1時間後――
俺は一人、部屋の中でボーっとしていた。
先ほどの慌しい出来事はまるで夢のようであったが、口元に残るかりんの唇の感触がそれを否定させる。
結局、マリィと沙夜は何しに来たんだろう……?
俺とかりんをもっと親密な仲にさせるため?
ははは……まさかな……
でも、あいつらの行動はまんまそれだったらからなぁ。
まぁ、俺もとってもうれしい思いができたからラッキーだったけどよ。
そういえばあいつら……向こうの世界の俺とニャンニャンな日々を送ってるようなこといってたなぁ……
パラレルワールドの俺は、なんて羨ましいことを!!
うーん……
この世界で俺がかりんにそんなことを迫ったとして、はたして嫌われたりしないだろうか?
いくら恋人同士の関係っていっても、やっぱ踏みとどまらなくちゃいけない一線ってあるよな、うん。
でも……かりんも嫌そうじゃなかったもんなぁ。
案外、俺がそーゆー行動を起こしてくれることを待っているとか……?
うん、そうだ。きっとそうに違いない!!
かりんは恥ずかしがりやさんだからなぁ。俺も少し遠慮しすぎてたのかもしれない。
だったら、これからは親しき仲にも前戯……じゃなかった、礼儀ありとはいうものの、積極的な行動を起こすようにしよう。
かりんは今、風呂に入っている。
ひとつ屋根の下に住んでるんだ。背中のながしっこの一回や二回、しても不思議じゃないはずだ。
というわけで……ぐふふふ……
俺はすくっと立ち上がると、そのまま風呂へと向かった。
かりんはきっとビックリするだろうな。
ひょっとしたらいろいろと抵抗されるかもしれない。
でも、最終的にはバラ色な展開が待っているはずだ!
風呂に行ったらあーしてこーして……よし、完璧!!
風呂につくと、俺は手際よく服を脱いで素っ裸な状態になった。
この曇ったガラス戸の向こうにはかりんがいるんだよな……
なんだかドキドキしてきたぞ……い、いや、ここまできたんだ。もう後には引けない!!
「かりん、入るぞー」
俺は緩む表情を引き締めると、ガラス戸を開けた。
もうもうと立ち込めた湯気がさぁっと流れこんできて、視界が開ける。
そして目の前には、呆然とした表情で俺を見るかりんがいた。
当然その姿は一糸まとわぬ裸で、飴色の液体を髪や身体にたっぷり付着させ、滴り落としている。
辺りに漂う甘い匂いは、おそらくこの液体から発せられてるものなのだろう。
でもこの匂いって……蜂蜜?
「えっ、あ、あ、わ、わわわ!!」
かりんは顔を真っ赤にしながら慌てて胸と下半身を隠した。
「ま、牧村さん、そ、その格好は……」
「いやぁ、俺もかりんと一緒にお風呂に入ろうかと思って」
「え、えええ〜〜っ!?」
「でもかりん、なんで蜂蜜まみれなんかになってるんだ?」
「え、あ、あっと、それは、その……沙夜さんとマリィさんの仕業みたいで……」
「はぁ?」
「だ、だから……その、私がお風呂に入ろうとしたら、シャンプーやボディーソープ、それにお風呂の中のお湯まで全部蜂蜜に変わってたんです……」
「なぬぅ!?」
俺はかりんの言葉にバスタブの中を見ると、確かにお湯の代わりに蜂蜜がなみなみと入っている。
あいつら一体何考えてるんだ?
そういえば……蜂蜜は美容にいいと聞いたことがあるが……
これはいくらなんでもやりすぎだろ?
かりんもべたべたして気持ち悪く……あっ、そっか。
俺が洗い流してやればいいんだよな。むふふふふふ。
マリィ、沙夜……ナイスアシストだ。
「かりん、大変だったろ?ベトついたりして」
「は、はい……」
「だったら俺が、洗い流してやろう」
「え、えええっ!?」
「いいからいいから。かりんはそのままにしていて」
恥ずかしさと困惑の入り混じった表情を浮かべるかりんを座らせたまま、俺は背後へと回った。