激しく鼓動を打つ心臓がドクドク、リアルな音を響かせ、異常にあがった息で呼吸すれば肺がきゅっと痛む。
夢から覚めたのか…理解して、ホッとしたのは妄想が行き着くところまで行かなかったから。性少年のソレじゃないんだから…この年になって夢精のヤッちゃった感を眩い朝日が射し込む前の寝室で噛み締めるなんて虚し過ぎる。据え置かれた情欲の焦れた鼓動に僅かばかり落胆する気持ちもあったが安堵の方が大きく、取り戻した理性に御剣は小さく息を吐いた。
まだ、ぼんやり定まらない焦点に何度か瞬きをすると薄暗い闇に浮かび上がる‥ソレ。ギョッと吐いた息を丸呑みして
「………成歩堂、龍一?」
掠れた声でソレの名前を呼ぶ。半分疑問形で。
夢の中でその存在を認めていても姿まではっきりと映したわけではない相手がまさか目の前に居ようとは‥。
思ってもいなかった現実は思考を混乱させるに充分なものだけど
「え、あ‥えーと、お、おはよう‥御剣」
呼ばれた人影は御剣と同じようにギョッとしたらしく動揺からか上擦った声色でしどろもどろに挨拶をした。
いくら寝起きでも現状を無視して素直に挨拶を返せるほど御剣は単純に出来ていない。
「…何故、君がここにいる」
兎にも角にもこの状況‥最も不可解な点を訊ねるのは、当然といえば当然。
「それは‥昨日呑みに行って時間も遅いからって泊めてもらったでしょ?覚えてない?」
なのに覚えていないのかと記憶の不備を指摘されてしまい、不覚、と内心軽く舌打ちをすると覚醒しきっていない思考をたたき起こす。昨晩の記憶を必要な箇所だけ抜きせば成歩堂の言っていることに間違いはなく、御剣は少しだけ緊張を解きそうだったなと頷いた。
が、しかし‥目の前の状況全てに合点がいったとは言い難い。覚醒時のそれに思考が切り替われば何故、と感じる点は他にも…多々…
「だが、どうして君は寝ている私の上にいるのだ」
「え、えーと…」
「なんだ?具合でも悪いのか?今夜は少し冷えるようだから風邪でもひいたのか…顔が、赤い」
「あー…体調ならすこぶる良いと思うんだけど…」
「ム?!寒いのはこのせいか…上掛けはどこへ行ったのだ?」
「うん?上掛けなら…足元、かな」
「足元?私はそんなに寝相が悪くないはずだが…ム?!冷えると思ったらパジャマの前が肌蹴て…い……」
言いかけ絶句したのは色々剥き出しの光景が伏せた視線の先に広がっていたからで…。
上掛けや寝相以前の問題…それこそ思ってもいなかった現状に瞳孔が絞られ瞳は大きく見開かれた。
仰向けで相手を見上げる体勢、赤らむ頬の訳、歯切れの悪い返答に剥き出しの身体。
何故?!
問わずとも理解できる現行と状況に眩暈を覚えた。
心神喪失・抗拒不能な状態の相手にみだらな行為を行った場合同性間でも強制わいせつ罪にあたり、親告罪故御剣がその気になれば告訴も出来ることぐらい弁護士ならば分かっているはず。実際問題法廷にまでそれを持ち込むかと言えば告訴する側も相当の覚悟がいることだし、その気自体今のところ無いのだからその点を問うつもりは無いのだが
「貴様のしていることは社会通念から逸脱した行為だ」
鼠径部の違和感、異物感。治まらない動悸と体内の火照り具合。がちがちに硬くなった楔が息衝く感触…互いに簡単に退けないそのようなアレな状態になっている。
自分も男だし、好きな相手に触れたいと言う気持ちは多分に理解できる。まして相手が無防備な状態ならもう少しだけと自制心が緩むことも、一度決めた引き際をついつい先に延ばしてしまう気持ちも。
恋心に潜む欲望が、誘惑が、巧みに理性を手なずけ懐柔してゆく過程も、そこに至るまでの葛藤も、御剣自身経験済みだったから。
非合意、非合理なセックスを遂行したのだと自覚させ今後同様の罪を犯さないよう踏み止まる理性を養えればと思っただけ。無粋に言い争うつもりは無い。
「わ、かってたんだけど…止められなかった…ごめん」
「…うム…分かればいいのだ」
反省の言葉が聞ければそれで良かった、のに
「御剣の反応が、スゴク可愛くて…全然、辛そうじゃなくて…あんな、気持ち悦さそうに、声を…」
余計なことまで親告するとはどういう了見なのだろうと思ってしまう。
別に訊いてもいないその時の状況を成歩堂は瞳を潤ませ呼吸の荒く途切れ途切れに語り、夢と同じ場所まで挿入した成歩堂のソレが堪らないと膨らみ細かく震えた。
これからという時に中断され辛いのは分かる。必死に堪え、懸命に欲望を抑えているのは相手との関係を大切したいと思っているからこそで、想いがきちんとあるからこその忍耐。そんなことは情欲に染まった表情を見れば分かる。
同じ情欲に占められている自分の身体も燻る欲望を吐き出したいと責め立て、耐えるのに必死だ。
過ぎたことは水に流してセックスの続きをしようではないか。
…口に出来た、のに

夢だったはずで、
夢だったはずで、
そのようなアレなことは全部夢の中での出来事だと思ったから、センチメンタルと不毛な自分とエロスな妄想とオープンになった気持ちと背徳とを抗えない強烈な快感に混ぜ込み、意地も恥じもかなぐり捨て
悶えて…いつもの何倍も素直にセックスの快感に浸り…実際、声もあげてしまったかもしれなくて
夢だからこそ、割り切れた。
どんより重い悪夢ではない飴蜜色の夢を
恋が夢になって現れ、新しい世界に想う相手を描いたからこそ抑えなかった…声を…

耳も首も顔全体が火を噴いた。燻った炎がガソリンに引火したみたいに激しい音を立て、一瞬のうちに燃え上がる。
適当に投げ出されていた両の手の平で隠そうと顔面を覆い御剣は硬く瞳を閉じた。手首にかかる熱い息。ブルブルと震える唇は恥辱の現況を紡いだのだ。夢の中でも…現実でも。
そして浅ましく悶える姿も見られ、最も聞かれたくない相手に聞かれてしまった。
何たる醜態。心神喪失・抗拒不能・回避不可能な状態であっても、否、そんな状態だからこそ余計に。
「っ、…だから、そんなに締め付けたらちぎれちゃうって…違う、もう‥限界」
成歩堂は一瞬息を呑み、ゆっくり搾り出すように息を吐き出す。御剣の足を支え開いていた手に力がこもり、ブルリ、身体を震わすと少しだけ腰を引く。抽入途中留まっていたペニスは態勢を整えズズズと窄まりの奥へと進む。
「‥っ‥ぁ‥ごめ‥っ、ぁ、キモチ‥イイ」
絡みつく内壁とペニス全体への締め付け、中は熱い。熱くて、溶けてしまいそうなくらい熱くて、それがまたどうしようもないくらい悦くて、快感に震える成歩堂は素直にそれを口にする。
「っ‥ぅ、‥‥」
捻り込まれる率直な欲望の熱い楔は、間違いなく欲したもの。指ほど器用に動かなくてもその圧倒的な体積はイイトコロを抉るように突き追い詰める。
ピリつく痛みすら悦い。圧迫感に嘔吐きかけても悦い。
「動いても、いい?キツくない?ね‥動くよ?」
まだ、最奥に着いてもいないうちから次を強請る台詞。
キツいと訴えても止めないくせに。覗いながらも選択肢なんか無いくせに。拒むなんて思っても無いくせに。
顔を覆ったまま御剣は何度か頷き今にも漏れそうな声を嚥下する。
瞼の裏には小さな星屑がチカチカと点滅し体内で火の粉が爆ぜる音を聞く。
内臓を揺さぶられる感覚。グンと突かれ反る背中、ズッと抜かれて腰に落ちる快感。振動に揺れるペニスからは透明の体液がだらしなく零れ
「ぁ‥クッ‥‥‥ふ、ぅ‥」
手首に熱い息に呑み込め切れなかった喘ぎが当たる。
広げられる足、太ももに食い込む指先、突き上げる勢いに腰は浮き上がり圧迫される内臓。臀部に当たる成歩堂の骨盤は硬く、じゅぐじゅぐと結合部から立つ音は粘着質で卑猥。
縦に突かれたかと思えば左右に角度を変えて突く。ああ、この意図的な変化…単に自分だけの快感を追及する動きではなく、明らかに御剣を煽っている。浅く、深く、カリまでも抜き出し排出の快感を与え太さを誇張するみたいにゆっくり抽挿し、イイトコロで腰をグラインドさせれば埋もれたペニスの先端は円を描く。
限界だと言ったくせに。早くイきたいはずなのに。息遣いも相当キているはずなのに。
煽って愉しむ、愉悦に興じる、その余裕に酷く腹が立つ。閉じた視界、白んでゆく意識の向こう側に見える恍惚の表情。ああ、もう、憎らしい。こっちは声を殺すのに必死だって言うのに、陥落していく理性を繋ぎ止めるのに必死だって言うのに、それすら愉しんでいるであろう男が憎らしくて恨めしくて……好き。それがまた…悔しい。
セックスが苦手なわけではない。
種族保存を遺伝子に組み込まれた生物がセックスを苦手な筈が無く、誰に教えられたわけでもないのに生殖可能な年齢になれば相手を求めるのだからそれ自体を否定するつもりは無い。
現に今自分を組み敷いている男も雄としての臭気を放っていて、閉じた瞼越しにもそれを存分に感じる。獣じみた荒々しい存在感。
雄として雄に抱かれる‥不毛で非生産的な行為に当初感じていた背徳も罪悪も既に薄らぎ享楽に酔う。
今更道徳を説いたところで滑稽だし事実は何も変らない。
胸を張って公言するつもりは無いが後悔しないだけの想いがそこにある。
足を開いた時点で羞も恥も曝け出し精を放った時点で後戻りの出来ない所に来てしまった。そこに後悔は無いのだ。
「アッ‥う、ン‥んっ、‥ァ‥ぁ」
顔を覆う手の内側は流れた涙と滲む汗でぐっしょり濡れ、往々に閉じられなくなっている口からは刻んだ喘ぎが止め処なく漏れ腹部に大きな快感の塊を意識する。
ペニスへの直接的な刺激がないためもどかしさもあるが、内側の刺激があまりにも悦くドライオーガズムが近いことが自分でも分かった。
ウェットオーガズムなら堪えられるものでもドライオーガズムでは無理だ。理性など粉々に砕かれ自制も利かない。
これまでセックスの中盤から記憶がなくなるのは少なくなく、たとえ思い出せたとしても遠慮したい。
あられもなく悶える自分の姿などきっと醜く汚い。
セックスに後悔は無い、それは確か。でも、抑えの利かない痴態は羞じ以外のナニモノでもない。
だからせめて理性の残っているうちくらい声を上げず、醜く歪んでゆく表情も見られないようにと。
「御剣‥カワイイ‥もっと、声‥聴かせて…」
どれほど甘く囁かれても
「ふ‥くっ、‥‥うっ‥ん…」
信じがたい言葉を囁かれても
「…ねぇ、手をどけてよ…カワイイ顔を見せて?」
この男にだけは…成歩堂龍一にだけは…意地でも
「…い、やだ……ぁ‥っあ、や‥だっ」
いやらしい声もキモチイイと感じる身体も表す表情も、知ってほしくない。

夢ならそんな意地、張らなくてよかった。
夢ならどんな痴態も晒せる勇気があった。
飴蜜色の夢に塗り潰され、カリソメに消すことが出来た。
新しく現れた色を喜ぶことが出来た。

この時が夢の延長線だったなら…

「っ、ぁっ‥もう、ぼく‥イきそ‥」
揶揄するように腰を動かしながら成歩堂は奥歯を細かく震わせ
「‥ァ…イけ……さっさと…イってしまえ」
熱で遠くなった意識で御剣は吐き捨てた。
射精するまでの過程はよく分かっている。自分本位で快感を追い射精する間際までペニスを激しく擦る…つまり、御剣を弄ぶ動きから抽挿と抽出に重点が置かれるということで気持ち悦いながらも理性が砕ける寸前で踏みとどまれるということ。
堪えることが出来る。僅かな自信に御剣の口からホッと安堵の息が漏れるが
「まーた…そんなカワイイことを言う…ほんと、堪んないなぁ」
圧し掛かる上体。更に浮き上がる腰。埋まったペニスは天井を支え、手の甲にちゅっと軽い口付けが落ちた。
膝裏を掴んでいた一方の手が外され、御剣の汗に濡れた前髪を梳き
「隠さないで見せてよ」
鼻先が甲の筋を撫でる。
「寝ている時の方が素直なのな、お前」
ペロリ、手に覆われていない顎先を舐め、あやすみたいにあま噛みし
「もっとよがんなよ…それともそうやって隠してさ‥堪えて、ぼくを煽るのが好き?」
反りあがった御剣のペニスを柔らかく握りこんだ。
「っ?!‥さ、わるなっ!‥あ、あ、‥‥や‥」
親指の腹で裏筋の膨らみを擦り、体液を滴らせる狭い穴を指先で抉る。
ぐちゅぐちゅと粟立つ音をたて後孔を抉るペニスは御剣の予想に反し緩い動きを繰り返す。
イきそうと言ったなら、欲望の赴くまま腰を振ればいいものを
限界が近いなら相手のことなど考えず快楽を追求すればいいものを
「ココも」
そう言って扱くペニス
「ココも」
そう言って前立腺を集中的に突き
「気持ち悦いんだよね‥スゴク、悦いんだよね」
「あっ、あ、ん‥は、アッ‥う、ン‥‥あ、んっ‥」
ひび割れた理性では到底抗えないほどの快感を与え
「カワイイなぁ‥カワイイ‥‥寝ている時みたいに素直によがる君も、こうしてギリギリな君も‥カワイイ‥」
蕩けるほど恍惚な声色で、雄の愉悦を瞳の奥に鈍く光らせ、どこか残忍さを口の端に挟み、理性が崩壊する過程を瞳に刻む。
力尽くではない。
あくまで御剣の意思で天岩戸を開かせる。
じりじりと、力無く両の手はその奥に篭ったこの麗しい表情を見せ、濡れた睫の奥に情欲に占められた漆黒の瞳がつやつやと煌きを放つ。朱に染まる頬、熟れた色の唇は甘い声を紡ぎ、艶かしい仕草で快楽に共鳴し
惹きつけて、虜にして、逃れる術も断ち切って

全て君の思うがまま‥

無意識の仕草で愚かな忠臣ともなる下僕を囲うのだ。
「な‥るほど‥ん、ぁ‥き、キスを‥‥したまえ‥」
壮絶な色香を視線に宿し、艶やかな唇で誘うのだ。

夢‥
悪夢のあとに見ゆる飴蜜色の夢。
蜘蛛の糸のように張り巡らす。
逃がさぬように捕らえ、逃げる意思さえ根こそぎ奪う。


「君は、どこまでぼくを虜にさせるつもりなんだろうね‥」


飴蜜色の夢に堕ちた御剣の耳にその言葉は聞こえない。




おしまいv

  



2008/5/1
mahiro

うーん‥
ぬるくても一応うちのサイトは18禁っつーことで