その日俺が家に帰ってくると、一番早く帰ってくるはずの俺よりも先に訪ねてきた――いや正確に言えば侵入してきただけど――人物の痕跡があった。
「またアイツか……」
きちんと並べられた女物の靴を見て俺は溜息をつくと、その靴の隣に自分の靴を脱いで、足早に二階の自分の部屋へと向かっていった。
まったく芹里香の奴には困ったものだ。
いつもいいって言ってるのに、勝手に家に上がりこんで来ては俺の部屋を掃除する。
おかげでプライバシーもなにも、あったもんじゃない。
「こら、芹里香。いい加減に……」
しかしドアを開けるや、予想に反した人物が、ベッドに腰掛けて漫画を読んでいるではないか。
「あ、マーくんお帰りー」
その少女、沙夜姫先輩はマンガ本から視線をそらすことなく声だけをかけると、ページをめくってゲラゲラと笑いながら漫画を読みふけっている。
しかもその格好は何故か俺のワイシャツを着ただけの姿だ。
「さ、沙夜姫先輩、どうしてここに!?」
「うーん、ちょっとマーくんに用があってね」
沙夜姫先輩はマンガ本をベッドの上に置くと、大きく伸びをする。
「わっ!?」
俺は慌てて目をそらした。
ボタンを留めずに胸元がはだけているせいで、大きな乳房の谷間がくっきりと見える。
「クスッ。赤くなっちゃって。マーくんってかわいいんだぁ」
「だ、だから、何で俺の部屋にいるんだよ!?それに、その格好!!」
「ああ。これ?さっき、シャワー浴びたから。芹里香ちゃんに、ちょっと合鍵借りたのよ」
沙夜姫先輩はクスクスと笑う。
果たして本当にそうだろうか?
俺には沙夜姫先輩が芹里香からうちの合鍵を盗んだか奪い取ったようにしか思えてならないのだが……この人なら絶対やりかねないし。
「と、とにかく、無断で人の部屋に入るのやめてよ!!」
俺は沙夜姫先輩を見ないようにしながら、鞄を机の上に置くと、椅子に腰掛ける。
「あーっ、そんなこと言っていいのかなー?」
すると沙夜姫先輩は、ニヤニヤ笑いながら表情で俺を見た。
沙夜姫先輩がこんなことを言うのは、大抵よからぬことを考えている時だ。
背筋に悪寒が走る。
「な、なんだよ?」
俺は恐る恐る、沙夜姫先輩に尋ねた。
沙夜姫先輩はニヤリと笑うと、何を思ったのか、立ち上がって俺に近寄ってくると、机の引き出しを開けた。
そして取り出したものは――
「じゃーん!!これなーんだ?」
「あーーーーーーっっっ!!」
俺はソレを見て、絶叫せずにはいられなかった。
沙夜姫先輩が持っているもの、それは紛れもなく俺がベッドの下に隠しておいたエロ本!
なんで沙夜姫先輩が持ってるんだよ!?
「マーくんの部屋家捜ししてたら、こーんなもん発見しちゃったー」
沙夜姫先輩は持っているエロ本をヒラヒラさせながら、勝ち誇った表情で俺のことを見る。
「どうしよっかなぁ?芹里香ちゃんや梢ちゃんやユリユリに言っちゃおっかなぁ〜?」
「わっ!?だ、ダメ!!それだけは止めてくれ!!」
俺は慌てて立ち上がり、沙夜姫先輩から本を取り上げようとする。
しかし沙夜姫先輩はまるで俺をいなすかのようにヒョイヒョイと身動きしながら、俺に本を取らせようとはしない。
「これ、そんなに大切なの?所詮ただの紙きれじゃない。マーくんって、ほーんとスケベって言うかなんていうか」
「なんだよ!?別にいいだろ!?俺にとっては大切なものなんだ!!」
「大切なものねぇ……」
沙夜姫先輩は呆れたように言うと、俺の宝物をベッドの上へと投げた。
「あっ!?ちょっと!!」
俺はそれを取ろうと、ベッドに向かおうとする。
「行っちゃダーメ」
すると突然甘い囁きと共に、柔らかい膨らみが二つ、俺の背中に押し付けられた。
「?」
俺の身体がまるで金縛りにあったかのように動かなくなる。
それが沙夜姫先輩が抱きついてきたもので、その二つの膨らみは彼女の乳房であるということを理解するのに、俺は多少の時間を要した。
「えへへー」
沙夜姫先輩は悪戯っぽく笑いながら、左手を俺の股間に伸ばしてきた。
そして沙夜姫先輩の行動によって反応してしまった陰茎に、ズボンの上から触れる。
「おー。勃ってる勃ってる」
沙夜姫先輩は嬉しそうに陰茎を撫で回した。
「ちょ、ちょっと!?沙夜姫先輩!?」
あまりの突然の行動に、俺は驚きと戸惑いを覚えながら、声を上げる。
「もぅ、ウブなマーくんにはオシオキが必要ね。あたしが筆おろししてア・ゲ・ル」
沙夜姫先輩は甘い囁きを発しながら、俺から離れた。