ブラックラインの攻防
2011/03/24 Thu
m25
気のない返事を幾らか貰い、ヨハンはゆったりと身を起こす。
ソファの背に腕を預け、にっこりと含みのある笑みをゲーニッツへと向ける。
「ジェネラルのところへ行っていた」
言葉が紡がれた瞬間、水の中で動いていた手が止まった。
流れる水の音だけが室内に響き、空気すら動くことを憚るような沈黙が落ちる。
「古馴染みでな。中々楽しい時間が過ごせたぞ」
きゅっと、水を止める音がして、キッチンからゲーニッツが出てくる。
その目は、氷のように冷たい龍蛇の瞳だ。ヨハンの背筋を、悪寒にも似た恍惚が駆け抜ける。
「紅茶も旨かった。確か、アールグレイだったか。良い腕前だぞ」
音もなく数歩を縮められ、ゲーニッツは既に目の前だ。
その手が、何の感情もなくヨハンへと伸びる。
ヨハンは怯えることも逃げることもせずに、その手の到来を待った。
「そうだ。今度はお前も――――」
しかし、続く言葉が声として出る前に、ゲーニッツの逞しくも広い掌はヨハンの首へと掛かる。
抵抗する暇すらも与えられず、多大な負荷を掛けられソファへと押し付けられた。
呼吸が行き場を失い、押さえつけられた気道が戦いた。
「……黙りなさい」
「――――ッ、く…くくっ…」
息苦しさに顔を顰めながら、それでもヨハンは満足げに笑ってみせる。
尊大にして傲慢な笑みは、これ上なくヨハンに似合っていた。
呼吸すらも憚られながら、ヨハンは細い呼気に囁きを混ぜた。
「―――ふふッ…その…顔が、見たかった…」
ヨハンを見下ろすゲーニッツは、その笑みと言葉に凍てつくような微笑で応えた。
ゲーニッツの本性である、冷酷で非情な獣の笑みだ。
「いいでしょう、ヨハン。ご要望通りに、酷くして差し上げます」
告げられた事実上の死刑宣告に、ヨハンは笑みを深めた。
穏やかなゲーニッツの裏に丁寧に隠されたこの本性を、ヨハンは一番気に入っているのだ。
それこそ、かつての忘れられない相手よりも。
蛇の牙が肌に突き刺さるのを感じながら、ヨハンは笑気交じりの嬌声を噛み殺したのだった。
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