Lesson 00
2010/11/18 Thu
m25
その反応に気付いているのかいないのか、遥か頭上で密やかな笑気が零れた気がした。
太腿へと置いた指先で爪を立てると、その気配は増した。
『お前が私を頼るとは、珍しいな』
耳の奥で、そんな声が蘇る。
何処か面白がるような、弾んだ声だ。
何かを企んでいるくせに、それを隠そうともしない笑みを敷いたオリジナルゼロに、クローンゼロは鼻を鳴らした。
『誰が貴様など頼るか。利用してやっただけだ』
事実を事実として言えば、オリジナルゼロは静かに喉を鳴らした。
日付変更線は疾うに越えて、深夜残業に勤しんでいるのはお互いのみ。
クローンゼロにもオリジナルゼロにも仕事は山のように残っているなかで、クローンゼロがオリジナルゼロの執務室を訪れたのは単にオリジナルゼロの元で止まっている回覧文書を取りにきただけだった。
目的の書類はオリジナルゼロの手の中で一つにまとめられているところだ。
それが手に入れば、さっさと自らの執務室に引っ込むつもりでいる。
既に何日か社泊を敢行している身としては、今日こそ寝台に倒れ込みたい。
クローンゼロは差し出された書類を片手で受け取ると、長居は無用とばかりに手を引いた。
しかし、書類は結果としてクローンゼロの手に渡ることはなかった。
否、クローンゼロの手で掴んではいるのだが、オリジナルゼロが添えた手を離さなかったのだ。
書類という共通の媒介に片手を取られクローンゼロは訝しがるような視線をオリジナルゼロへと向けた。
すると、まるでその瞬間を待っていたかのように、オリジナルゼロは穏やかな笑みを一層深めて見せた。
クローンゼロの背筋を、冷気を伴う危険信号が走り抜けた。
『お前で良いぞ?』
『何がだ』
『私を使った駄賃だ。金も酒も面倒だろうから、お前で良い』
耳を打つ声は、成程。クローンの若造が傾倒する程度には穏やかなのかもしれない。
けれど、その言葉が持つ意味は酷く下世話だ。
『―――とうとう脳が沸いたか』
オリジナルゼロの外面に丁寧に隠された、こんなにも下品な獣を誰が知るだろう。
クローンゼロは渾身の力を込めて書類を奪取した。
無理に奪った為、書類の端が破れて、オリジナルゼロの指先に残る。
重要書類ではあるが、紙の束よりも我が身が可愛い。
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