「ただいまー」
百合が自分の家に戻ってきたのは、既に陽も落ち月と星が空に登っている時分であった。
「おか百合ー。随分遅かったじゃない。どこに行ってたの?」
「え、ええ。ちょっと……」
リビングから顔を覗かせるニーナに、百合は言葉を濁す。
「怪しい……」
ニーナは不審げな表情を浮かべると、百合に近づいてきた。
そして彼女の背後に回ると、いきなりくすぐりだした。
「ちょ、ちょっとニーナさん!?キャハハ、く、くすぐったいです!」
たまらず百合は悲鳴を上げる。
「さあ!白状なさい!!一体どこで何をしていたの!?」
「い、言います!言いますから!!やめてください!!」
「よろしい」
ニーナはくすぐるのをやめる。
百合は涙目で恨めしそうにニーナを見て、観念したように口を開いた。
「実は……」
百合は今日起こったことをニーナに話した。
通の家に行ったこと。
沙絢の勉強を見てあげたこと。
三笠兄妹の母親に会ったこと。
通から名前で呼ばれたこと。
そして――
すべてを聞き終わったニーナは、先ほどとは打って変わって、上機嫌な様子で百合の背中をバンバンと叩いた。
「偉い!!でかした!!!感動した!!!」
「ちょ、に、ニーナさん!?」
「彼氏の家に遊びに行って、名前を呼ばれるどころかご両親との挨拶まで済ませるなんて!!!あたしは感動した!!!」
「だ、だから違……!!」
「いい!皆まで言うな!!よーし、今日は百合ちゃんのお祝いって事で、あたしがお赤飯炊いちゃうぞー!」
「もう!ニーナさん!!」
百合は抗議の声を上げるが、ニーナは聞く耳持たぬ様子で、そのままキッチンへと向かっていくのであった。