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紳士のくちづけ

2010/09/03 Fri
m25


だが、そのまま唇を待つのは余りに業腹で、クン、と顎を起こす。

そして、柔らかく唇はぶつかった。

ルガールの視線を感じつつ、乾いた唇を幾度か啄んで口付けで湿らせた。
小さなリップノイズが部屋に落ちて、鼓膜を震わせる。
不意にルガールの瞼が落ちた気配がして、舌がそろりと忍びこんできた。
ルガールのキスは外見と正確に似合わず、繊細で巧みだ。
オズワルド自身もそれなりの場数は踏んできたが、それでもルガールは手慣れていると感じずにはいられない。
厚い舌がぬるりと舌先に触れて、持ち上げるように絡んでくる。
甘美な波紋は粘膜から身体へと伝播していく。
ルガールの指先がオズワルドの顎を傾けさせて、口腔で息が混じり合う。
どこか牽制し合うような戯れのキスは、お互いの中で火が付いてしまわぬように触れるたびに距離を取る。
まるで口付けながらのステップだ。それでも小さく湿った音が響き、
オズワルドは自分の中に疾しい感情が生まれたのを自覚すると、それが発火しないうちに唇を引き剥がす。
時間にして刹那、お互いが『満足』するには到底足りないが、『納得』するできるくらいの紳士的なくちづけ。
内心では名残惜しい気がしたが、これ以上踏み入れては戻れない。
ハァ、と間近で吐き出された息でオズワルドはゆっくりと瞼を押し上げた。
赤い輝きを放つルガールの瞳と視線が交わり、その瞳に魅入られそうになる。

「―――…ほら、仕事に戻りますよ。社長」

口付けの余韻は甘く、オズワルドも己の衝動を堪えるのに苦労した。
堪らない気恥かしさが込み上げてくるが、少しだけ胸板を上下させているルガールから視線から離せない。
疾しい思いを誤魔化すようにふふ、と口元に笑みを刻むとゆっくりと身体を離す。

「……オズ、」
「なんですか?」
「………いや…、」

珍しく言い淀む姿を横目で見やりながら、身体を反転させて出口へ足を踏み出す。
一歩踏み出すごとに堪え切れない熱が込み上げてくる、平時の声を保てているだろうか。
きっと、今、顔を見られたらカーネフェルの真髄くらいはお見せしてしまうかもしれない。

「……今晩でしたら、時間はありますよ」

出来るだけ意識せず、さらりと告げたつもりだったが、上手く紡げただろうか。
背中で小さく息を飲む音が聞こえたが、オズワルドとて朴念仁ではない。

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[Serene Bach 2.23R]