どうやらこのグループはなるほどくんの検疫を通らないとお持ち帰り許可がもらえないみたいだから、あたしの関心は他のグループに向くんだけど
「……不思議だねぇ」
比べれば比べるほどその差は歴然だ。
「不思議とは、何がだね?」
あたしががしみじみと呟いた言葉に御剣検事が反応してくれた。
さっきよりテディベアを念入りに調べてるなるほどくんは無論、それどころじゃないって感じ。
あ、もしそこで盗聴器とか見つけても教えないでこっそり処分してね、怖いから。
「男の人からのプレゼントにはチョコとか食べ物系が一個も無いんですね」
「…ふむ、そのようだな」
「買いにいくのが恥ずかしいからだったりして。知ってます?デパートのバレンタイン特設コーナーとか女の人がいっぱいで、熱気が凄いんですよ。みんながみんな本命チョコを買いに来てるわけじゃないとは思うんですけど、目の色が違うんですよね…キラキラを通り越してギラギラしてるって言うか。あの中に混じるのってあたしでも勇気が要りますから」
一旦入っちゃえばその熱気の渦中に同化しちゃえるんだけどそれまでがね…。あたしはついこないだ行った某デパートの催事場を思い出して自嘲気味に語った。
「…真宵君でも、そのようなことがあるのだな」
まぁ、どう言ったって美味しいものには目がないあたしだから、一瞬ぐらい躊躇したとしてもキャーッと黄色い声を上げながら熱気にダイブしちゃうんですけどねっ!って…
「ひどーい!もう、御剣検事が普段あたしのことをどう思ってるか今ので分かっちゃいましたよ!そりゃー、無料配布モノはとりあえず貰っとこうとか、夕方の試食コーナーは毎日の楽しみだったりしちゃうあたしですけど、でも、って言われちゃうと心中複雑って言うか、乙女心が微妙に傷つくって言うか…本当のことなんで言い訳は出来ないんですけどっ!」
「い、イヤ‥その‥私はそういうつもりで言ったのではないのだが‥き、傷つけたのだったら申し訳ない…」
あたしの剣幕にビックリしちゃったのだろうか、御剣検事はあからさまに動揺し肩を落としてそう言った。
しまった…つい、なるほどくんとの会話のノリで意気込んだんだけど、その勢いの半分は冗談のつもりで…ごめんの一言で受け流してくれてもいいものなんだよ?
「え、え‥と、そんなに気にすることじゃないですよ?食いしん坊のあたしでもたまにそんなことがあるってだけで、御剣検事の言うことも間違いじゃないかなーって‥」
なんか、もじもじしちゃうね。
変に生真面目っていうか、冗談が通じない時があるっていうか、なるほどくんとは違う御剣検事との距離感に気恥ずかしさが残る。
「女性でもあの場は入り込むのに勇気がいるものなのかと驚いたのだよ」
「あはは、女の子でも最初はドキドキなんです」
でも、こうして柔らかい感じで笑って流せる雰囲気は気恥ずかしくてもいいものかな。だって
「う〜ん‥ぼくは違うと思うよ?男が男にバレンタインプレゼントを渡すことを思えば女の人の群集なんてどうってことないじゃん。食べたらなくなっちゃうチョコより、モノとして残るのを選ぶのは相手の記憶に残りたいって言う必死さか、より濃く印象付けたいしたたかさか、それ以外の意図があってさ」
なるほどくんとの会話って時々割り切れない感じや、複雑な後味がするんだもん。
「それ以外の意図‥なんだね、それは」
「ま、考えることは大概同じってことだよ」
ふん、と鼻を鳴らしなるほどくんは半分据わった目を掲げた指先に向けた。
ぷらーんとその指が摘んでるのは何かの配線で、その先には黒い小型の‥‥
「えええ?!なるほどくん!それって、まさか‥」
「超小型の盗聴器。高価なアンティークベアなら処分しづらいって魂胆‥お返しはいらない?部屋の片隅においてくれるだけで良い?まったくよく言ったものだよ。形に残るプレゼントなんてこのくらいの下心あって当然なんだって心しておかないと、お前の寝息が毎晩送り主のおかずになるんだからな!」
怖いから盗聴器とか見つけても教えないでこっそり処分してねってあたしのささやかな願いは叶わなかったわけで‥
顔に縦線を何本も引いたあたしと御剣検事は無言で顔を見合わせるしかなかった。

形が残るプレゼントは要注意。
それがあたしと御剣検事がバレンタインに学習したこと。恐るべし、バレンタイン。

お腹いっぱいどころかムネヤケがしてきたあたしは疑惑たっぷりのプレゼントグループを出来る限り視界から消した。
なるほどくんにどうして盗聴器があるってわかったのかなんて、勿論訊かない。類友って言葉を知ってるから‥類友だからこそ送り主の手の内が分かったなんてさらっと言われちゃったら(たとえ分かっていたことでも)ムネヤケどころじゃ済まないから、訊かないし、深くは突っ込まないし、その手の話題にあたしから触れない。
本当に怖いのはそっちの可能性なんだ。
怪しいものが仕掛けられてない華やかなプレゼント山を眺めて気分を変えようと思う。
「御剣、お前が今までに貰ったプレゼント、今度僕が全部チェックするからそれまで家に帰っちゃダメ」
「いや、しかし‥ホテルを取るには時間が‥」
「ぼくんちに泊まればいいじゃん。今日は必要最低限の荷物だけ取りに行ってさ‥大丈夫、ぼくもついてくし」
「ム‥致し方がない‥厄介になる」
うわ〜、ラ・メゾン・デュ・ショコラのマロングラッセのボックスだ!デルレイの白い箱も目に眩しいし、マゼのゴージャスな金の缶なんて御剣検事にぴったり!ヴィタメールの純生チョコ、定番のロイズにゴディバ‥高級チョコのオンパレードだよ!これ、あたしが貰うんだよね!あたしが貰って食べるんだよね!キャ〜ッ!
シュタイフは読めなかったあたしだけどこれは読めるよ!間違えないよ!
場違いすぎてとてもじゃない入っていけないお店のガラスケースに並ぶそれらは、食べるジュエリーみたいなんだもん。あたしにはダイアモンドより素敵に見える!
あ〜!味見したい!一粒でいいから口にして美味しいって言いたいよぅ!
え?なるほどくんと御剣検事の会話?
盗聴器を見つけたのをイイコトに御剣検事をお持ち帰りしちゃうとことか
「何ならこのまま一緒に住んじゃおうか?ぼく、そういう類のもの見つけるの得意だし、持ち込ませたりなんかしないよ。どお?」
「それは結構だ。自覚は出来たのだから今後は自力で何とかする」
あわよくばそのまま同棲へとなだれ込もうとするのだとか、姑息という点ではなるほどくんも負けてないって‥もう、今更じゃない?突っ込む気にもならないよ。
「なんとかするって‥お前、ぬいぐるみに盗聴器を仕掛けて平然としてるようなやつらを甘く見てるだろ。こういうやつらがその気になったらお前の常識なんて幼稚園児の口約束並に頼りないんだからな!飴一つで釣れちゃうくらい簡単なんだぞっ!」
「確かに安易にプレゼントを受け取った私にも非はあるが、そこまで言われるのは心外だ。自分の身ぐらい自分で守れる!馬鹿にするな!」
「じゃあ、もしもだよ?もしも、よく知ってる場所で知らない人に道を訊ねられたら?」
「出来る限り分かりやすく教えるのが普通ではないか?」
「それでも分からないって言われたら?」
「地図を描いて渡す」
「それでも分からないって言われたら、分かりやすい目印のあるところまで案内しちゃうだろ?近場なら目的地まで」
「ムぅ‥その時の状況にもよるが放っては置けないのは確かだな」
「バカ!お前、今までよく何事もなく生きてこれたよな!少しは怪しめよ!バカ!」
「な?!困っている人に手を貸して何が悪い!いつ自分が同じような状況になるか分からないのだぞ?!見知らぬ土地で途方に暮れる孤独を君は知らないのか?助け合い譲り合いの精神こそ忘れてはならない道徳ではないか!」
「の前にちょっと考えろってことだよ!ほんと、飴玉で釣れそうだよ、お前はさ!」
まったく‥‥
ちょっと放っておくとどんどん脱線するんだから。
この人達って本当に真実、その一点を追及する弁護士と検事なんだろうか。
「なるほどくんと一緒に住めばその手のものが進入してきても直ぐに分かって安心なんだろうケド、確実に生きた盗聴器兼盗撮カメラが家に常備されるってことだよね?それって本当の意味で安全なのかなぁ」
「え、ちょ‥真宵ちゃん?!物凄く誤解を招くようなこと言わないでよ!」
「あ、ごめん。日頃のなるほどくんの行動を考えたらどうなのかなって思って‥」
うっかり口出ししちゃったのは脱線の先に長いレールが見えたからで‥なんだかんだでなるほどくんに押し切られてしまいそうな御剣検事がちょっと気の毒だなぁと思ったのもあって。
ゆくゆくはそうなる運命でも、ある程度、自己防衛意識は備えておいた方がいいよね…今までの御剣検事を見る限り。その上で許容するのと、無防備なままなし崩しになるのとでは雲泥の差だよね。
美味しそうなチョコを目も前にしてどうにもできない悔しさを、なるほどくんにぶつけたわけじゃないよ?
「ム、ムム‥真宵君、その件について詳しく聴かせてもらえないだろうか。そこにあるモノの他に、局においてある品全て君が引き受けてくれて構わないから、是非」
「え?ええ?!い、異議あり!論点がずれてきたよ!今はバレンタインプレゼントに怪しいものが混じってないか確認するための時間で、もっと言うなら普段からおぼつかない御剣の危機意識を高められたらいいなってだけで‥」
‥御剣検事が一番自覚した方がいいなるほどくんの迷惑行為(御剣検事に対する執拗なまでのストーカー行為等)はその論点から除外されるなんてそんな都合のいい話はないんじゃないかなぁ。相当なもんですよ?検事が気づいていないだけで相当ギリギリなとこまでやってますからね、なるほどくんは。
予想外のお鉢が回ってきたことで慌てふためくなるほどくんをあたしだけじゃない、御剣検事も冷ややかな目で見て
「フム‥折角だ、このチョコレートを摘みながら話をしようではないか」
「あ、じゃあ、あたしお茶淹れてきますね。紅茶でいいですよね、御剣検事」
「ム、そういうことならいくつかの品の中にチョコレートとあわせて紅茶の茶葉も入っていたように思う。待っていたまえ、今それを探すから」
お茶の席を囲む準備に取り掛かった。
あたしの知ってる限りのなるほどくんの異常行動を、全部包み隠さず話すわけじゃないよ?だって全部話したら御剣検事の心臓、止まっちゃいそうなんだもん。頭がショートしないくらいのことをいくつか漏らすだけ。あたしだってそこまで鬼じゃないし、一応なるほどくんの味方でもあるし、なるほどくんにも人権って言うのがあるって知ってるしね。
普段口に出来ない愚痴を零して、最近エスカレートしてきているなるほどくんの御剣検事に対する変質的なまでの執着にストッパーをかけられればいいってだけ。
一つ二つストッパーをかけたところで停まりはしないだろうケド、速度は緩められるかな?ってこと。
「あ、ちょっと待った」
「なるほどくんにはコーヒー淹れるね。大丈夫、なるほどくんが考えてるほど酷いこと言ったりしないから」
「いやいや、そーいうことじゃなくてね」
何?
検疫は終わったんじゃないの?
なるほどくんの表情がテディベアを検査していた時のソレになったのに気づいたあたしは、反射的にプレゼントの山から身を引いた。
あーんなことやこーんなことをばらされたくないって保身で動いてるわけじゃないってことぐらい、あたしでも分かる。
「こっちの方は食べても問題ないと思うけど、こっからこっち‥、こっちの方のプレゼントはどんなにおいしそうでも食べない方がいいんじゃないかなぁ」
綺麗でお洒落なラッピングに身を包んだチョコレートとおぼしきプレゼントの山を指して、なるほどくんはあたしと御剣検事を交互に見てきっぱりと言った。
こっちの山とこっちの山、二つのグループ。
カラフルなリボン、カラフルな包装紙、生花なんか添えられちゃったりして、ラッピング技術なんか神業ってくらい凝ってるのもある、あたしに言わせれば宝の山。
片方は問題ないグループ?片方は‥‥問題ありなグループ?その違いが分からない。
「どう違うのだ‥私には君が問題視している点がよく分からないのだが。説明したまえ」
「もしかして、毒が入ってるとか?!」
自分で口にしておきながら思ってもいなかった可能性に気づくと緊張が走った。
肌に感じる緊迫がピリピリ痛く、御剣検事の目の奥に静かに燃える炎が灯ったのが分かる。
何かあれば直ぐに事件性に結び付けてしまうのはそれだけ犯罪が身近にあるからで、一種の職業病、もしくは条件反射だと思う。
「あはは、そんな身元が分かるようなものに毒なんか入れるわけないじゃん。準備された犯罪ってのはもう少し巧妙に出来てるものだからね」
え?
違うの?
背筋に残る緊張の跡がなるほどくんの明るい笑い声に弛緩して、こわばった頬の筋肉が引き攣る。
「何なのだ!思わせぶりなことを仄めかしながらはっきりしない態度を取るのは君の悪い癖だぞ、成歩堂龍一!」
「ぼくだって絶対の確信があるわけじゃないんだ。確かめる手段も持ち合わせてないし‥ただ、その可能性を示唆しただけ」
「だからぁ、その可能性って何?」
「こっちのはね、既製品のチョコレートじゃないんだよ。分かるだろ?ラッピングも箱や袋の感じも漂う雰囲気も鬱蒼としてるよね‥ってか変な色のオーラが出てる。どう見たって手作り、手作りのお菓子さ」
言われてみれば‥ショップのロゴも入ってないし包装紙も違う。雰囲気とかオーラまであたしにはわかんない。でも、なんとなくプロのショコラティエプロデュースのスウィーツじゃない‥ような気がする。言われてみればだよ?そのくらいみんな上手に作ってるから、分かんないけど。
「わー!手作りなんだー!すごーい!みんな凝ってるよねぇ!」
「‥‥その‥手作りという点に何の問題があるのだろうか」
「え?!手作りだよ?!手作り!!問題アリアリじゃんか!」
「うふっ、なるほどくんてば今頃ヤキモチ?」
「ち、違っ!プロが一般消費者向けに作ったものならいざ知らず、個人が個人の空間で、自分の情念をめいいっぱい込めて作ったものなんだよ?!それこそ何が入っててもおかしくないじゃん!」
「えー‥そりゃあ、衛生管理という点ではプロのソレには敵わないと思うけど、それを言ってたら何も食べらんないよ」
なるほどくんて、そんなに潔癖症だっけ?
それともいつのも如く御剣検事への行き過ぎた執着?
「私も、真宵君の意見に賛成だ。そこまで過敏に反応していては何も口に出来なくなってしまうではないか」
「ばっ‥バカ!!そういうことじゃないんだってば!年に一度、特別な日に贈るものだよ?自分の思いのたけをそのお菓子に練りこんでいくんだよ?!気持ち以外のものが入っててもおかしくないんだ!故意に混入しちゃう可能性は大いにある!!ぼくなら絶対‥っ
………えーと、最後の一声がよく聞き取れなかったんだけど。
「‥‥気持ち以外の‥もの?」
「‥‥故意に、混入?」
あたしと御剣検事はなるほどくんの熱気溢れる主張で、一部気になった箇所を声に出して反芻してみる。
「細胞、DNAレベルで好きな相手と交じり合いたいってのは全生命の本能じゃないか!!毒物よりもっと性質が悪いよ!」



……………。



あたしは人生で数少ない、視界から色んなものが消えてゆく過程を経験した。
熱弁を振いきったなるほどくんとか
見慣れた事務所の事務用品や壁とか
さっきまでダイアモンド以上に輝いていたプレゼントの山とか
ぽつん、ぽつんと消えて行く。
真っ白な空間に佇む不安定な感覚。
その中に時計の秒針の音だけが妙に大きく響くのだ。
出来ればこんな経験、したくはないのだけど…痛感したところでもう遅いんだよね。


「きゃぁぁぁぁ!!!もーもー!なるほどくんのばかぁ!怖いこと言わないでよ!!」
少しの間現実世界が消え去った空間に居た後、すとん!一気に戻ってきたあたしは押し潰されそうな恐怖を吹き飛ばすように叫んで
「みっ、御剣検事ぃ〜!だ、大丈夫ですか?!」
あたしの横に立っていたはずの御剣検事がソファーの背に手をかけ項垂れているのに気づき、慌てて駆け寄った。
口元をもう片方の手で塞いでるよぉ!うぅぅ…そ、そりゃあ、気分悪く、なるよねぇ。あーん!顔色がいつもにも増して白いぃ!!
「す、すまない…大丈夫だ。少し‥眩暈がしただけだ‥」
うぅぅぅぅ‥御剣検事のダメージはあたしの何倍も、何十倍も深刻だよね。当事者だもんね‥バレンタインチョコに限らず過去、そういう可能性のあるものを口にしたかもしれないんだもんね‥。
考えてもいなかったようなことを突きつけられて‥たとえそんなモノがなかったとしても、その可能性を否定できないんだもんね。
世の中には知らなくてもイイコトがあるんだって、なるほどくんも分かってるはずなのに!
御剣検事の背中を擦りながらあたしは心の中で恨み言を唱えた。
「大丈夫か?あー‥こんなに震えて‥ほら、ソファーに座って‥深呼吸して‥うん、そう‥」
なるほどくんてば甲斐甲斐しく御剣検事の世話を焼くんだけど、こうなった元凶が自分だって知ってる?
「真宵ちゃん、お茶淹れてきてくれるかな。御剣も、それ飲んで落ち着こう、な?」
「う、うん、待ってて、今淹れてくるから」
恨み言はこの際飲み込んで、御剣検事をなるほどくんに任せ、あたしはお茶を淹れるべく給湯室へと走った。

盗み聞きするつもりはなかった。
本当に、偶然聞こえてきたことだった。
二人が居る部屋のドアの取っ手を回そうとお茶の乗ったお盆を持ち直していた時、それはあたしの耳に入ってきた。
「これで分かっただろ?バレンタインはお前が考えてるほど気安いものじゃないってこと‥ぼくだって考え過ぎかなって思うけど、万が一ってこともあるんだ。ぼくは御剣を守りたい。不安なんか感じさせたくない。綺麗な世界、邪念も邪心もお前を不安にさせる事柄もない綺麗で純粋な世界にいて欲しいと思う。ぼくは君が好きだから‥何よりも大切だから‥」
「‥‥なるほ‥どう‥」
「君の居るべき綺麗な世界を濁らせるものをぼくが取り払ってあげる。全身全霊で守ってあげる。だから、バレンタインにプレゼントを貰っちゃダメだよ?もし、押し付けられたらぼくに教えてね」
「う、うム‥心得た‥来年からそのようにする」
「よかった、安心した‥あ、でもこれだけは間違えないでね。君を軽く考えてるんじゃないんだよ?君は君の意思で生きていけばいいんだ、ただ、その中にぼくという絶対的に安心できる場所があるって思ってくれればいいんだ。何かあった時には直ぐに思い浮かぶ、確実な味方が居るって。なんてったって、君はぼくの可愛い人なんだから、ね?忘れちゃダメだよ?覚えていてね」
囁くように、訴えかけるように、包み込むように。
普段、こんな風に話すなるほどくんをあたしは知らない。
御剣検事と二人きりの時だけ、二人だけの世界の中で、こんな会話がなされてるんだって始めて知った。
なんとなく、タイミングを逃した気がして、ドアの前で立ち尽くしているあたしの耳に”ちゅ”って小さな音が聞こえる。
これって、キスの音だよね。多分、音の感じからして軽く触れただけのキスで‥それは、母親が大切な我が子にするみたいなそんなもので‥おでことか、ほっぺたとかに愛情を伝えるためにするキスに思えた。
なんか、
いいなぁ‥。
この世界に絶対なんてものはなくて、確実なものなんて‥普遍的なものなんてあるはずがないと分かってるあたしでも、もしかしたらその中に例外はあるのかもって信じたくなるくらい、なるほどくんの言葉は真に迫っていた。
絶対的に安心できる場所があるって、いいなぁ。
そう思う反面、
怖いなぁ‥。
なるほどくんに心から愛されるのって怖いなぁ。
しみじみと思うんだ。
何故って‥ほら。最終的になるほどくんの思惑通りにことが進んでるんだよ?
どこまでが計画的で、どこまでは偶然の賜物か、あたしには判断できないけれど‥来年以降のバレンタインへの牽制でしょ?
御剣検事の意識革命でしょ?それに、自分の存在をもっと深く確かに御剣検事に植えつけてるわけじゃん。
それが作為的であろうとなかろうと、見事に成功しちゃってるんだよ。
怖い、としか言えなくない?
まあ、あたしがいくら怖がっても御剣検事が怖がってない‥むしろ、喜んで信頼しきってるんだから仕様が無いんだケド。
はぁぁぁ‥。
大きな溜め息一つ吐いて
「御剣検事ーっ!お茶ですよ!飲みやすいように少し冷ましましたからっ」
あたしは勢いよくドアを開けた。

今日、あたしと御剣検事が学習したこと、総まとめ。
形が残るプレゼントは要注意。心がこもり過ぎた手作りお菓子は覚悟が必要。
そして、あたしだけが学習したこと。
バカップルは生暖かい目で見守りつつ、適度にスルーしよう。そんなとこかな?

やっぱり恐るべし、バレンタイン。




おしまいv

  



2008/3/29
mahiro