉をあとで吐き出す。そんな知識を振りかざして、一つ偉くなったような気分になる。
7日目
「それ、気に入ったのか?」
季節は六月。雨の合間に、汗ばむような照りの日も挟まることがしばしば。その上毛皮付きで、人間より暑いだろうと思うけれど、クラウドは手術台の上から引っ張ってきた毛布を頭からかぶって、喉を鳴らしている。毛布を退けると、ふやけた表情で俺を見た。
「いい匂い、するんだ」
「……いい匂い?」
嗅がせてもらうと、何てことはない。俺と同じ匂いがするだけだ。…って、もともとは俺が使ってた毛布だから、当たり前か。一ヶ月くらい洗ってないから、匂いにもコクが加わっている。小さい子供が赤ん坊の頃から使ってる毛布を「いいにおい」と言うのと同じだ。自分の匂いはいい匂い。 つまり、クラウドにとって俺の匂いは自分の匂いってことか。やっぱり、同じだ。
「……何か、可愛いなお前」
頭を撫で撫でするついでに、喜んでくれる耳の付け根を掻く。こういう時の鳴き声はやっぱり、「ごろにゃん」なのだ。猫の声を出すからといって、見たところ喉が人と違う訳でもないし。だけど、声の使い方としては、俺が「ごろにゃん」って言うのとはちょっと違う特殊な、猫にかなり近い声。普通に喋ることが出来ながらも、天然の猫声を出すというのはこれ如何に。普通の人間が「ああ?」とか「ん?」とか言うのと同じ事だろうと結論づける。
毛布の角のところが好きみたいで、そこに擦り寄って、一人遊びしてる姿を横目に、集中力もきれたことだし、一休みする事にした。
「んあぁ……ふ」
牙を覗かせて大欠伸。
「……昼寝も、いいか」
そんな気持ちにさせる大欠伸だ。時計を見ると、午後八時。昼寝というより、もう夜寝の時間。一日中部屋に篭りきり、太陽も射さない部屋だから、時間の感覚が鈍っている。
ところで。
何の脈絡も無いけど、俺の初体験は十四歳の時だった。そう、相手は他ならぬザックス。あの時はまだセックスの意味も理由も、分からなかった。体を触られていくウチに、心がとろけて、目潰しを食らった心が涙をボロボロ流す。意識が夜明けのように芒洋と白んでいく感じだった。
で、俺の精通も、十四歳の時だった。何てことはない。それまで、手淫なんてしたことなかった俺は、ザックスの手の中で果てたのだ。年齢的に「出来る」体勢が整っていながら、俺がしていなかったというだけ。十四歳っていう年齢は、今考えてみると結構遅かったと思う。あのくらいの子供って、そういう知識に関しての嗅覚は妙に鋭い。変な単語を知って、興奮したりするらしい。俺は幸か不幸か、そういう経験はなくて、初体験イコール精通という、特異な「性の目覚め」だった。これも、いいのか悪いのか、今ひとつ判断出来ない。一般の少年たちが性的接触に憧れるのに対して、俺は嫌という程接触してそれがほんとに「嫌」になった。どちらも、互いが羨ましく思える。 ともあれ、精通は初体験で。しかも、それ以降も自慰が必要なほど間隔を開けられたことのない俺だったから、夢精、というのは未知のものだ。
「……ざ、っくすっ」
夢の中にまで、猫が出てきていたから、目が覚めたときに目の前に泣きそうな顔があっても、そう驚きはしなかった。
「……どうした?」
紅い顔。涙。まさか、と思って下半身。
「……また?」
「……んぅ……っ、ごめん、なさい……」
寝る前トイレに行かせなかった俺が悪い。
「……泣くな。とりあえず、ズボン変えないと、な?」
今日は、すぐに洗おう。そう買い替えてばかりもいられない。俺は、意外にほとんど被害の無いズボンを下ろし、逆にこちらはちゃんと被害を受けているパンツを下ろし。
じっ、とクラウドの下半身を見つめてしまった。 俺の中指くらいしか無い、細くて短い我ながらこんなのをぶら下げていたのかと思うと恥じ入る程のペニスは、確かに濡れている。びしょびしょ、と言っていいほどに。
しかし、その表現は誤りだ。
びしょびしょ、というよりは、びちゃびちゃ、というよりは、べちゃべちゃ、というよりは。
べたべた。
クラウドの小さな陰茎に、白く濁った粘液が纏わり付いている。パンツの、ちょうど当たる部分にも、べっとりとこびり付いて、ほとんど流れない。
「……ああ……」
暫し呆然となる。このくらいの空白は許してもらえるだろう。
「……ザックス……、怒ってる?」
めそめそ泣いて、両手で目を擦って、恐る恐るといった感じで訊ねる。
「怒ってないよ。……目擦るな。あとで痛くなるぞ」
「……ん、ごめんなさい……」
例えば普通の十三歳の子供だったら、どうするんだろう。きっと、コソコソとパンツを一人で洗って乾かして、何も無かった振りするんだろうな。だけど都合が悪い、俺は見つけてしまった。
猫手ではオナニーも出来ない。そこまで考えてしまった。
「……クラウド、泣かなくていい。お前は、オネショしたんじゃ無いんだから」
丸出しの下半身をティッシュで拭ってやりつつ、俺は慰める。新しいパンツ……がない。洗ったばかりで乾いてない。……仕方なく、手ぬぐいを腰に巻いてやる。応急処置だから、後ろの布のあわせ目から尻尾がにゅっと出て、尻が丸出しになってしまうのは致し方ない。
「……オネショ、じゃ、ない?」
ようやくクラウドの涙が止まった。鸚鵡返しに聞き返す。
「そう。……クラウド、どんな夢見たんだ? ……教えてくれよ」
何も知らない十三歳が一体、どんなものに快感を憶えたのか気になったのだ。クラウドは少し、吃った
だけど、隠し通そうとか、そういうことを思い付けるほど経験はない。詰まりながら、話し始めた。
「……知らないおじさんが、その、俺の、チンチン触わってきて、……ごしごしされてるうちに、何だか、出そうになって…、起きようと思ったんだけど……」
相手は男か。……何だか、不憫だ。
「……知らないおじさん? ……どんなおじさんだったか憶えてないか? 背の高さとか、髪の色とか目の色とか」
クラウドはすぐに返答した。
「黒い髪の、蒼い眼のおじさん…、おっきくて……」
「…………」
「ザックスと同じでね、左のお耳に青い飾り、つけてた」
また、暫し呆然。許される限り、呆然としていたい。
…………。
整理。
十三歳の俺なのだ、クラウドは。十三歳当時の、ザックスという男の記憶。それがつまり、クラウドの細胞の「記憶」の中に、多少なりともあったって事か? いや、でも待て。俺は初めてイッた時、確かに相手はザックスだったけど……「俺の、チンチン触わってきて、…ごしごしされてるうちに、何だか、出そうになって」って状況だったっけ。その時の気持ちは覚えてるけど、クラウドの言葉通りだったかどうかは解からない。……記憶が半分飛んでる状況下だから、曖昧なのは当然だ。
でも。
確かに、俺を膝の上に乗せて、後ろから腰の方に手を回されて……っていう記憶が、あるようなないような。 いや、難しいこと考えても仕方が無い。あるいは、ザックスの亡霊が、勝手に俺が名乗ってることに憤慨して、腹いせのためにクラウドの夢の中に現われたのかもしれない。アイツらしい現われ方だと言えなくも無い。さぞ、楽しかったことだろうよ、「猫耳メイド」って何でも、男の野望を具現化した姿だって言うからな。
「……そう、か。なるほど」
俺はそう言うと、とりあえずクラウドのパンツを洗いに、流しへ向かった。むろん、クラウドも付いて来る。
「……ザックス、オネショじゃないって……」
「……オネショするほど子供じゃないってことさ」
とりあえず精液は出せる年齢ではあるわけだ。
「ただ、寝る前にトイレ行かせるの、俺が忘れてたらちゃんと言ってくれよ」
「ん」
やれやれだ。これで、寝小便垂れられることもなくなるだろう。だが俺はすぐに気付いた。寝小便垂れられることはなくなっても、夢精はなくならない。
「……ザックス?」
手を止めて考える。
オムツでも付けさせるか?
……いやしかし、俺と全く同じ姿のクラウドがそんなカッコをしている姿なんて、見たくない。俺の心がかなり傷付く。しかし放っておけばこれから何日かに一度は夢精してパンツを汚す。その度に洗わなければならないのかと思うと、それも気が滅入る。……いや、何日か一度? ひょっとしたら、毎日かもしれない。ザックスの亡霊が毎日イヤガラセに来ないとも限らない。
「ザックス、どうしたの…?」
ザックス。 ……ザックス、どうしたらいいよ。あんたなら、どうする?
そんなの決まってるさ。アイツなら、…嬉々としてクラウドを勃起させて、いろんなことを憶え込ませる。俺にしたように。
しかし、俺は「ザックス」だけど、「ザックス」じゃない。そんなことはしない。
「何でもない」
ゴシゴシと、力を込めて洗う。
洗濯挟みとハンガーでドアノブに洗い終わったパンツをかけて時計を見ると、もう零時を回っていた。中途半端な時間に「昼寝」してしまったから、非常に中途半端な加減に眼がさえている。何かをしようという気にもならなければ、眠れる雰囲気はない。ただ、一応クラウドは子供なんだから、睡眠は正常な人並みに取らせなければならない。仕方なく、クラウドを手術台の上に寝かせて、俺もその隣で横になる。こうしていれば、多少はうとうとしてくるものだ。
ただ、俺の目は正直、かなりの冴えを見せていた。頭も同時に、よく回る。
「ん、にゃぅ……ん」
くるりと寝返りを打って、クラウドが向こうを向いた。昼間は散々「いっしょにいて」だの「はなれないで」だの言ってるくせに、夢の中ではそっぽを向いても平気らしい。ひとに尻を向けて、尻尾で横着に俺を探している。
そして、尻尾の付け根、小ぶりな尻が露になっている。そのラインがどうしようもなく、子供だ。本当に俺が十三のときって、こんなに子供だったんだろうかと、信じられない気持ちを抱く。そして、よくもまぁこんな体でザックスにセフィロスにルーファウスと、受け入れられていたものだと感心してしまう。……そう言えば当時の俺は、抱かれ過ぎでいつも疲れていた。妙に義理堅――八方美人というのかもしれないが――くて、なるべく三人を平等にしようと思って、一日二発はザラだったから、それも無理はない。だけど、お蔭様で一年後、びっくりするほど背が伸びたけど。
俺が当時の「ザックス」だったら、あそこまでしただろうか。こんな小さな体を剥いて、しょっちゅう犯そうなんて思い付いただろうか…。それって、考えてみれば優しさに繋がってることじゃないんだろうか。俺の体を気遣って、少し控えるとか――
でも、俺も何だかんだ言って、されて悦んでたし、嬉しかったしな。
ザックスの事が好きだった、だから抱かれて「死ね」とか「馬鹿」とか「変態」とか言っても、嬉しかった。気持ち良かったのは事実だ。意味も分からないで連発していた「あいしてる」が嘘だったとは思わない。あの時の言葉は全て、ザックスが受け止めてくれた十四歳の真実だったのだ。ザックスに触れられて湧き出る、溢れそうな想いがそのまま、今の俺を創っているのだから、それには感謝したっていい。もちろん単純に、敏感な所を誰かの手で弄られるっていう、恥ずかしい気持ち良さを求めていた部分だって、少なからずあっただろうけど。
……ザックス、愛してた。ベッドの上でも、大好きだった。
ザックスはもういない。その代り、今俺は「ザックス」を名乗っている。目の前にはクラウドという名前の俺じゃない俺がいる。どうするのがベストかは、解からない。
寂しい夜。