7月10日

 今日は久しぶりに馬券を買ってきた。
 もちろん、メインレースを当てる自信があったからだ。
 午後も三時をまわり、テレビのチャンネルを競馬中継にあわせて夕鈴ちゃんの隣に座る。
 単勝1.2倍の圧倒的1番人気の馬がいたが、ボクは2番人気の地方から参戦してきた馬を軸に単勝、それと馬連とワイドのBOXを購入した。
 この2頭以外は単勝を10倍以上上回っている。つまり2強対決と言う奴だ。
「競馬、なんて面白いんですか?」
 珍しく夕鈴ちゃんが積極的にボクに話しかけてきた。
「もちろんだよ。馬は正直だからね」
 ボクも楽しそうに答える。
「夕鈴ちゃんの予想も聞けばよかった?」
「いえ、結構です」
「そうかなぁ?夕鈴ちゃんギャンブルの才能有りそうだから結構いい線まで行くと思うんだけど」
「そんなことありません」
 夕鈴ちゃんは食い入るようにテレビ画面を見つめている。
 やっぱりカワイイなぁ、夕鈴ちゃん。
 これ的中させたらお寿司おごってあげるから、まっててね。
「あの白いお馬さん、キレイですね」
「えっ?」
 夕鈴ちゃんの言われるまま、僕はその馬を見た。
 一際目立つ白毛の馬体。
 真夏の陽光をうけて光り輝いている。
「ああ、あの馬は駄目だよ。18頭立てのレースでただ1頭、牝馬で参戦してきた馬だから。ここ最近の成績も二桁着順だし、まぁただ走らせるって奴だね」
 ボクはふふん、と鼻で笑った。
 見た目で勝てるほど競馬は甘くない。
 夕鈴ちゃんには悪いけど、そんなのに投票するなんてキチガイだよ。
 やがて、ファンファーレが鳴り響いた。
「いよいよ発走だな」
 ボクは馬券を握り締める。
 一斉にゲートが開いた。
 各馬一斉に飛び出す。
 ハナを切ったのは予想外にも追い込み型の外国産馬だった。
 いつも先行するはずの馬が後方で待機している。一番人気の馬も後方からの競馬だ。
「ようし!なかなかいいでだしだぞ!」
 僕は画面に向かって叫んだ。
 ボクの馬は中段につけている。
 左回りのこのコースは直線がとても長いことで有名で、今の馬場から考えると追いこみが有利だ。
 もう勝利は間違いない。案外簡単なレースだったな。
 ボクは安心しながらテレビ観戦に没頭した。
 レースの早さは平均ペース。
 第3コーナー回った時点で誰もしかけようとしない。
「よし、いけ!」
 各馬が一斉に動き出した。
 ボクの馬は4コーナーにさしかかったところで外へと持ち出す。
 この馬はものすごい差し足を持っているので勝利は決定的だ。
「いいぞ!!いけ!!」
 ボクの気分は最高潮に達した。
 だが……
 ここで思いもよらない事体が起こった。
 なんと、ボクの応援する馬の内側を走っていた馬が大きく膨れ、それに巻きこまれる形でボクの馬も大外を回される形になったのだ。
「な、なんだ!?」
 一瞬ボクは我が目を疑った。
 確実だった勝利がするするっと零れていく。
 各馬は内をどんどんついて、先頭を走る馬に襲いかかるが、なかなかつかまらない。
「いけー!!こんなところでまけんじゃねー!!」
 ボクは力のある限り叫んだ。
 でも、その期待を裏切るかのように、内をついた一番人気の馬がゴール直前で先頭を走っていた馬を差し切った。
 そして、3着にはなんと先行集団にいたあの牝馬。ボクの馬は4着だった。
「ふざけんじゃねー!!」
 ボクは馬券を力いっぱい破くと、それを叩きつけるように投げ捨てた。
 審議にもならなかった。
 まったくもって納得いかない。
 アレを八百長といわずして、なんというんだ!
「残念でしたね……」
 夕鈴ちゃんが哀れむような目でボクを見る。
 まるで馬鹿にされているようで、ボクは思いっきり腹が立った。
「なんだその眼は?ふざけんじゃねー!!」
 バシッ!!バシッ!!
 夕鈴ちゃんの頬を2回、3回と叩く。
 しかしそれでも気が納まらない。
「お前が牝馬の応援するからいけねえんだよ!!」
 ドカッ!
 今度は夕鈴ちゃんのお腹を蹴り上げる。
「うぐぅ!!」
 夕鈴ちゃんは苦しそうにうめきながら、そのまま気を失ってしまった。
 口元から泡のようなものを吹いている。
「まるでカニだな。イイざまだぜ」
 ボクは満足すると、部屋を出た。
 ちなみに、馬連配当は8千円台ではあったが、ワイド配当は4万円台の超大荒れのレースだった。


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