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とりあえず大広間に来てみた。
どこにトラップが潜んでいるかわからないから注意深く進んでいかないと。
「沙夜、お前はエリスがどこにいると思う?」
「あたし?あたしは……そうだなぁ……2階のどっかの隠し部屋、かなぁ?」
「隠し部屋かぁ……確かに考えられるな」
エリスのことだ。そう簡単に捕まるはずがない。
ふむ……1階を地道に調べて行くか、それとも山勘を頼りに手当たり次第調べていくか、だな……
どーせあいつを捕まえない限りここからは出られないんだ。
かといってこの館に長居をするつもりは毛頭ない。
「よし、決めた」
「え?何を?」
「捜索する場所さ。沙夜の言った通り、2階から調べることにしよう」
「えー?地道に調べていかなくって、いいの?」
「大丈夫だって。俺は沙夜の勘を信じる!!」
「功司君……」
「さ、行くぞ」
「う、うん」
よーし、それじゃあエリス探索の第一歩は2階の家捜しから始めるとするか。
しっかしこの階段、やけに幅が広いよな。
俺と沙夜が並んで歩いても、まだ幅に余裕があるし。
おまけになんだかツルツル滑るぞ。
まるで摩擦係数がゼロのような感覚だ。
エリスのヤツ……こんな小手先の仕掛けで俺達を2階へと上がらせないようにしたのか?
無駄なことを。
確かに滑ることは滑るが、段差になってるから注意深く進めばそんな滑り落ちることなんて絶対ないし。
「沙夜、大丈夫か?滑るから気をつけろよ」
「う、うん。功司君が側にいてくれるから大丈夫だと思う」
「そっか」
沙夜の歩き方なんだかぎこちないけど、どうやら大丈夫のようだな。
まぁ、こんな仕掛けをしておいたってことは、よほど2階には来られたくないらしい。
こりゃますます沙夜の推測が信憑性を帯びてきたな。
よしよし、後5段くらいで2階だ。
慎重に慎重に……
パタン!!
「えっ?」
階段の段差がなくなって坂のある平面になった?
オマケに摩擦係数がほぼゼロってことは……
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃあああああああ!!」
「さ、沙夜!!」
シューーーーーーーーードスン!!
「あいたたたたたたたた……」
「だ、大丈夫功司君?」
「俺は平気だ……沙夜は?」
「あたしは大丈夫。功司君がクッションになってくれたから……」
「そ、そうか」
おーいてて。
エリスのやつ、まさかこんな仕掛けを施していやがったとは。
咄嗟に沙夜を抱きとめるように後ろに回りこめたからよかった物を。
俺や沙夜が怪我でもしたらどうするつもりなんだ?あいつは。
これじゃあ2階に上がるのは無理だな。別のルートを探すしかないな。
「あ、あの……功司君……」
「なんだ?」
「その、ありがとう……」
「気にするな。それよりも……」
「それよりも?」
「お礼をいう暇があったら早くどいて欲しいんだが……」
「えっ……あっ!!ご、ごめん!!」
ふぅ……やれやれ。よーやく沙夜の下敷き状態から解放された。
それにしても沙夜のヤツ……
「こ、功司君……ゴメンね」
「なぁ、沙夜。お前……少し太ったんじゃないか?」
「そ、そんなことないもん!!功司君の意地悪!!」
あっ、そっぽ向いちゃったよ。
どうやらすっごく気にしていたことだったみたいだな。
なんだか悪い事いっちゃったかな?
……ま、いっか。どうせそのうち、沙夜の機嫌も直るだろう。
「それじゃ沙夜、行くぞ」
「行くぞ……ってどこへ?」
「決まってるじゃないか。とりあえずだな、開いてるドアから」
「開いてるドアって……さっき調べたら、2箇所しかなかったじゃない。1つはあたし達が案内された客間への扉で、もう1つはどこに繋がってるかわからない扉。後は全部締まってたじゃない」
「そうなんだよなぁ……」
沙夜の言うとおり、さっき大広間に来た時調べたら他の扉は鍵がかかっていて、何故かその二つだけは開いていたんだよな。
ご親切に入口はしっかり閉まっていやがったし。
階段がああいう状態である以上、やっぱ残されたルートは1つしかない、よなぁ……
それじゃあ、その未知の扉を開けて進んでみるとするか……気が進まないけど。
「まったく、この館は一体どうなってやがるんだ?」
「まあまあ。結構おもしろいと思うよ」
「沙夜はおもしろくっても俺はイヤだ」
「そ、そうだよね……ゴメン」
「謝んなくちゃいけないのは俺のほうだから、謝るなよ」
「功司君……」
とりあえず先に進んでいかないと。
かの有名なアントニオ猪木も『この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ。危ぶめば道は無し。踏み出せばその一足が道となり、そして、その一足が路となる。迷わず行けよ!行けばわかるさ!!ありがとぉぉぉぉぉぉぉっ!!』って名言を引退試合で残してるしな。
……って、ありがとうは余計か。
とにかく、先に進まなければ道はないってことだ。
……で、扉を開けると廊下があるわけだが……
こんなところで迷っていてもしょうがないか。
とりあえず進んでいかないと。
で、進んで行くと……やっぱしあったよ。右手に扉が2つも。
まぁ、当然と言えば当然だが、正面にも扉があるし……とりあえず、手前の部屋から捜索してみるとするか。
「それじゃあ沙夜、入るぞ」
「う、うん。なんだかドキドキするね」
「俺は自分の命の保証のほうがドキドキだ」
「そ、そうだよね。ゴメン」
「いちいち謝るな、バカ」
「バ、バカじゃないもん!功司君の意地悪!!」
「はいはい、どーせ俺は意地悪ですから。それじゃ開けるぞ」
慎重に慎重に扉を開けて……と。
ここは……書斎か?
本棚があって正面に机がどでーんと偉そうに構えていて、でもって机の上にインクとペンがあるってことは……やっぱそうだよな。
でも……なんだ?あの怪しげな物体は。
「沙夜……あれなんだ?」
「紐……じゃないかな?」
「だよなぁ……やっぱり……」
やっぱりどこからどう見ても紐だ。
問題は、その紐がなんで宙に浮いているかってことだ。
あからさまに怪し過ぎる。
どっからともなく「怪しい」という一言が聞こえてきそうなくらい、怪しさ大爆発だ。
如何にも『トラップ』ですよ、と主張してるこの紐を、一体どう対処すればいいのだろうか?
……って、考えるまでもないよな。
触らぬ神に祟り無し。
こーゆーのは関わらないのが一番無難な方法だ。
というわけで無視してさっさと次の部屋へ……
「……っておい、沙夜。一体なにしてるんだ?」
「功司君、何か机の上にのってるよ」
「何かって?」
「メモみたい」
「メモ?なんて書いてあるんだ?」
「えっとちょっと待ってて。今読むから」
「早くしろ」
「そんなに急かさないでよぉ。えーっとぉ……『この紐を引っ張ってください』……だって。引っ張ればいいのかな?」
「ぬ、ぬぁにぃ!?バカ!!やめろ!!」
「えっ?」
「あああっ!!」
沙夜のバカ!!
書いてある通り引っ張るやつがいるか!!
くそっ!!
「危ない!!」
「きゃ!!」
ドスン!!
「……………………」
「……………………」
…………あれ?何も起こらないぞ?
「どうやらトラップじゃなかったみたいだな……大丈夫か?沙……夜……」
「……………………」
「わわわっ!?す、すまん!!」
はぁはぁ……思わず飛びのいてしまった……
ビックリしたぜ。あんな近くに瞳を潤ませた沙夜の顔が、しかもドアップであるんだもん。
……ってことは、俺は沙夜を押し倒したのか?
ああっ、なんて恥ずかしいことを……!!
「グスッ……功司君ひどいよぉ……あたし、まだ心の準備が出来てないのに、いきなりあんなコトするなんて……」
「バババ、バカ!!あれは不可抗力だ!!」
「不可抗力でもあたし、とってもビックリしたんだから……」
「いや、その……スマン。沙夜がトラップにひっかかったのかと思って」
「あたしのこと……心配してくれたの?」
「当たり前だ」
「えへへ……ならちょっとだけ許してあげる」
「ありがとよ」
まったく……なんでこんなに疲れなくちゃいけないんだ?
先が思いやられるぜ……ん?なんだアレは?
「どうしたの功司君?」
「机の上になんかのってるぞ」
木の札……だろうか?
縦長の札でシとイと言う文字が書かれているが、さっぱり意味がわからん。
「ひょっとしてなにかの暗号、かな?」
「わからない……でも……」
「でも?」
「あたしが紐を引っ張ってみたから出てきたんだよね?」
「ああ、そうだな。偉い偉い」
「エヘヘ」
まったく、そんな小さな胸を張らなくてもいいのに……
って、こんなこと沙夜に言ったら怒られちまうよな。
まあとりあえず頭でも撫でてごまかしておくことにしよう。
沙夜も嬉しそうだしな。
……しっかし……そうなると、もう1つの方はやっぱ同じような仕掛けがほどこされているのかな?
「そうか!!行くぞ、沙夜!!」
「え?どうしたの功司君!!」
「わかったんだよ!この札の意味が!!勘合符だ!!」
「勘合符?病院で働いている?」
「そりゃ看護婦だって!!お前、なんかだか最近瑠羽奈化してきたぞ」
「ご、ごめん……」
「まぁ、いい。勘合府っていうのは室町幕府が貿易時に用いた札のことだ」
「それくらいあたしだって知ってるよぉ」
「知ってるんならボケるなよ」
「ご、ゴメン……」
「ホラ、また謝った……って、そんなことはどうでもいい。いいか?この札は左右2つに別れた札をくっつけると、ひとつの意味になると思うんだ」
「それじゃあ……」
「ああ。つまり……」
ガチャリ
「この部屋の紐を引っ張ればもう1個の片割れが現れるはずだ」
ここもどうやら書斎のようだ。ただ、先ほどと違って本のハードカバーが緑色系が多い。さしずめ第2書斎といったところかな?
それにしてもエリスのやつ、こんなしょーもない仕掛け作りやがって。
紐引っ張って謎をといてくって言うネタはもうバレバレなんだよ!!
「えい!!」
ほら、こうして木の札が……
ガン!!
「っっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「こ、功司君大丈夫!?」
「大丈夫なわけないだろ!!あたたたた……」
なんで俺の時だけ金ダライが降ってくるんだ?
ドリフのコントじゃないんだぞ、まったく!!
「功司君……これ……」
「なんだ……ん?木の札?」
沙夜の持ってるのは確かに木の札だ。
「そっちの札にはなんて書いてあるんだ?」
「『州』と『ヒ』だけど……」
「なんじゃそりゃ?……とりあえずあわせてみようぜ」
「うん」
さてさて、一体何の暗号が浮き出てくることやら……
「シ州イヒ……なんじゃこりゃ?」
「……わかった!!」
「えっ?わかったのか!?」
「うん♪これ、シじゃなくってサンズイだよ」
「サンズイ?ってことは……」
「これはイじゃなくってニンベン。だから『洲化』って字になるんだよ」
「ほうほう。で読み方は……『すか』……かな?」
「大当たり♪」
「そうかそうか。すかか……」
さっすが沙夜。こーゆーところにはよく気がつくな。
すかか……なるほどなるほど……
「……って、スカぁ!?外れじゃねーかそれって!!」
「そういうことに……なるよね」
「ふざけるなぁぁぁっ!!」
おのれ……どこまでも人をコケにしやがって!!
あのインチキ妖精、絶対に許さん!!
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