互いの体をかき抱く。唇を重ねる。
暗い部屋で相手の身を探るように服を脱がせ、現れる肌に手を滑らせる。翼の寝ている部屋とは別の寝室。足元には二組の布団が敷かれている。翔の布団と、客用の布団。篠原が翔がいつ帰ってきてもいいようにと自分が眠る分と一緒に敷いていてくれたのだろう。このままでいけば、片方は使わずに終わりそうだったが。
「んっ……」
篠原の手が翔の肌をやんわりとなでる。あっという間に力が抜けてしまった翔の体を支えるようにして篠原はその布団に倒れこんだ。部屋が少し寒いからと暖房をいれ、布団をかぶるようにして。
恥じらい、薄く色づく肌に指を滑らせながら篠原は翔の体中に口付けを落としていく。その柔らかな刺激に翔はただ身を捩じらせ、のどをあえがせる。
「はやく……」
同じ家に翼が寝ている。その意識が翔の背徳感をあおる。だが、だからといって今からやめるなんてこともできはしない。すでに体も心も、すっかりその気になってしまっている。それに、我慢も限界だった。ずっと、何度もあおるだけあおられて放り出されていた。ここまで我慢できたのが奇跡に近いと、自分ですら思うほどに。
「馬鹿いうな。しばらくしていないんだ。そう簡単にできるわけないだろうが」
ねだられるのもいいけどなと笑いながらも、篠原はごそごそと潤滑剤を取り出し、自分の手に乗せる。手の上で少し温めてから、そのぬめりを借りて翔の中にぬるりと指を押し入れた。
「……ッぅ」
なかなかなれることのできない最初の感覚に翔がうめく。それでも何とか逃げ出すようなことはせず、布団にうつぶせになった状態で枕を抱きしめるように衝撃に耐えた。口元を押さえるようにして声が漏れないようにする。ここから先どれほど恥ずかしく、声を上げたくなる状況になるかは、さすがに経験で知っている。
篠原はその翔の予測通り、中に埋めた指をじわじわと動かし始めた。これからより質量のある篠原の雄を受け入れるためにやわらかく広げていく。もともとの機能とは違う使い方をするのだから、どうしても体に無理がかかる。傷が入ったりしないようにと、篠原はいつも慎重に過ぎるくらいだった。
「あっ……、あ、やぁ……ッ」
篠原がじわじわと中をなぶり、期待に緩んでくるそこに指を一本一本増やしていく。そのたびごとに、中で指が動き、敏感なところに触れるごとに翔の腰がはねた。甘いうめき声がもれ、物欲しげに誘うように体をゆする。
「……そろそろいけそうか?」
問いかけるというでもなく、確認するかのように篠原はつぶやいて、翔の後ろからゆっくりと指を引き抜いた。物ほしそうにひくつくそこに満足気に笑い、自らの着衣を緩める。何をするでもなくすでに猛っている己のものを軽く数度しごいて潤滑剤のぬめりをかり、翔の奥にあてがうと、ゆっくりと翔の背に覆いかぶさるようにして抱きしめた。
「がんばって声、抑えろよ。現場押さえられたら俺は説明できないからな」
からかうようなささやきを耳に落とし、ぐ、と中に押し入れる。
「ぁ、あ−−−−ッ!」
殺しきることのできなかった声がのどの奥から漏れる。翔はあわてて自分で枕を口元に当て、声を抑えた。だが、すぐに篠原が動き出してまた背を快楽が駆け上がる。
「ッ、あ、あぁ……ッ」
こらえきれず、押さえきれない声が漏れる。だが篠原もだからといって動きをとめるようなことはしなかった。彼にしてもずっと久しぶりの行為だった。目の前にあるおいしそうなご馳走にずっと手をつけられずにいたのだ。こんな風に自分の行為に感じ入る姿を見せられて、求められていて止まれるはずがなかった。
「も、だめ……、おねがッ」
あえぎの合間に、翔がねだる。必死で声を抑えるために枕を抱きしめていた翔は、無理やり片手を開けて自分の股間を慰め始める。後ろを攻められる強すぎる刺激に、すっかり立ち上がってしまっている前はそれでもまだ最後まで上り詰めることができずにいた。片手が両手になり、そっと触れていただけが次第に激しい動きになる。ねだる声に篠原の息もいよいよ上がり、その声にすら翔はあおられる。潤滑剤にぬれた相手の指が器用に胸の突起をなぶり始めるともうこらえることもできなかった。強く突き上げられ、中の敏感な場所を刷り上げられた次の瞬間、翔は耐えることもできずに熱を吐き出していた。そのすぐ後に、体内に熱いほとばしりを感じる。篠原も、そこに熱を解放したのだとすぐに理解することはできずとも、かんじることができた。
「……翔……大丈夫か?」
自分の中での荒くなった息を整え、腕の下で力をなくしてくったりとしてしまった青年を抱えるようにして篠原は問いかける。翔はなんとか小さくうなずくが、それだけでそれ以上にまともに動くことができなかった。その様子に苦笑して、体を離した篠原は嫌がる相手を無視しててきぱきと後始末を始める。
「……ごめ……」
何もできず、ただぐったりと布団に転がるしかない翔はただ謝ることしかできない。だけど篠原がそんなことを気にするはずもなく、慰めるようにぽんぽんと頭をなでられた。
「いいから寝てろ。疲れてるだろう」
今俺がさらに疲れさせちまったけどなと軽口をたたいて。もう一度ごめんとつぶやく翔の額に小さく口付ける。篠原が後始末を追えるころには、翔は篠原に用意した布団の中で小さな寝息を立てていた。
朝。翼がいるというのに寝坊するわけにもいかず、篠原は結局ほとんど寝ることなく起きる羽目になった。別に、だからといって昨夜のこと自体を悔いているわけではない。むしろ、今日の朝は寝不足ではあってもずいぶんと充実していた。
「おはよー……」
一応朝食を作って、眠い目を覚ますために濃いコーヒーを飲んでいると、翼が起きてきた。眠そうな顔で目をこすってはいるが、特に起こす必要もなく自分で起きてきたのはたいしたものだと思う。
「にーちゃんは? 帰ってきた?」
「ああ、あっちで寝てる。遅かったから、起こさないでやれよ」
帰ってくるころにはちゃんと起きているから、と。言えば翼もわかっているというようにうなずいて翔が眠る部屋に向かう。障子を開けて、篠原の布団で眠る翔を見るとどこかほっとしたように笑った。その上でなんだか納得のいかないような表情もしながら、そのままそっと障子を閉める。
「にーちゃん、なんでりゅーちゃんの布団で寝てるの」
一緒に寝るなら僕も呼んでくれたらよかったのにと。お兄ちゃんっこはすっかりむくれてしまっている。だがまさか昨夜の状態で寝ている翼を起こしてきて呼ぶことができたわけもなく。篠原はさてどうやってごまかそうかと一瞬天井を見上げる。
「なんか、嫌な夢みたらしいんだよ。うなされてたから、落ち着くまで一緒にいただけだ。寝てるのをわざわざ起こすほどじゃないだろう?」
だが使った言い訳はあまりよいものというわけでもなく、兄がうなされていたのだと聞けば翼はその話に食いついた。どんな夢を見ていたのかとか、何を言っていたのかとか。本当に兄のことになると視界が狭くなる。だが、見てもいなかったはずの夢の話などできるわけもなく、聞いていないからわからないとしか答えられない。
「……だったら仕方ないけど。りゅーちゃん、一緒に住むのはいいけど、にーちゃんを独り占めしたらだめだからね」
それはできない相談だなぁ、とはさすがに言えず、篠原は苦笑する。だが実際問題として、ブラコンなのはなにも翼だけではない。独り占めなど、しようとしたところでできるわけもないのだ。
「俺がそのつもりでも、翔がおとなしく独り占めなんてされてないだろ。おかしなこと心配してないで、早く飯食って学校行って来い」
「はーい」
翼は元気に返事をしてランドセルをつかんで家を出て行く。それを見送って、篠原は朝食後片付けをすると翔用にちょっとした朝食を作り、テーブルにおいておく。小学生ほど早い時間から活動しているわけではないが、仕事場まで距離があるからそろそろ出る準備をしなければいけないと。出かける準備をする。
「一度家に戻って着替えないといけないしな」
シャワーも浴びなきゃまずかろうし、と。昨夜のあのあと、簡単に始末しただけでちゃんと風呂に入ったわけでもない。本当なら今翔を起こして一緒に入ってしまえばいいのだが、さすがによく寝ているから起こすのもかわいそうだ。しかもそんなことをすると、確実にもう一度がっついてしまう。時間がないというのに。
出勤はひるからで言いというメモを残し、篠原は早川の家を出た……。
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