夕食を食べ終わった二人はリビングでくつろぎながらテレビを見ていた。
特番の時期と言うこともあって、各局とも2時間スペシャル番組や3時間特別番組などを流している。
そんな中で二人が見ているのはもちろん、ニーナがお気に入りの超魔術番組である。
今、ちょうど新たなマジックが始まろうとしているところであった。
ステージの中央にサングラスをかけた男性のマジシャンとアシスタントの女性が立っている。
ステージ脇から机が運びこまれてきた。
まずマジシャンが何もないことを確認して女性を机の上に寝かせた。
続いて机が隠れるほどの大きな白い布を女性の上にかぶせる。
そしてマジシャンは右手を前に突き出して念を送り始めた。
静まり返るスタジオ。
膨らみがあった布が徐々にぺしゃんこになっていく。
そして布は机にピタリとついてしまった。
マジシャンがその布を取り払うと女性の姿はなかった。
どよめく観客。
マジシャンは再び布を机にかぶせると、先ほどと同じように右手を前に突き出して念を送り始める。
今度はぺしゃんこだった布がまるで意思でももったかのように膨らんでいった。
マジシャンが布を取り払う。
すると女性が現れて机の上に座りながら笑顔で手を振っていた。
沸きあがる観客。
「……凄いわぁ」
ニーナは感嘆のため息を漏らしながらテレビに魅入っていた。
「これ、魔法じゃないんでしょ?」
「手品ですね」
「とてもそうは見えないんだけどなぁ……」
「当然ですよ。奇術師の人達はこれでご飯を食べていってるんですから」
「そうよねぇ……あーあ、あたしにもこんなことできたらなぁ」
「ニーナさんにも出来るじゃないですか」
「えっ?」
「だってニーナさん、姿を消す事ができるじゃないですか」
「確かにそうだけどさぁ……信じてたんだけどなぁ……ハンドパワー」
「手品にトリックは必ずつきものですから。ミスタートリックの右手は『ハンドパワー』、又は『神の手』と言われてるようですけど」
「確かに『神の手』なんてらしいわね。これ見てたら本気で奇跡が起こせそうだもん」
ニーナはソファに背を凭れながら自分の右手をみると、再びテレビ番組に没頭した。