深夜の静まり返った神社に、俺はいた。
時折聞こえてくるのは、風の音と虫や鳥の鳴き声だけ。
見上げると綺麗な星空の中に蒼い輝きを放つ満月がぽっかりと浮かんでいる。
不思議な感覚だった。
不気味なはずなのに……ちっとも恐怖を感じない。むしろ安堵感さえ覚える。
きっとそれは、ここがかりんちゃんの住まいだから、だろう。
でも、そのかりんちゃんの手紙でここに来た自分が、少し不思議でしょうがない。
「……ふぅ……」
「古閑さん……」
不意に背後で人の声がした。
「えっ!?」
慌てて振り向くと、一人の少女が静かにたたずんでいた。
「なんだ。かりんちゃんか……」
俺はその顔が見知った顔であることを確認すると、ホッと胸をなでおろした。
「一体どうしたんだ?こんなところ……」
そしてそこまで言いかけて、言葉を飲み込んだ。
明らかにいつものかりんちゃんとは様子が違った。
巫女服姿ではあるが、表情は今にも泣き出しそうなほど崩れている。
「古閑さん……古閑さん!!」
突然かりんちゃんは俺の胸に飛び込んでくると、激しく嗚咽を漏らし始めた。
「ど、どうしたんだかりんちゃん!?」
「私、帰りたくない!!私、私!!」
かりんちゃんは俺の胸に顔を埋めながら泣き続ける。
どうやら今は何を言っても無駄のようだ。
俺はかりんちゃんの頭を撫でながら、かりんちゃんが落ち着くまで、このままでいることにした。