茜色の夕陽に照らされた、春の公園――
堀に張られた水も、三分咲きの桜も、木製のベンチも、皆オレンジ色に染まっている。
もちろん目の前にいる楓の表情もほんのり紅い。だが、その表情はどこか暗い。
普段なら元気の塊といった感じの楓が、まるで人が変わったかのようにしおらしい。
いつもと様子が違う楓に、俺は少しばかりの緊張を覚える。
楓の奴、一体何の用があってこんなところへ呼び出したりしたんだ?
何か、人に言えないような悩みでもあるのだろうか?
「ねえアオちゃん……」
楓がおずおずと口を開く。
「あたしね、最近なんだか変なんだ」
「変、って?」
「アオちゃんのことしか考えられないの」
「俺のこと?」
「うん」
楓は不安げな眼差しを浮かべながら頷く。
「寝てても、勉強してても、ご飯食べてても、お風呂に入ってても、アオちゃんの顔が頭に浮かんでくるの」
「…………」
「それでね、アオちゃんのこと考えると、胸が苦しくなって、なんだかせつない気分になって、身体中が熱くなって、とっても怖くなって、頭が混乱しちゃって……あたし、病気なのかな?」
「……病気なんかじゃないさ」
「えっ?」
「楓は、俺のことが好きになったんだよ」
「あたし、アオちゃんのこと好きだよ?」
「そういう意味の好きじゃないさ」
「どーゆーこと?」
「俺は楓にとって特別な存在、っていうこと」
「特別な……存在?」
「そう。楓は俺のことを友人としてじゃなく、恋人として見てるんだ。つまり楓は、俺に恋をしてるんだ」
「恋……?」
楓は戸惑いの表情を浮かべる。
どうやら異性に恋をするのが初めてらしい。
だから初めて味わう感覚に戸惑いを覚えてるのだ。
「つまりだ……こーゆーこと」
俺は楓の身体をギュッと力強く抱きしめる。
「あっ……!」
楓が小さく悲鳴を上げる。
「怖いか?」
「ううん……ドキドキするけど、ちっとも怖くないよ」
楓は潤んだ瞳で俺を見上げる。
先程までと違って、どこか嬉しそうだ。
「そっか……あたし、アオちゃんに恋をしてるんだね。だからこんなにドキドキするんだ」
「俺の身体にも、楓の胸の鼓動がちゃんと伝わってくるよ」
「あたしも……アオちゃんがドキドキしてるの、わかるよ」
「そうだな」
「アオちゃん……大好き……」
楓は目を閉じる。
「俺も大好きだよ、楓……」
俺は楓の唇に、そっと自らの唇を重ね合わせる。