ラブ*スナイパー 〜 ソレが俺流 〜     《後編》
     
        


           《 作戦会議  ・・ 練り直し 》


            「ダゴール・・・知ってるかオイ?」

            「全然です・・・サッパリ・・・」



またしてもバイト後の深夜、漫画喫茶でネット検索。
キーワードは 【奇天烈ピエロ】。


度重なるミッション失敗に苛立つハコザキと、八つ当たられる俺。 その裏側、確実に株を上げてゆくオオクラと、取り敢えずあんま考えて無さそうにミーハーなナガサカ。 最早頭打ちかと思われた状況に、ある種の転機が訪れたのが今日、バイトで。 これからバイトの俺に、今日はもう上がりのナガサカが、あぁと言う感じで声を掛けた。


 「ねーオガミ君、映画とか好き?」

 「え、映画、映画かー映画は、」

 「コレ、貰ったんだけど一緒に行く人も居ないし、一人で行くのもなぁ〜〜」

と、鞄から取り出したのは二枚のチケット。 

  【奇天烈ピエロ】 座席指定、日付けは明後日。 


 「ダゴール知ってる? オシャレ系らしいんだけど〜」

やー・・ダゴールもオシャレも縁がないしわかんないけど、座席指定ってのは行けばお隣ってヤツで、でもキミは俺が、やっぱキミは、

 「あ! ヤダヤダそういうのナシだからもうッ! オガミ君てなんかデカクてボーっとしててタイプじゃないんだけど安心感があるッていうかなんだろ、お友達になれそうな予感?」

キャハハと笑うナガサカは、 「行こうねー」 と俺にチケットを一枚渡し元気に帰って行った。 どうやら恋愛対象とは方向が違ったらしい。 が、チッとも残念ではなかった。 残念どころかむしろ罪悪感無くコレを行使出来ると思った。 


 当日、映画館で待つナガサカ → 俺からの携帯 「ゴメン、急に兄貴が結婚相手連れて来るって言い出して家中大騒ぎでさ、」 → エーやだ一人はイヤー と怒るナガサカ → 「や、大丈夫! ハコザキさんにチケット渡したから、」 と俺 →スチャッと登場 「急に俺なんか来ちゃって不味かった?」 と、営業スマイルでハートをゲットするハコザキ → 「ウゥンぜんぜ〜ん!」 満更でもないナガサカとこのままデートに突入するハコザキ


 「ナイスアイディアだぞ! デクッ! 俺は今日始めてオマエを認めようと思った。 グッジョブ!」

早速、携帯で報告した俺にハコザキは大喜びの様子。 
なんだか俺も嬉しくなり、更に熱の入った計画を立案発表する始末。


 「でもハコザキさん、ココで終わらせちゃ詰め甘いです。 オシャレ映画に行くんです、しかも俺の代打で行くんですからやっぱ、ハコザキさんが来て良かったァ〜ていうパンチが欲しいじゃないすか?」

 「お、おう・・・パンチ・・・パンチ?」

 「そうです。 ダゴール・・・ソレはうんチャラ、 【奇天烈ピエロ】 ・・・それはカンチャラ と、語る豊富な薀蓄ですよ。 したら会話弾むでしょ? わ〜物知り〜 ッてナガサカうっとりで、 ハコザキさんってば見た目も中身もオシャレー って、もうもうメロメロですよッ!」


で、俺ら二人ウンチクの元を何一つ持ち合わせていなかったので電脳様のお世話になろうとココ、駅前、漫画喫茶マシュマロで作戦会議其の一を敢行。 しかし出てくる内容はどれも未知レベル、タイトルそのまんまに奇天烈で難解。 思わず二人で溜息を吐く、前途多難、先行きの暗さ。


 「コレ、取り敢えず観て見た方が何かわかるんじゃないですか?」

 「ビデオか? 出てるのかな、俺ら知らねぇだけでコレ有名なのか?」

 「さぁ・・・」

しかし映画は俺らの圏外では有名だったらしく、なんとなく向かったビデオ屋、名作の棚にあったそれは、苦もなく見つける事が出来た。 

ケースを取り出し、繁々と眺めるハコザキ。

 「ダゴール映画の傑作! ・・・傑作だってよ、どうする?」

 「借りるんですよ、」

 「ダメダメ、俺ンちデッキ壊れ中。 DVDでないかな?」

 「ココ無いみたいです。」

 「ん〜明後日だろ? 時間ねぇしなぁ・・・・」

 「じゃ、俺んちで見ますか?」

と、しかめっ面のハコザキに提案をしたのは他意なんてなかった。 


だけど、 ビデオが観たいんなら俺んちで見て、時間も時間だし泊まってッても良いし〜 とか話してて、 じゃーそうしよっかなー 言うハコザキが急に真顔になり

 「言っとくけど、ただ泊まるだけだからな。」

と念を押したのを聞いた途端、なんだか腹の中にモヤッとしたものが涌いた。 
他意が生まれた感じがした。 


けれども、そんな事はおくびにも出さず、しませんよッ! と言い張る俺はハコザキと電車に乗り、私鉄20分の俺ンちに向かう。 築二年、住んで二年目のアパートは割に綺麗だったので

 「意外に片付いてるねぇ」

とハコザキは興味津々そこらを眺め、部屋の隅に積み上げたバイク雑誌とマンガを見ると

 「バラ族とかあったら俺ァ、どうしようかと思ったね・・・」

と、人を喰った笑いを浮かべた。

いや、 どうしよう は俺だった。


ハコザキに念を押され、生まれた他意はムクムク俺の中で広がり、そのハコザキが泊まるんだという情報に容量少な目の頭はもうもうショート寸前の瀕死。 

そんな俺に構わず


 「デクッ! まず風呂沸かせ! そしてジックリ観るべし!」

ハコザキはヤル気満々。 


タオルを出せ着替えを貸せと騒ぎ、用意したソレは気に入らず、勝手に引出しを掻き混ぜた挙句


 「コレで妥協しなきゃなんねぇか俺は、」

と最初に出したのを抱え、途中コンビニで コレだけは借りたくねぇよ と買った下着を手に、当たり前のように一番湯に浸かった。 そして残された俺を煽るのは忌々しい水音だの鼻歌だの、このシャンプーは嫌だの、ボディソープじゃねぇのかよ言う、ココロ騒がしくするハコザキの雑音。 意味もなく珍しくも無い部屋の中をうろつき、ハタと思い立ちそこらのものを片付け、なんとなくベッドの皺を引っ張ったりした辺り、

ベッド! 一つしかないじゃん! 客用布団なんかないじゃん! じゃどうするよ?! 

と、そこにフワァ〜〜〜ッ、とイイ按配のハコザキ。

生乾きの髪、雑に拭いたらしい所々貼り付くTシャツ、ゆるゆるの半パンから伸びた体毛の薄い脛、


 「ハイお先でしたッ! そらデクッ! 急げ! 夜は短いからなッ! ・・・て、なんかビールとかないの? あるジャ〜ン!」


躊躇いも遠慮もなく、差し出された発泡酒をカシュッと開けゴクリと飲む喉元。 
火傷の痕なんかどこにも無い、白くて上気した首筋。

カァーッと変なテンションが上った。 


半端にテンパッたままギクシャク風呂に入り、出て来たらハコザキがほろ酔いで ハエェな! と片手を挙げ、カシャンとビデオはデッキに吸い込まれ、そしてペタンと座り胡座を掻きベッドに背中を預け、二人並んでブラウン管を見つめる深夜。 画面はモノクロかと思えば色が着いてて、ボソボソ語りのフランス語がオシャレなんだか退屈なのか、


 「なぁ、なんでコレ声と絵とあってねぇの?」

ハコザキが呟く。


 「さァ・・・そういうのオシャレなんじゃないですか?」

生返事する俺はといえば、一つも映画に集中していなかった。 

すぐ近く、ヒンヤリ湿った髪がTシャツの肩を濡らし、発泡酒を飲む腕が時折コツンと脇腹に当たる。 盗み見るハコザキの横顔は薄い皮膚が儚げで、喋んなきゃかなりイイ線イッてるッていうかイイ線てのはアレ?


 「・・・・馬鹿」

 「え?」

     俺?


 「馬鹿だよコイツ、なんで着いてくわけ? こんな会ったばかしのイッちゃってる女にノコノコと、」

 「まァ、そういうのがオシャレだと、」


馬鹿です、なるほど馬鹿です。 俺はほぼ初対面のハコザキにノコノコ着いて、こんな片棒を担ぐ破目になりました。 ソレは何故かと言うと、多分、いえもう隠しようがなく俺はハコザキに惚れてしまったからだと思います。 惚れました。 一目惚れです。 思わず欲情するほどピンポイントで惚れました。 

その惚れたハコザキの為にナガサカとのキューピッドをかって出る俺って馬鹿?

馬鹿だよ。 でも、ナガサカとならしょうがない。 上手く行くかどうかはおいといても、俺は二人が付き合う事をスンナリ納得出来る気がする。 ま、ナガサカはあぁいうイマイチ色気のないとこがあるけどでも、ハコザキも相当トンチンカンだから、付き合えばなかなか似合いのカップルなんじゃぁないか? お似合いですよ。 


が、オオクラは駄目だ。 


イヤ別にオオクラがハコザキとどうこうとか、そんな根拠も事実もないけど、何だろう、

―― 火傷の痕のない首筋


あの時オオクラは二度三度氷水で絞ったお手拭でハコザキを冷やし、着替えを手伝い、充分赤みが引いたのを確かめてから、そこにやけどの薬を塗り、軽くガーゼを当てたのだという。 的確な処置が、ハコザキに痕を残さなかった。 ヤルんだよ、アイツがさァ とハコザキ自身認めるように、それは俺から見てもカッコいいオオクラ。 爽やかで頼りになるオオクラ。 そんなオオクラにハコザキが多少好感を持つのは当たり前なのに、俺はそれが厭だった。 悔しいけどイイ奴ッ! そうハコザキが洩らしたのを聞けば、俺の腹の中モヤモヤがはちきれんばかりに膨張する。 

モヤモヤの正体は嫉妬。 

オオクラには渡したくない。 ナガサカなら、ナガサカは女だし、可愛いし、まーしょうがないとあきらめる事が出来るかも知れないけどオオクラは駄目だ。 駄目。 途中から出て来た癖に、当て馬候補の癖に、

ちょっと接近し過ぎ? 


し過ぎだよ・・・・。 


トサッと左半分に重み。 落ちて来る頭をとっさに膝の上で受け止めて、アー最低、この人はこんな風に、こんなとこで寝てしまうなんて・・・・・。 ブラウン管の中、海岸沿いで男が叫び女も叫ぶ。 ビデオはまだ終わっちゃいない。 けどハコザキはすぅーすぅー寝息を立て、俺の膝枕なんかで寝てる。 膝枕なんかで。 膝の上にハコザキの頭。 額が剥き出しになるとチョッと幼い感じがして、いつも吊り上がってると思った眉は綺麗な弧を描き、上からの照明に睫毛が頬骨の上に薄っすら影を落とす。 小さく開いた唇。 怒鳴ったり命令したりしない唇は色味が薄くて温度低そうで、触れたらきっと、触れる、触れる?・・・・・・・


     チャンチャカチャカチャカ スッ、チャンチャンッ 〜♪〜

笑点?!


パチッと目を開けたハコザキがサササと部屋の隅の鞄を探り、モシモォ〜シと携帯を開いた。 ナイスタイミング! 或いはバッドタイミング! 


俺はハコザキにキスするところだった。 

だから 「俺寝てたか〜?」 と尋ねるハコザキの顔を真っ直ぐ見れなかった。 
「コノヤロちゃっかり膝枕しやがッて変なコトしてねぇだろうな?」 と言うハコザキに、してねぇよ馬鹿と言った。 

してはいないから。 しようとしてただけだから。 

嘘じゃねぇよ、だろッ?

でも、ハコザキにキスするところだった。 

物凄くしたかった。



          《 ミッション3. 愛ラブシネマ大作戦 》


コレでイイのだ。 コレでイイ。 コレで本当に良かったのだ。 間違いない。

バイトの無い木曜、何をするでもなく部屋に篭り、つけっぱなしテレビがワイドショーでマル得情報を流し、昼メロで涙を攫い、テレビショッピングで高級桐箪笥三段セットを売ろうとしているのもスル〜して、俺はただ一人悶々と、まさに悶々とその時間が来て過ぎて行くのを待っていた。 それでイイのだ。 俺は決して間違っちゃいないのだ。


お泊りをしたハコザキは、あの後もういっぺん最初から観ようとビデオを巻き戻し、見どころはなんだとか名台詞はあったかとか俺を質問攻めにして、俺の答えには不満足の極みで。 なのに二回目の上映中も、ハコザキはまたしても同じような辺りでスゥーと寝息を立て、アッと言う間に穏やかな睡眠についた。 俺は眠るハコザキを見ちゃおれなくて、そっと担ぎベッドに寝かせ、自分は丸めたジャージを枕にバスタオルを腹に乗せ、ベッド下の絨毯で寝た。 朝起きればハコザキは自分ちのようにコーヒーを飲んでいて 朝飯はどうするよ? とか ここらにヨシギュウはねぇのか? とか 朝定食喰いたい とか言って、結局寝起きで俺は二つ隣りの駅までハコザキと出掛け、ヨシギュウの朝定を食べてそこでハコザキとは別れた。

そして昨日、バイトの帰りに俺は、ハコザキにお手製 虎の巻 を進呈する。 件のオシャレ映画の粗筋と見どころ、有名らしい台詞とか場面だとかをネットの情報から集め、まとめ、コレを叩き込めば素早くウンチク博士! と、戸惑うハコザキを激励したのだった。 

 「サンキュッ! デクッ! ア〜俺さ、オマエに色々我侭言って申し訳ないなーってちょっと思ったりして、アハハ、マジ感謝してる、ホント、ホッペにチュゥしちゃいたいくらい感謝!」

 「じゃ、します」

 「え? うわわ   ・・んッ・・・・」

ビルの陰、引っ張り込んだハコザキを壁に押し付け唇を塞ぐ。


往生際の悪い手足は虫みたいにもがき、俺を押し退けようと暴れたが、だけどなにせ体格差があるし、それに殴られても俺は止めるつもりなんて無かった。 ハコザキの唇は想像より柔らかく、ヒンヤリどころかしっとり暖かかったし、舌を入れたら噛まれそうだから、上唇をそっと舌で辿り、もう一度名残惜しく触れて解放する。 

殴られるかと思ったが、ハコザキはポカンとこちらを見上げていた。 

だから俺は 健闘を祈ります と伝え、無言のハコザキを置いてその場を去った。 

以降、ハコザキからの連絡は無い。 
以降、俺はこうして悶々と、作戦終了までの時間を遣る瀬無く過ごす。


コレでイイじゃねぇか? コレでメデタク作戦成功じゃねぇか!

だけど、やりきれなさで頭がワーッとなりそうだった。 ナガサカなら諦めつくとか思ってた癖に、それが秒読みになると、とてもマトモじゃ居られなくなっていた。 キィと身を捩り転がると洗濯したばかりのTシャツが頬に当たり、それはこの間ハコザキが着たTシャツで、俺はそれを抱き締めシクシクと泣いた。 女々しくてもイイ。 俺はホモで腰抜けでまさに当て馬の、女々しい馬鹿野郎なのだ!

 ―― の様に泣き寝入りをする昼下がり、そろそろハコザキさんは気合い入れて家出たかなァ〜と、また泣きそうになった頃、テーブルの上、マナーモードの携帯がブルブルと地響きをあげる。


 「・・・もしもし、」

 「アッ! オガミ君、あたし〜ナガサカ〜もう今向かってるところ〜? あのねー今日、急に兄貴が結婚したい人を連れてくるとか言い出してもう家中大騒ぎでアァンだからゴメン、行けないよ〜!」

 「マジッ?!」


僥倖が見えた。
 
 「でも大丈夫、あたしオオクラ君にチケット渡しといたから〜。」

 「お、オオクラッ?!」

 「うん。 オオクラ君ダゴ〜ル大好きなんだッてぇ〜、色々教えてくれるよ〜きっと〜。 だから心配しないで愉しんできてね〜。 じゃ!」


            ツー ツー ツー ・・・・・・・


マズイ、物凄くマズイ、マズイマズイ何でオオクラよりによってオオクラ?! すかさずハコザキに連絡をする俺だが 

―― 現在、電波の届かないトコロ・・・ ―― 

駄目じゃん!?

カチカチリダイヤルを掛け、ノイローゼの熊のように狭い四畳半を徘徊する俺。 
しかし繋がらない、どうにも繋がらない、あぁこのままではこのまま、


 「う〜んナガサカまだかなァ」 とハッピィなハコザキ → 「どうも!」 オモムロ隣りに座るオオクラが 「ナガサカの代打で来たんだよ、ま、ヨロシク!」 とかなんか憎めない爽やかさで挨拶 → つい絆され自分も 「ヨロシク 」とか言っちゃうハコザキ → 始まるまでの短い時間、要領良く素晴らしいウンチクを披露するオオクラ → 「オマエなんでも知ってるんだなぁ!」 と素直に感動しちゃうハコザキ → そして映画が始まりなんか海が出てくるあたりでスヤスヤ寝ちまうハコザキを、そっと抱き寄せるオオクラ → 思わず色々しちまうオオクラと何も知らないで眠るハコザキ・・・・・


    じょ、冗談じゃねぇよッッ?!


バタバタそこらの物を身に付け、ダッシュで駅に向かう俺。 途中靴下が左右違う事に気付いたが屁でもねぇ、誰も足元なんか見ねぇよ畜生、それよか携帯通じない、携帯が繋がらない、時刻はそろそろ会場時間、ハコザキは今どこだ? 着いてるのか? 既に館内で携帯切ってんのか? 切るだろ? やっぱオシャレ映画で笑点流れたらイヤだろ? でもマナーにしろよッ! 切るなよ! この大事な時にッ!

全力疾走のコンコース、ゼイゼイ吊革にぶら下がる俺のポケット、ブルッと来て取り出せば

 「ナナナななんでオオクラが居るンだよッ!」

 「ハコザキさんッ!?」

 「どうなってんだよ、なぁオイ俺は、なぁ、」

 「あの実はさっきナガサカから連絡があって・・・・」


声を潜めかなり動揺しているハコザキに事の次第を伝え、すぐに行くからナントカするからと俺は伝える。 そして一番大事な事を、

 「ハコザキさんッ、」

 「なんだよデク?」

 「映画観てて絶対寝ちゃイケマセン! 寝ないでください! 絶対ですからね! 絶対・・・・あ?・・・・・」

電車は地下に潜った。 無情に断ち切られた命綱の電波。 その上闇雲に飛び乗ったソレは各駅だった。 待ち合わせこそ無いが、着くのは後40分以上先。 


永遠のような40分を堪え、俺は今、鬼のようなダッシュで映画館へと向かう。 呼吸も荒く到着すれば、自由席というのがあった。 即購入。 幽鬼のようにゆらゆら座席へと進み、取り敢えず座り、辺りを見回してハコザキとオオクラを捜す。 ほの暗いスクリーンの光に照らされ浮かぶ客席、なんて言うかガラガラ。 コレ指定席の意味あるのかな? な、くらいのガラガラ具合だった。 なのでどこが指定席かはわからないが、なんとなく人が多い感じの一帯、そしてその中程頭一つ飛び出した二人連れ、

   発見ッ!


普通に二人で観てる。 観ているように見える。 映画好きの二人が、普通に並んで観てるように見える。 だよな・・・・ナニを俺は心配してるのだ。 馬鹿だねぇ〜 と、途端にヘナヘナ緊張が解け、後に残るのは何やら空っぽな気持ち。 俺ナニ遣ってんだろうと、俺ナニ虚しい事遣ってんだろうと、途端に襲ってきたブル〜に押し潰されそうになり、気晴らしに飲み物でも買ってこようかと売店へ向かう俺。 コーラかファンタかアイスウーロンか迷い、ゲップが出るとカッコ悪いからウーロンを購入。 ついでにナンカ喰う物欲しいなと迷ってたら無償に貝柱が欲しくなり、 ブルーな自分へのご褒美! と思い、清水の舞台から飛び降りる心意気でお値段高めなソレを購入。 そうして充実したショッピングを終え座席に戻れば画面は海。 海!

で、やっぱ寝てるしあの人はもうッ!!

ハコザキは寝てた。 

案の定だが何で起きてらんないのか、小振りの頭がグラグラと明らかに居眠り運動の軌跡を描き、そして俺は見た。 オオクラが前の方でハコザキの身体をクイッ自分の方へと引く。 トスンとオオクラの肩に着地するハコザキの頭。 スクリーンでは男と女がなんか叫んだり怒鳴ったりしてて、オオクラはそれを見てるようで見てなくて、ちょっと捻った角度、てめぇの肩に乗ったハコザキの顔を見てる! 見てる! 見てやがるぞアイツめコノヤロッ! そしてスッと頭が下がり角度が変わってまた、戻った。

ヤヤヤヤヤッ! チュウですか?! アレはチュウしたんですかッ?!


目の前真っ白って言うより血が昇り真っ赤な俺。 
ギラギラ上昇中の俺を煽るように、大胆にもハコザキの肩に手を回すオオクラ。 

もォ我慢限界ッ!


スクリーンはバタバタと目に悪そうな画面の連続、相変わらずわけわからん男と女。 そしてわけわからん俺は ゴメンなさいよ と客席を進み、不埒なオオクラの真後ろへ座り、武者震いする今こそ我生涯一度きりの大勝負! パシッとナマイキな手を払い潜め声でも毅然と

 「触んないで下さいッ!」

 「え? えぇ? なに? オガミ君どうして?」

 「ソレ、俺のです。 ハコザキさんは俺のなんです!」


バシッと言いました。

 「嘘、・・・え・・・ッてそういう事なの? 君たちって・・・」

 「そうです(俺の中では)、だからオオクラさんには悪いけど、俺たちもうシッカリ出来ちゃってるから(俺の希望)それ以上手ェ出さないで下さいッ!」

言ってやったよッ! 

俺はヤッった。 俺はガツンと言ってやった。 

そして今頃、暢気に目を醒ましたハコザキはアレェと後ろ向いてるオオクラの視線の先、鬼の首とったような顔の俺を認め、


 「デク、何で居るの? なぁに勝ち誇った顔して、」

ニッコリした顔に震えたから、ギュウッと愛すべき頭蓋を抱き締めて
・・・・瞬間、こないだのキスを思い出したかザッと離れたハコザキが


「てめぇ、こんなトコでキスしやがったら殺すぞ・・・・」

「いや・・・ココではしないっていうか、あの・・・」


雄々しい今さっきが嘘のように消え去り、リバウンド的にカァ〜ッと照れて行く俺。 そんな俺達を眺めるオオクラは例の底抜けに爽やかな微笑を浮かべ、


「あ〜あ、あてられちゃうねェ〜。」

そして俺の耳元に顔を寄せ 「お幸せに! でもさっきのキスは内緒にしてよ」 と囁き、コレがまた憎めない爽やかさで笑うのだった。 なになに何? 言うハコザキが、中腰になったオオクラを見上げれば 

「今日は楽しかったよ。でも一足先に帰るね。」

じゃまたバイトで〜と小さく手を振り、まばらな客にスミマセンねぇ言いながら立ち去って行くオオクラ。 

なんてイイ奴! 

アイツ漢だよ、マブダチですッて言って良いですか? アンケートの尊敬する人に名前出してもイイですか?


スクリーンでは奇天烈ガムテープ巻きの男が、トリコロールの緊縛でドカンと爆死。 

         ジ、エンド。


 「・・・で、ナンダッタんだよ? どうしてオオクラ帰っちゃったの? 映画コレで終わりなのかよ、コレで? なぁ、」


     わからなくたってイインです。


                ハッキリしてるのはもう、アナタは当て馬なんかじゃナイッて事。


                    だからアナタにオンリィワンだと言われたい。
                        ナンバーワンだと言われたい。
                              なんと言っても! 

                           アナタがイヤと言っても!!



 「ハコザキさん、俺ら幸せになりましょうッ!」

 「オマエ、なんか涌いてんじゃねぇの?」



             座席の暗がりで 「リアルだよ! ホモだよホモホモ!」 言う声が聞こえましたが
             ソレがナンダと云うんでしょうか?





                              だって俺は幸せです。 

                         俺は世界一ハッピィな本命なんです!!






October 24, 2004




                                           
ラブ*スナイパー 〜 ソレが俺流 〜



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   > ガンバレ当て馬君  というリクで書く  
                   実は版権の「NP」はコレの双子作品(元は同じ話だから所々内容が被る)