『ねがい星 かなえ星』 年の瀬が迫った寒い日でした。 アデューとサルトビが野営の準備をしていると、空から鈴の音と共に魔法のワゴンが飛んで来ました。パッフィー達のワゴンとよく似ていましたが、前面の生物を模した部分には鹿の王様のような立派な角が付いていました。 御者席に座った恰幅の良い紳士が朗らかに話し掛けてきます。 「私は星の精。君達が望む物を大切な人に送り届けるよ」 自分の為ではなく、他人の為の願い。その優しい気持ちが星の輝きの源なのだそうです。 あまりにもメルヘンチックな展開に、二人はどう反応していいかわかりません。 先に口を開いたのは警戒心の薄いアデューでした。 「えーと、だったら、パッフィーに何か女の子の喜びそうな物を……ってのはアリか?」 「どうぞどうぞ、そういう曖昧な願いをされる殿方は多いんですよ。こちらのカタログからお選びください」 星の精(自称)は準備万端でした。 アデューは早速、手渡された分厚い冊子にかぶりつきます。 「そちらの方はどうします? カタログから選ばれますか?」 「いや、俺はもう決めた」 予備の冊子がありますよ、とワゴンの中を漁ろうとする紳士をサルトビは右手を軽く挙げて制止しました。そして、紳士の視線が右手に向けられている間に人差し指だけを立てる仕草に切り替えると、隣のアデューを指し示します。 「俺も受取人はパッフィーで。この音速馬鹿を、速達で頼む」 「了解しました」 「え? ちょ、ちょっと待てえええええええ!!」 アデューを乗せた――サルトビと星の精(自称)の二人掛かりで無理矢理押し込んだので、載せたという方が正しいですが――ワゴンは最大速度で空を駆けて行きました。 数時間後、再びワゴンはサルトビの所に戻ってきました。 「どうした? 受け取り拒否か?」 「いえ、先方は大変喜んでおいででしたよ。すぐにお返しを届けて欲しいとのことだったのですが、受け取り主に貴方様を指定される方が他にも大勢いらっしゃいまして……」 言いつつ、星の精は次々に荷物を降ろし、サルトビの目の前で組み立て始めました。 「新年も近いというのに宿代をケチって野宿で済まそうというのはあまりにもどうかと思う、というのが皆様の共通の見解でして」 組み立て式ログハウス。数日分の食料と薪も完備。 「メッセージカードも預かっておりますよ」 『さっきはよくもやってくれたな。 パッフィーや皆を連れて戻ってくるから、中を暖めて待ってろ! ――アデュー』 内容こそ喧嘩腰ですが、その文字は優しい筆圧で書かれていて、 「……あの馬鹿」 受け取ったサルトビの声も少し柔らかでした。 ワゴンは巨剣の頂よりさらに上空――アースティアを守るバリアとは異なる概念の空へと昇って行きました。 人々の優しい心の力が荷台から零れ落ち、周囲の星々へと降り注ぎます。 その中の二つ、寄り添い合って優しく瞬く星が、闇を滑るようにして御者席の方に飛んできました。 《異なる世界の賢者様。無理を言って申し訳ありません》 「いやいや、貴重な体験ができました」 星の願いを聞き届けてアースティアにやって来た紳士――サンタクロースは優しく微笑みます。 「私一人では、他者への思い遣りの力を集めるという形でしかプレゼントを配ることができませんでしたが……、来年はもっと大勢の仲間を連れてきましょう。 あなた方の息子さんは照れ屋のようですからな。聖なる夜ぐらいは、自分の為のワガママを言うべきだ」 《ありがとうございます》 本当のところ、星は今回の叶え方でも十分に満足でした。 優しいあの子が友の為の願いを口にし、友人達もあの子の為に動いてくれた。共に暖かな時間を過ごせる人々がいるのなら、もう大丈夫。 二つの星は、遠い遠い空の上からログハウスを見守っていました。いつまでも、いつまでも―― おしまい (2010/7/13 ネタ帳にup) (2010/8/4 微修正&あとがき書き直し) ■>あとがき |