その日は朝から騒がしいことになっていた。
何台ものパトカーがサイレンをけたたましく鳴らし、現場に急行する。
その場所は野次馬や報道陣、警察官などでごった返していた。
「な、なにこれ?」
家にいるのが辛く、早起きして登校してきた沙絢は、その現状を目の当たりにして目を丸くした。
それはまさしく、妹尾中学正門前の出来事であった。
「おら!!さっさと歩け!!」
野次馬をかきわけるようにして一人の男が警察官に連行されていく。
「ど、どうかしたんですか?」
沙絢はわけがわからず野次馬の一人について尋ねてみた。
「どうもこうもないよ。あの人、女子中高生の持ち物を盗んでいたんだって」
「えっ!?ほ、本当ですか!?」
「ああ。研究室からはセーラー服や下着なんかがわんさかでてきたらしい。全く中学校の教師だって言うのに……ありゃ変態だね。お嬢ちゃんも気をつけな」
「は、はぁ……」
「でもま、怪盗黒薔薇が制裁してくれたから、この中学校も安心だな」
「えっ!?ブラックローズが出たんですか?」
「ああ。五島の悪事を暴いたうえに、彼を校門にくくりつけておいたのは黒薔薇だそうだ。でも不思議なことに、今回は何も盗まなかったらしいぜ?」
「ふぇ〜。珍しいですね」
沙絢は話を聞き終わると、その野次馬の輪から外に出た。
「あの五島先生が、ねぇ……」
いまだに信じられない気持ちではあったが、現実を見せられては納得するしかなかった。
「沙絢ちゃん」
ふと、ポン、と誰かが肩を叩いたので沙絢は後ろを振り向いた。
「百合ちゃん……あっ、それ!!」
そこには優しく微笑んでいる百合の姿と、いつも見なれた大きなケースがあった。
「はい、これ」
百合はそれを沙絢にゆっくりと手渡す。
「ゆ、百合ちゃん、どうしたのこれ!?」
「昨日あの後沙絢ちゃんと別れてから、やっぱり探してみることにしたの。そうしたら、校舎裏のちょっとわかりにくい茂みの中にありましたよ」
「ホント!?でも、昨日その場所探したような……」
沙絢は一瞬考え込むような仕草を見せたが、すぐにやめてしまった。
「ありがとう百合ちゃん。だから百合ちゃんって大好き!!」
沙絢は感激のあまり百合に抱き着いてきた。
目から大粒の涙が流れ落ちる。
しかしそれは昨日の悲しみによって流れたものとは違い、嬉しさのあまり零れた暖かみのある雫であった。