「はぁぁぁ………」
大きく吐いた溜め息が蛇口から流れる水に混じり、真っ暗な排水溝へと消えてゆく。
洗うと言うより流水に浸してる状態の手は力なく合わさり交互に重ねられている指は解かれること無く冷たくなっていた。
情けないことに決心がついても踏ん切りがつかない。情けないことに。
まるで飛び込み台の先端に立ってるくせに足が竦んで動けない飛び込み選手みたいな心境。
そんなぼくを遠くで恐い顔したもう一人のぼくが見ている。
何を今更怖がってるんだ、これまで散々同じ台から飛んできたのにまだ怖がるのか。怖がる理由はなんだ。結果か、過程か、自己愛か、それすら分からないのか。苛つきながら睨み付ける…その視線が更に恐怖を煽ることを知っていても。
落ち着くために寄ったトイレだったけどそれが逆効果になってしまったと分かったところで、時既に遅し。息を潜めていた意気地の無いぼくがひょっこり顔を出しネガティブなことを耳元で囁く。
昨夜の記憶が水に流れに歪んで映し出され、流れた水量分だけ後悔が胸に溜まる。
多分ぼくは間違ってない…でも言い過ぎたのかもしれない…ついつい口汚くなってしまったかもしれないし…関係ないことまで引き合いに出したかもしれない。いやいや、自分は間違ってないと思ってたけど正しくは無かったかも。どうしたって感情に理性は流されやすいもんだし、他愛も無い事でも誇張され誇大妄想が増徴してゆく。
そもそも、あそこでムキになったぼくが悪かったのかも。それともぼくが言って欲しかったことと御剣が返した答えが合わなかったから不満だったとか…考えれば考えるほど霧が濃くなり、反省するにしたってその取っ掛かりが分からなく、迷い込んだ樹海の木々は何もかも呑み込むように被さってくる。
こんな中途半端な状態で特攻しても、容赦なく浴びせられる詰問に太刀打ちできるわけ無い。ぐうの音もでないくらいやり込められ、不協和音の種火が業火になり、鎮火は困難延々と怒りの炎は燃え続け、結果、頼りになる助手が言ったみたいに恋しい人はその場で海外出張の手続きをしてしまうかも知れない。冗談のような展開、でも、超現実的!
「はぁぁぁ………」
溜め息一つ吐く毎に幸福は逃げるって言うけどさぁ…その幸福は別名御剣怜侍って言わない?
洗面台の壁に設置されてる鏡には半死半生、病人みたいなぼくが映ってる。
本気で怒ってたらあんな態度とらない…って励ましは途中参加の傍観者だから言えることかもしれない。事の顛末を、あの、嵐のような状況を目の当りにしてないからこそ言えることかもしれない。
ぴりぴり全身から発せられる怒りの電磁波。髪を逆立てコメカミをひくつかせ、奥歯が欠けるんじゃないかってほど唇を引き結び、きつく絞られる瞳孔は太陽の黒点並みの熱量を感じさせる。握り締めた拳はブルブルと震えてるのに息遣いだけは異様なほど静か。
御剣は怒りを周囲の物にぶつけたりしない。暴力でそれを発散させることもまず無い。法的に自分が不利になるような愚かしいまねは絶対しない、けど、爆破寸前で腹の内に押さえ込む‥いや、強引にねじ伏せるって言った方が正確かも‥そんな怒り方ほど怖いものってないよね。超怖いよね。
ぼくってばそんな鬼みたいな御剣の前からよく逃げ出さなかったよねぇ‥いくらその時自分は悪くないって思ってたからって向かって行けちゃったよねぇ‥。
今更後に引けないからでも腰を抜かさずにさ‥ブルブル震えながらでも睨み返せたのって愛の力無しにはできないことなんじゃないかって本当に、本気で思う。
こっそり告白するとね…怖えぇぇぇ!って震え上がりながらも‥しちゃったんだよね…般若顔の御剣を組み敷いてのセックス。モチロン妄想の中でだよ?
言い合いの最中、違った興奮を覚えちゃったんだよね…。あの状況そのもの擬似セックスみたいで交互に寄せる加虐と嗜虐の快感にゾクゾクした。…マジで…勃ったもん。
そんなこと実行できるわけ無いんだけど!実際超アリエナイ展開なんだけど!ケンカしてもぼくの中にはこれっぽっちも御剣への憎しみなんて湧かず恋しさが増す。それが普通とは言わないけど…御剣へ向かうぼくの愛情の形。タクサンある形の一つ。
あぁ…だからぼくは負けじとぶつかって行けたんだぁ……。独特の高揚感を気持ちいいって感じたから終わらせたくなかったのかも……って、ナニ分析してんだよ、ぼく!自分に感心してんな!しっかりしろ!
今考えなきゃいけないのはどうやったら現状を改善できるか、だ。
鬱々としてたと思ったら悶々になってた頭をすっきりさせようと流れる水を掬い顔面にぶちまける。
一度、二度、三度。雑念は滴り落ちる水と一緒に流れ、数さえ分からなくなった頃「ぷはっ」と勢いよく息を吐き出し腰を伸ばす。いくつかあるポケットを探り、浅くしわのよったハンカチでびたびたに濡れた顔を拭いていると人の気配。
公共の場だから気にすることは無いけどなんとなく、なんとなくその気配に目を向ければ
「………な、何してんのこんな所でって…お前、局に戻ったんじゃなかったっけ?!」
さっき見送ったはずの御剣が腕組みをし入り口に立っていたから驚いた。声が裏返るくらい驚いた。

ロビーで会った時は気まずかったけど顔を洗ったおかげで気が晴れたのかいつもみたいに声をかけられる。何故ここに?って思う反面好きな人との再会は単純に嬉しいからね。
なのにまあ、当然なんだけど御剣はあの時と同じくぼくの質問をキレイに無視して険しい表情。ただ、少し違うのはぼくの存在は認めてくれるらしい‥眉間に刻むヒビの深さを三割り増しにして睨んでるから。
「…えっと、モレそうだったから急いで戻ってきた‥わけじゃないよね‥」
違うと分かってても訊いてみたりして。だってここトイレだし。
無理に笑ってみせてるからだろうか‥こわばる表情筋。沈黙が重い。居た堪れなさを誤魔化すみたいに濡れたハンカチを折りたたみ
「ぼくに会いたくなっちゃった‥とか‥‥まさかね‥」
そんなわけないって自分に突っ込みをいれつつポケットにしまう。
それでもやっぱり完全スルーの切なさってどう例えたらいい?戦う前から白旗上ちゃいたくなる。
何を口してもスルーされると分かってるからしゃべることもできない、かといって何もしないのでは居た堪れない‥歳柄も無くモジモジしてと御剣は軽く嘆息吐き近づいてきた。
反射的にね…身を引いちゃうわけだよ。距離を一歩詰められたら同じだけ退いちゃうんだよ。怖いもん‥正直何されるんだろうってビクついちゃう。
狭いトイレの中を後ずさりしてジリジリ、行き着いた場所は個室。それもコーナーまで追い詰められ逃げ道は完全に塞がれ壁面に張り付く。
個室の唯一の出口には御剣が仁王立ち。ぼ、ぼく、どうなっちゃう?!
「ちょっ‥何?何なのさ?!」
窮鼠猫を噛むなんて高尚なことがぼくにできるはずも無くせめてもの悪あがき‥‥違う、攻撃を受けても衝撃が確実に軽減できるようピーカーブースタイル(ファイティングポーズと言えないところが切ないけど)でガードを固めた。
「…………!」
悲鳴すら喉に張り付いて上げられないぼくに静かに近づく御剣はその距離数十センチのところで止まった。
「………!」
軽く握り締めていた右手をゆったりした動作で持ち上げ伸ばす。奥歯をかみ締め目を瞑り来るべき時に備える。問答無用でグーパンチ、なんてこと無いよね?!鼻を摘まれるくらいがぼくはいいんだけど…分からないまでも希望は失わないわけで…。
ミシ…僅かに壁が軋む音を暗闇の中で聞き、最悪の事態は免れたらしいことを知る。
それでもピーカーブースタイルは崩さず、恐る恐る目を開け
「……!」
目の前、ホント目の前、鼻先十センチ以内に御剣の顔があったことに度肝を抜かれた。
そしてその顔がぼくの握り締めた拳二つを乗り越えて来たこと…逞しい胸板が強く押し付けられてきたこと…なにより御剣の足がぼくのひざを割り差し込まれたこと…その全てに今までとは違った意味で驚いたし邪な意味で鼓動が早鐘を打つ。
ぼくたちは恋人同士で、これまでにそーゆーシチュエーションが無かったわけではない。触れたい気持ちが堰を切ったように溢れ出し衝動のままそーしちゃったこともあった、けれど…
真昼間、地方裁判所、一番人の出入りのある一階、男子トイレでこんなことしたことは無く…しちゃうかもって思ったことも無く…つか、外でのナニはハシタナイって言ってた君がいったいどうしちゃったの?!って思うのは当たり前だよね?!
それに、戸、開けっ放しだし!
ナニがナンダカ、ナニをどうしたらいいのか、盛大に混乱して滅多に無いシチュエーションを素直に喜べない、楽しめないぼくなんてお構い無しで行為は進んでゆく、この何ともいえない不可解さ。でも、でもだよ…?
「…!!」
御剣の前髪がぼくの鼻先を優しく撫で、御剣のスベスベのほっぺたがぼくの頬を擽って、御剣の静かな吐息がぼくの耳にかかり、御剣の太腿がぼくのナニを刺激する…それを無抵抗、されるがまま受けているぼくがいる。
とっくに防御スタイルは解いちゃってるよ。抵抗どころか積極的に受け入れ態勢、赤いジャケットの内側に手を差し入れ脇腹とか腰を撫でもっと強く抱きしめたいって思う。
キスを
したいって。
この状況を誰かに目撃されたら超ヤバイってことも知ってる…実はまだ冷戦状態真っ只中で御剣の思惑もまったく不明だってことも知ってる…そういう理性的思考を情動のまま排除し、ただ、キスしたい。深く、熱い、キスをしたい。できることならセックスだって…!
昨晩、期待してたセックスは言い争いの果て御剣はぼくんちを出て行ったことでご破算。なのに妄想だけはパンパンに膨らんでぼくは消化不良。今の状況に正直息子は呆れるくらい正直に反応し、カチカチになってさ…痛いくらい。
ケンカしたって好き。怒ってたって好き。冷たい君も大人気ない君も鬼の形相の君も理解できない行動を起こす君も大好き。全部全部好き。
想いが膨らみすぎて苦しい胸の内。切なくて苦しくて嬉しくてやるせなくて恋しくて、縋るように顔をずらし
「…もう、怒ってない?」
恋情に熱くなった息で甘え囁いて、未だ一言も発しない唇を求めた。
一瞬、ぼくの唇がそれに触れ、キュンと胸が鳴る。柔らかい唇を早く口にしたい…伸ばす舌先、喰むために開けた口。今まさに…!なところで退かれる顎。
それでもめげずに追いかけて……更に逃げられる。
焦らしてんの?!
いわゆる焦らしプレイ?!
嫌いじゃないけどもどかしい…だから「みつるぎ‥」強請るように身を乗り出したぼくに思っても無かった展開。急転直下、不測の事態。
ねぇ!
ちょっと!
呼びかけ、先を求めるぼくを御剣が突き飛ばすなんて予想できた?!
緩やかな動作で擦り寄ってきた男が一転素早い動作で身を引くなんて予測できた?!
浮き上がった身体が硬い音を立て壁にぶつかるなんて、信じられる?!
当の本人が何が起こったのか理解できないのに誰がこの事態を予見できただろう!誰だってできるはず無いんだ‥できるわけが無い‥そう、ぼくを突き飛ばした御剣以外……!

鳩が豆鉄砲を食らった、そんな感じでトイレの壁に張り付き目を剥いてるぼく。口にする言葉も見つからずパクパクしてるぼく。
そんなぼくを引いた場所から見下ろしてるのは御剣で、そりゃーもう、怖い…鬼って言うより呪術師が呪いをかける瞬間みたいなオドロオドロシイ表情を浮かべている。
「怒っていないか‥だと?」
何?何?それって呪いの言葉?今日初めてぼくにかけられる言葉は地を這うような低い声で色んな思念とか篭ってそうな響きを持っていてワケが分からないなりに背筋が凍る。
怖いから目を逸らしたい‥でも怖すぎて逸らすことはできない‥恐怖体験。まさかこんなところでするなんて!
震えるぼくに突きつけられるのは
「怒っているに決まっているだろう!!」
聞き覚えのある木槌の音を伴った敗訴の通告‥と同様、絶望感溢れる台詞。それもただの敗訴じゃない、逆転敗訴を食らった時みたいに衝撃的で‥。
靴音高く立ち去る御剣を追いかけることなんて廃人化してるぼくにできるはずも無かった。


静まり返った男子トイレ。
呆然と見詰める先には変わらない光景。
進んでるんだか戻ってるのかわからない時間の感覚。


どのくらいぼくはそうしていたのだろう。
起こった事態がまるで他人事のように現実味が湧かない。ただ、ただ、口を開け固まり続けていたぼくは、壊れたゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちなく緩慢な動作で姿勢を正し、シュルシュルと気が抜ける音を遠くで聞きながら洋式トイレの便座に腰を落とした。
これがぼくの動ける限界‥個室のドアが開けっぱなしなのがその証拠。
それでも止まるわけにはいけない。回転数の低い頭でなんとか記憶を辿らなきゃ。今にもショートしそうな状態でも起こったことを整理しなきゃ。
クラクラ揺れる頭を両手で支え弾き出した答えは「御剣は現在進行形で怒ってる」ってこと。本人もそう言っていたし、間違いない‥いやいや、それじゃ足りない。怒ってるの前にモノスゴク、が必要だ。
じゃあなんであんなことをしたのか‥そのロジックを解き明かすのはぼくのしなきゃいけないことなんだけど‥難題過ぎるソレに深い溜め息を床に撒き散らす。
ああ‥今になってようやく感情が追いついてきた。む、虚しい‥。
色々期待してた。期待してドキドキして‥それがきれいさっぱり無に帰したことが‥凄く虚しい。いや、無に帰したんじゃない‥はじめから何もなかった。何も無いところに希望の光りを見た自分がバカだった‥だから虚しいんだ。
ロクに瞬きをしていなかったから、目を閉じたらバリバリに瞳が乾いてて痛かった。もう目を開ける気力すらないよ…ごちるけど、考えるのを止めたらダメなことぐらい分かってる。この分だと御剣から歩み寄ってくること、なさそうだもん。

ケンカはこじれなきゃしてもいいと思う。人と人の間柄だからぶつかり合うのは当然で、ソコから絆が生まれるもんだし理解が深まるってこともある。
御剣だって自分に多少なりにも非がある時はちゃんと謝ってくるよ?すっごく遠まわしな言い方だって、分かりにくい態度だって、謝りたいんだなってのがぼくには分かるから、苦笑しながらもういいよって言う。
その逆も然りで、ぼくの方が悪いんだなって思う時は怒り覚めやらぬ御剣に平身低頭、必死な思いで謝り続ける。情に訴えたりあの手この手でご機嫌とってさ‥根負けしたところでお許しをもらう。そんな感じで。コミュニケーションの一環だからいいと思うんだ。
仲直りしたあと普段の何割り増しでイチャイチャできる。ここぞとばかりに無理なお願いをして叶っちゃったり、普段できない行為もできちゃったりね…ぼくが最終的に得するんだもん。
でもそれはどちらかが非を感じた場合のこと…。
真宵ちゃんの言うところの『どっちもどっち』だと”怒りレベル”が高い方が強者で低い方が弱者になる。弱者は強者に傅いかなきゃいけなくて、大概それはぼくの役。腑に落ちない時もあるけど愛してるんだからしょうがない。矜持なんてクソくらえだ。
『なるほどくんの方が分が悪そうだよね‥今回は』
そうだね…本当にそうだね…真宵ちゃんが察した通り今回は…いや、今回も、ぼくから歩み寄らなきゃいけないみたい。
分かってたことだけど。
にしてもさぁ…
にしてもだよ?
今回は手が込んでる。
タイミングの問題なのかもしれないけど、怒っていることを知らしめるため一度立ち去った場所に戻りぼくの様子を伺ってたってことだよね…忙しい検事サマがいったい何やってんだよ。
そしてぼくが一人になったところで登場しあの行動でしょ?意地を砕くには効果的だけどさぁ…『これだけ怒ってるから何とかしたまえ』ってことなんだろうけどさぁ…ツンデレもいいとこだよなぁ。結構時間が経ってるはずなのに元気な息子をチラッと見て苦笑い。お前って正直だよな!心の中で呟く。
確かにアレは効果抜群、ぼくが受けた精神的ダメージと肉体的ダメージはハンパない。けどだよ?
構って欲しいなら別の方法があるだろうに…落ち込みながらも束の間の官能を思い出しぼくは違った意味での苦笑いを浮かべる。
怒りを強調するためでもあんなあからさまに甘えた態度をとるって恥ずかしかっただろうね。って言うかさぁ…かなりの屈辱だったんじゃないかなぁ。
吐息を混ぜてのほっぺすりすりでしょ?
色香を意識して身体を預けるなんてよっぽどだし、アレだよ、アレ。息子への直接攻撃…ドコのショーガール?みたいな動きとか、その発想、その行為、ナニで覚えたんだっつーね。関係修復したら問い質したいよ、マジで。
いくら前フリだっていっても普段やんないことをした後って死ぬほど恥ずかしいんじゃないかなぁ。
してやったりって思いながらも後悔してるよ、絶対。御剣の消し去りたい過去リストにランクインしたんじゃない?かなり上位に。
ぼくを焚き付ける目的でもアレ自体、諸刃の剣だったって気づいてる?
御剣ってさぁ‥解ってるようで解ってないよね。自分の魅力とか影響力とか無頓着‥過小評価しすぎ。そこがぼく的に堪らないとこだけど不安にもなるわけで。いやいや、それが超カワイイんだから多少は目を瞑るべきかも‥でも、心配は心配で‥。
ダメだ‥悶々としてきた。
それに、アレを思い出したら心拍数が急激に上がったし鼻の奥もツンと、って‥性少年じゃないんだから妄想で鼻血噴くなんてカンベン。オイオイ、息子よ。そんな元気になったら外歩けないじゃん!
我慢しろ、我慢だ。ケンカの先に見える仲直り、その先に見える素敵な時間を思い今は辛抱の時だと言い聞かせぼくは自らの行動を模索する。
まあ、模索って言っても決まったようなもので…
ゴメンナサイ、ボクガイイスギマシタ、ユルシテクダサイ、キミガスキデス。思いつく限りの言葉を尽くし冷戦解除を願うだけ。意地も矜持も恥じも何もかもかなぐり捨て想いを貫くだけ。
ぼくが君にみせる愛情も優しさも思いやりも、溢れかえる劣情をある程度我慢した結果表せるわけで、煩悩の我慢こそ円満な関係を続けてゆく秘訣とも言える。
……え?違う?ん〜…そうかなぁ?
まあいいじゃん。恋の形は十人十色、愛情表現も千差万別。
これがぼくの愛の深さだから…御剣にだけ分かる深さだから…いいんじゃないかな。

考えが纏まったところでぼくは立ち上がり、ズボンの前を気にしながら洗面台に向かう。
地裁を出て検事局へ行くには顔でも洗ってクールダウンしなきゃ捕まっちゃうもんね。
鏡に映る顔はさっきと比べものにならないほど血色がよく、イケルんじゃないかって自信が湧く。
きっとこのケンカも終わってみればただの言い争い。ケンカとは言えないくらい些細なことになるはずで…光明射す未来に向けぼくは歯を見せ笑った。




おしまいv

  



正直この子(なるほどくん)オカシイと思いながら打ちました。
オカシイ、と思いながらもなるほどくんだからと
変に納得する自分がいてビックリです、よ。

2009/3/2
mahiro