デリアは、身体の線がそこそこ透けて見える、薄い桜色の生地で出来た夜着を纏っていた。
乳首の形まで、うっすらと見えている。
普段のごつい鎧姿からは、想像もつかない格好だ。なんともいえず、女らしくて、色っぽい。
「やっぱり。見えるかな?……さっきから、気になって」
「そんなの、あたしでもめったに着ないよ……ったく」
まさかアニタが、この娘にこんな着替えを渡しているとは。いったい、どういうつもりなのだろう?でも、とても似合っている。平凡な顔つきのこの娘が綺麗にみえる。

「うーん。でも、ここにはマーニャしかいないし、あとミネアしかこないから。もういいや」
あたしの心配をよそに、デリアは気楽にそう言った後、手拭で無造作に髪を拭くと、寝台に腰掛たあたしに並んで座った。
「ねぇ?マーニャ。やっぱりアニタさんの招待。受けたほうが、いいのかな?」

デリアはなんだか、おどおどした様子だ。そういえば、さっきもこんな感じだった。
あたしは色々気になっていたことを、思いきって聞いてみた。
「ねぇ。デリア。あんたさ、さっきアニタと何を話していたの?」
「……うん。あのね。わたし、さっきアニタさんの舞台見たの」
「ええっ!?デリア。あんたアレ見たの?」

はぁー。まさかデリアがアレを見ていたとは。
あたしは、この館に入ったときに、デリアに最後までついて、色々教えなかったことを後悔した。
あのとき、アニタは単にデリアに用心棒の仕事を言いつけただけでなく、余計なことも色々吹き込んでいたに違いない。

「それでね。アニタさんに『どうだった』と聞かれたの」
「……で?どう言ったの?」
「いや、あの……なんか色々知りたいと言ったら、アニタさんが教えてくれるといって……」

なるほど。それで、アニタが部屋に招いていたわけだ。でも、いったい、本当にどういうつもりだったのだろう?
この娘にあの舞台を見せて、こんな格好までさせて。まさか……ここで、なんかヘンなことでもさせる気……?

「なにもわざわざ、アニタの所に行く事はないよ。何か知りたいことがあれば、あたしが教えるから」
とりあえず、今晩はデリアをアニタの部屋には、行かせてはいけないと思い、ここに引き止めた。

「じゃあ。あの…マーニャに、聞いてもいい?」
「いいよ。何でも聞いて」
「あれって、赤ちゃんを作るやり方なんでしょ?」
聞かれることは、だいたい想像はついていたけど、なんと直接的な。

「そうだけど……」
「……それは、ああやって人前で見せるものは普通のこと?」
「違う違う。でも、ああやって見世物にして商売にしているというだけで……」
「普通に商売になるものなの?」
「それも違うわよ。あぁー何といったらいいのか……本来あの行為は結婚した男と女が、赤ちゃんを作る為にすることなんだけど、そうでない男女が欲情だけの為にすることもあるの。あまりよくないされているのだけど……」
「……欲情?」
「えっと。うーん。ご飯がたくなる事と同じような事……かな?」

「教えてあげる」とは言ってみたものの、デリアみたいな世間知らずの未通娘に、男と女の情事の説明をするのは難しい。どうも上手く説明することが出来ない。
あたしは、デリアにさっきの舞台で行われたことが、男と女のすべてではないと言いたくて、必死に言葉を捜した。

「あとは、愛し合う男女が、愛情の確認のため、ヤルことでもあるのよ」
「愛情の確認……」
「うん。ある意味、言葉を交わすより、ずっと確実……と、あたしは思うよ」
それと同時に、この場所のことも説明しなくては。と思い言葉を続けた。
「でも、さっきみたいに、特に愛し合っていないくっても、それが出来るひとがいるわけ。……それがこの館に集っているひとたちだよ」
「そうなの。だいたいわかった。……でね。マーニャ。もうひとつ聞いていい?」
「い……いいけど…何を?」
「あの……あのね。わたしね。アニタさんの舞台をみたとき、あそこがヘンな感じになったの。……でね。アニタさんにもそのことを話したら、どうやって「それ」を治すのか、やり方を教えてくれると言ってくれて……」
「……」
あたしは、思わず顔が引き攣り、言葉を失った。
ああ。まさか、この娘がこんな事をいうなんて。それでもって、なんて一番答えにく事を……。
「そうね……さっきみたいに、ひとのヤッてるところ見たりすると、そんなこともあるわね。それで、自分のあそこがヘンな感じになったら……」
「どうすればいいの?」
真面目な顔で、問い掛けるデリアに、あたしは思わず言ってしまった。

「自分で同じことをヤッてみれば、いいのよ」

「どうすれば……」
「とりあえず、ここに横になってみて……」
デリアは黙って寝台に横になりかけた。
「それから……こうするのよ」
あたしは、デリアの身体を押し倒すように寝台に上げ、覆い被さって、デリア夜着の裾を膝上まで捲くり、下穿きの中に手を入れた。
なんで、そんな行動にでてしまったのか、自分でもよくわからない。でも、あたしはなぜか夢中になって、デリアの繁みの中の花弁と花芯を弄くった。

「それを、自分の指でヤッてみるの。でね。一番気持ちイイと感じるところを探すのよ」

あたしが手を離すと、デリアはあたしの言葉に素直に従うように、自らを慰めはじめた。やがて自分で一番感じる部分を探り当てたらしく、その指を激しく動かし、少し息を荒くし始めた。
「どう?気持ちいいでしょ?」
そういいながら、あたしは妙に冷静になって、自らを愛撫するデリアを見つめた。

あたしも男に抱かれて感じているときは、こんなふうになっているのだろうか?

しばらくすると、この館中に漂う『花の中の花』(イランイラン)の香に混じって、なんだか甘い香が漂いはじめた。
茉莉花(ジャスミン)のような香とあと白檀と麝香?まるで全ての媚薬を合わせたような甘い香。これがこの娘が持っている本来の香なのだろうか?
なんだか、頭がぼうっとする。またこの娘に対してヘンな気になってきた。

「ね。そうやれば気持ちよくなって、そこが濡れてくるでしょ?それでね。さっき見たみたいに男のひとの、硬く大きくなったアレが入るの」

そんなことをデリアに言っていると、あたし自身のあそこもだんだん熱くなって、濡れてきたのがわかった。
あたしはデリアを全部脱がせて、あたしも脱いでしまって……て、気になってきた。
だけど……。

ああ。やっぱりそれはマズいわね。あたしはヘンなところで、自分が恥ずかしくなってしまった。
いったい何やってんだろ?あたし。だいたいこの娘は……。

あたしはデリアから身体を離し、寝台に腰掛けると、まだ虚ろな目で横たわるデリアに、話かけた。
「あのね。デリア。これは本当に好きになった男のひとにだけに、やってもらうことだから……」
「……うん……」
甘い香を漂わせ、頬を紅潮させた。デリアが頷く。
「好きな男のひとが出来たら、自然にして欲しいと、そう思うようになっていくから。……そのひとにしてもらうまでは、そうやって自分で慰めるのよ……あーだけど。ひとりのときにやってね」
「うん……」
「それから。今日のこのことは誰にも内緒にしてね。ミネアにも絶対に言わないこと」
「……うん」
「さっきも言ったけど、こういうことは、本当は男と女の間ですること。そして人前でやることじゃないから」
あたしは、べらべらと言い訳のようにデリアに話かけ続けた。
でも……この娘本当にちょっとヤバイかもしれない。ヘンな男にひっかかったら、いったいどうなることやら。

あたしが、そんなことを考えながらデリアから目を逸らしていると、彼女はいつのまにか、すやすやと眠りについていた。
あたしは、デリアの内腿を手拭でそっと拭き取り、夜着を整えて毛布を被せた。

あたしも、身なりを整えるとデリアとは離れた、小さいほうの寝台に横たわった。
その後、すぐにミネアが帰ってきたが、あたしは寝たふりをして、その夜はミネアとは何も話さなかった。本当は、デリアが追い払ったという、イヤな客の話を思い出したので、聞きたかったのだけど。

※※※※※※※※※※※

翌朝。
あたしが起きだすと、ミネアとデリアはすでに着替えを済ませていた。
寝ぼけて、頭がまだはっきりしないあたしに、ミネアが物凄勢いで、しゃべりだした。
「姉さん。姉さん。現れたのよ。あの侵入男。私の占いのところに」
「……へぇ。それで?」
「素知らぬフリして、普通に占った後、館の外まで送るふりをしてね、懲らしめてやったわ。ちょうどデリアもそこに来てくれたし。私が聖風呪文(バギ) をお見舞いしてやった後、デリアが剣で脅したら、さっさと逃げたわ」
「ああ……。そういうことだったのね」
「えっ?姉さん、早々と先に寝てしまって、デリアから何も話を聞いないのでしょ?」
「あっ………いや。なんか、ここの娘達が話していたのを、通りかがりにちょこっと聞いたから……」
「なんだ。そうなの。それでね。アニタからも感謝されたわ。なんかあまりいい客じゃなかったらしくて……」
ミネアの得意げな話を、だんだん聞き流しながら、あたしはデリアと目を合わせた。デリアは少し照れくさそうに、頷きながらあたしを見た。

秘密を守るために、小さな嘘をつけるなんて。世間知らずで、おどおどしていたデリアも、なかかなやるようになったじゃない?……でも、そうさせたのは、あたし。か。

※※※※※※※※※※※

アニタの館を立ち去ろうすると、アニタがあたしだけを呼び止めた。
あたしはミネアとデリアを先に行かせて、話を聞いた。

「ねぇ。あのデリアという娘。預けてくれないかな?……たぶんものすごくいいものを持っているよ。男達が皆夢中になるような……きっと伝説になるよ」
……なんの話かと思えば、とんでもない申し出だ。
「だめよ」
「どうして?」
「あの娘は、あたしのものだから」
「ふん。そうなのかい?……まぁそういうことに、しておいてやるよ」

どうやらアニタ姐さんもあたしと同じことを感じていたようだ。ダテに娼館の女主人はやってようだ。
……でも、そんなことでデリアが伝説になるなんてとんでもない。男達の慰みものなんて、させるものか。

この娘は世界を救う『伝説の勇者』なのだ。あたし達の目的に為にも『勇者』でいて貰わなければ。

そのためには、多分あたしはこれから、好きでもない男と寝ることになるかもしれない。デリアに言い寄る男でロクでもない男から守るために。
どんな男と寝ることになっても、どんな事をされても、きっとあたしは平気だ。
もしかして、あたしみたいなのが『導かれし者たち』に選ばれたのは、そういう役割のためなのかもしれない。

そして……そのうちデリアに相応しい男もちゃんと見繕わなければね。いったいどんな男があの娘にふさわしいだろう?そして初めての男は……?
おっと。これでは、まるで娼館の女主人そのものだ。
もしかして、あたしもアニタ姐さんのように、そっちの稼業が向いているのかもしれない。
でも、あまりなりたくないし、なるつもりもないけどね。

※※※※※※※※※※※

「マーニャ!」
館を立ち去ろうとすると、アニタが何かを手に持って、再びあたしを呼び止めた。
「何よ。まだなんか用?」
「これ。持ってきな。あの娘が欲しがっていたものだよ。ちゃんと肌につけられるように、調合したやつだから」
アニタが小さなすみれ色の硝子瓶をあたしに手渡した。
「さすがに茉莉花(ジャスミン)というわけにはいかないけど、これならやるよ」
瓶から漂うのは『花の中の花』(イランイラン)の香。
「これは、あたしが貰うさ」
「好きにすれば」

あたしは、瓶の中の香油を首筋に塗りつけた。道の先でデリアが振り返り、あたしに手を振っている。

あたしは大きく深呼吸をして、その香を愉しんだ。

− fin−


あとがき

この小説のプロットが出来たのは実は「love affiar -情事-」を書いた時期とほぼ同じで、かなり古かったりします。某巨大掲示板の某スレに投下するつもりで、書いていました。当初はもっと男性向きな文章でした。一応普通に百合小説のつもりでしたから。
男勇者の「初体験」の相手がマーニャだというのは、ありがちなネタですが、女勇者でもゴニョゴニョ……というわけです。
まぁ初体験云々は別として、勇者にとってマーニャ、ミネア姉妹は「外」に出て、初めて深く関わる人物。それだけに、ものの考え方などに強い影響を受ける(受けてしまう)のでは?と私は考えます。

ここまでたどり着くのに、(なんと約4年前)これだけ迷走したのは、やはり題材のせいです。百合のようであって、実はそうではないという、中途半端なものに変化していってしまいました。

小説の中にイランイランとかジャスミンとかが出て来るのは、これを書き始めた当時、アロマテラピーに凝っいたからです。
それと、どこかで「麝香の香をもつ女性と白檀の香をもつ男性は異性に対して性的魅力を持つ」という話を聞き、この話のネタにしました。
デリアというか、天空人のトンデモ妄想設定。えっちをするときだけ、媚薬体質。男女両用。

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