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いとしきみよ

2010/09/16 Thu
m25



「―――……グスタフ……」

まるで許しを乞うように、ゲーニッツはグスタフの名を呼んだ。
空気を揺らすことすら禁じるようなその声は、吐息に近い。
それ以上の声量での呼び声は、きっと忠実なる部下の足を呼んでしまう。
ゲーニッツが呼んだら、グスタフは必ず姿を現す。それが導き手の手足たるグスタフの責務だからだ。
それがゲーニッツ個人である理由はなく、一族の導き手という役目を背負う者であれば、グスタフは誰であろうとそうするだろう。
心中でそう呟くたびに、ぎりぎりと心臓が痛んではゲーニッツの呼吸を僅かに乱した。

「………グスタフ………」

一族の導き手でなければ、グスタフの近くにあることも、傅かれることもなかったろう。
ならば、今の状態は決して悲観するものでもないと自らを慰めても、心は一向に晴れない。
むしろ暗雲ばかりが生み出されては、ゲーニッツの思考を黒く染めていく。
ゲーニッツは疲れ果てたように寝台に倒れこむと、両手で目を覆った。
月光の微かな光すらも拒絶して視界を完全な闇に閉ざすと、今度はグスタフの顔は浮かばなかった。
それに安堵するよりも、瞼の裏ですら会えないことが辛いと思う自身が嫌だった。
ゲーニッツの心中を乱す部下は、何も見せてはくれない。
夜に慣れた目に、焦がれる相手の後ろ姿さえ見せない闇のように。
それが嫌だと感じる心が邪魔で、ゲーニッツは意識を無理にでも眠りに引き落とす。
精神の安らぎも身体の休息も二の次で、ただ時間を消費させるための眠りは浅い。
それでも、目を閉じていれば朝が来て、またグスタフに逢える。
それだけを心の励みにすると、ゲーニッツは浅い眠りを漂った。



ただひたむきに朝日を望む人外に、声も出さずに夜が笑った気がした。

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[Serene Bach 2.23R]