「ふわぁ〜……かったりぃ〜な〜……」
放課後になった聖丘学園で、慎一はあまり気が進まない思いをしながらも、恵理子の秘密の店に向かって歩いていた。
正直言って、恵理子の店に行くといらぬ散財をする上に余計なトラブルまで抱え込むことになるので、出来れば慎一はあまり近寄りたくない。
恵理子の店に行くこと、それはつまり『トラブルウェルカム!』と自ら宣言しているようなものだからである。
なので慎一のように平和を望んでいる穏健派はあまり行きたくない場所である。
しかし、では何故そのトラブルの元に向かっているのかと言われたら、恵理子の真剣なお願いがあったからに他ならない。
曰く、つばめに関する重大事項だと。
慎一も暇を持て余していたので、たまには顔を出してもいいかなと思い、行ってみることにしたのだ。
旧図書館へと入り、地下への階段を降りていく。そして第一の扉の手前でカードキーをカードリーダーに通し、コンソールに暗証番号を打ち込む。
すると鉄の扉が鈍い音を立てながら横に移動していった。
慎一がそのまま進むと、第二の扉、木製のドアが現れた。ドアノブには「OPEN」の札がかかっている。
慎一はドアノブをまわし、戸を開けた。
カランカランと、ベルの音が辺り一帯に響き渡る。
「いらっしゃーい」
すぐさまエンジェルショップ『ERICO』の店主、恵理子が声をかけてきた。
恵理子はカウンターに頬杖をついて、座っている。
「先輩遅すぎ!待ちくたびれちゃった!!あたしを浦島太郎にする気なの!?」
恵理子は余程待ちくたびれていたらしく、頬をブスッと膨らませて慎一に文句を言う。
「ごめんごめん。悪かったよ。そんなに急いでるなんて知らなかったから。で、何か用?」
「用があるから呼んだの!とにかく来て!!」
カウンターからでてきた恵理子は、靴を脱いで店の中へとあがった慎一の制服の裾を引っ張って、どこかへと連れて行こうとする。
「わかったから。そんなに引っ張らないで」
慎一は仕方なく、恵理子の後をついていった。
恵理子の奴……一体今度は何企んでるんだ?
慎一の頭の中で、黒い疑惑がどんどん膨らんでいく。
しかしその疑問を口にすることは、今はしなかった。