「ふんふふーん♪おっまたせー!!」
ニーナは鼻唄を歌いながら出来上がった料理を食卓に並べ始めた。
ビーフシチュー、海鮮サラダ、炊きこみご飯……
どれひとつとっても味も申し分なく、とても数日前まで料理が全くできなかった人物が作ったものとは思えないほどの変わりようだった。
「どう?お味の方は」
「とってもおいしいですよ。私なんか、全然及ばないです」
「ありがと♪それもこれも、全部コレのおかげね」
ニーナは嬉しそうに一冊の本を手にとった。
『味の秘伝書』
古ぼけた薄茶色の表紙に、墨で大きくこう書かれた本は、先日百合が苦労して盗んできた物だ。
おかげでニーナの料理の腕は格段に上がり、毎日百合が料理を作るということはなくなった。
もちろん、百合が散々な目に合わされた罰として、ニーナが1週間料理を作りつづけることになったのは言うまでもない。
「そろそろ焼けたかなー?」
ニーナは楽しそうにオーブンを眺めると、オーブンの蓋をあけた。
香ばしい薫りを放ったクッキーが姿をあらわす。
「はいおまたせー。ニーナちゃん特性の、タイヤキクッキー♪」
ニーナは手早くそのたい焼きの形をしたクッキーをお皿に移すと、百合の前に差し出した。
「お熱いうちに、召し上がれ♪」
「はい。それでは」
百合は熱々のクッキーをひとつつまむと、それを口の中へとほうばった。
ほのかなブランデーの薫りとバターのコク、それに砂糖の甘味が絶妙に混ざりあわさって口の中で色鮮やかなハーモニーを奏でる。
「ど、どう?」
「おいしいです。とっても」
百合はニコッと微笑みながらニーナにそう話した。
「それじゃあたしも」
ニーナもひょいとつまみあげると、口の中へと運んだ。
「うーん!!おっいしー!!やっぱお菓子は焼き立てに限るよね。コレをあたしが作ったなんて信じらんない!!」
ニーナはこれ以上ないと言うくらいの幸福な笑顔を作りながら自分の料理を自我自讃した。
「それもこれも、みんな百合ちゃんのおかげよねー。ありがと♪」
「感謝するのはいいですけど、もうあんなことしないでくださいよ?大変だったんですから」
「わかってるって。予告状はもうださないから」
「それならいいんですけどね」
百合は再びクッキーつまんで食べると、静かに紅茶を口にした。
鈴虫の奏でる美しい音色が、優雅に庭先から聞えてくるのであった。