理由なんていくらでも
2010/12/10 Fri
m25
師匠という立場は因果なものだと小さく溜息を漏らしていると、前触れなく腕が掴まれた。
「―――……おや?」
掴んだのはグスタフであり、思わず歩みを止めるとそのままソファへと引き寄せられる。
意図が分からず、そのままソファへと倒れ込む。
流石にグスタフを潰す訳にも行かず、片手をソファの背に置いて体制を保つと、見下ろした無表情が僅かに緩んだ。
悪寒、とまでは行かないものの、十分に嫌な予感がオズワルドの背筋を這った。
ポーカーフェイスに走ったある種の緊張を察知したのか、グスタフが一層オズワルドを引いた。
年の差からくる腕力には勝てず、そのままずるずると距離を縮められ、まるで抱き込むように耳元に唇を寄せられた。
「付き合え、オズワルド」
耳を打つのは穏やかな低音。
年頃のお嬢さんであれば、一発でしょうね。と下世話な思考が脳を掠める。
しかし、オズワルドを誘うグスタフは、それ以上に下世話で悪趣味だ。
オズワルドは頭痛に耐えるように長い指をこめかみへと添えて、重々しい声を漏らした。
「老体に鞭を打たないでください」
恐らく、もう何を言っても無駄だろう、とは思う。
オズワルドとしては乗り気ではないものの、こうなってしまったグスタフを止められた例はないのだ。
これから酷使されるだろう我が身を憂いて、オズワルドは年相応に疲れた声を吐息に混ぜる。
それに応じたのは、大人ぶった低音だった。
「貴様が老体とは…フッ、よく言う」
オズワルドがサングラス越しにグスタフを見下ろすと、完璧な微笑を浮かべていた。
幼い頃から整った顔立ちをしていただけに、見下ろす顔は惚れ惚れするほどの男前だった。
少なくとも、見た目だけは。と心中で付け加えていると、オズワルドを引き寄せた腕が腰へと回り、これ見よがしに腰を密着させてきた。
「―――…冗談はその辺にしておかないと冗談ではすまなくなりますよ」
余りにあからさまに誘われて、オズワルドは眉間に皺を寄せて見せた。
どれだけ世俗に塗れたかは知らないが、もう少し上品に振舞えないものか。
グスタフに付き合うのは吝かではないものの、それなりの礼節を弁えていないというのは頂けない。
別に愛の言葉を囁けという無理難題は振らないが、こちらは疲れた身体を抱えているのだという認識は持ってもらわねば困るのだ。
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