硝子片の月   《前編》              
      
       


      ――― 君があの日 踵で打ち砕いた 空色のガラス片



    その店は、私鉄沿線にある繁華街の谷間にあった。


「じゃ、あとはモリズミ君に教えて貰って、」

ポンと店長に背中を押され、条件反射のように頭を下げた。 小柄で小太りのモリズミは俺より一つ上の二十歳だというが、ビン底眼鏡に空色の上っ張りを着た出で立ちは、「ハカセ」とか言う仇名を持つガリ勉小学生のように見える。 

「デカイねぇ!  185・・・くらい?」

「あ、7です。」

「7! だよねぇ、あー端数分けて欲しい、」

そう言いながらモリズミは、俺にもそのありえない空色の上っ張りを差し出す。 取り敢えずTシャツの上から羽織り、「まず商品の場所ね」と言うモリズミの後に俺は続いた。 ちょこまか陳列棚を廻り、モリズミはあれこれ手に取り指で差し説明する。 コンビニなんてどこも一緒だろうと思っていたが、棚は縦に三つ、雑誌や弁当・惣菜に加え何故かメロン・葡萄などの高級果物がある。 そして下着・化粧雑貨は充実して、殊にドリンク剤の種類は驚くほど多かった。

「場所柄ね、こう云うのは売れるんだよね」

俺の視線に気付いて、モリズミは茶色のドリンク剤を持ち上げて見せる。 雑誌棚の向う、硝子越しの空にはスナック、パチンコ、キャバクラ、どれも似たような名前の居酒屋がひしめき、無数の電飾看板で溢れる景色には猥雑な夜の匂いがした。 一昨日の昼間、面接に来た時とはまるで別人な街の顔。

「こっからの時間、シフト的にはまァ暇なんだよね。 でもやっぱ変な客も来るし、物騒だから女の子は雇えなくッてさ、」

通り向こうの客引きを眺め、モリズミは長い溜め息を吐いた。 それがあんまり残念そうだったから、

「すいません、俺なんかで」

思わず頭を下げれば 違う! そうじゃない! と見上げるモリズミは、転がるカップ麺を掴んだままその手をバタバタと振った。 丸くチンマリしたモリズミがそうしてジタバタする様は、なにやらオモチャじみた可笑しさがある。 思わず笑ったら、野暮ッたい眼鏡の奥、人好きのする垂れ気味の目も笑った。 

「当分カミヤ君とはシフト一緒だから。 改めてよろしく。」

「あ、こちらこそ宜しくお願いします。」

こうして、バイト初日は陳列棚の整備から始まった。 


切っ掛けなんてのは、単純にお金欲しさだった。 夏休み中に免許を取りたかったし、八月に行く沖縄旅行の軍資金も調達したかった。 だけどバイト雑誌を捲れば、男の時給は女に比べ驚くほどショボイ。 ましてこちらには免許も無い。 比較的儲かるのは居酒屋関係だったが、水商売はやめて と親に釘を刺された。 ならばと選んだのが夜のコンビニ。 みっちり入れるねぇ! と店長は言ったが、週に5日の月〜金、17時〜23時を俺はここで働く。 

「カミヤ君、N大の一年でしょ?」
「はい、」

じゃ、放課後の足回りイイよねぇ、と 期限切れのパンをより分けるモリズミが言った。

「週5じゃ遊ぶ暇無いじゃん。 デカイ物買うの?」

「や、免許取りたいし、あと旅行の、」

「ヤルなッ、旅行? 彼女と?」

「そう云うんじゃなくて友達とソイツの叔父さんちへ・・・沖縄なんで、」

なァんだとモリズミが鼻を擦る。 そして急に厳しい表情をつくり、繁々と俺の顔を眺め、

「モテる顔だよカミヤ君、率の良いバイトならいっそホストでもイケるんじゃないの?」

と言い、そこの・・・と通り向こう、信号脇の雑ビルを指す。

「ホスト?」

「うん。 あそこ、ホストクラブ入っててウチにも時々来るけど、カミヤ君なら充分張り合えると思うよ。」

「いやでも、俺水商売は」

「ンだよう、意外と箱入り? コッソリって奴ら多いンじゃないの?」

「やー俺はチョッと、」

「へぇ〜勿体なァ〜い、俺なら喜んで働きに行っちゃうけど、」

勿体無い勿体無いと言うモリズミがスッと接客スマイルをつくり、レジに近付いた派手なスーツの女から、ストッキングと煙草を受取った。 慌てて袋に詰めようとした俺だが、モリズミはサッとそれにテープを貼り、剥き出しのまま女に手渡す。 女は剥き出しの商品を無造作に受け取り足早に店を出て行った。 そしてビニール袋を手にしたままの俺に向き合い、あの人はテープだけで良いんだよとモリズミが言った。 

店はポツポツと人が入り、上手い事その切れ間は無い。 会社帰りのサラリーマンに混じり、遊び途中のカップル、いかにも水商売がらみの男女、得体の知れない立ち読み客らが訪れ、そして21時を廻ったあたりから俄然、酔っ払い客が増えた。 モリズミは彼らをてきぱきと捌き、合間に店内を整備し、作業手順と注意をその都度俺にレクチャーをする。 俺はそれを横で眺めるだけで、俺自身が一人でした事といえば二時間毎の便所掃除くらいだった。

「なんか、俺、役立たずで済みません。」

バイト終了間近の23時前、居たたまれなくなった俺は、レジの万札を数えているモリズミにそう頭を下げる。

「え? あぁあぁ、うん、今日はイイよ、とにかく流れを覚えて欲しいからさ。 それと客の顔。」

「顔?」

「そう、ココ実は殆んど常連で成り立ってるから。 毎ンち見てるとねぇ、だいたい同じ人が同じ時間に来るンだよね。 そう云うコースみたいなのかな。 あ、あの人・・・・」

モリズミの視線が入り口のドアに流れる。 入って来たのは若い男。

水色のシャツ、雨粒のようストライプ、こなれ過ぎないジーンズを穿いて、細身の男はスゥッと飲み物の棚に向かう。 屈みこむ男を追視していた俺に、モリズミは声を潜め言う。 

「・・・・あの人ね、多分ホスト。」

「えッ?」

瞬間、男がおやという顔をしてこちらを向いた。 白い怜悧な顔立ち。 熱帯夜に在って、尚も涼しげな黒硝子のような切れ長の眼。 後ろに流した前髪が形の良い額を剥き出しにして、細過ぎない眉の下、際立つ印象的な目がゆっくりと瞬きをした。 男はそのままミニボトルの緑茶を手にし、ゆっくりこちらへと向かう。 

目が、離せなかった。 気付けば凝視していた。 
咄嗟に目を反らさなかったのは、その目を見て居たかったからかも知れない。 
そして、男も目を反らさなかった。 

近付くと意外に長身なのがわかる。 俺より少し低いくらい。 イメージ的にホストは日焼けで黒スーツと思って居たが、男の肌はサラサラと白く、それが涼しげな容姿には似合っていた。 軟弱に見えないのは均整が取れているからだろう。 華美ではないのに華があり、さすがホストだなと思った。 男がボトルをカウンターに置く。 デクノボウの俺に代わり、モリズミがピッとバーコードを読み取る。 ひょいと目の前に白い手が現れて、銀の硬貨を摘む長い指。

「ハイ」

「あ、」

咄嗟に受取った百円玉二枚。 

「へぇ、新しい人、入ったんだ、」

微妙に掠れる声は思ったよりも低く、訳のわからぬ動揺にワタワタと俺は慌てる。 が、質問は俺を通り越し「やぁ〜今日からなんですよう」 と、モリズミが男に釣銭を渡した。 男は袋詰無しでボトルを受取る。 そして今度は正面から俺を見つめ、

「ヨロシクね、新人君。」

と言った。 そして唇が綺麗な笑みを浮かべ、踵を返す瞬間、細められた目の残像はやたら艶っぽい流し目で、ドギマギする俺はやけにデカイ声で「有り難う御座いました!」と叫ぶ。

「カミヤ君、声デカ過ぎるよ!」

咎めるモリズミの声を聞き流し、俺は尚も男の姿を追う。 男は店の外、路地に曲がるガードレールの端に浅く腰を掛け、そうしてボトルのお茶を美味そうに飲み始めた。 暑さに耐え兼ねたがぶ飲みではなく、ゆっくり息を吐きながら、味わうようにまた一口。 そして男が唇を手の甲で拭う。 不意に、さっき間近で見た笑みの薄い唇の輪郭を思い出し、何やら後ろめたい気分になった俺は、漸くその姿から目を離す。

「あの人、何て名前ですか?」

「へ? え? あぁさっきのホストの人? エー知らないよ、そんなの・・・ッて、カミヤ君何で?」

何で? ソリャそうだ。 何で俺はあの男の名を知りたいんだろう? 知ってどうするんだろう?

「え、あぁチョッと、なんか知り合いに似てたから、」

「そうなの? へぇわかんないけど。 で、ホラ、時間だよ。 今日はお疲れ様!」

時計は23時を廻っていた。 モリズミに挨拶をして、奥で上っ張りを脱いだ。 店の外に出ればムッと押し寄せる凶暴な暑さ。 

Tシャツの裾をハタハタさせ、停めてあった原付に乗ろうとしてふと見れば、さっきの男がまだそこに座っているのが見えた。 全体に白っぽい男だから、夜の白い花みたいに暗がりにボンヤリと浮かぶ。 唯一暗い足元に、空のペットボトル。 掌に携帯灰皿を乗せて、物憂げに紫煙を燻らす男が、不意にパッとこちらを見て、そして笑った。 ひらひら持ち上げられた左手。 ぺこりと頭を下げる俺は、落ち着きない高揚に戸惑いつつ原付のキィを捻る。 バックミラーの男はまだ煙草を吸っている。 その姿が見えなくなるまで、俺はミラーをチラチラ眺めた。 

明日も男は来るだろうか? 

会ったと云うよりは見ただけの男の事を、何故だか、どうしてだか、いつまでもいつまでも考えていた。 年は幾つなんだろう? ホストはバイトなんだろうか? 普段何してるんだろう? あの声で男が話すのを聴きたかった。 笑うのを見たかった。 

何故だか無性に、男の名が知りたかった。 


                        **


翌日、早目に出勤した俺は前のシフトの大学生に頼み、惣菜類の入れ替えを一緒に遣らせて貰った。 モリズミにおんぶに抱っこは情けないから、早く仕事を覚えたかった。 惣菜、弁当、サンドイッチと調理パン、一通りを入れ替えて本来のシフトに戻る直前、カクノというバッチを着けた男は俺の上っ張りを捲り「今シーズンのでしょ?」と、ブランド名を言う。 

「バーゲン待ちしてたんだけど買い損ねちゃってさぁ、ヤッパ良いよな・・・」

繁々シャツを眺めた後、 お疲れェ! と入って来たモリズミと入れ代わりにカクノは店を後にする。 

夕方、買ったばかりのシャツに着替えた俺を見て 「やけに気合い入ってるのね」 と母親は言った。 デザイン的にはラフなシャツだったが、俺にしては一張羅だった。 たかがバイトに、しかもあの変な上っ張りで殆んど隠れてしまうのに、何でわざわざこれを着て行くのか自分でも全くどうかしてると思う。 でも、だからといって気抜けた格好では行きたくはなかった。 カッコ悪いのを、あの男に見られたくなかった。 上っ張りを脱ぎ、駐車場を横切るたかが数十秒であっても、男にダサイ奴だと思われたくなかった。 そう云う気持ちが何に似てるかなんて知っている。 

春先ちょっとだけ付き合っていたテニス部の二年生は、会う時はいつも真新しい服を着ていた。 特別派手な訳じゃないがスッキリしたデザインが垢抜けて見える、そんな趣味の良い服装に彼女がどれほど知恵を絞っていたか、今考えると少し申し訳なく思う。 今ならそれが、良くわかるから。 がしかし、自分はあの男と付き合っている訳じゃないし、そもそも相手は男だ。 友達でもなく、取りすがり程度の面識しかなくて、向うが自分を覚えてるのかさえ怪しいのに、なのに自分は何をしてるんだろう? 

馬鹿みたいだと思った。 後半モリズミからレジを任され、客が入る度に一喜一憂する自分をホントに馬鹿野郎だと思った。 だけど23時5分前、学生風の二人連れにスナック菓子の袋を手渡したその時、開けたドアから流れ込む生温い夜気をはらい、茄子紺のシャツを着た男が滑るように店内を横切る。 白かと思ったズボンは淡い草色だった。 麻なのだろうか、シャリ感のある上下は男の動きに合わせ上等な感じの皺を作る。 屈んだ足元から皮のサンダルを履いた足首が見えた。 ちらりと見えた白に、カァッと顔が熱くなるのを感じる。 何だよ? どうしたんだよ? 訳がわからず下を向きブルッと頭を振った目の前、ポンとペットボトルが置かれて、

「コレください、新人君」

低く掠れた声と面白がる口元。 ヒンヤリした目は多分緊張で強張ってるだろう俺の顔をジロジロ不躾に眺め、そして不意に声を落とし

「もしやレジ初めて?・・・眼鏡先輩呼ぶ?」

心配そうにモリズミの居る陳列棚を目で示した。

「や、大丈夫です、出来ます、済みません。」

そう言いながらもボトルを取り上げる手はみっともなく震え、間近に見ている男を意識すれば落ち着かず、結局バーコードを通すのに三度もやり直しをする破目になる。 上手くいった三度目、男が小さく拍手をしたのも恥ずかしくて死にそうだった。 あー良かったと笑う男がテープを貼ったボトルを受取る。 そして帰りしな

「頑張ってね、新人君」

そう言ったのに対し、何かが外れた俺はこんな事を口走っていた。

「俺、カミヤです。」

「え?」

ヤメロ! ヤメロ! そりゃ電波だろ? 恐いだろ? 
もう一人の俺は馬鹿野郎な俺を必死で引き止めるが、俺ときたらお構い無しに突っ走る。

「俺、新人君じゃなくてカミヤって言います。 カミヤです。」

「あッ、あぁ名前? そうか、名前ね、」

男の視線が戸惑うように揺れ、上っ張りに付けたプラスティックのバッチに向けられた。 そして

「カミヤ君」

声は、俺の名を呼んだ。 

「怒ンなよカミヤ君、ごめん。 や、なんか微笑ましくてさァ、ごめんね、」

「あ、」

「お仕事頑張ってね、じゃ、また〜」

軽く振られた手、出口へ向かう後姿を呆然と見送る俺は、見る見る血の気が引き、同時に地を這うテンションに自分が下がって行くのを感じた。 もうこのまま死ねよと思った。 穴があったら入りたいと云うのは、詰まりこう云う事となんだと、変に納得して更に落ち込んだ。 トイレ掃除から戻ったモリズミには やっぱ知り合いだったのか? と、聞かれたが、違うと答える俺は苦しい。 確かに知り合いにはなったが、ヤバイ電波としてじゃどうしようもない。 深夜シフトに引継ぎをして、ノロノロ上っ張りを脱ぎ、新しいシャツを眺めればますます馬鹿さ加減が身に沁みた。

そんな風にダラダラしていたので、店を出たのは23時を20分ほど廻った頃。 
呼ばれたのは、原付のキィを捜してポケットをガサガサしていた時だった。

「カ〜ミヤ君、」

「ハ、ハイッ!」

思わず小学生のような返事をした俺を見て、男はクスクスと笑う。 男は昨日と同じガードレールに掛けて、指に挟んだ煙草が夜にオレンジの軌跡を残した。 そして男が煙草をもみ消し立ち上がり、足元のペットボトルを手にこちらに歩いてくるのを 嘘だろう? と俺は眺める。 男は俺の少し手前でキュッと向きを変え、空のボトルをゴミ箱に放った。 なんだゴミかと思えば、男はそのまま数歩こちらに近寄り目の前に立つ。 蒸し暑い夜なのに、男の黒い髪はサラサラと涼しげに風に靡いた。 汗一つ掻いていない白い細い首筋。

「ねぇ、もしかして怒られてた?」

「え?」

急な問い掛けに、ジロジロ眺めてた後ろめたさも加わり、またもや挙動不審に俺はうろたえる。 そんな俺を見て、男は小さくゴメンと言った。 

「え、あの、何で?」

「いや、あぁ俺よく言われるんだけどどうも馴れ馴れしいらしくってさ ・・・・さっきも俺が余計な茶々入れたから、もしかしてカミヤ君あの眼鏡先輩に叱られちゃったのかなァと思って、」

「も、モリズミさんは怒ってません、俺怒られてないです。」

「あ、そうなの?」

男の眉尻が下がり、安堵の表情が広がる。 

「てかなんか俺こそスミマセン、なんか・・・俺テンパッちゃって、ホントに名前なんて別にどうでも良いんですけど、お客様に向かってムキになってあの」

「じゃ、あいこってとこで、」

「え・・と、」

「夜中にさ、二人で頭下げあってんのも変だよねぇ、だからさ、」

覗き込むように俺の顔を見て、男は機嫌の良い猫みたいに笑った。 そうしながらシャツのポケットから煙草を一度取り出し、そしてちらりと時計を見た途端不味いと云う顔をして、箱を再びポケットに押し込む。

「じゃ、じゃごめん! カミヤ君引止めといて悪いけど、また!」

「あ、ああいえ、コッチこそ、」

返事の言葉も待たずクルリと踵を返し、足早に歩き出した男は本当に焦っている様子だった。 が、通りを渡る直前男は急に振り返り、まだ突っ立っている俺に片手を上げて言った。

「カミヤくーん! 俺、ナガサカ、ナガサカだからヨロシクねー!」

伸び上がり、バイバ〜イと子供みたいに手を振る細長いシルエット。 そうして路中の車を避け、通りをスタスタ渡り、渡り切ったところで如何にもな黒服と二三言笑いながら話し、そしてまた小走りで一つの雑居ビルの中に消えた。 ビルの側面に突き出した数個のコブみたいな看板、その三階部分にある 【ホスト private beach】 

「・・・マジだよ、」

自分で口に出して、あぁと思う。 ヒンヤリした見た目を裏切って、話し好きで人の良さげなナガサカ―― そう、男はナガサカと言った。 ナガサカは本当にホストだった。 殆んどわかっていた事だけど、ショックを受けている俺が居る。 なんで? 何ででも何でも、面白くないなと云う気持ちがした。 どうせ誰にでも優しいんだろうなと思った。 

「そりゃホストだし、」

嬉しいのに嬉しくない、滅茶苦茶浮かれたけど滅茶苦茶落ち込みそうになる。 夜風を受け原付きを飛ばす俺は、モヤモヤをお腹の中に隠し、この答えを出すまいとした。 その癖、覗き込むようにしたナガサカの目とか、俯いた項とか、バイバイと手を振った子供みたいな影とかを、何度も何度も再生するのを止められなかった。 再生する度に、胸の奥がぎゅっと攣れた。


  でも、それでも俺はナガサカにまた会いたかった。 

  いっそ無休でバイトを入れようかと思うほど、俺の毎日はナガサカで廻った。 






                                                 中編へ続く