麗らかな春の日の午後。
「ふぅ……」
暖かな日差しが差し込んでくる部屋の中で、椅子に座っていた俺は、窓の外を眺めながら溜息をついた。
見渡す限りの晴天の中、春の陽射しをいっぱいに浴びた桜の花びらが、気持ちよさそうにそよいでいる。
春眠暁を覚えずとはよく言ったもので、こんな日はボーっとしてるに限るよなぁ、やっぱ……
桜、かぁ……
「そう言えば……まだ花見に行ってなかったよなぁ……」
パタパタ
いきなり頭をはたきで叩かれた。
「ケホケホッ!何するんだよ委員長!」
俺は非難めいた眼差しを、その攻撃者に対して向けた。
「もぅ!サボってないで少しは手伝ってよ!」
その攻撃者、エプロンに三角巾の『お掃除おばさん』姿の委員長は、腕組みしながら俺のことを睨みつける。
「手伝ってって……こんな綺麗な部屋の、どこを掃除する必要があるんだ?」
俺は部屋の中を見回しながらいった。
「何言ってるのよ!全部私が片付けたんじゃない!神津君はそこで漫画読んでただけでしょ!?」
委員長は一気にまくし立てると、大きく溜息をついた。
「全く信じられない。あんな夢の島のようなゴミだらけの中で生活できるなんて。もぅ……少しは掃除する人の身にもなってよね」
(別に掃除を頼んだ覚えはないんだけど)
俺は間髪をいれず、心の中でツッコミをいれた。
委員長は、よく言えば気が利く、悪く言えばやたらと世話を焼きたがる、困った性格の持ち主だ。
今日だって頼んでもいないのに家に押しかけてきて、文句を言いながら俺の部屋の掃除をしていたりする。
まぁ、俺に借りてた本を返しに来たっていう、一応の理由はあるんだが……
委員長の行動を見てると、俺にはそれがただの口実で、実際には部屋の中を査察に来たとしか思えなかった。
せっかくの午前授業だったのに……ほんとついてない。
でもまぁ……委員長一人に掃除をやらせておくのもアレだし、俺も少しは手伝わないといけないかな……
「へいへい。それじゃあ俺は本棚の整理でもするよ」
俺は立ち上がり、本棚の整理を始めた。
「わかればよろしい」
委員長は先程とは打って変わって、にっこりと微笑む。
(今日はついてないよなぁ……)
俺は心の中で大きく溜息をついた。
(口うるさくなければかわいいんだけど……)
心配性の幼馴染よりもある意味口うるさい委員長を、チラッと横目で見る。
委員長はキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「さてと……次は……あっ、ベッドの下がまだだっけ」
「いっ!?」
俺はその言葉に、慌てて委員長を見た。
委員長はベッドの下を覗き込んでいる。
「わっ!!ば、バカやめろ!!そこは掃除しなくていいから!!」
「あっ、何か落ちてるよ。なんだろうこれ?」
委員長はベッドの下に手を伸ばし、それを取り出した。
「!!」
そして委員長は、手に取ったものを見て顔を真っ赤にした。
無理もない。
それは俺の秘蔵のAVビデオだったのだ。
しかも、幻のAVビデオと呼ばれている『青春学園〜放課後の個人授業〜』だ。
ああ……まさか俺の秘蔵コレクションが、よりによって委員長に発見されてしまうなんて……
委員長の奴、体を震わせてるよ……
「いや、それはだな、その……」
「私、帰る!!」
委員長はビデオをベッドの上に投げ捨て、部屋を出て行こうとする。
「お、おい待てよ!!」
俺は慌てて委員長の腕を掴む。
「離してよ!!この変態!!」
「ち、違うんだって!!少しは話を聞いてくれよ!」
「聞きたくない!!」
委員長は俺の腕を振り払って部屋を出ようとする。
「だから、話を聞けよ!!」
俺は強引に委員長の腕を引っ張った。
「きゃっ!」
委員長はバランスを崩し、倒れそうになった。
「危ない!」
俺は委員長を後ろから抱きとめる。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
委員長は小さく頷く。
「その……ゴメン……」
俺は委員長から手を離す。
「……………………」
「……………………」
俺達の間に気まずい空気が流れる。
「……ねぇ」
委員長がボソッと呟いた。
「神津君、そんなに欲求不満なの?」
「い、いや、その……」
「私……相手になってあげよっか?」
「……えっ?」
委員長は部屋のドアを閉めると、俺の方を振り向き、俯いたままでボソッと呟いた。
「いいよ……私、神津君のこと好きだから……」
「委員長……」
「……神津君は私のこと、嫌い?」
委員長は顔をあげて、俺をジッと見つめる。
その眼差しはいつになく真剣で、恥じらいと期待と不安と悲しみを帯びていた。
「……俺も、委員長のこと好きだよ」
俺は委員長の目を見ながら、はっきりとした口調で答えた。
心臓がドンドン高鳴っていくのに、俺の気持ちは不思議と落ち着いていた。
「それなら、問題ないよね」
委員長は瞳と唇を閉じる。
「好きだ、委員長」
「私も」
俺は委員長の腰に手を回すと、離さないように抱きしめながら唇を重ね合わせた。
委員長も俺の首に手を回す。
委員長の唇は、とても瑞々しく、そして柔らかかった。
俺達はしばらくの間、キスを続けた。