遅い……遅すぎる。
 一体いつまで待たせる気なんだ?
 この部屋に連れて来られてから、もうかれこれ30分以上経つぞ。
 まったく、あいつは客人をなんだと思ってるんだ?
 はぁ……あいつに常識を期待した俺が間違っていたのかもな。
「すまねえな、沙夜。こんな所につれてきちまって」
「ううん、いいよぉ。あたし結構楽しかったもん」
「そう言ってもらえると助かる」
「うん♪……でも、遅いね。ひょっとして何かあったんじゃ?」
「エリスの身に何かが?まさか。それは絶対にない」
「でもぉ……」
「大丈夫だって。きっと俺達を驚かせる悪巧みを働かせるか、その機会をうかがってるんだよ」
 ジリリリリ〜ン!!
「わっ!?」
 な、なんだなんだ??
 ……ん……なんだ、電話のベルか。
 でもなんでこんなにタイミングよく電話のベルが鳴るんだ?
「功司君……出たほうがいいんじゃ……」
「ああ、わかってるよ」
 一体何のつもりだ?
 直接こないで電話をかけてくるなんて……
「……はい」
「よっ、少年。セーシュンしてるかぁ〜?」
 間の抜けた声。
 人を小バカにしたような喋り方。
 間違いない、ヤツだ。
「……一体どういうつもりだ?」
「えらく不機嫌そうだな。……ははーん。わかったゾ。さてはオマエ、カノジョにふられたな?」
「ちげーよ!!そんなくだらないこと言ってないで、さっさとなんかもってこい!俺と沙夜、さっきからずっと待ってるんだぞ」
「なんだなんだ?オマエ……何もしないでずっと待ってたのか?」
「そうだけど……それがどうかしたのか?」
「カー!!鈍いなオマエ。せっかくアタシが気をきかせて二人きりにしてあげたんだゾ」
「はぁ?」
「だから、カノジョを押し倒すとか、強引に迫るとか、なんでそーゆーことをしないんだ?せっかくのチャンスなんだゾ。男だったら、もっとしっかりしろ!」
「バ、バ、バ、バカなこと言うな!!俺と沙夜はなぁ……」
「あーハイハイ。みなまで言うな。んじゃ本題にはいるゾ」
「本題?」
「ようこそ哀れなチャレンジャー諸君。我が『エリスの館』へ。心から歓迎するゾ」
「歓迎するならもっとマシな応待しろ」
「それは出来ない相談だゾ。何故ならオマエ達は、密室空間にいるからな」
「密室空間?」
「あー、なんだ、その。なんて言うか……オマエ達はこの屋敷に閉じ込められた」
「……はい?」
「つまりだな。オマエ達はアタシの仕掛けた罠にまんまとはまったわけだ」
「おいおい、なんだそりゃ?」
「言葉通りだゾ」
「……………………」
「それじゃ、頑張って脱出してくれたまえチャレンジャー諸君。健闘を祈るゾ」
「お、おい、ちょっとま……」
「あーそうそう。ひとついい忘れてた。この電話は通信終了後に自動的に消滅するからよろしく」
 ガチャ
 ツーツーツー
 ……切れやがった。
 大体、なんだ今の会話は?
 エリスの館?密室空間?
 第一、チャレンジャー諸君ってなんだよ?
 おまけに自動で消滅するだぁ?
 まったくわけわからないこと言いやがって……
「こここ、功司君!!」
「どうしたんだ?沙夜。そんな青い顔して」
「そ、それ!!」
「それって……受話器か?」
 受話器がどうしたって……げっ!!
 受話器がいつのまにかオレンジ色の筒みたいのに変わってるぞ?
 しかも、ジジジって導火線らしきものに火がついてるし……
 こ、これってひょっとして、ダイナマイト!?
「わわわわわっ!!」
 ドゴォォォォォン!!
 プスプスプス
「……………………」
「だ、大丈夫?功司君」
「……なんとか……生きてはいるみたいだ。随分煙たくって耳がキンキンするけど」
 あんにゃろう……ふざけた真似しやがって!
 爆音のおかげで耳がキンキンするじゃないか。
 爆発の衝撃で体中が痛いしよ。
 ……ってあれ??一瞬痛かったような気がしたんだが……
 なんともない??
 ひょっとして、ただの幻覚??
「功司君……これ……」
「メモ……用紙?どうしたんだそんなもん」
「さっき受話器が爆発したのと同時にヒラヒラ中に舞ってたんだけどぉ……」
「ちょっと見せてみろ」
「う、うん」
 えーっと何々……
『さあゲームの始まりだゾ
 有能なチャレンジャーの諸君
 アタシを捕まえてみたまえ
 アタシは爆発が好きで好きでたまらない
 激しい爆音を轟かせながら花火のように
 光を放つ瞬間がとってもたまらないんだゾ
 臆病者には罠を!!
 積年の大炎に灼熱の制裁を!!
 爆弾妖精  とってもキュートな綺雲エリス』
「……………………」
「……功司君……」
「あのヤロウ……!!」
 なんだこの犯行声明文は!!
 あのインチキ妖精……ふざけやがって!!
 とっ捕まえて釜茹でにしてやる!!
 いや、あいつの大っキライな子犬の刑に処すのもいいかな。
 とりあえず、まずはここから逃げ出さないと!
「沙夜、ここは危険だ。帰るぞ」
「えっ?で、でもぉ……」
「いいから!!こんな所にいたら命がいくつあっても足りないから」
「う、うん……」
 よし、沙夜も納得してくれたようだし。
 こんな危険なところはさっさとオサラバするか。
 さて、脱出方法は……って、考えるまでもないか。
 窓があるんだからそこから出ればいいんじゃねーか。
「さ、沙夜。この窓から出るぞ」
「えっ?そこから出るの?」
「大丈夫だって。ほら、行く……ぞ?」
「?功司君、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、窓が開かん」
「ええっ!?」
「なんだこの窓……」
 ふぅ〜〜っっ!!
 いくらやっても開かねえぞこの窓!!
 なんだこれ!?
 ……ダメだ。いくらやっても無理そうだ。
「沙夜、廊下に出るぞ」
「ええっ?」
「ここはどうもダメっぽいから、廊下の窓から脱出するんだ」
「うん、わかった」
「それじゃ、行くぞ」
 ガチャリ
 廊下には……ふむ、やはり誰もいないようだ。
 しかも窓が開きっぱなしになってるし。
 はっきり言ってアホだな、あいつは。
「沙夜、俺が先に下りて様子をうかがうからお前はここで待ってろ」
「う、うん。頑張ってね功司君」
「わかってるって」
 そうだよ。沙夜にみっともない格好見せられないもんな。
「それじゃ行ってくる」
 窓のふちに手をかけて……
 ストーン
「うぎゃああああああああああああああ!!」
「こ、功司君!!大丈夫!?」
「おーいてて……なんだよこの窓は!?」
 なんで俺が手をかけた途端タイミングよく落ちてくるんだ?
 おかげで手を挟んじまったじゃないか!!
 ……ひょっとして、これもエリスの仕業なのか?
 ……ありうる。始めっから窓が開いていたなんて、今考えてみれば如何にもあやしすぎる!!
 ……と言うことはだ、下手に動き回るのは危険だよな、やっぱ。
「功司君手が真っ赤だよ?あたしがフーフーしてあげよっか?」
「バ、バカ!!いいよそんなことしなくって!!それよりも沙夜、予定変更だ」
「えっ?」
「どうやら脱出するのは無理みたいだ。だからあのインチキ妖精をとっ捕まえに行くぞ!!」
「う、うん……」
「心配するなって。絶対俺が沙夜のこと護ってみせるから」
「功司君……」
「ほら、いくぞ」
「うん!!」
 沙夜、とっても嬉しそうだな。
 我ながらすっごく恥ずかしいこと言ってしまったような気がするが、今はそんな場合じゃない。
 なんとしてでも、あの危険娘を捕獲しないと!!


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