★月曜日★

 ハッハッハッ……
 えーっと、時間は……
 あわわわわっ!
 急がないと約束の時間に遅れちゃいます。
 ついお掃除に夢中になって、こんな時間になっちゃいました。
 わたしってば、なんてドジなんでしょう。
 あっ、初めまして。わたし、姫宮玲奈(ひめみやれな)と申します。
 ……って、ノンキに挨拶なんかしてる場合じゃなかったです。
 実はわたし、今とっても急いでるんです。
 何故かって言いますと、お昼休みにお友達の要(かなめ)ちゃんから絵のモデルを頼まれたんです。
 もちろん最初は断わりました。
 わたしなんかにモデルが務まるわけありませんから。
 でも……要ちゃん、とっても困ってらっしゃったようなので、最後は「いいよ」と返事をしてしまいました。
 約束の時間は午後4時。もう残り時間はほとんどありません。
 最後の難関、階段をかけあがって廊下をラストスパート!
 あっ、見えて来ました美術室が。
 あともう一息!
 ハァハァハァ……
 び、美術室に着きました!
 ガラガラガラ!
 セーフ!
 なんとか間に合いました。
 ちょうど四時です。
「あ、あの、約束通り来ましたっ!」
「いらっしゃい。待ってたわよ玲奈」
 要ちゃんは静かに笑っています。
 美術室の中には要ちゃん以外誰もいませんでした。
 とりあえず、戸を閉めてっと。
「あの、他の部員さんは?」
「誰もいないわよ。今日、ホントは部活休みだから」
「ええっ!?そ、そうだったんですか?」
「そうよ」
「で、でも、要ちゃんはなんでいらっしゃるんですか?」
「ちょっとコンクールに出展する作品が間に合わなくってね。居残りってわけ」
「そ、それでわたしにモデルを頼まれたんですか?」
「ええ」
「でも……わたしなんかにモデルがつとまるんでしょうか?」
「大丈夫よ。玲奈だって十分かわいいんだから、もっと自分に自信を持ちなさい」
「そ、そんな……わたしがカワイイだなんて……」
 桜花学園のマドンナと言われる要ちゃんからカワイイって言われるなんて、思ってもみませんでした。
 なんだか恥ずかしいです。
 でも……なんだかモデルをしっかりとやれそうな気がします。
 少し、自信がつきました。
 玲奈、ふぁいと、おー!
「それじゃあ、早速身につけてるものを全部脱いでちょうだい」
「えええっ!?せ、制服とか脱ぐんですか!?」
「当たり前じゃない。そうしないと、描けないもの」
「か、描けないって……」
「あれ?言わなかったかしら?ヌードモデルって」
「そ、そんなの初耳ですっ!」
「大丈夫よ大丈夫。別に変なコトするわけじゃないんだから」
「そ、そんなことおっしゃられても……」
 ど、どうしましょう!
 要ちゃんのお願いがヌードモデルだったなんて……!
 うー……
 困りました……
 ヌードモデルなんて恥ずかしいですし……
 断われば要ちゃんとっても悲しい思いするでしょうし……
 考えれば考えるほど悩んでしまいます……
 ちらっ
 要ちゃん……少し困ってるようです……
 えーい、こーなれば覚悟をきめるです!
 男の子だったら絶対にしませんけど、要ちゃんは女の子だし。
 それに、他ならぬ要ちゃんのお願いですものね。
「わかりました。モデル、頑張ってつとめさせて頂きます!」
「それじゃあ、早速お願いね」
「はい!」
 ちょっと恥ずかしいですけど……
 ヌギヌギ……
「あ、あの、これでいいのでしょうか?」
「ありがとう。それじゃあ、そこのソファーに横になってね」
「は、はい……」
 ソファーに寝そべればいいのでしょうか?
「こう、ですか?」
「ちょっとイメージと違うわね……足を組んでもらえる?」
「は、はい」
 足を組んで……っと。
「これでいいのでしょうか?」
「ええ。オッケーよ。それじゃあ、じっとしててね」
「は、はい」
 いよいよモデルの開始です。
 なんだかドキドキします。
 モデルと言うのは眉ひとつ動かしてはいけないと聞いたことがあります。
 長時間同じ態勢でいないといけないんです。
 結構簡単なことだと思っていたのですが、実際にやってみるととっても大変なんですね。
 わたし、こんな大変なことを普通にやってるモデルさんのことを尊敬してしまいます。
 15分……30分……1時間……
 時だけがゆっくりと流れて行きます。
 まるで病院で点滴をうっているような気分です。
 なんだかとっても退屈です。
 ……って、弱音を吐いている場合ではないのでした。
 今は少しでも要ちゃんのお役に立つために、モデルを頑張らないと。
「玲奈、大丈夫?」
「は、はい。これくらいへっちゃらです」
「そう?それならいいんだけど……うふふ」
「か、要ちゃん?どうかなさったんですか?」
「なんでもないわよ。ただ、玲奈の身体って綺麗だなぁって思って」
「わ、わたしの体がですか!?」
「そうよ」
 か、要ちゃんったら突然何を言い出すのでしょう。
 キャンバスから離れて、わたしに近づいてきます。
「ほら、とくにこの控えめなバスト。とってもかわいらしいわよ」
「それって、とってもぺったんこってことですか?そりゃあ、要ちゃんのおっきなお胸に比べたら、わたしのはとってもちっちゃいですけど……」
「そんなことないわよ。小さいのが好きな男の子だって多いんだから。それに……」
「それに……?」
「なんだか、かわいすぎてイジメたくなっちゃう」
「えっ?キャ、キャハハハハハ!」
 要ちゃん、いきなり乾いた筆でわたしのお胸を撫でてきました。
 とってもくすぐったいです。
「こら!モデルはじっとしてなくちゃダメでしょ?」
「そ、そんなこと言われましても……」
 クスン。
 要ちゃんに怒られてしまいました。
 ここは頑張って、我慢することにしましょう。
 なでなで。
 う〜〜
 柔らかい毛先がとってもくすぐったいです。
 我慢我慢。
 いつになったら終わるのでしょう。
 なんだか変な気分です。
「玲奈って、なかなか我慢強いのね。もういいわよ」
 やっと要ちゃんの動作が止まりました。
「もう服を着て大丈夫よ。玲奈、ありがと」
「ど、どういたしまして。それで要ちゃん、絵は完成したのですか?」
「もちろんよ。ほら」
 要ちゃんは微笑みながらキャンバスをわたしに見せてくれました。
 そこには、優しく微笑みながらソファーに寝そべっている、天使のような格好をしたわたしがいました。
「うわぁ〜……」
 思わず見惚れてしまいます。
「どう?」
「す、凄いです要ちゃん!これなら大賞間違いなしです!」
「ありがと。モデルがとってもよかったから、私もビックリするくらいの素晴らしい絵が描けたわ」
「そ、そんな。わたしなんか何もしてませんよ」
「うふふふ。玲奈、ありがとう」
「は、はい!」
 なんだか知らないけど、要ちゃんに褒められちゃいました。
 要ちゃんのお役に立てることができて、とっても嬉しいです。


トップへ    次へ