ぐつぐつと、香ばしい匂いを放ちながらほどよく中身の物が煮こまれていく。
具は牛肉、しらたき、白菜、えのきだけ、椎茸、長葱、豆腐……そう、すき焼きだ。
「はい、ゆうくん。遠慮しないで食べてね」
「う、うん……」
立ち上る湯気の向こう側に姉さんの微笑んでいる笑顔があるため、ついドキドキしてしまう。
「それじゃあ、いただきます」
菜箸で深皿に盛り、とき卵につけ、口元へと運んでいく。
卵のひんやりした冷たさと牛肉の中からあふれ出る肉汁がミックスし、豊かなハーモニーを奏でる。
「どう?おいしい?」
「うん、おいしいよ」
「よかった。ゆうくんにマズイって言われたらどうしようかと思っちゃった」
「俺がそんなこと言うわけないじゃないか。だって姉さんの料理は……」
「私の料理が?」
「ううん、なんでもないよ」
「もう。途中で言いかけてやめるなんてゆうくんらしくないわよ?」
「本当になんでもないんだよ。本当に……」
「変なゆうくん」
姉さんはそれ以上追及しようとせず、すき焼きを食べ始める。
このような寒い日に鍋物と言うのは本当に体が温まる。
……もっとも、今日はそれ以外の理由もあるのだが。
姉さんの手料理は本当においしい。
毎日食べたいくらいだ。
「ねえ、ゆうくん」
「なに姉さん?」
「こうしていると、私達って新婚の夫婦みたいだね」
「ぶっ!!」
あまりの突然の告白に、思わずむせてしまう。
「だ、大丈夫ゆうくん?」
「げほっげほっ……ね、姉さんいきなりなんてこと言い出すんだよ」
「ごめんなさい。まさかゆうくんがこんなにも驚くと思わなかったから」
「食事中なんだから、勘弁してくれよ」
俺は冷静を装いながら再びすき焼きを食べ始める。
でも……
「新婚さん」か。
姉さんは何故あんなことを言ったのだろう。
ひょっとして姉さん、俺のことを……
……なわけないか。
ちょっと残念かもな。
短い期間だけど、明日から新しい生活が始まる。
その間に姉さんとの空白を埋められればそれでいい。
俺はそれだけで満足だ。
そう、それだけで……