はぁ〜……疲れた……
 この迷路のような館をさ迷い歩き続けて、もうかれこれ1時間が経つのか……
 まったく、一体どうなんてるんだこの館は?
 鍵を外しては新たなルートや今まで行き来できなかったルートを開拓したり、怪しいところを探索してはトラップに引っかかりまくったりして、もうヘトヘトだ。
 部屋に入った瞬間起爆装置が作動して爆発したり、迷彩色を施した超薄型の地雷を設置してみたり、ホントやりすぎだっつーの。
 2階に行くルートはというと、一向にみつからないし……
 はぁ……腹減った……
「功司君、功司君」
「どうしたんだ……沙夜……」
「キッチンだよ、キッチン!!」
「な、なぁにぃ!?」
 でかしたぞ沙夜!!これで食料にありつける!!
 そうだよ。こんな大きな洋館にキッチンがないこと自体間違ってるんだよ。
 うおおおおお!!食うぞ!!
「沙夜、正直、よくやった!!感動した!!」
「こ、功司君、大げさだよぉ」
「これが喜ばずにいられるか!!やっと食料にありつけるんだぜ!!お前だってさっきからお腹の虫がキューキューなってただろうが」
「も、もう功司君!そんな恥ずかしいこと言わないでよぉ……」
「でも、事実なんだろ?」
「…………うん」
「だったら遠慮することないだろ?俺達恥ずかしがる仲でもないし」
「そ、そんなことないもん!あたしだって女の子なんだから!」
「そうなのか?俺、沙夜の女の子らしい姿見たことないから……今度見せてもらおっかな?」
「もぅ!!功司君のエッチ!!」
「そう怒るなって。冗談なんだから。それよりもなんか食料あるか、早速確認しようぜ」
「あっ、待ってよ功司君。勝手に食べちゃって大丈夫?」
「大丈夫に決まってるだろ?ここはエリスの家なんだから、なにをやっても勝手だ」
「でもぉ……」
「いいんだって。俺達はこんなに苦しめられてるんだから、少しくらいご褒美を貰ったって」
「……そうだよね。怒られたら謝ればいいんだし」
 うんうん、お腹が空いてるせいか沙夜も随分と聞き分けがいいな。
 まったく、沙夜は真面目過ぎるから、普段から少し柔らかく考えるようにしないと。
 ま、そーゆーわけでエリス、悪いな。
 ちょっと冷蔵庫の中身失敬するぜ。
 こんな大きな冷蔵庫なんだから、物のひとつやふたつ貰ったってバチ当たらないもんな。
 ああ、苦難の道を乗り越えてお宝をゲットする冒険者の気分だ。
 さてさて、この冷蔵庫の中には一体どんなお宝が眠ってるのかな?
 ビフテキ?ハムステーキ?それとも牛乳やケーキかな?
 ええい、開けて見ればわかることだ!!
 さーて……ごたいめ〜んってか?
 ガチャ
 ボン!!
 プスプスプス……
「こ、功司君!?」
「迂闊だった……」
 そうだよな……エリスがこんな仕掛けやすい場所にトラップを仕掛けないわけがないもんな……
 ふっ……ドアを開けた瞬間に炎が噴出してくるってか?
 なかなか味なマネしやがる……
「功司君……顔が真っ黒で髪の毛チリチリだけど、大丈夫?」
「大丈夫だって……どーせ時間が経てば元に戻るんだから……」
 はぁ〜〜
 自分が情けなくなってくるよホントに。
 こんなに簡単にあいつの策にはまってしまうとは。
 しかも冷蔵庫の中身は空っぽ。おまけに『ハズレ』とエリスのあかんベー似顔絵置手紙つきときたもんだ。
 ますますお前にオシオキしなくちゃいけないという使命にかられてるよ、俺は。
 まぁ、幸いなことに沙夜は今のところ無事だから、それだけは喜ばなくちゃいけないが。
 しっかし……こうなって来ると……
 余計に腹が減ってきたぞ……
「こ、功司君!功司君!!」
「どうした……沙夜?今度はなんだ……?」
 ふっ、マトモに返す気力もないぜ。
 すまんな沙夜。どうにも力が出なくって。
「こっちにとってもおいしそうな料理がテーブルに並んでるよ!!」
「な、なにぃぃぃぃっ!?」
 こりゃ一大事だ!!沙夜の元に行かないと!!
「ホラ、見てよ功司君!」
「おおっ、これは……!!」
 これが驚かずにいられようか。
 目の前に並べられた豪華絢爛な料理の数々!!
 見てるだけで涎が出てくるぜ。
 ……でもまてよ……
 なんか……あからさまに怪しくないかこれ?
 エリスのことだ。きっとなにか仕掛けを施してあるに違いない。
 そうだよ、今までの例からいって、これが罠であることは間違いないんだ。
 都合よくテーブルに料理が並んでること自体おかしいし、『ご自由にお食べください』と書かれた紙を置く事もおかしい。
 それに、如何にも俺達二人に座ってくださいといわんばかりの椅子二脚は一体なんだ?
「それじゃあ功司君、早速食べようよぉ」
「待て!沙夜、それを食べるんじゃない!」
「ええ〜!?どうしてぇ?」
 ああっ沙夜……俺をそんな目で見ないでくれ……俺だって辛いんだから……
「功司君食べないんならあたしだけでも食べるもん」
「バ、バカ!自分から進んで罠にひっかかりにいくヤツがいるか!!」
「大丈夫だよぉ。これは罠じゃなくってきっとボーナスだよ」
「ボーナスぅ?」
「うん。ここまで辿りついてご苦労様って、きっとエリスさんが用意しておいてくれたんだよ」
「あの天邪鬼にそんな親切心これっぽっちもあるもんか。な、沙夜。悪い事は言わない。やめとけって」
「ゴメンね功司君」
「えっ?」
「あたしお腹ペッコペコだから」
「わっ、バ、バカ!!」
 よりによって椅子に座るやつがいるか!!
 俺は知らんぞ、もう!!
 沙夜はそんな俺の心境なんかおかまいなしに目を輝かせてるし……
「お前……本当にチャレンジャーだよな……」
「そっかなぁ?だって立ちながら食べるのってお行儀悪いし……」
「はぁ〜〜……行儀が良すぎるのにもほどがあるぞ」
「そんなことないもん。とりあえずあたしが毒味して大丈夫か確かめてあげるよ」
「毒味って……」
「いっただっきまーす」
「あっ、おい!!」
 食べ始めちゃったよ……沙夜のやつ……
「ど、どうだ?」
「とりあえず……」
「とりあえず?」
「おいしいよ♪」
「みりゃわかる」
 沙夜のやつ本当においしそうだもんなぁ……
 空腹は最大の調味料っていうけど、そんなこと抜きにしてもうまいんだろうなきっと……
「功司君食べないの?」
「お、俺は……」
「大丈夫だよぉ。毒ははいってないみたいだから」
「……本当、か?」
「本当だよ」
「それじゃあ」
 沙夜もああ言ってることだし……俺もご馳走にありつくとするか……ふふふ……
 正直、倒れそうなくらい腹減ってたから我慢の限界に達してたんだよな。
 とりあえず椅子に座って、と……まずはこのロブスターから……
「どう?功司君?」
「うまい!!」
 なんなんだこのうまさは!!
 コレを本当にあのインチキ妖精が作ったのか!?
 沙夜の料理よりうまいぜ!!
 きっと沙夜もこの味を盗もうと頭の中でいろいろ研究してるんだろうな。
 ……そう言えば、こうやって沙夜と向かい合って食事するのって随分久しぶりだよな。
「なぁ、沙夜」
「なぁに功司君?」
「こうやって二人で食事食べるのって久しぶりだよな」
「そういえば……そうだよね。最近功司君誘ってくれなかったから」
「バカ。なんで俺がそんなことしなくちゃイケナイんだ?それにお前だってさっさと他の女子共と机並べて弁当くってるじゃないか」
「そんなこと気にしなくってもいいのに。あたし功司君が声をかけてくれるんだったら功司君の約束優先させるんだけどなぁ」
「優先してもらわなくって結構だ。まぁ、楽しそうにしてるところ邪魔しちゃ悪いってこともあるし」
「うーん……楽しいと言えば楽しい……かな?」
「はぁ?なんだそりゃ?」
「最近は恋の噂が花盛りだから」
「恋の噂?」
「例えば永易君とD組の緋山さんがカップルとか」
「なんだ?あいつらデキてたのか?」
「あくまで噂だよぉ。それから……」
「それから?」
 な、なんだ?急に黙りこくりやがって。
 おまけに沙夜の顔が赤いぞ?
「なんだよ。もったいぶらずにいえよ」
「でもぉ……その人に迷惑がかかるかも知れないし……」
「大丈夫だって。さっさと言っちゃえよ」
「……えっとね……あたしと……」
「沙夜と?」
「……功司君……」
「俺?沙夜と俺がどうかしたのか?」
「その……周りの人から見れば熱々のカップルなんだって……」
「はぁ?なんだそりゃ?」
 おいおい勘弁してくれよ。
 確かに沙夜とは仲がいいけどカップルってまでの仲には発展してないぞ?
 あくまで俺と沙夜はただの友達だ。若しくは幼馴染。腐れ縁以外何者でもない。
 ……はずだよな、多分。最近自信が持てなくなってきたけど。
「やっぱり……迷惑だよね……」
「そうだな……沙夜がもう少ししっかりしてくれたら、考えてもいいかな?」
「あっ、ひっどーい!!もう少ししっかりするのはあたしじゃなくって功司君のほうだよぉ」
「はぁ?俺が?」
「そうだよぉ。功司君がもっとしっかりしてればこんな噂流れないんだから……(既成事実は噂じゃないもん)……」
「ん?最後の方よく聞き取れなかったんだが?」
「あっ、ううん、なんでもないの。えへへ」
 沙夜のやつ……ニヤニヤしやがって。
 どーせろくでもないことを言ったに違いない。
 まぁ、いっか。
 沙夜は沙夜、俺は俺だしな。
 あー、しっかし幸せだ。
 こんなうまいもんをたらふく食えるなんて。
 おかげで夢中で食っちまったよ。
 フードファイトに挑戦するのか?っていうくらいの量だったけど、
 いやぁ、実際挑戦して見ると案外食えるもんだな。
 俺も今度は懸賞金つきの店に挑戦してみようかな、なんて思ってみたりして。
 さて、満腹になったことだし、エリス狩りの探索でも始めるとするか。
「それじゃ、そろそろいこっか、沙夜」
「え?」
「えっ?じゃないよ。この館から早く脱出しないと」
「それはわかってるんだけどぉ……」
「わかってるんじゃないか。だったら行くぞ」
「でもぉ……無理だよ」
「無理?」
「だって立ち上がれないもん」
「はぁ?どうして?」
「だって金属性のベルトで体が固定されちゃってるから……」
「えっ?」
「功司君は大丈夫なの?」
「俺?俺……あっ」
 なんだこりゃ?いつのまにかぶっとい金属性のベルトが俺の腹に巻ついてるではないか。
 一体いつのまに……
 ん?なんだこの音は?
 ゴゴゴッてなにかが動くような……
「こ、功司くぅん!!」
「落ちつけ、沙夜!!落ちつくんだ!!」
 やっぱり罠だったんだ!!
 エリスのやつ、今度は一体どんな仕掛けを……
 ……って、椅子が下がり出した!?
 一体どこへ向かってるんだこの椅子は??
「こ、功司君!この椅子、どこへ向かってるの?」
「俺が知るか!!」
 もうこうなったらジッとしてるしかないな……
 ……………………
 ……………………
 ……………………
 ……で、辿りついたのがここなわけね。
 なんにもない、薄暗くてただっ広い空間とは……
 ベルトもご丁寧に外れるしさ。
 どーやらエリスは俺達を最初からこの部屋に招待するつもりだったようだ。
 まったく、トイレに腰掛けると地下に降りられる秘密基地じゃないんだから。
 アイツ、テレビの見過ぎだぜ。


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