モヤモヤとした気分を抱えたまま台所へ行くと、既に食卓には料理が並べられていた。おそらく沙夜がつくってくれたのだろうが、一体どういうつもりなのだろう。
 ウナギの蒲焼、スッポン、レバニラ炒め、ステーキ等々と、どれもこれも精力がつきそうなものばかりだ。
「なぁ……沙夜。これは一体……?」
「えへへ……ちょっと頑張りすぎちゃった」
 俺の質問に、沙夜は笑うだけで答えようとはしない。
「さあさあ、功司君もかりんも、座ってよ。せっかく沙夜が作ってくれた料理が冷めちゃうじゃない」
 マリィはニコニコ微笑みながら椅子に座った。
 その隣に、エプロンを外した沙夜が腰かける。
「……じゃあ、座ろっか」
「は、はい」
 俺とかりんも、マリィと沙夜の対面の席に腰かける。
 ……一体どういうつもりなんだ?この二人は。
 まぁ、俺が今質問したところで、答えてくれそうもないが。
「それじゃあ、功司君、神瞳さん、遠慮無く食べちゃってね」
「そうよ。体力と精力はちゃんとつけとかなくっちゃね」
 沙夜の言葉に、マリィがうんうんと頷く。
「わ、わかったよ。じゃあ、遠慮なく」
「い、いただきます」
 俺とかりんは、恐る恐る料理に箸をつけた。
 まぁ、沙夜のことだから、毒を盛ってあるなんてことは考えにくいが、それでも最初の一口は慎重に……うまい……
 久しぶりに食べたが、やっぱり沙夜の料理は最高だ。
 かりんも羨ましそうに沙夜のこと見てるから、やっぱこれくらい料理がうまくなりたいんだろうな。
「美味いぜ、沙夜」
「ホント?」
「ホントだとも。この半熟オムレツにはさんだウナギの蒲焼なんか、プロ顔負けだぜ」
「残念でしたー。それは、あたしが作ったんですー」
 マリィがニッコリと微笑みながら会話に割りこんできた。
「……マジ?」
「マジ」
「…………」
 俺は言葉を失って、蒲焼とマリィの顔を交互に見比べてしまった。
 マリィがこんなに料理が上手だったなんて……知らなかったぜ……
「美味しさに言葉も出ない?」
「……正直、その通りだ」
「まっ。ちょっと本気を出せば、あたしだって沙夜には負けないわよ」
 マリィは胸をはりながら得意げに言う。
 かりんもこれくらい上手に料理が作れたらなぁ……
 俺は思わずそう思わずにはいられなかった。
 制服姿の少女が二人、俺のために料理をつくってくれることだけでも嬉しいんだが……あっ。
「そういえば話は変わるけどさ、マリィも沙夜も、なんでうちの学校の制服着てるんだ?ひょっとしてコスプレ?」
「違うよぉ〜」
「だってあたし達、聖遼学園の生徒ですもの。ね〜?」
「そうだよぉ。あたしもマリィさんも、聖遼学園の生徒なんだから」
「えっ!?」
 まるで予期していた質問だったかのように、沙夜とマリィは顔を見合わせて互いに頷く。
 しかし、今日転校生が来たなんて話は聞いてない。
 ……ということは、あのおしゃま娘の仕業か……
「つまり、お前達も静乃に召還されたわけだな?『楽しい生活ですよぉ〜』とか、あいつならやりそうだ」
 俺は結論に達して、うんうん頷いた。
「残念ながらハっズレぇ〜」
「神瞳さんは召還されてこの世界にやってきたんだ?」
 しかし二人は、俺の予想とは裏腹に意外な反応を見せた。
「……違うのか?」
「違うわよ。あたし達は自分の意思でここにきたんだから」
「自分の意思で?向こうの世界から来ることができるのか?」
「う〜ん……その表現は、ちょっと正確じゃないかも」
 沙夜が人差し指を口元にあてて考えこむ仕草を見せながら宙をむく。
「正確じゃないって?じゃあ、一体どこからきたんだ?」
「あたしは、長老の力を借りて功司君の家に遊びにいって、そのまま同棲することになった世界から」
「あたしは、不思議なペンダントと功司君の強い想いのおかげで実体化できて、そのまま同棲することになった世界から」
「は、はぁ?」
「つまり、あたしも沙夜も、パラレルワールドからやってきたわけ」
「パラレルワールド?」
「ほら。よく言うじゃない。『世界の数だけ幸せがある』って。功司君が他の女の子と一緒に同棲してる世界って、たっくさんあるんだよぉ」
「な、なにぃ!?」
「この世界では功司君は神瞳さんと同棲してるみたいだけど、違う世界ではあたしやマリィさんのようになってる場合し、春日さんと一緒に同棲してる世界もあるしね」
「お、俺が瑞希と?」
「うん。金属バットを片手に、功司君がちょっとでも浮気を働こうものなら容赦無く振り下ろすっていう、なかなかデンジャラスな生活をおくってるみたいだけどね」
 マリィがおかしそうに笑う。
 瑞希のやつ……今の話を聞いたらどう思うだろう?
 きっと金属バットを片手に乗りこんできそうな気がするから絶対に聞かせられない話だな。
 まぁ、俺が沙夜やマリィと同棲してる、っていう話もあまり想像がつかないんだが。だって俺にはかりんがいるし……他の世界では俺が沙夜やマリィを好きになったってことなのか?流石パラレルワールドだ。
「ところで功司君」
 マリィがおもむろに箸をテーブルの上に置いた。
「なんだ?」
「ニャンニャン写真、どこにあるの?」
「!?」
「!?」
 突然のマリィの発言に、俺は飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになってしまった。
 隣にいたかりんも、むせている。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃない!!なんだよそれ!?」
「もっちろん、功司君と神瞳さんがニャンニャンしてる写真だよぉ」
「勝手に家捜しさせてもらったんだけどね……エロ本とか裏ビデオがでてくるだけで、それらしい写真1枚も無いんだもの」
「なっ……!?」
 隣でかりんが少し非難めいた表情を覗かせる。
 沙夜もマリィも余計なことをいいおって……
「そんなもんあるわけないだろ!?」
「ないの?あたしはちゃんともってるけど」
 マリィが意外だと言わんばかりに答える。
「まさか……沙夜も?」
「うん……あたしは恥ずかしかったんだけどぉ、功司君がどうしてもって……」
 沙夜は表情を赤らめながら恥ずかしそうに答える。
「……………………」
 違う世界の俺は一体どんな生活おくってるんだ!?
 俺はそんなことを思わずにはいられなかった。


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