再会の前にん、あれは。まさかね。まだ入院してるはずだし。 友達の家に寄った帰り、いやに見覚えのある人影が向こうの通りの小道に入っていくのを見 かけた。小ぶりの背丈の女の子、何が楽しいのか赤茶の頭をピョコピョコ上下させながら。 追いかけてみようかと思ったけど、結局、しない。人違いかもしれないし。まひるだとして も、きっと、わたしには追いつけない。ウサギを追いかけるアリスと同じ……。 夜、お布団に入り、今日のことを思い出し、おもわず独り言。 「退院したのかな」 あ、でも、まひるの家はあの辺じゃないか……スカートもはいてたし。 「今度会うときは男の子なんだもんね」 ゴロン。何となく寝返り。うつ伏せで頬杖つきながら、男の子っぽくなったまひるを想像し てみる。 学生服姿で背を少しだけ高くして、頬も気持ちこけさせて、私の隣に並んで………。 ゴロン、ゴロン。また寝返り。何で私の隣?自問の答えを出す前に、別の考えが浮かぶ。 「意外に男の子になったら、もてたりして」 さすがに同級生の子達は戸惑いを見せるだろうけど、下級生の子達には結構慕われてるし。 「上級生の女の人たちから『かぁわいい』とか言われたりして」 ―――わたしが先に目をつけたんだから! ゴロン、ゴロン、ゴロン、パスン。 寝返りに飽きたわけじゃないけど、今度は枕に顔を突っ伏してみる。 ……本当に心配なのはわたしの気持ちだ。あの時凍らせた気持ちが溶け出してしまいそうで。 わたしのたった一つの願い事は、きっと、まひるの側にいることで…まひるが男とか女とか、 どうでもよくて。…このまま、卒業してからもずっと……ただ、まひるの側にいたくて。 でも、そんなの全然現実的じゃない事ぐらいわかりきっていて。 「……もう、寝なきゃ」 じたばたしても、明日は勝手にやってくる。学校に行くんだから。 まひるはそこに居ないけど。 翌朝、いないはずのまひるが教室にいた。 今までと変わらない背丈、笑顔、声………スカート。 「………って、あたしさぁ…あ、みなちゃん。おっはよー」 ―――わたしはカバンでまひるの頭をはたいてやった。 結局、変わったのは周囲だけ。勝手に異端なものを見つけ出し、排除しようとし―――。 まひるは変わらないことを選んだ。 そんなまひる自身は決して揺らぐことの無い、わたしより強い人たち、香澄と透がきっと 守ってくれるはず。だから、せめて、わたしは―――。 ベシン!後頭部をカバンで叩く。 「何、みなちゃん、痛いなぁ」 「みなちゃん言うな。あんた、明日までに放送ネタ考えときなさいよ」 「え、何の?」 「放課後に番組始めることにしたから。タイトルは『美奈萌とまひるの午後のティーラウンジ』ね」 せめて、わたしはあなたの”日常”を守ろう。
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