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恋娘―こむすめ―

2010/09/01 Wed
m25



屈託なく笑うドラゴンに思わず、怒気を孕ませたが、続く言葉にグスタフはフン、と吐き捨てて平静を取り戻す。
安請け合いに見えるが一応の了承を得て、更に低い声を出しながら念を押した。

「祭祀様にもしものことがあれば、貴様の鱗を緋色に染めてやる。――…そう、覚えておけ」
「……うむ、良い熱情だ。やはり、ゲーニッツ殿は貴様の夢(ロマン)なのだな」
「―――……夢(ロマン)…?」

既に噛みつかんばかりに殺気を見せてくるグスタフに、心地良さそうにドラゴンが頷くも、
グスタフが疑問符を足して、不可解な言葉を繰り返した。

「然り然り。己の夢(ロマン)は呪いのように生き、祝いのように死ぬことだ。全ては夢(ロマン)のために、な」
「――…下らん、私にとって祭祀様は夢などと云うものではない」

ほう。と楽しげに相槌を打ってくる少女にグスタフは軽く首を振り、
「では、なんだ。地球(ほし)の一族よ」と促されてグスタフは真っ向からドラゴンを見ながら口を開いた。
その表情にも言葉にも躊躇いも偽りも無く、ただグスタフの本心が唇から滑りでた。

「私にとって、あの方は全てだ」

縦長の瞳孔がやんわりと細まり、ドラゴンの口元が一層深く笑みを刻む。
ゆらりと桃色の髪を靡かせ、鼓膜を震わせる低音に沸き上がる喜色を隠さずにいる。

「いやはや、ゲーニッツ殿が貴様の死を望めば殉ずるというのかね」

確かめるように問えば、刹那の間もなく無論。と肯定が返ってきた。

「祭祀様のために生き、祭祀様のために死ぬことが私の偽らざる望みだ」
「それをゲーニッツ殿が望まなくてもか?」
「祭祀様の御許しあるまで勝手に死ぬようなことはない、何があってもだ。
―――…私の全ては、祭祀様のものなのだよ」

きっぱりと己の生死さえ、青の衣を身に纏う一族の導き手に委ねるグスタフの姿に、
ドラゴンは何処か恍惚とした色を瞳に浮かべながら、満足げな吐息を漏らした。

「地球(ほし)の一族よ、それを夢(ロマン)と言うのだ」
「――…戯けたことを」

にべにもなく告げると、グスタフは踵を返し、長い廊下を進んでいく。
もうすぐ試合なのだろうし、戯言ばかり口にする少女に見切りを付けたのかもしれない。

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[Serene Bach 2.23R]