クローバー    《後編
     
        


             平穏なんて嘘っ八だと思ったのはいつだっただろうか? 

学校を辞めた時? 放課後の教室で少年を見た時? 或いはもっと前、母親の再婚話が出た時だったんじゃないか? いや違う、気付いたのはもっと前、大好きな父親が死んだ時。 多分その時、ハルヒの平穏は崩れたのだと思う。 崩れるのは一瞬の事だ。 呆気ないほど簡単に、平穏は薄氷のように砕ける。 

例えどんなに穏やかな光が射しても、どんなに僕らが泣き叫んでも、



「ささ急いでヒッシュ先生!」

片手を上げるサンメイと、何やら難儀しているリュウセイ。 晴天の土曜日、人だかりの真ん中で二人のショーが始まる。 ステージ代わりのアスファルトには鮮やかな彩色のオウム、ライオン、サル、孔雀、ゾウ、ワニ、そしてそれらを潜ませるに丁度良い鬱蒼とした密林の木々。 今回二人が演じるのは 【ヒッシュ氏の散歩】 と云う物語。 リュウセイ演じる画家のヒッシュ氏が四角い帽子に黒い服、熊のような口髭をたたえ、絵筆を片手にある日、謎の密林散歩を試みる。 それに付き添うのが、サンメイ演じる燕尾服のドジなパトロン。 突然のスコールに傘を差せばステッキに変わり、ステッキを突けば花束に。 サルにサンドウィッチを取られ、オウムに脅かされ、ライオンに追いかけられて、ワニの口の中を覗き、密林に迷った二人がどうやって三時のお茶までにお屋敷のテーブルへと戻れるか、手品とパントマイムで物語は進む。

「せ、先生ッ! そ、そこにもあそこにも毒蜘蛛めがおりますッ!」

じたばた身を捩る先生を助けるべく、パトロンがおっかな吃驚で触れる。 どうやら服に蜘蛛が入り込んだ様子だが、蜘蛛は無数に居るらしく、一つ払うと大きなオモチャの蜘蛛がポロリ、また払うとポロリ、背中の辺りを払うといつの間にか今度はパトロンのポケットの中から毒々しい蜘蛛がわらわらと出て来るという一つの見せ場。 次々出てきた蜘蛛は、ひっくり返した山高帽にこんもりと盛られ、最期にパトロンがズズズと帽子を揺すると一瞬で蜘蛛達は消え帽子からは美味しそうなサンドウィッチが出て来る。 

美味しそうなそれを、先生は満足げに眺める。 パトロンがテーブルクロスを広げればさっと現れる机と椅子。 広げたテーブルクロスをもう一度広げると、出て来るナイフとフォーク。 ステッキから注がれた赤ワイン。 満足気にフォークを突き刺した途端にキャァと言う悲鳴。 悲鳴を上げるオウムに驚く二人と、その隙にまんまと御馳走を横取りしたサル。 ハッと消えたサンドイッチに驚く二人、そして困惑するパトロンがまた帽子からサンドウィッチを出し、また・・・・・

初めて見る二人のショーに、ハルヒは目を奪われていた。 サンメイの手品がかなりの水準なのはハルヒも知ってはいたが、しかし、リュウセイのパントマイムがこんなにも洗練されているのだとは思ってもいなかった。 ハルヒの知っているリュウセイは、口下手ではないにせよ目立って何かをするタイプではなかったし、役割的にそうした表舞台をサンメイが担い、いわば有能な裏方であり、頼りになる縁の下の力持ちであったのがリュウセイ。 そんな二人だから、バランスが取れているのだろうとハルヒは思っていた。 感情を乱す事無く、いつもフラットなリュウセイには水底のような平穏を感じていた。 けれど今そこに居るリュウセイは全身をフルに使い、ユーモラスなヒッシュ氏を表現している。

ラスト、無事お茶に間に合った二人がテーブルに着き小洒落たポットを傾ける。 トクトクとカップに注がれるお茶。 しかし、いざ飲もうとして見たらお茶は綺麗な紙吹雪になり腹を立てた先生がポットをひっくり返せば、更に紙吹雪が零れ落ちてショーは二人のお辞儀で終わる。 気付けばハルヒは観客に混じり、心からの拍手と歓声を上げていた。 この素晴らしいショーに、そして素晴らしい二人に、加えてハルヒ自身も微力ながら舞台に係わっていたという事も、じんわり胸を満たす感動になっていた。

「凄い! 凄かったよ! 凄く面白かった!」

観客がばらけると、息せき切ってショーの感想を述べるハルヒ。 
小道具を片付けるサンメイは、ニマニマしながら興奮冷め遣らぬハルヒの頬を突付く。

「だろ? サンメイ様素敵ッ!って感じ?」

「うん。 俺サンメイを見直した。 それにリュウセイッて凄い!」

「ま、リュウセイはともかくとして、一先ずハルちゃんのハートはイタダキッてこったな、ほれ、ココにチュッと、」

「あ、あ、え、それはちょっと・・・・」

たじろぐハルヒを見兼ね、パタバタ机や椅子を畳んでいたリュウセイが呆れ顔で声を掛ける。

「サンメイ、またハルヒを困らせてる、」

「あらヤダ人聞き悪い、イチャツイてるッて言ってよ。」

「あぁ、そうだったの? そうなの? ハルヒ、」

「違う!」

ムキになるハルヒを見て、二人はくすくすと笑った。 こんな時ハルヒは軽い疎外感を感じる。 なんだかんだでサンメイはリュウセイの隣りなのだ。 そしてリュウセイはサンメイの隣りなのだ 。そして自分とは、二人の視界に収まらんと背伸びをして行き来する、どっちつかずのオマケのような存在。 けれど、

「ありがとう、ハルヒ。 今日は凄く良いショーが出来た。 ハルヒの協力があったから、より質の高いものが出来たよ。」

「そうそう、ハルちゃんに描いて貰って、いつもよりググッと本格的な感じになった。」

けれどオマケでも、こうして必要とされる事が有る。 甘やかされ気遣われるばかりでなく、こうして役立つ事もあるのだとハルヒは自分に言い聞かせる。 例えばこんなふうに、自分だって二人に協力出来たじゃないか? 

今度のショーにハルヒの絵を使いたいと、二人に言われたのは2週間ほど前だった。 大体のあらましを聞き、ノートに下書きを描き、そしてショーは降水確率が低めの翌週土曜に設定。 リハーサルを金曜に行う為、水・木と二日掛りでハルヒはアスファルトに彩色をする。 朝の9時から夕方4時まで。 もっと遅くまで描けない訳ではないが、日暮れが近付くと微妙な色のバランスがわからなくなった。 なので作業二日目の金曜は、5時起きの6時からハルヒは公園に向かった。 そしてこの計画は思わぬ切っ掛けを産む。

今回、微妙な色合いを出す為、ハルヒは新たに数本のパステルを買い足したがその費用の捻出を、ハルヒは新しい父親に申し出る。 母親を通せば、母親から父親に話しは行くだろう。 それで母親が気不味くなるのは申し訳なかった。 せっかく水面下に落ち着いた矢先なのに、余計な諍いの種は落としたくなかった。 だからハルヒは直接父親に声を掛けた。 思えばハルヒは男と向き合った事がなかった。 ―― 友達の御芝居に絵で協力する事になりました。 だから画材を買い足したいのですが、――  そう申し出たハルヒを見つめ、男は 『そうか』 と言った。 そして不意に表情を緩め 『ちゃんと、友達がいるんだな、』 と頷いた。 その時、ハルヒは男が男なりにハルヒを気に掛けて居た事に気付く。 結果的により我が子を庇ってしまったかも知れないあの結末を悔やみ、しかしどうして良いかわからずに居た事をハルヒは知った。 それだからハルヒは男に告げる。

「大事な友達なんです。 喜んで貰いたくて、絵を描いているんです。」

そう、喜ぶ顔が見たくて一心不乱に手を動かし、広がるイメージに頭の芯がボォッとするのを感じる。 途中サンメイが飲み物を差し入れ、一緒に食べようとリュウセイが弁当をぶら下げて来たが、ハルヒは彩る手を休める事が出来ず、それらはそれぞれ二人の腹に収まった。 腹も空かないし疲れもわからない。 こんなにワクワクしたのは久し振りだった。 自分の為だけに描いていた絵を今誰かの為に描いている。 そんな満足感と充実感にハルヒは突き動かされていた。 

そして木曜の4時少し前、漸く完成した幻想的な密林。 イメージしたのはルソーのジャングルだった。 幻想的でユーモラスで、ほんの少し恐い密林と獣たち。 うわ凄い! とサンメイは歓声を上げた。 そしてリュウセイは、無言でジッと見つめたあと、手にしたデジカメで数枚シャッターを切った。 そして一言ありがとうと言った。 正直、言うのはそれだけ? もっと誉めてくれないの? と拍子抜けした気持ちはあった。 誉められる為に描いた訳ではないが、でも何か自分に言いたい事はないのかと、ふわふわしてた気持ちが少し萎んで行くのを感じた。

けれど今日、ショーを観覧してハルヒはアッと息を詰める。 主人公の名 『ヒッシュ』 とは、ルソーの作品にあるフリュマンス・ヒッシュからとったのではないか? しかもリュウセイ演じるその人物は画家という設定で、何よりその扮装はルソー自身による自画像にそっくりであった。 そら、ちゃんと伝わっていたじゃないか! 言わなくても、要求しなくても、リュウセイは水のようにハルヒの隙間を満たす。 だからハルヒは泣いた。 笑い過ぎた振りをして、ジワジワ潤む目玉を幾度も手の甲で拭った。 そして観客と共に、惜しみない声援と拍手を送った。


「俺、本当に感動した。 サンメイもリュウセイも、ショーの時は違う。 何か、いつもの二人じゃないみたいに見えた。 凄い凄いって、近寄り難い気がした。」

「ア〜でも、それはハルちゃんだって同じでしょう?」

「俺が?」

「そうそう、これ描いてる時のハルヒはこう鬼気迫る感じがして、ちょっと近寄り難い感じがしたよ。」

「エェッ? やだな嘘だよ、」

「嘘と違うッて、ハルちゃん、俺がジュース飲もうか? ッて言っても 〜何も聞こえません〜 て感じで、瞬きもしないでカリカリ色着けてて、」

絵を描く事は、大切な事なんだね―― と、静かにリュウセイが言った。 サンメイはその横で神妙に頷いている。

二人に絵の事を言われ、ハルヒはふと、亡くなった父親を思い出していた。 穏やかでいつも静かに笑っていた父親には、ほんのり溶き油の匂いがした。 画家を目指していたのだと、けれどハルヒが生まれ、生活の為に諦めたのだといつか母親は言っていた。 でも、父親は絵をやめた訳ではなかった。 ハルヒを膝に乗せ、ほらごらんと父は絵筆を走らせる。 淡い水彩の線、見る見る花になり蝶になり鳥になりぴょんと跳ねる仔ウサギ。 その真ん中、真ん丸な笑顔で空に手を伸ばすのは、紛れもなく幼い5歳のハルヒ。 それは僅か数分の魔法。 それ故、絵はずっと好きだった。 絵はハルヒにとって、大切な父親の記憶だった。 

そしてまた、絵に纏わる大切な想い出がハルヒの心の中に生まれる。

「また、三人で遣ろうな。」

サンメイがしみじみと言った。 打ち上げと称し、三人が昼食を食べたのは公園脇の小さな喫茶店。 涼しい店内で人心地つき、手作りらしい素朴なスープを満足気に啜り、メインのカツレツを待つサンメイはテーブル席の向かいに並ぶ二人に、もう一度 『また遣ろう』 と言うのだった。

「うん、また遣りたいね。」

そう答えたハルヒは、そっとリュウセイを伺う。 リュウセイはどう思っているのだろう? けれど不安は払拭される。

「また遣りたいね。 そう、今度は折角の作品を雨に打たせておくには惜しいから、いっそベニヤに彩色して先々使い回せるようにしたらどうだろうか?」

「だよなァ、あんなん凄いのアレッきりにするのは勿体無いよ、ハルちゃん、」

「それともハルヒは、もしかしてアスファルトに残らないものを描くって言うのに、何か特別な思い入れがあるかな?」

「そ、そんな事ない。」

なら決まりだと、リュウセイが纏めた。 

そうして三人はテーブルを囲み、次のショーのあれこれを少し高揚しながら話した。 さながら秘密を共有するような会話。 このままずっとなら良いのにとハルヒは願う。 リュウセイへの想いも独占欲も決して消えた訳ではないけれど、でも、でも今はこのままでも良い。 このまま三人の間で揺れる自分を、ハルヒはそのままに受け入れようと思い始めていた。 それは卑怯な逃げなのだろうか? 仮にリュウセイ一人を追い、そして跳ね除けられたらきっと、自分はサンメイすら失うだろう。 いや、リュウセイを独占したとして、サンメイを失うのは嫌だ。 思う以上にサンメイは自分の拠り所であるとハルヒは気付いていた。 だから、このままで、どうぞこのままで・・・・。

けれど、このままで居る事なんて出来なかった。 

三人三様の思惑は、微妙に互いを絡めつつ離れる。 
世界は三人の外で、躊躇いもせず廻った。 
三つ葉の平穏を外れたのはまず、リュウセイだった。



半月ばかり経った八月の木曜、いつものようにアスファルトに絵を描くハルヒは、ふらりと現れたリュウセイに ちょっと良いかな と促される。 静かな微笑を浮かべたリュウセイはいつものリュウセイではあったが、しかし急な呼び出しの理由も言わず、背中は無言でハルヒの少し前を歩く。 先を行くリュウセイに続き公園を抜け、カランとカウベルの音を聴き、入ったのはあの小さな喫茶店。 その奥まった壁際のテーブル席、あの時と同じその位置に、笑顔の一つもない剣呑な空気を纏うサンメイが居た。

ハルヒはサンメイの隣りに座り、その向かいにリュウセイは腰を降ろす。 そうして水を運んで来た老婦人に飲み物を二つ頼むと小さく息を吐き、すいとこちらを見つめるリュウセイは、世間話をする口調で 『暫く日本を離れるから』 と言った。

「な、なんでッ?!」

そう問い掛けたハルヒは、咄嗟にサンメイを盗み見る。 けれど固く閉ざされた唇は言葉を発せず、睨むような視線は只真っ直ぐにリュウセイに向かう。

「ベトナムに、行かなくちゃならない。 病気の男の子が居るんだ。 小さい時から腎臓を患っていて、ずっと月に1〜2回、お腹からの透析をしている。 だけどここ最近症状が思わしくなくて、いよいよ血液透析を考えなきゃならなくなった。 でもそれをするにはまず、その準備の手術をしなくてはならない。 勿論お金だって掛かる。 だから、」

「だからお前は何しに行くんだよ?」

リュウセイを睨み、サンメイが低く怒鳴る。 

「行って、ハンの治療費をジェンの妹に渡す。 ハンの状態がどうなっているかわからないし、病院の事も手術の事もとりあえず一通り自分の目で見て知っておきたいから、だから」

「だからなんなんだよッ、暫く帰らないってじゃぁ大学はどうすんだよ? なぁ、なんでそこまでする? もう充分だろ? 仕送りだけでまだ足りないのかよ? あぁ確かにジェンは気の毒だったよ、それをお前が気に病むのもわかる。 けど、そのジェンの為にお前が失ったのはなんだ?」

「もう、過ぎた事だよ。」

「過ぎちゃいねぇよ! まだ過ぎちゃいねぇ。 ・・・お前がどれくらいラグビーに入れ込んでたか俺は知ってる、お前速かったもんな、風みたいに速かったもんな、その足を駄目にされて、そんでも過ぎた事だなんてお前ほんとに思ってるのか? お前はそれを、まぁイイやで済ますのか? 」

「サンメイ、」

「すまねぇだろッ? 未来が変わっちまったろ? その上自分の子でもないのにキチキチにバイトして、金まで払って、なぁリュウセイお前馬鹿じゃねぇのか? だいたい仕送りだってホントにジェンの子供に届いてるのか? 病気だ病気だって、それ自体ホントにそうだッて言う証拠はあるのかよッ? 」

二人の遣り取りにハルヒは介入出来ない。 二人の共有する過去が、ハルヒにはわからない。 けれどリュウセイには何かがあった。 そしてそれこそサンメイが時折見せる、リュウセイへの躊躇い。

踏み込めぬハルヒを蚊帳の外に残し、言葉もなく対峙する二人。 

「ごめん。 ごめんな、サンメイ。」

「謝るなッ・・・・」

ガタリとサンメイは席を立ち、リュウセイは視線をテーブルに落とす。 呼び止めようと腰を浮かしたハルヒにその間を与えず、カランとカウベルの音が響いた。 気不味く視線を戻し、諦め観念したような表情をしたリュウセイを、ハルヒは真正面から見つめる。


「ジャンヌの肖像を見たのは、もっと前だったんだ。」

突然話しを振られ、一瞬何の事かハルヒにはわからなかった。

「ハルヒのジャンヌを見たのはもっと前。 何度か描いてたろ? ディズニーやSF映画のキャラクターに混じって、ジャンヌの肖像は描かれていたね。 そう、もっと寂しげなオリジナルに近い彩色で。」

確かにハルヒがジャンヌの肖像を描いたのは、二人に出会ったあの時が初めてではなかった。 何度か習作を繰り返し、そして一番最後に描いたのがあの明るい色使いのジャンヌだった。 それをリュウセイは知っている。

「そう有名な絵でもないしね、だからこそ、この絵を描いた誰かが知りたくなった。 段々と生きる力が涌いてくるような、そんな変化をジャンヌに与えた誰かに俺は逢いたかったんだと思う。 会ってどうしようと言うんじゃないけれど。 だけど会って、彼女は生きるべきでしたか? 幸せだったんですか? って、俺は会った事もない誰かにそう、尋ねたかったんだ。」

あぁ、だからリュウセイはジャンヌの話をしたのだ。 あれはそんな前から、リュウセイが暖めていた話題だったのだ。 ならばそれに、俺はちゃんと答えられただろうか? ハルヒは急に不安になった。 しかし、不安げなハルヒを察したか、リュウセイは薄く笑って 『大丈夫だよ』 と言う。

「大丈夫。 ハルヒの言葉に救われたから。 言ったよね? 自分が死んじゃ駄目だって、その人の途中を自分が終わらせて遣らねばッて。 その言葉に随分励まされたよ。 だからこそ決意が出来た。 自分に出来る事を生きて遣り遂げようって、そう覚悟を決める事が出来た。 だから、有り難う。」

「よ、止してよ、俺は、」

「ハルヒ、」

そんなつもりじゃない―― ハルヒは自分の言葉に追い詰められている。 言葉に嘘はないけれど、あれは他人事だから言えるのだ。 自分についてじゃないから言えたのだ。 そんな綺麗事、上手く行く訳がない 死んだ誰かの未来なんて、そんなの叶えなくても良いんじゃないか? それよりも何故リュウセイは、生きている自分達を置いてこうだなんて思うんだろう? 

「行かないでよリュウセイッ! 行かないで、ねぇ、何でそんなとこに行くの? 何で? ココに居てよ、ねぇ、また三人でショーを遣ろうッて言ったじゃない? 俺もっと上手に絵を描くから、リュウセイが気に入るようなのを描くから、だからリュウセイ?」

「ごめん。 だけどわかって欲しい。 遣り残しがある内はね、先には進めないんだよ。」

「嫌だ!」

「ハルヒ?」

「嫌だ。 行って欲しくない、嫌だ、俺はリュウセイが好きだ、好きだ・・・好きだ・・・・・」

見つめるリュウセイがハルヒの視界の中、緩々と滲む。 頬を伝う涙は顎先に抜け、ホタホタと落ちてコースターの縁を濡らす。 こんな形で思いを伝えるんじゃなかった。 こんなふうに伝えるつもりはなかった。 あのままで良かったのに・・・・ずっとあのままで良かったのに・・・・。

しかし、リュウセイは言う。

「俺もね、ハルヒが好きだよ。 だけど俺の恋愛はまだ終わってはいない。 その人とハルヒを、一緒にココに住まわせる訳には行かない。 だから、ごめん。」


ココ、と示した胸には、ハルヒじゃないサンメイでもない誰かが今もずっとリュウセイを独占しているのだ。
多分、その人はもうこの世には居ない人。

ならば勝ち目はないじゃないか?


そうしてハルヒは夕暮れの公園にしゃがむ。 あの後ジッと向き合い、無言で、そしてバイトの時間だからとリュウセイが席を立ち、一緒に店まで出たのは覚えているが、それから先は全く。 いつリュウセイと別れたかハルヒにその記憶はなかった。 描きかけのジョンウェインに膝を着き、ぼんやりアスファルトを見つめる。 それだからその足音にも気付かずにいた。

「あー腑抜けじゃんか、もう・・・・・・」

その声をハルヒなまだ認識出来ない。

「心ここにあらず? ・・・・・・ッてハルちゃん、ほら、」

グイと手を引かれ、よろけつつ立ち上がり、見上げたサンメイの顔は何かのスウィッチだったらしい。

「い、ヤダッ!」

「は、ハルちゃん?」

嫌だ、嫌だ、嫌だ ―― 子供のように泣くハルヒはサンメイに飛び込む。 それを卑怯と知りながら、ハルヒはサンメイに依存する。 サンメイの腕を胸を求め、慰めと甘やかしと浮つくような言葉の魔法をハルヒはサンメイに求める。 縋り付くシャツの肩口がハルヒの涙で濡れた。 そしてギュッとハルヒに回された腕、暖かく染みるシャツ越しの温み。 大きな掌がゆっくりとハルヒの後ろ頭を擦った。 優しい感触は父親のそれに似ていた。

「死んだ奴はズルイよ、忘れるまでずっと居座ってどかねぇからな。 だからリュウセイは動けない。 心に死人を住まわして、未だに先に進めない。」

人肌越しに聴くサンメイの声は、深い水の底で聴くようだった。 風のようなサンメイの水に、ハルヒは守られているんだろうか? ならば助けて欲しい、取り戻して欲しい、

「・・・・言ってよ、リュウセイに言って、行くなッて言ってよ、お願いサンメイ、リュウセイに言ってよッ・・・・・・」

「ハルちゃん、」

「お願いサンメイッ!」

顔を上げたハルヒが見たのは、泣き笑いのように歪むサンメイの苦しい表情だった。

「・・・・言ってやりたいよ、引き止めても遣りたい。 でも、アイツは駄目だ、アイツはハルちゃんじゃ駄目なんだよ・・・・」

もう一度抱き締められ、ハルヒは失った事を悟る。 今、どうしようもない何かを失った。 どうしようもない、他に代えられない何かを一つ、自分は失ったのだと。 そうハルヒは悟るが、しかし、その喪失に耐えられるほどに強くはなかった。 欠けた何かを満たさねば、空虚な身体を温め寄り添う誰かに縋らねば、ハルヒはそこから先へは進めなかった。 そしてそれは、サンメイとて同じだった。 だから、ハルヒはサンメイの部屋に行った。 意外に広いマンションの一室、言葉少なに時間を遣り過ごした二人は、深夜番組が始まる頃、どちらからともなく肌を合わせた。

啄ばむようなくちづけは次第に深く、奪い尽くすように。 歯列を這う他人の舌の感触に、ハルヒはブルッと震える。 混濁する思考は不安な気持ちを誘い、背中に回した腕が無意識にサンメイの身体を引き寄せた。 

「ハルちゃん」、

名前を呼ばれ、薄目を開ける。 不安を滲ませたサンメイが見下ろす。

「続けて、」

ハルヒの言葉に、サンメイがパジャマの釦を外すのをぼんやりと眺めた。 サンメイは器用。 サンメイのパジャマだから外すのが上手いんだろうか? 他人事のようなハルヒだが、直に余裕を無くす。 サンメイの唇が鎖骨の上に降り、柔らかく噛んでから徐々に胸の突起へと向かった。 

「  ・ ・ッ、・・・」

ビクリと跳ね上がる身体をハルヒはどうする事も出来ない。 白濁する思考。 皮膚は熱く湿った舌に嬲られうねり、指の感触に鳴く。 剥き出しの皮膚が、こんなに敏感だ何てハルヒは知らなかった。 自分がこんな甘ったれた声を上げるのも、今日初めて知った。 そうさせているサンメイを、気恥ずかしくて見る事が出来ない。 不規則な息遣いが湿った空気に響く。 やがて指先がそろり下腹へと伸びた。 身を竦めるハルヒとは裏腹、パジャマの薄い布を持ち上げたそれは、施される愛撫を、指を、舌を、待ち侘びて誘いかけるように震える。 

「 ・・ァッ、・ぁ・・ぁ・・」

やんわり布越しに触れられて、ハルヒの身体はハルヒのものではなくなった。 自分でしたことはあったが、こんなじゃぁない。 やわやわと全体を弄られ、明らかな形をあからさまに指がなぞる。 サンメイの指がなぞる。 指の腹で先端をクルクル擦られ、括れを摘まれ、ハルヒは思わず腰を浮かせた。 浮かせた腰から最後の布地が引き抜かれる。 剥き出しのそこは待ち切れず雫を垂らす。 指は雫をすくい、亀裂を押し潰し、ぬらぬらするハルヒのそれを抜いた。 リアルな感触に爪先が痺れ、開けたままの口からは、鼻にかかった喘ぎが断続的に漏れる。

「ふッ・・ンん・」

上げた声を堪えるのも、とうに諦めてしまった。 だから熱い口中に含まれて、ハルヒは甲高い声を短く上げる。 羞恥以上に快感が勝り、押し退けようとする腕は引き寄せ、いやらしく腰が揺れるのをハルヒは抑えられない。 膝を閉じ様にも、そこにいるサンメイを意識するばかりだった。 この執拗な愛撫がそこにいるサンメイと繋がらないまま、ハルヒの快楽は限界近くに高まる。 

「ちょっと、我慢して、」

すくい上げられるように膝を抱えられ、サンメイが何かを腰の下に入れた。 持ち上がり晒されたそこに、ヒヤリと何かが擦られる。 そしてヌルリと入り込む違和感に萎えかけたハルヒを、サンメイの指が抜いた。 初めは痛みより恐怖だった。 細くすんなりしていた筈のサンメイの指、なのにやけにゴツゴツ太く感じる。 ハルヒが身体を硬くする度に、サンメイはやわやわと前を抜いた。 クチャクチャ湿った抜き差しの音が羞恥と混乱を煽った。 

そうして指が、増やされて行った。 

内臓に響く感覚にハルヒは眉根を寄せる。 しかし指が内壁の一点を掠めた瞬間、ハルヒの身体は大きく撓る。


「 ひあッ、・・・・・・ッ・・・・」

即座に暴発しそうなそこをサンメイに絞められ、ハルヒは苦しさに涙を浮かべる。 その癖内側の指はその一点を確認するように何度か刺激して、その都度締め付けられるハルヒは、跳ねる身体を持て余し荒い息を吐いた。 イカせて貰えない苦痛に涙が零れた。 そして何度目かに跳ねた身体、上げた嬌声の覚めやらぬハルヒに熱い先端が押し当てられる。

 ―― 熱い・・・痛い・・・熱い・・・苦しい・・・―― 

ミシミシそこが裂けるかと怯える。 ありえない感覚と、かつてない苦痛。 痛みに萎れるハルヒを抜きつつ、サンメイはジワジワと身体を進めた。 僅か数ミリ進入かも知れないが、胃がせりあがり、内臓を押し広げる圧迫にハルヒは腹が破れるんじゃないかと軽い恐慌に陥る。 強張る身体は余計に進入を阻んだ。

「ハルちゃん、息、吐いて、」

無理だと泣くハルヒにサンメイは言う。 

そうして必死で息を吐き、抜かれ、長い時間を掛け、漸くハルヒはサンメイを受け入れる。 
サンメイがそこに、ハルヒの指先を触れさせた。
限界まで広がったそこは、サンメイのそれをキチリと呑み込んでいる。
なんだか不思議な気がして、そして可笑しな安心感があった。

繋がったままのサンメイは動かず、泣き疲れたハルヒの瞼に、そっと唇を滑らせる。

「俺のが先に気付いたんだ。 凄い絵があるッて、俺が先に気付いたんだ。 なんだろうなぁ誰描いたんだろうなぁッて思ってて、そんでハルちゃんに一目惚れだ。 薔薇色まっしぐらだったのは俺なんだよハルちゃん。 なのに何でだろう? 何で皆ヤツを選ぶかな、あいつじゃ幸せに出来ないのに、自分から幸せ逃がすような奴じゃ駄目なのに、なぁ、俺なら幸せに出来るのに、」


やがてゆっくりと、そして角度を変える注挿にハルヒは苦痛以外のものを感じた。 断続的に上げ続けた声は、カサカサと嗄れた。 強請るようにサンメイを締め付け、サンメイに突かれ、一際甲高く鳴き、ハルヒはサンメイの腹を濡らした。 間も無く小さく息を詰め、サンメイが震えたのを内側の熱で感じた。 

あとは泥のような眠りに墜ちた。


                        **


そして、目が醒めたのは薄曇の早朝だった。 見慣れぬ天井に、あぁ、とハルヒは記憶を手繰る。 ベッドサイドに脱ぎ散らかした紺のパジャマ。 乱れたベッド。 身体中に走る鈍い痛みが、昨夜を現実だとハルヒに教えた。 しかし、この部屋には自分しか居ない。 そろりそろり歩を進め、隣りの部屋に入るとソファーの上に畳まれたハルヒの服があった。 ふと見た冷蔵庫のボードに、大きな文字でメッセージが書かれている。

  ―― 煙草を買ってきます。鍵はそのままで、――

つまり、開けたまま出て行って良いという事だろうか?

帰ろうと思った時、ハルヒは家の事を想い出す。 が、すぐにもう一つの記憶を見つけた。 自宅にはサンメイが電話を入れていたのだ。 ―― 暑気当たりなんでしょうか? 貧血を起こしたので家で寝かせてたんです。 でもハルヒ君、そのまま眠ってしまっていて、もし差し支えなければこのまま、ここに泊まって頂いても構わないのですけれども、―― まともな対応をするサンメイを、別人のようだと眺めた風呂上りの記憶。 サンメイは母親にここの電話番号を伝え、自分の名前と大学名も伝えていた。 それにより、サンメイが都内の有名大学の学生である事を、ハルヒは初めて知った。

そう、リュウセイも、そこの学生だった。 二人は親友同士で、二年の夏に同じダーツバーでバイトを始めた。 そしてその隣りのビルにあった店に、ジェンは居たのだ。 留学生パブという名の売春パブ。 ジェンはダンサーだったが、踊りの仕事などなくパスポートを取り上げられ客を取らされていた。 国には病気の子供が居て、その費用は到底国では稼げぬ金額である。 子供の父親は蒸発して居ない。 だから騙されたとわかっても、仕送りの為に働く。 

要するに、良くある話しだと思う。 疎いハルヒですら、そんなのはテレビで見た事があった。 けれど、そのジェンと恋に落ちたのはリュウセイだった。 自分とじゃ釣り合わないでしょうとジェンはリュウセイを突き放したが、リュウセイは引かなかった。 自分が何とかするから、取り敢えずお金は何とかするから今の所を辞めようと、リュウセイは幾度もジェンを説得した。 そんなリュウセイに、ジェンは次第に傾き始める。 そしてサンメイは入れ揚げるリュウセイに、ジェンを諦めるよう幾度も忠告したのだが、結果リュウセイに押され、二人の仲を支持した形になった。 

そんなある日、ついにリュウセイはジェン店に出掛けたのだった。 バイトで貯めたお金に自分名義の貯金を下ろし、これで何とかして貰えないかと胡散臭いその店に一人で踏み込んだ。 しかし、そう上手く行く世界ではない。 数人に暴行を受け、その後遺症によりリュウセイは二度と走れない身体となる。 リュウセイは大学ラグビーの花形選手だった。 もう二度とフィールドを走る事は出来なくなった。 この一件が、それぞれの今後を変える。 その日バイトを休んだサンメイは、自分がリュウセイを止められなかった事を悔い、その後のリハビリに全面的な協力をした。 リュウセイのパントマイムはそのリハの延長でもあった。 そして、リュウセイが入院した事を当のジェンが知ったのは、店での暴行から三日も経っての事。 ジェンは同じビルのホステスからあらましを聞き、その日、客と出掛けたホテルの浴室で首を吊った。 リュウセイもまた、その死を大分後に知る。

そして、リュウセイの為にジェンの遺品を手に入れたのはサンメイであった。 
そして、それを手掛かりに、リュウセイはジェンの遺児へと仕送りを始める。 

だからサンメイはリュウセイを、こちらに引き戻したかったのだとハルヒは思う。 それがサンメイの贖罪だったのではないかと今は思う。 だから、ハルヒは図らずしてその媒介として二人の前に現れた。 そのハルヒ自身、今より先に何とか脱出したがっていた。 つまり三人が三人ともそれぞれを介し、何かを取戻そうとしていたのではないか? 


夕辺あんな事をした癖に、ハルヒはサンメイへのそれが恋愛だとは思えなかった。 勿論、友達でもない。 サンメイの言葉に嘘はないのだけれどでも、何かが違う。 そもそもサンメイ自身のハルヒへの愛が、所謂恋人同士のそれとは手触りが異なるように思えた。 愛していると抱くのに、ハルヒを抱くサンメイは幸せそうではなかった。 嫌だとかではない。 行為については一つも、嫌だとか気持ち悪いだとかハルヒは思わなかった。 比べようが無いけれど、もしかしたらサンメイは巧いのかなとも思った。 でも、愛し合うもの同士なら、こんなふうに寂しさが残るのだろうか? 抱き合っても触れ合っても、あんなに感じていても、切ない空虚な欠片は一向に埋まらなかった。 寧ろ触れ合うからこそ隙間を感じ、それだから、もっと満たしてくれとサンメイを求めた。 そしてハルヒを満たしてもサンメイは切ない表情をした。 それが、答えだと思う。


だから、ハルヒは部屋を後にした。 メッセージは何も、残さなかった。


                         **


そして土曜の朝、緩く光射す空港のロビーで、ハルヒは搭乗するリュウセイを見送る。 
リュウセイはハルヒの姿を認め、歩み寄ると筒状のケースを差し出した。

「会える気がしたんだ。 だから、」

中身は丸めた写真。 大きく伸ばされたそこに写るのは、あの日ハルヒがアスファルトに描いた密林。 そして、写真の隅、三つ弱々しく伸びた影法師。

「ハルヒ、」

目を上げるとリュウセイが手を振る。 立ち尽くすハルヒはサヨナラを言う事も出来ず、三人の痕跡を手にしたまま、エスカレーターの谷間に飲まれるリュウセイを見つめた。 もう一度目を落とす密林は、光の加減か薄っすら霧が掛かったようにも見えた。


「懐かしいな、」

背後からの声に振り向けばサンメイが居た。 あれ以来、高々一週間くらいしか離れていないのに、何故だかもう、ずっと長く見ていないようなサンメイの顔だった。

「あいつ、戻ってこないかも知れない。」

「どうして?」

「一昨日付けで退学届け出してる。」

「そう」

「そうって、クールだなハルちゃん、」

「うん」

そんなハルヒをサンメイはおやという表情で見る。 胸のポケットから煙草を探す仕草が、リュウセイと似ているなとハルヒは思った。 平たいソファーに並び、黙って見上げる薄曇の空。 やがて巨大な鳥のように滑る機体。 轟音を立てて舞い上がり、あっという間にそのまま厚い雲の上空へと消えた。 

溜め息を吐いたのは、示し合わせたように二人同時。

「既成事実もある事だし、ハルちゃん俺と付き合う気ないの?」

空を見上げたままサンメイは言う。
そして同じく空を見上げたハルヒは答えるのだ。

「恋愛してないのに、付き合うの?」


向き合うサンメイは、あの時見たような泣き笑いの表情。

「・・・・だな、まず、恋愛しなきゃだな、」

「・・・・うん、恋愛、しなきゃだね」



            こうして、物語は三つに分かれる。


ハルヒは変わらずアスファルトに絵を描いたが、時々それを父親が見に来るようになった。 彩色するハルヒの傍らにしゃがみ、 実は絵が下手なんだ と男は小さな声でハルヒに告白した。

一人で手品をするサンメイは、ある日突然全国を周るからと旅に出てしまう。 音信不通の2ヶ月目、報道番組のひとコマにサンメイは写る。 話題の路上芸人として、サンメイは紹介された。 しばらくして届いた葉書には 「惚れ直したでしょう?」 と一言。 添えられていた番号に、ハルヒが連絡するのは少し後になってからだった。

そしてベトナムのリュウセイは、確かに手術に立ち会ったらしい。 けれど週に1〜2通届いた手紙は、14通目でプツリと途切れた。 最後の手紙の文末に、セロハンテープで止められた四つ葉のクローバー。 

それが幸せですという意味か、幸せになれという意味か、もしくは幸せを渇望する願いであったのか、今はもう、わからない。



            一つ葉は孤独。 二つ葉は切ない。 三つ葉の平穏は薄氷のひびの上。

            そして僕らは、立ち止まる。

            立ち止まり、迷い、傷つけ、傷付き、
            僕らは四葉の幸せを掴めぬまま、切ない欠片に戻った。



                 けれど、草原に揺れる。



      



     June 28, 2004       




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> 「ウメキュ流 殺伐正統派BL小説」  というお題を頂き書く。 正統派かどうかわからない。