Cry Me to the Moon
2010/11/24 Wed
m25
グスタフの長い舌が器用に蠢いて歯列をなぞり、口腔まで侵そうと何度もエナメル質を濡らした。
「……ッ、………ぅ」
歯列の合間から粘液を塗り付けて、舌を閃かせる。
舌に乗るのは苦い味だが、ユウキの唇は味覚を超えて甘かった。
薄く目を細めつつ、舌で強引に歯列を割ろうと圧を掛ける。
「ん……ッ!」
ユウキは看破してこようとする侵入者に反射的に歯を立てた。
同時に鉄錆の味が口腔に広がり、吐息を間近で聞いて、唇が離される。
息を整えながら、顔を上げるとグスタフは龍蛇の眼で笑うようにユウキを見ていた。
「糞餓鬼め」
「グスタフさんは意地悪じゃのっ」
咽喉をゆるゆると揺らして、笑うグスタフに唇を結んで苦虫を噛み潰す。
切れた口の端からは人と良く似た赤い血がジワリと滲んでいた。
もっと強く噛めば良かったと不穏なことを考えながら、ユウキは大人しく身を離した。
止めないと約束したからには守るつもりでいる。
たとえどれだけユウキが子供だったとしても、大人ぶることくらい個人の自由だ。
玄関に座り込んで革靴を履いている背中をぼんやりと眺める。
壁に斜めに凭れかかりながら、コートを着込んで空色のマフラーを巻いた背中に声を掛けた。
「―――…ワイン、飲み干しておきます」
「私に貢いだんじゃないのか?」
「グスタフさんならもっと良いの自分で飲めるじゃないですか」
「………そう拗ねるな。今度は私が貢いでやろう」
「ッ! 誰がはぶてる言うんですか……ッ!!」
図星を指されて激昂しそうになった瞬間、ユウキの視界がグスタフでいっぱいになった。
両の二の腕をしっかりと掴まれて、覗き込むように唇が重なる。
ユウキも180?あるが、それより高いグスタフに合わせて、自然と顎は上がった。
触れる唇は傷があるせいか熱く、柔らかく食んで口唇に緋色が塗り付けられる。
ちゅ、と啄む音が静かな室内に零れ、吐息が唇の合間でぶつかり合い、ユウキの肩から力が抜けていく。
舌が絡んで、粘液を摩擦しあい、熱を間近に感じる大人のキスだ。
大人流儀の口封じに太刀打ちできず、ユウキは立っていることもできず、ストン、とその場に座り込んでしまった。
唇を結んで俯くユウキの頭を、グスタフは優しく撫でる。
[7] << [9] >>
-
-
<< Lesson 00
酔っ払いの作法 >>
[0] [top]