「う、うーん……」
やけに肌寒さを覚えた俺は目を開けると、そこには見知らぬ世界が広がっていた。
薄桃色のカーテン。
綺麗に並べられた人形。
部屋全体がとても整頓されている。
「……どこだここ?」
俺は思わず起きあがる。
「……そういえば……姉さんの家に来てたんだっけ……」
そうだ。俺は姉さんの家に来ていたんだった。
この年で物忘れが激しくなるとは……
我ながら情けない。
ベッドから起きあがってカーテンを開ける。
広がる白銀の世界。
灰色の厚い雲に覆われた空から深々と雪が降りしきる。
朝だというのにもう夜になったかのような暗さだ。
きっと外に出たら寒いんだろうな……
そんなことを思いながら部屋を出て、階段を降りる。
姉さんの姿はどこにもない。
姉さん一体どこにいったんだ?
そう言えば……そろそろ朝食の時間だよな……
ということは、キッチンにでもいるのかな?
俺はそう思ってキッチンへと足を向ける。
しかし、やはりここにも姉さんの姿がない。
代わりにテーブルの上にラップをかけられた料理とメモ用紙が置かれている。
「なんだなんだ?」
メモ用紙を読んでみる。
『ゆうくんへ
急用が出来たのでちょっとでかけてきます
お店の方、よろしくね
PS.朝食は作っておきましたので
レンジで温めて食べてください』
丁寧な丸文字でそう書かれている。
……………………
言葉が出ない。
まぁ、相変わらず姉さんらしいと言えばそれまでなんだが……
しかもこの家の鍵と店の鍵のスペアキーまで置かれているし。
これでは店番をやれと言ってるようなもんではないか。
……………………
……ま、いっか。
どうせ俺は暇人だしな。
少しは姉さんの手伝いしないとマズイもんな。
そんなことを思いながらお皿をレンジにいれる。
タイマーをセットして、っと。
作り起きができるという点で文明の力と言うのは非常に偉大だ。
作りたての料理が食べた買ったのが本音ではあるけど、この際文句を言っても仕方ないしな。
ピピッ!ピピッ!ピピッ!
おっと。温まったようだ。
お皿を出して……あちち。
テーブルにおいてラップをはがして……っと。
立ち上る湯気。とてもいい香りだ。
ご飯を茶碗にもって。
いただきます。
一人寂しい食卓。
何年ぶりだろうな。こんなことは。
姉さんが作っておいてくれた料理を一口食べる。
やっぱりおいしい。
でも……
なんだか寂しい。
姉さんどこに行ってしまったんだろう……
そう思いながらも、手は止まらない。
やはり姉さんの手料理は最高だ。
食べ終わったらちゃんと洗って片付けて、それから行かないとな。