「えい、えいっ!!」
百合は学校から帰ってくるなり、奇妙な叫び声を耳にした。
何事かと思い、急いでその声の発生源と思われるリビングに行くと、ニーナがこれまた奇妙なポーズを取りながらテーブルの上に置かれている箱と対峙していた。
瞳を閉じ、両手を前につきだし、手のひらを箱に向けて、そして時には震わせている。
まるで何か念を送っている、そんな感じさえした。
「……なにをやってるんですか?」
百合が恐る恐る尋ねたが、ニーナは黙ったままなにも言おうとしない。
「…………」
百合は黙ったままその光景を見守ることにした。
1分、2分、3分……
時間だけが静かに流れていく。
5分経過。
その時、ニーナがカッと目を見開いた。
「やぁっ!!」
甲高い声をあげるとともに両腕に力をこめる。
しかし……何も起こらなかった。
「……はぁ、やっぱり駄目かぁ……あたし才能ないのかな?」
ニーナはその結果にガックリと肩を落とし、そして深いため息をついた。
「あの……何をなさってたんですか?」
「えっ?なにって……見ての通り、ハンドパワーだけど?」
「ハンドパワー?」
「そうよ。あたしにも出来るんじゃないかなぁ、って思ってね」
百合の再度の質問に、ニーナは大真面目にこう、答えた。
「それで……動いたんですか?」
「全然。ピクリとも」
ニーナはため息をつくと、カーペットに身を投げ出した。
「あーあ、やっぱりダメだったか」
「あの、ニーナさん。ひとつお尋ねしてもよろしいですか?」
「なに?」
「ハンドパワーって、手品だっていうことはご存知ですよね?」
「えっ!?アレって魔法じゃなかったの!?」
ニーナが驚いたように上体を起こした。
「……………………」
「……………………」
「……………………くすっ」
「あっ!!なによもう!!笑うことないじゃないの!!」
「ごめんなさい。だってニーナさん、魔法だなんて夢みたいなこといってるんですもの」
「ふーんだ。どーせあたしは夢見がちな少女ですよーだ」
ニーナはぷんぷん怒りながら箱を開けた。
中には少し冷めたたいやきが入っている。
ニーナはそれを一匹とりだすと、口の中へと運んでいった。
「あーあ、無駄な時間過ごして損した。こんなことなら焼き立ての時に食べとけばよかった」
「もうすぐ夕食なのに……太りますよ?」
「太ってもいいもん。どーせあたしは無知で食っちゃ寝なオバケなんですから」
「ニーナさん。怒らないでくださいよ。笑ってしまったことは謝りますから」
「こーなったらヤケ食いしてやるんだからー!!」
そしてニーナは怒りながらもあっという間にたい焼き10匹を平らげてしまったのだった。