消失地点
2010/12/16 Thu
m25
ゲーニッツの妨げにならないよう、出来る限り呼吸を抑え、不動を保っていると、不意にゲーニッツの手が伸びる気配がした。
「―――」
寝返りでも打つのだろうかと考えていると、意に反して手は空色のネクタイへと掛かる。
疑問符を浮かべながらも更に動かずにいると、微かな衣擦れの音と共にネクタイが解かれた。
寛げた首筋に冷気が入ってくるが、その冷たさを自覚するより先に、冷気よりも冷たい掌が首筋を這った。
唐突な冷たさに、グスタフが僅かに身を捩る。が、すぐに冷たい手を温めたいだけだと理解した。
グスタフもオロチの血に連なるだけあって常人よりも低い体温をしているが、ゲーニッツに比べればまだ人に近い、まともな体温をしていた。
寝台にグスタフを引きずり込んだだけでは寒さを凌ぐには足りなかったのだろう。
確かに、血流が多く流れる部位はスーツに包まれた身体よりも温かい。
熱を奪うように首筋や耳元、鎖骨を這う手は静かで、グスタフはそっと息を漏らした。
「…祭祀様?」
しかし、その手が背筋を滑り、シャツの裾から腹部へと進入したことで半ばまで下ろしていた瞼を押し上げた。
単に、首筋の熱だけでは物足りなかったのだろう、と思考をシフトしかけるが、ゲーニッツの掌は確かな熱を有しており、先ほどまでよりは温まっている。
咄嗟に、グスタフは訝しがるような声を出して、ゲーニッツに制止をかけた。
「何ですか?」
けれど、返ってきたのは常と何ら変わることのない穏やかな低音。
眠いといって横になったはずなのに、その声はまるで眠気を感じさせない。
グスタフが進言するまで寝室に移動しようともしないゲーニッツが、珍しくも自ら寝室へと足を踏み入れたはずなのに。
それほどまで疲れているのだと考えていたが、ゲーニッツからはそんな疲労は欠片も見受けられない。
「―――…いえ」
微かな、しかし明確な違和感を覚えながら、それでも、それを無視したのは相手がゲーニッツだからだった。
グスタフにとって、何より優先されるべきはゲーニッツの下命で、それに従うならば、グスタフは寝台に横たわるより他の選択肢は存在しない。
そう判断して、見つけた不自然さから目を逸らし、僅かに固まった身体から力を抜いた。
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