蜜月 -第一夜 -
(1)

「なんでもかんでも一人で抱え込むことはねぇ……だったらオレが全部受け止めてやるぜ」

クレオその言葉に、ミシェルの抱いていた想いが一気に溢れ出した。

「今だけは女だと思ってくれ」

そう言って髪をほどくミシェルに、クレオは一瞬どういうことなのか?という顔をした。
が、おもむろにブラウスのボタンを外し、キュロットを脱いだ姿で抱きついてきたミシェルに、やっと何を求められているのかを理解し、抱き止めた。
「いいのかよ。オレで」
「……お前でなければ、いやなんだ」
何かに縋るように胸に顔を埋めてきたミシェルに、クレオの男の本能が湧き出す。
「知らねぇぞ……どうなっても」
「いいんだ。好きにしてくれ」

クレオはミシェルの胸に硬く巻かれている、晒のほどき目を捜した。
「私が……」
自ら晒を解こうとするミシェルの指をクレオの掌が包む。
「待てよ。これはオレにやらせてくれよ……」
クレオの見た事がない微笑みと、その濃紺の瞳の視線に男の劣情を感じたミシェルは思わず目を伏せ頷く。
なんとかほどき目を見つけたクレオが、無骨な指を絡めながら晒をほどいてゆく。
その下に押し込められたミシェルの豊かな乳房が現れると、クレオは思わずその桜色をした乳輪に唇を近づけた。
「あっ。クレオちょっ……」
「なんだよ」
クレオのいきなりの愛撫に途惑い、乳房の前へと迫ったクレオの頭をミシェルは思わず遮った。
だが、それを悟られまいと、思わぬことを口にした。
「……あの……私にもやらせてくれ」

自ら口にしてしまった言葉に途惑い、ミシェルは一旦大きく息を吸い呼吸を整える。意を決してクレオの上着のジッパーを抓み、ゆっくりと降ろしてゆく。続いてクレオの首に肩に腕にぎこちなく指を這わせながら、脱がせてゆく。
その下のシャツを捲り上げると、現われたのは、かつて惑星オルレアンで垣間見た男の身体。無数の傷。特に目立つは心臓の位置の大きな傷。
今日起こした発作は、この傷となにか関係があるのだろうか?
それに触れながら、ミシェルはクレオに問いかける。
「この傷は……」
クレオはその問いかけには答えず、おもむろに今二人で座っている床の敷物に目を落としていた。
「……これだけじゃ、じっくりお前を味わえねぇな」
「え?……」
「ちょっと待ってろ」
クレオは途惑うミシェルの顔を見ることなく、一旦身体を離し立ち上がった。そのまま部屋の隅へといったかと思うと、そこに置かれているベットからマットを剥がし、ミシェルの前へと抱え持ってきた。
「ほらよ」
立ったままの姿でクレオは無造作に、マットを暖炉の前の床に放り出した。
ミシェルが顔を上げると、クレオの下半身が目に飛び込む。いつもとは違うスボンの前の膨らみに気付くと、思わずそれを凝視した。
「ク、クレオ……これは……その」
「ああ。もうこんなになっちまったか……」
唇の端に笑を浮かべがらクレオは腰を降ろすと、ミシェルの顔に手を延ばし、頬に指を這わせた。
ミシェルの翠の瞳にクレオの濃紺の瞳が近づく。
「本当にいいんだな?もっとお前に触れても」
「頼んでいるのは、私だ」
ミシェルはゆっくりと目を閉じた。

静かに二人の唇が重なる。

ミシェルの脳裏にふと、かつて自分の唇に触れた男たちが蘇る。
兄上……。背徳の思いに駆られながらの甘美なあのひととき。
そして……。
ミシェルは思い出してしまった。あの男の紛いものの手の感触。そして近づく濃紺の瞳を見た途端、クレオの顔が浮かんだことを。遠のく意識の中、あの男になすがままにされているときも、目を閉じクレオを思ったことを。

ミシェルは思わず唇を離し、クレオから目を逸らした。

だがクレオは再びミシェルに唇を重ねる。今度は激しく舌を絡ませながら吸い尽くすように。クレオの唇はそのままミシェルの首筋から乳房へと這う。
「…あっ」
乳房を愛撫されたミシェルは思わず小さく声を上げると同時に、身体の力が抜けていくのを感じた。
そんなミシェルを察したように、クレオはミシェルの乳房に吸い付いたまま、覆い被さりながら、床に投げた出したマットの上へと押し倒す。
クレオはミシェルの身体がマットの上に落ち着いたのを確認すると、ミシェルのまだ穿いたままのタイツに手を掛け、下着と共に一気にずり降ろした。

愛し始めた男の前で、捨てたはずの女を晒されたミシェルは恥じらい混乱した。
なぜだか、どうしてもあの男との一夜が蘇る。
「ああ。クレオ……」
「ん?また俺のも脱がしてくれるのか?」
「……そんなこと」
ミシェルの思いを知る由もない、クレオはからかいの言葉をかけた。そして、それに途惑うようなミシェルの態度に、クレオは仕方がなぇなと言わんばかりに、自分でスボンと下着を脱ぎ捨てた。

女を欲して、すでにはち切れんばかりになっている、男の象徴が剥き出しになる。
ミシェルはその「もの」に驚き途惑いながらも、別のことを考えてしまった。

あの男のは…………。

「待ってくれ」
再び蘇った幻影にたまらず、ミシェルは覆い被さってきたクレオを制止した。
「すまない……私には、お前に抱いて貰う資格などないんだ」
クレオにとっても因縁をもつ、あの男の手垢に塗れたこの身体。それを知っても、この男は本当に自分を欲してくれるのだろうか?
ミシェルはそう思うと涙が溢れ、クレオの顔をまともに見ることが出来なかった。
「私は、私は……ヴェッティに……」
ミシェルはたまらずあの男の名前を口にする。
続いて、陵辱されたと言葉にしてしまいそうになったミシェルの唇に、クレオの指が触れ、その先の言葉を塞ぐ。

「何も言うな。黙って俺のものになればいい……」

クレオの言葉にミシェルは胸がいっぱいになり、先ほど流した涙とは別の涙が溢れ出た。


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