Cry Me to the Moon
2010/11/24 Wed
m25
「では、ホストは私がしてやろう。グラスを出せ」
「やっぱりグスタフさんってそうことしてるの似合いますねー」
「お前よりはな」
「ワインってラスボスっぽいですよね」
「私は元々ラスボスだ」
「ペルシャ猫はいませんよ?」
「お前は猫と言うより犬だしな」
密やかな笑い声を漏らしつつ、グスタフはオープナーでコルクを抜き、芳醇なワインの香りが部屋に解き放たれる。
ユウキは音を立てないようにグラスに指を回し、ゆっくりと持ち上げた。
グスタフは慣れたように瓶底を持ってグラスの中へ螺旋を描くようにワインを注ぐ。
白と銘打ってあるが、このワインは琥珀色をしていた。蕩けるような色だ。
グラスを満たす琥珀色越しにグスタフの笑みが見えて、ユウキも相貌を崩す。
「綺麗ですよね、ちょっと癖がありますけど」
「お前が酒の味について感想を言うなんてな」
「教えたのは誰でしたっけ?」
「………、……すまん。なんと言っているか分からん」
「なまっとりゃーせんがぁー! グスタフさん、わざっとやってるじゃろ!」
「ん? 本当に分からんぞ。ユウキ」
余裕綽々で応じて、自分の分にも酒を注ぐと、グスタフは瓶とグラスを持ち替えてユウキのグラスに寄せる。
からかわれて、一瞬ジト目を作って見せるが、乾杯を誘うような仕草にユウキも渋々腕を持ち上げた。
「何に乾杯だ?」
「グスタフさんに出会えたことに」
「夢を見るのは勝手だが、目を覚ませ」
「夢の中なら自由自在ですよ」
「………童「はい、とりあえず乾杯ですね! 乾杯!」
嫌な気配を感じ取って、無理やり割って入り、グラスの曲線同士を軽く合わせると澄んだ音が響く。
しかし、その直後、無遠慮にして無機質なバイブレーションの音が重なって、乾杯の余韻を掻き消す。
「………………」
「………………」
「…………出ないんですか?」
「すまん、ちょっと待ってろ」
グラスを手元に引き寄せて、ソファに座りなおすとグスタフは懐から黒い携帯を取り出して身体の向きを変えながら通話ボタンを押した。
相手が誰かなんてのは横顔を見ればわかる。
グスタフの目元は僅かに緩んでいて、ユウキはワイングラスの細い足を指で撫でた。
「はい、私です。如何なさいましたか?」
[7] << [9] >>
-
-
<< Lesson 00
酔っ払いの作法 >>
[0] [top]