ラブ*スナイパー 〜 ソレが俺流 〜     《前編》
     
        



                     アナタの本命になりたいんです。

             多分とかキットだとかモシカシタラなんて温いラブじゃぁなくって、
                     寝ても醒めても明けても暮れても
                         アナタだけトクベツ! 

                             なぁんて

                   アナタのオンリィワンになりたいんです!!



 「とまぁ、そこでオマエの出番なんだよ、」


ゴンと中ジョッキを下ろした手が割り箸を掴み、微塵の迷いもなく俺の皿のビアソーセージ(4本盛り ザワークラフト添え 680円)を攫う。

 「あッ!」

 「ンだよ?」


ジロリとほろ酔いの目が睨んだ。 
薄い唇が潔く開き、小振りの歯がカシュッと腸詰の横っ腹を噛み千切る。

 「自分のから喰えよ、」


奴の取り皿には、クチャクチャキャベツと並んでいるまだ無事なソーセージが一本。

 「だからソレ喰ったらオレのもうナイじゃん。」


まるで反省なく、奴は あ〜ビールに合う合う! と労働から遠そうな腕でジョッキを傾けた。 そしてまた、滑らかに箸を伸ばし人の皿から最後の一本をゲット。

 「おいッ」

 「おい? ・・・・年上に向かってオイ言うかね、」


そう、奴は2コ上、バイト先の先輩だった。 

 「てか・・・ソレ注文したの俺じゃねぇか、ハコザキさんは4本680円は暴利だとかなんか思いっきり貶してたじゃないですか!」

 「ウ〜ン、高いモノほど人の金で喰うと美味いンだよねぇ〜」

 「お、奢るなんて俺、」

 「アァ? テメェに奢らねぇ理由があんのかよ?」


 ・・・・ないです・・・・・・ 

呟いた俺はざっと見渡したテーブルの上の総額に涙が出そうになる。 が、先輩ハコザキはそんな俺をどことなく嬉しそうに眺め、最後の一口となったソーセージをこれ見よがしに齧った。 そして、イヤァな感じで笑って言うのだ。

 「しかしアレだ、やっぱホモはソーセージ好きなの? 脊髄反射?」

 「ほ、ホモじゃねぇよッ!」

瞬間、隣りのテーブルの女子大生風が、ピクリとこちらに反応したのが見えた。 違う! 聞いてくれ、誤解なんだ! 店内、闇雲に言って回りたい衝動に駆られ、居たたまれない俺は貧乏揺すりを始める。 が、キョドる俺に更に追い討ちを掛けるハコザキ。

 「つぅか、俺で勃ったじゃん・・・」

 「・・・・・・・」


笑うハコザキの唇。 ヌラッとソーセージの油で光る薄い唇をヒラヒラした指が擦り、グイッとジョッキを煽る首に綺麗な筋が浮いた。 釦二つ外れた忌々しいシャツの隙間、忌々しい白い三角から目が離せない俺。 



先週久し振りに帰った自宅、コッソリ兄貴の車でビデオを返しに行った俺は車庫入れでガリガリしてしまい、即バレて、即制裁、修理代六万八千円也の借金持ちになった。 六万八千円。 赤貧学生には目の眩む数字。 已む無くそれまで続けてた温いコンビ二のバイトに別れを告げ、より高額な時給を求め羽ばたく夜の街。 羽ばたいたとも時給1500円、破格! 俺基準、ホストでもしない限りコレは美味い話だぞと大喜びで面接・採用とトントン拍子のソレは『和風居酒屋 呑休(どんきゅう)』、職種はウェイター兼洗い場。 日本家屋風の店内、小僧は来ちゃ駄目風味にアダルトで、向かって左のエリアは椅子席+カウンター、右のエリアは個室が五部屋並ぶ御座敷貸しきりエリア。 和服の女の子が静々店内を徘徊して、野郎は丁稚のように鍋だのミニ七輪だのジョッキだのを運ぶ。 

まぁそんなもんだ、割に楽勝? と思えた。 
思えたがソリャ錯覚だったらしい。


バイト初日の今日、佐務衣に着替えた俺がホシノ監督そっくりの店長に コッチ!コッチ! 言われて来たのは店の左右を分ける仕切りに埋め込まれたようなブース。 三畳ほどのそこは三方を棚に囲まれ、皿だのグラスだのその他用途のわからない細々した何かがみっちり詰まっているカオス。 のこる一辺はカウンター式の洗い場。 腰を屈めてカウンター下の穴を潜り、入ればゴージャスな便所くらいの広さしかなかった。

 「オガミ君、まず今日は洗い場からね! ここでグラスとかツマミの小皿とかとか、あと簡単な飲み物の種類とか覚えてよね! で、慣れるまでの間先輩つけるから、ハコザキくぅん!」

ブースの暖簾を潜ってきた男はジロリと俺を眺め 

 「こんなデカイ奴と中、入れねぇだろ?」 

と呟き、あんまり宜しくしたくないような口調で小さくヨロシクと言った。 そしてもう一度ジロジロして、デケェ、と眉を顰めるのだった。 それがハコザキとの出会いだ。


本来一人で入る洗い場の中、男二人入れば横に並んでギリギリ、それが左右の棚を開け吊るしたグラスを取り足元の何かを探すとなると昔正月に家族でやったツイスターを想い出す。 しかも俺は使いモノにならず、そのツイスターの酷いポジションになるのは殆んどそのハコザキだったから、

 「クズッ! 役立たず! おまけに無駄にデカイのかよッ! クソッ!」

もうカンカン。 

けど次々運び込まれるグラス、次々投げ込まれる注文、俺がもたもた床を水浸しにしたりグラスを間違えたりキスチョコをばら撒いたりしている時、ハコザキはマシンのようにグラスを洗い、水割りを作り、焼酎のボトルを出し、ポッキーを数えたり俺を怒鳴りつけたりした。 水を扱う為、俺らは佐務衣の上から魚屋のような長いゴムエプロンをつけて働く。 これが相当に蒸れて暑い。 見れば、俺よかハードに働くハコザキは汗だくだった。 

汗が額から頬を滑り、尖りめの細い顎からホタホタと落ちる。 薄茶の髪が額に首筋に張り付いている。 日照時間の少なそうな肌が今は、捲り上げた腕も、緩めた襟元も、汗ばみ光る頬も、薄っすらピンク色に染まり湯上りのような按配。 ・・・・ 温泉で癒されるぅ〜〜 ・・・・・ 気付けば手が止まっていた。

 「ウドッ! ボサッとすんなッ!」

 「あッ、あ、スミマセン、」

怒鳴られ睨まれ、過剰にうろたえるのは俺に後ろめたさがあったから。 奇天烈上昇中のテンション。 サーッとデリートされて行く脳味噌。 汗が噴き出すのは、暑いだけじゃぁない。 み、見蕩れてた? 誰に? コイツに? 俺が?

    あ、ありえねぇ!


おもむろに捻る蛇口、ドシャァ〜ッと跳ね上がる水飛沫、やべぇ! と思った時はもう後の祭り。

 「ウオッ! ナナナなにしやがるッ?!」

 「スス、スミマセンッ! あの、」

 「蛇口切り替えろッて言ったろッ、聞いてねぇのかよッ、てめぇの耳は飾りかよバカヤロッ!」

忘れてた。 さっき女の子が 「水一杯ちょうだい」 ッて来て蛇口切り替えたのをシャワーに戻すの忘れてた・・・・。 デカイ魚屋エプロンも真横からの攻撃には為す術もなく、俺の真横のハコザキは奇襲水攻撃にほぼ全身ずぶ濡れだ。 ずぶ濡れ。それはまたなにか 俺はソレ見ないほうがいんじゃないかなぁ〜 な感じの、


 「だぁ〜〜パンツまでビショビショじゃねぇかよ、キモワリィ・・・」

手拭タオルで乱暴に濡れた頭を擦り、貼り付いた佐務衣を嫌そうに摘んだ。 
そして、


 「脱いじまおう・・・」

わぁ〜〜〜〜


エプロンの輪ッかを首から外し、ベロンと脱皮のように佐務衣の上を脱ぎ捨てるハコザキ。 濡れた佐務衣は丸め、ポンと隅のビールケースの上に放る。 剥き出しになった背中、背骨の配列が妙に生々しく動いた。 そして上気した白の上に、無骨な黒い魚屋エプロンを下げる。  

   ハ、裸エプロン!! 

黒の隙間に覗く腕の付け根とか、へこんだ腹とか、佐務衣のサイズが大きいのか辛うじてソレを引っ掛けている突き出した腰骨とか。

 「おらデクッ! トットとその山洗いあげろッ!」

 「ハイィッ!」

声が裏返るくらいどうだって言うのか、ソレはもう地獄のようなヒトトキ。 地獄! 目の遣り場がない、いや別に何があるわけでもなくただそこで野郎が上脱いで働いてるだけなんだけど、そうだよ奴には揺れる乳も魅惑のクビレもあるわけでなく、見えそで見えないビーチクにズキュンッてわけじゃ、見えそで見えない・・・・・・ その角度からのアングルは相当にヤバイ感じで薄べったい胸のダカラナンダというポチンをこう、ちらり、ちらりと、

        ズキュンッ!! 

       ―― 勃った。


 「アリャ〜、梅シロップ切れたのかよ・・・」

大量の焼酎割りセットを作っていたハコザキが、舌打ちをし、俺の背後に回りガサゴソ何やらを探り始めた。 背中に、腰に、腿に、密着しつつ動く生暖かい体温に悲鳴上げそうな俺。 その息子はといえば、分厚いゴムエプロンを持ち上げようと必死に背伸びする有り様。 レスキュー! レスキュー! 絶体絶命な俺はシャカリキにグラスの山を洗い、平常心平常心と心の中で唱えるが、ハコザキはそれをいとも簡単に揺さぶって破壊する。

 「ソコか・・・・」

 「ォオッ?!」

後ろのハコザキがズルリと横に戻り、ヒョイとしゃがむと俺のエプロンを捲くりその足元に潜る。 見下ろせば白い背中、緩く腰に巻かれた紐一本、下がり気味の佐務依は尻まで見えそうで見えない感じに、

 「な、ナニしてるんですか?」

 「シロップの在庫探してんだよ、マグロでも捌いてるように見えンのかよ、アーくれぐれも俺ン背中の上に水だの洗剤だの垂らすなよ、コロスぞ、チッ・・・暗くてよく見えねぇ・・・・」

足元の戸棚を探るハコザキの背中、ゆらゆらアレな感じで動く腰、半分エプロンの下に隠れてるというのがミソで、いや何のミソだよ、ミソってなんだ? のような俺の葛藤にはお構いなし、息子はますます天を突くキカン坊振りで、ヤバイ、ヤバ過ぎる、コイツがもしソレに気付いたら、上なんか向いたら、、いやでも暗いから上見たッてわかんねぇとか、でも、

 「有ったッ! クソ、よりによってこんな奥に、期限・・・有効・・ッと、おらよ、デク受取れ」

グイと下から突き出されたボトルが黒いエプロンを持ち上げ、流しと俺の間に嵌り込むハコザキとその頭上のアカラサマな出っ張りを蛍光灯が晧々と照らし、


 「アァ?」

 「こ、コレはあの、いやちがくてあの、」

 「・・・・なぁデク・・・・オマエ、セクシィな年上の俺を、こんなとこでレイプしようとか思ってねぇだろうな?・・・・」



そして残り時間、俺らはほぼ無言で労働に勤しむ。 


ほぼと云うのは途中、無理矢理濡れた佐務衣を着たハコザキが 「寒い」 だの 「気持ち悪い」 だのこぼし、 「手は上に出してろッ! 下持ってってゴソゴソしやがったら泣かすぞッ!」 とか俺に怒鳴ったりしたからで、俺らはホボ無言、ピリピリした空気の中、それでも俺は微勃ちのままトータル四時間半の労働を終えた。 このバイト、今日でお終いだなと思えた。 

無言で向かった更衣室、ハコザキは 「ヨシと言うまでコッチ見るなッ!」 と俺に命じ背中をコッチに向けて着替える。 やがてカチカチ忙しいライターの音がして、ふわり紫煙が視界の隅に散った。 そして 「ヨシ」 と、ハコザキの声。 振り返れば咥え煙草のハコザキが、したたかな猫みたいな目をして俺を見つめる。


 「さぁて、出逢いの記念に、今夜は楽しく飲もうな、」

 「え?」

フィルターをはむ唇。 不吉なニヤニヤ笑いに吊り上がるハコザキの唇。 


 「付き合ってくれるんだろ?」

もう一度問われ、頷いた俺に落ち度なんかない。 

ないだろう? 

逆らえねぇよ、弱み握られっぱなしの上、まるで蛇に睨まれたカエル。 


そうして俺はハコザキの後に続き、お洒落なビアガーデンで居たたまれない二人きり飲み会を始める。 既にこの段階で俺は、ハコザキの不吉な計画に片足を突っ込んでいたのかも知れない。 
いや既に両足?

ハコザキはバイトのナガサカ ミナミ(ホール担当 20歳)を狙っていた。 だかナガサカは同じくバイトのオオクラ ショウヘイ(カウンター 22歳)に好感を持っているという噂。 ちなみにハコザキはそのオオクラに過去二回、アタック中の彼女をサクッと獲られているらしい。 

 「さり気ない会話から巧みに趣味だのリサーチして じゃぁ今度バイト終わってから飲まない? なんてトコまで行ってたのに ゴメン、あたしオオクラさんが好きなのッ☆ ・・・ッてナニ? イキナリかよッ! で、またオオクラかよッ! 見た目なんてば俺のが二馬身位リードだろッ?! しかもアイツ、二度とも付き合わねぇで振ってるんだよ、何で? クソ、きっと爽やかにゴメンとか言ってやがるんだよなッ、畜生ッ!!」

確かに、スマートで垢抜けたハコザキは薄情そうな感じはするがいわゆる綺麗な顔をしていた。 が、バイト面接の時さり気に水を出してくれたオオクラは、いかにもイイヤツそうで、背も高く、爽やか〜な感じのサッパリ顔はやっぱモテるよなぁ〜と厭味なく思わせる人物。

 「あの人はモテるだろうな・・・・」

 「ッてオマエは俺派だろ? 俺に魂抜かれてキュゥ〜なんだろッ!」

 「ち、違うッ、」

 「照れるなバカヤロ、だからオマエに白羽の矢を当てたんだよ、ト・ク・べ・ツ・高値の花の俺からオマエにフォ〜ユゥ〜なんだよ受取れッ!」

 「ヤですッ!」


が、瞬く間に俺は、その不吉な計画の片棒を担ぐ破目になっていました。

不吉な計画、即ち  『恋の横取り*大作戦!!』 


 「なんか・・・卑怯そうな作戦ですね・・・」

 「うるせぇよ!」


要するに俺はハコザキの為に、ナガサカとのツーショットの場を作り、逆にオオクラとナガサカが接する機会を極力減らすように努力する 『大役』 。 が、勿論俺はそんな御大層な役割をしたいなんてコレッパカシも思ってはいない。 いないけど、遣りたくないですと断固拒否する根性も話術もなかった。 

 「まァ、役得だろオマエ的には。 しかしビックリだ、まさか俺のフェロモンがソッチ方面に有効だとは、ウハァ〜もう銭湯とかプールとか行けねぇよ俺!!」

俺もビックリだ。 

けれど謎のビックリにより、俺はその作戦に組み込まれて行った。 
深く考えるのは本能が 「止めろ」 と忠告した。 当然、従う。




          《 ミッション1. 雨の日はそばにいて☆作戦 》


その日、22時の早上がりをした俺とハコザキは、韓国人グループが大盛り上がりしてるロッテリアで入念なリハーサルを繰り返していた。 

 「だからイイか? ナガクラとオオクラがヤッダァ〜なんて感じにエレベーターから下りて来たッ、したら?」

 「・・・・ オオクラさん、いいスか?、」

 「ドス効かせてどうすんだよッ! カツあげじゃねぇんだよ、そんじゃお思いきり警戒されるだろッ?!」


俺は今夜11時に上がる二人を待ち伏せて、オオクラだけを連れ出す予定。 そして一人になったナガサカを、ビルから出てすぐのコンビニ前で待ち構えていたハコザキがゲットする予定。 ハコザキはこの為に今日、雨が降り出すのをわかっていて傘を持って来なかった。 それはナガサカにエンカウントした時

 「いや傘忘れちゃって、ソコで買って、ついでに雨宿りしてたんだよね〜、」

と言いたいが為。 
だったら普通に相合傘のほうがイイと思うけど、わざわざ提案するほどではない。


 「で、俺は素敵な雨の帰り道、ラブトークを愉しみつつ駅までの12分を謳歌!」

 「上手く行きますかね・・・・」

 「行くんだよ、ソレの半分以上はオマエの手腕に掛かってるんだよ、」


そして、フゥ〜と長く細い煙を吐いた。 

細いといえば煙草を摘み、俺に突きつけヒラヒラ振る指も、男にしては節も目立たずかなり細い。 器用そうな指。 いや事実、器用なのは仕事振りで証明されてるんだが、指は灰皿の縁で煙草を弾き、煙草を離れたと思うや俺の手首にキュッと巻きついて、

 「ヨシ、10分前。」


俺の手首を捻り腕時計を眺めるハコザキが 行って来い と言った。 
何故だか俺の脈拍はウナギ登りに上昇。

 「ボサッとすんなよ、行けオガミ! GO!」

 「え? も、」

 「もうだよ、世の中何があるかわかんねぇから念には念を入れて用心には用心で、」


のろのろ立ち上がる俺に、すかさず押し付けられた会計片。 
するり指は俺の手首を離れ、また灰皿へと伸びる。 ホッとしたような何かが欠けたような、

 「俺はコレ吸ってから行く。 コンビにまでならこっから三分ねぇし、」


ファイト〜! とふざけた声援を受け、俺は居酒屋のある雑ビル下へと向かった。

 雨なのに、ここは嫌がらせのように人がウジャウジャとたむろす。 暇な奴らめ! と思った。 が、その比でない暇なバカヤロウは俺だった。 何の為に? 何で? ビルのエントランスに入り、畳んだ傘をゴムの木に引っ掛けてボンヤリ通りを眺めて立つ。 無意識に手首を触っていて、気付いた瞬間、カァ〜ッと血が上りありえないほど慌てた。 

ナニやってんの俺? 

 「あれぇ! オガミ君なにヤッてんのォ?」

 「え? あ、お、」


ナガサカが俺の肩をパシッと叩き、 イヤァン結構降ってるぅ〜 と空を見上げる。  ナンで? まだ五分前じゃん、まだ早いのに何で? で、オオクラは?

 「雨のせいか客入りが悪くって、店長が10分前に上がってイイって〜、」

 「へ、へぇ〜良かったな〜」


良かねぇよ。 

ココで俺がナガサカをゲットしてどうすんだよ、いや、とにかくナガサカに帰ってもらって俺はココでオオクラを、


 「早く上がったら時間給減るじゃんねぇ〜、ぜんぜん良くないしねー最近あの店ヤバイんじゃないかって、あそうか、オガミ君入ったばっかだからまだ店のことわかんないだろうけど去年の暮れ店長が代わってそんで今の」

会話途切れず。

 「う、うん、だな、でもホラいつもより早く帰れるし、そうだよ、急げば一本早い電車乗れんじゃ」

帰れ! お願いだからオハナシは俺じゃない人として、そんで帰ってくれ頼むから、


 「お疲れ様ァ〜〜!」

 「「あ、お疲れ様〜!」」


     オオクラッ?! 

思わずナガサカと、挨拶しちまった俺。 
上げた片手をどうしようかと頭を掻き、とにかく追いかけようとする俺のシャツの裾をナガサカがぐいっと

 「ね、今度さぁ、飲みに行かない? あたしと、」



     嘘ォッ!




          《 ミッション2.  出逢い頭にドッキリ☆作戦 》



バイトも二週間目に入り、いよいよ俺はホールを任される事になった。 「く」 の字のカウンターを囲み、二重の 「し」 の字にに並ぶテーブル席。 そのホールと宴会エリアとの境、うろ覚えのメニューに一杯一杯の俺はお冷やの入ったピッチャーを手に、更なる大試練を抱えヤ〜な汗を掻き佇む。


あの日、コンビニ前でワクワクしていたハコザキは御機嫌なオオクラに出会い、雨降りハッピィトーク満載のひとときを駅前の居酒屋で過ごしたらしい。

 「なんで俺がアイツとカンパ〜イとか談笑しなきゃなんねぇンだよッ!」


その夜、俺の携帯は約一時間に渡り、ハコザキ罵声を受信し続けた。 

 「だったら、ガツンと断りゃ良かったじゃないですか、」


断るべきなのだ。 そもそもオオクラは無理強いするような男じゃないし、ならばイヤダと言えば良いのだ。 なのにこの男はノコノコついてって結構な飲み食いをして、

 「ツーかアイツなぁんか凶悪にイイ奴臭くて、最初に用事ナイとか言っちゃったからチョーウレシーッて感じで 飲みに行こう! ッて言われてなんかこう・・・・。 そう、それに競馬で当てたから奢るとか言うし・・・・・」


 ――  流されてんじゃねぇよ


アイコンタクトを受け、二人連れリーマンにお冷を注ぐ。 ふと顔を上げるとカウンターの中、オオクラがにこやかに常連らしい女性客と話しをしていた。 水っぽい厭らしさがない、サラッとした笑顔。 と、その時ツンと脇腹を突付かれ変な声が出そうになり、思わず背筋を伸ばした耳もと

 「予定通り・・・今度はヘマすんなよ・・・」


掠れた声が、いつまでも頭の中に残った。 

ハコザキはチラリともこちらを見ず滑るようにテーブル席を回り、さり気ない手つきで客の空いたグラスに酌をして綺麗な微笑を浮かべる。 オオクラとは違う、爽やかではない、もっと後を引くようなもっと、色っぽい、

   はァッ?!


どうかしてる。 俺は全くどうかしてる。 ナニを見て俺は、ナニを言ってるんだ俺は! フゥと呼吸を整え、ピッチャーを持つ手に力を入れた。 もうすぐココをアヤメ番(トイレ掃除)のナガサカとハコザキが通る。 そしたら俺はさり気に、ナガサカに水を掛けねばならない。


 きゃぁ言うナガサカ → 大丈夫か?! と心配するハコザキ+ヘコヘコ謝る俺(出来るだけ情けなく ) → ウソォ濡れちゃったぁ〜と困ってるナガサカ → チーフには俺から言っとく。アヤメ番は俺が一人で遣るから、急いで着替えて来いよ! と男らしく爽やかに微笑むハコザキ → アァン、ハコザキ君て頼りになる! 素敵! ・・・ ハコザキ株急上昇のナガサカ


 「・・・・んなワケ行くか?」


思わず呟くが遣るしかない。 

見ればナガサカがハコザキに何事か囁き、同じエリアの面子に目配せして二人でホールを横切る。 近付いてくる二人。 来るぞ、来るぞ、来るぞ、緊張で耳鳴りがしそうな俺。

   今だッ!


 「おっとオガミごめん!」

トンと真横をすり抜けたホールのモリタさんが、熱燗数本が乗った盆を手に俺を振り返り、すぐ前に居るナガサカに気付けず、

 「熱ッ!!」

ナガサカを庇ったのは

 「ハコザキさんッ?!」

口に手を当てるナガサカ。 


ブワァンと派手な音を立てる盆と、ゴロゴロ転がる御銚子。 首から肩、胸と腹と、ハコザキの身体から酒臭い湯気が上がり、膝を着いたハコザキの眉根を寄せた白い顔、

 「とりあえずすぐ冷やす!」


横から伸びた腕がハコザキを抱えるように引き寄せ、俺の手からピッチャーを奪い予備のお手拭を濡らすとハコザキの胸元へ挟む。 

 「俺は事務室から救急箱を借りてハコザキの手当てをする、モリタは新しく燗を作ってお客のところ、ナガサカは悪いけど一人であやめ番頼む、で、オガミはココの後始末よろしくな?」

 「あの、オオクラさんカウンターは?」

 「俺、ちょうど休憩入ったから」


そう言って、テキパキ指示してハコザキを連れてくオオクラのカッコ良さったら。 


 「ヤッパ頼りになりますよねぇ〜」

去り際、溜息交じりにモリタが呟くのも尤もだと思う。


 「なんかァ、いつもノホホ〜ンとしてる人がキリッとするとカッコイィ〜!」

なんてナガサカがウットリするのも仕方がないと思う。


けども俺はなんか納得いかなかった。 
何がどうとか言うのかわからないッていうか考えたくないけど、正直面白くなかった。 
物凄く、面白くなかった。 


     コレってジェラシ〜? 





       ウソウソ嘘!!






                                           
ラブ*スナイパー 〜 ソレが俺流 〜



                                         後編へ続く