超お勧め!
絶対イイから!
エロビデオに関してこの手の台詞を聞いた時はそのまずその台詞の信憑性を疑って掛かるべきだ。
言動を鵜呑みにせず、過度な期待をせず、個々の価値観の多様性を理解し、万が一なにかしらのトラウマを抱えることになっても無闇に相手を責めたり恨んだりしてはいけない。なにせ相手は絶対的な好意でそれを薦めてくれたのだから。



そんな事を改めて思ったのは、オーディオラックの奥の奥、AV機器の取扱説明書の間に挟まれたタイトル表記のないコピーDVDの中身を確認したからだ。
頼んでもないのに贈呈(?)された怪しげなDVDは、幼馴染でこの年になっても付き合いのある友人から受け取ったもので、はじめの一回興味本位で鑑賞し、そのあまりにもマニアックな内容に興奮するどころかドン引きしてしまい結局それっきり人目に付かない場所に仕舞い込み忘れかけてたものだった。
その友人の言うとおり、彼女のいないぼくだから素直にエロビデオを観て発散しようと引っ張り出してきたのはいいけれど、再生数分でかつて受けた衝撃がよみがえっただけでオカズとしては残念、不適切。
友人お勧めのエロDVDは彼の趣味趣向に性癖…もっと言うならフェティシズムとパラフィリアを絶妙にブレンドした極めて個人的な逸品で、ぼくからしたら超珍品。取り扱い注意の文字が更に太く大きく記憶に書き付けられただけだった。
彼を責めちゃいけない。
どんな事柄にも”好み”は存在するもんだ。それは否定しないし、大人の最低限の良識として好みの不一致があろうともある程度寛容でなければならない。
ぼくと彼の好みは合わなかった。それだけのことなんだ。
萎えかけた気持ちを奮い立たせオーディオラックの前を後にしたぼくは備え付けのクローゼットを開けた。
半ば物置になってるそこにはプラスチックの収納ケースが重なり、その上に雑誌やら日用品やらが無造作に入れられたダンボールが置かれている。
ハンガーに掛かってる衣類は春夏秋冬入り混じってて、衣替えをする気がないのは見え見えだ。
室内同様雑然とした物置(と言い切った方が潔いよね!)を奥へと掻き分け何個目かのダンボールをゴソゴソ漁り格闘する事数分、ようやくぼくは目的のものを発掘する事に成功した。
「あった、あった」
ヤレヤレと大きく息を吐いたぼくの手には少し色褪せ萎びたような写真誌が数冊。
見た目から分かるようにそれなりに年季の入った写真誌は所謂男性向け。エロではないけれどかわいい女の子が規制範囲内で悩殺的なポーズジングをし読者を挑発するもので、ぼくのオナニーのオカズだったりする。
静止画のオカズなんてアナログだけどその分想像力をかき立てられ自分の世界に浸るには打って付けで、使用頻度はそれなりに高い。
それは多分、さっき再収納した取り扱い注意のDVDとそれをチョイスした友人の繋がりみたいに、極めてぼくの好みに合った個人的な逸品で他の人からすればさほど興味を惹かれないモノかもしれない。それでもモザイクなしのエロビデオより断然イイ!なんて言い切っちゃうあたり、前出取り扱い注意DVDと同種かな?
偏執的で固執的な性癖なんて誰にでもあるもんさ…自嘲気味にぼくは笑い、今朝飛び起きたままの状態になっているベッドに腰を下ろした。

帰宅して直ぐスーツは脱いでハンガーニ吊るした。シワになっても困るからね。
ネクタイとワイシャツはベッドの足元に取りあえず脱ぎ捨てシャツとパンツ姿。事が済んだらシャワーを浴びて部屋着に着替えるつもり。そういえば靴下も履いたままってのに今気が付いたけど、まあいいか。
一旦そういう気分になればワクワク、ソワソワ、気が逸るってことは、ぼくもまだまだ枯れてない証みたいでちょっと安心する。
ボックスティッシュの場所を何気に確認し一番上にある写真誌のページをパラパラとめくった。
男の体なんて単純。性器を擦ればイケる。
分かっていて直ぐに手を出さないのはそれなりに気持ちが高揚した方が一層気持ちイイから。
ただ擦ってヌク機械的な行為より、アナログのよさをフル活用したいじゃん。妄想は感度を上げる手段だもん。
ページをめくっては止まり、またページをめくる。
使い慣れた写真誌だから惹かれるページは大体決まっているもんで、何がどういいのか一口ではいえないけれど数枚見れば、まあ、これがぼく個人の好む傾向なんだと誰でも簡単に分かりそうだ。

ペラリ、めくったページには透き通った白い肌の女の子。水着姿のその子は豊満なバストじゃないしメリハリのあるプロポーションとも言えないけれど、日に焼けていない陶器のような肌はきっとシルクみたいに滑らかな触り心地で、ぼくは想像の中でその肌に何度も頬擦りをした。
次に惹かれたのは切れ長の目に茶色い瞳、リップも塗っていないのにきれいなピンク色をした唇の持ち主。表情は薄く笑顔もないけれど、ストイックなイメージが不思議と好奇心を煽る。官能に潤む表情を是非見てみたいってね。
そしてぼく曰く、横顔の君。溜め息が出るほど形のいいオデコやツンと尖った鼻、閉じた目蓋に長い睫毛が印象的で額から鼻、長い睫毛を舐め取るように何度も何度もキスをした。妄想の中でね。
それ以外に長く細い指で手招きする子のページも好きだ。ゴテゴテネイルアートなんかせず丁寧に磨いただけの爪が清潔だし、招いた手の形が少し神経質そうでそそられる。その手を取り指の一本一本を確かめ退化したといわれる水掻き部分に舌を差し込む。ソコを性感帯にする子って多いし、公然と愛撫できる箇所でもあるし、手って重要なポイントだよね。
こうして幾つかあげてみるとぼくも人のことは言えない…なかなかのフェティシズムを抱えているもんだ。
一冊目を見終わるころには期待値と興奮度がかなり上がったようで、ぼくは穿いていたパンツを片手でズリズリ下ろしナニの状態を確認する。
うん…いい具合に勃ち上がってるし、いいんじゃないかな?
焦らされてイライラしている(ように見える)ぼくの息子は握り込んだ手の中で軽く跳ねた。言うならば「待ってました!」ってとこかな。
オナニーする体勢は色々あるんだろうけど、この時のぼくはベッドの上に胡坐をかき写真誌は捲りやすいよう体の横に広げていた。息子を扱くのは利き腕の右手。
皮の弛みを幹の中ほどに寄せ、手の滑りを良くした。
一口にチンコを擦ると言っても垢すりみたいに皮膚と皮膚を擦るのとはちょっと違う。
チンコには硬い芯(変な言い方かなぁ)みたいなのがあって、それを包むように皮がある。勃起しても少しゆとりのある皮を上下に伸ばしたり縮めたりして滑らかに動かすのがチンコを擦るってこと。
だからカサカサとか皮膚をさするような音はあんまりしない。カウパーが出てくると擦るリズムに合わせてニチニチ、とかクチュクチュって湿ったような音が出る。
乾いた音より少し湿ったような音のほうがイヤラシク聞こえてぼくは興奮するかな。視覚も大事だけど聴覚も良い興奮材料だと思うんだ。
「……っは…っ…」
あがった息に僅かな声が混じる。
久しぶりだからかな…すごく、気持ちイイ。
視界が快感で滲み、紙の上で微笑む女の子がぼやけて見えた。
やっぱりオカズはエロDVDよりこっちの方がぼくにはあってる。
大仰な喘ぎ声やセリフ化したヨガリ声。大胆すぎる腰の振り方とか卑猥な言葉の連発、大衆に観せることに慣れたセックスを求めるよりも、妄想と言う自己中心的なエロティシズムに浸る方が遥かに淫靡で官能的だ。
「‥ぅ…っ……」
肉幹を擦る速度は自然と速くなり、腰からうねるように競りあがってくる快感が喉を震わす。
沈んだ気持ちも快感にかき消されて行く。
始めは突飛もないことを言うやつだと思ったけれど、純粋に気持ち良さを感じている今になれば自慰を勧めてくれた友人の言う事もあながち間違いではないし、ほんの少しだけ感謝もした。
あの矢張に感謝なんて滅多にしないんだけど。
一瞬、
妄想の世界から出た所為だろうか、ふともう一人の友人の姿が脳裏を過ぎる。
御剣…。
御剣と居た時、これとは違う、けど、似たような気持ち良さがあった。
暖簾をくぐり姿を現した時のドキドキ感、触れるか触れないかの距離に感じたもどかしさと安堵、ふとした瞬間に見せる微かな微笑みは見惚れるほどキレイだった。
「成歩堂」と名前を呼ばれて心は弾んだし、目が合えばうっかりニヤケてしまった。
あの時の恍惚は一種の快感…自慰に耽りながらぼんやりと感じた。それが正しいのか間違いなのか分からない。分からないけれど今はそれでも良いと思う。
御剣も‥オナニーしたりするのかなぁ。
こんな風にチンコを擦って気持ち良いとか思うのかなぁ。
現実に戻った矢先、新たな妄想の芽が不意に首を擡げる。
自慰は男として当たり前の行為だけど、御剣の持つ独特の雰囲気‥ストイックな言動やイメージに対しての単純な疑問。
あんな不器用な手で上手にチンコ擦れるのか?
ぼくは自分のカチカチに膨らんだチンコを見ながら御剣がオナニーしているところを想像してみた。
一見器用そうでそうでない手先は長くしなやかで、爪はいつだってきれいに手入れされている‥そんな手で‥。
少し前に眺めた写真の女の子。あの子みたいに神経質そうな手で‥。
記憶を辿れば鮮明に描ける御剣の手はとてもリアルで余計に艶かしい。もしかしたら写真の子以上に。
姿勢はどうだろう。同じように胡坐をかくのだろうか。それとも横になってするのか。エロビデオを観ながら?ぼくと同じように紙媒体を利用する?誰かにしてもらう‥なんて、それはないか。
何というか‥ぼくの勝手な希望だけど御剣はベッドに身体を横にしてスルのが良いと思う。
自らが与える快感に身を捩り震える。その姿だけでなくシーツに寄る皺までもがエロい。
白い肌と上気した頬。想像するだけで喉が鳴ってしまうほど‥美味しそう?‥‥変な喩えだけどそれが一番しっくり来るんだよね。
時折漏れる喘ぎ声は秘めやかな恥じらいに濡れ、薄く開いた唇は熟しかけた果実の色。
汗の滲む額やスッとした鼻梁に前髪が掛かるならば、そっとかき上げたい。だって隠してしまうには勿体無いくらいキレイな形をしているからさ。
切なげに寄せられる眉根と閉じた目蓋。微かに揺れる睫毛は涙に濡れているのが理想的。
ヤローのオナニー姿なんて正直見たくもないし考えたくもないけど、御剣のなら話は別で希望と理想が盛り込まれどんどん妄想が膨らみ続ける。ストイックなイメージを壊す事が楽しいのか、違うスイッチが入っちゃったのか分からない。考えれば考えるほどぼくの手は早く動くし、得る快感もどんどん強くなって行く。
「っ、は‥イ、イキそ……」
荒い呼吸に合わない歯の根。
性器を中心に膨らむ快感は限界値を超えそうになっていて、オナニー前に確認しておいたボックスティッシに手を伸ばす。
開いていた写真誌がパタンと音をたて閉じたみたいだったけど、そんなこと、どうでも良くなっている自分が奇妙だって多分頭の隅で感じてたはずなんだ。
エロDVDはダメでもエロ写真は必要だったはず。
興奮剤として長い事それを使ってきたわけで、今もそれを使ってたわけで、おおよそ決まっているページでいつもイクはず、なのに…。



射精時の緊張が解けたぼくは、ゆっくりとベッドに身体を横たえた。
快感の残滓が濁らせる視界の先にはこれまでぼくを満足させてきた写真誌がポツンと置き去りにされている。
決して不必要なものではなかったはずなのに。極めてぼくの好みに合った個人的な逸品、とまで言い切ったものだったのに。
焦点の定まらない視線に低い雑誌の山。そしてその向こう側に力なく投げ出された自分の手が見えた。握られているのは達したばかりの精子を包んだ真っ白いティッシュ。目的達成の確かな証拠だ。
「……なん‥で」
整わない息で零した問いは消えそうに小さく、最後まで言うことが出来なかった。
何でぼくは…。
体内で膨らみ続け爆発した快感。その嬉々とした瞬間に見ていたものは、精を受け止める薄い紙。
白く不透明で柔らかな紙を透過しぼくが見ていたものは、陶器のように白い肌。薄く肉の付いた白い肌。
手触りの良い生地にいつも隠された喉元。
瑞々しい果肉から滴る果汁を舐め取るように舌を這わせば熱い吐息に甘い嬌声が混じり、喉を鳴らしたぼくを涙に潤んだ茶色い瞳が恨めしそうに見る。
白い肌と赤く染まる頬、汗ばんだ額に掛かる前髪、長い睫毛が何度か軽やかな音を立て、薄く形の良い唇が短い言葉を紡ぐ。
「なるほどう」ぼくの名前を切なげに紡ぐ。
僅かな瞬間にありもしない光景を鮮明に見た。
「何でぼくはこんな時まで考えちゃうんだよぉ」
そもそも御剣が原因(と思われる)胸のモヤモヤを解消するためにはじめた事だった。
ぼく好みのパーツ全てを御剣に重ね見て、今まで以上に興奮し、愛用の写真誌をほっぽり出してイッちゃうなんてワケが分からない。つか、悲しくなってくる。
『ヌいてスッキリすりゃー視界もよくなんじゃねぇ?多分だけどよー』
動き出した思考に挟み込まれる矢張の台詞。
「何が”視界も良くなる”だ。余計分かんなくなったっつーの」
何処にもぶつけられない憤りと困惑を、バイトに励んでいるであろう友人に向け吐き出す。謂れのない八つ当たりだってのは百も承知。
その位ぼくは困惑してるんだから。
男友達、それも幼馴染の恩人をだよ?何でオナニーのオカズにしなきゃいけないんだ!
ぼくは生まれてから今まで真っ当なヘテロセクシャルだったわけで、これからもそのつもりなわけで。
じゃあなんで御剣なんだっ!
出るはずのない答えに頭を抱え、結局は始めの問いに戻るしかない。

会えないと寂しい。
会えたらすごく嬉しい。
ずっと一緒に居たいと思い
別れる時は無性に哀しい。
離れていても姿や声を脳内再生できて
ぼく好みのパーツをほとんど持ってる。
楽々妄想できちゃって
更にオナペットにしてイッちゃいました。(とっても気持ち良かったです!)
大切な友達である御剣はぼくにとって何なんだ。

こんなこと、友達なら当然なのか?当たり前のことなのか?
御剣は友達だから‥それは真っ当な理由になるのか?

嗚呼、この問題の答えは何だ?
この複雑な気持ちの本当の意味なんてぼくは知らない。
知らないけど、ずっと吐き出したくて出来ない喉元に引っかかっている言葉が答えなんじゃないかって気がする。
ぼくは‥‥ぼくは‥?
冴えない視界に思考は鈍り、ゆったりとした疲労感が目蓋に圧し掛かる。
ぼくは小さなあくびを一つして仰向けになり、真っ白な天井をぼんやりと見た。
考えても答えが出ないのなら感覚に任せるのも良いかもしれない。心の感じるまま、自然に答えが出るのを待つのも良いかもしれない。
御剣‥次、君に会う時今と同じ質問をしてみようと思う。
君の存在を近くに感じ、まっさらな気持ちで君を見てみよう。
声を聞いて、姿を見て、もう一度御剣はぼくにとって何だと問い掛けよう。
案外あっさり答えが閃くかもしれないし‥。
次、君に会う時…。
ぼくは何度か心の中でそう繰り返し、左手に使用済みのティッシュを握り締めそのままの恰好で眠りに付いた。




・・・・・・・・・・・・・



「な、なんで?」
信じられない!そんな表情をした御剣にぼくは信じられない!というような動揺の仕方で訊ねた。
「?!そ、それは私の台詞だ!」
あからさまに不快な表情で牙を剥く御剣が言うことは至極当然で、無意識とはいえとんでもない事を口走ってしまったと自分の軽率さをひどく後悔した。


御剣と呑みに行ってから数日後、ぼくたちは偶然地方裁判所一階ロビーで再会した。
どうやらぼくたちは同じ時間帯、事件は違えど法廷に立っていたらしく、更に言うなら二人とも白星を挙げ気分は上々、挨拶だけじゃなく軽く会話を交わせるくらいのゆとりがあった。
なんか、運命的で素敵だね!なんて御剣には言わないけど、ぼくはニコニコハッピー‥今なら法廷の女神様とだってダンスできちゃうくらい再会を喜んでいる。
少しでも長く話せますように!と心の中で手を合わせ祈っていたらどんな運命の悪戯か、二人きりでお茶(といっても売店のコーヒーを立ち飲みって程度だけど)することになった。もうね、ここまできたらこの出会いには運命以上の何かもっと特別なものがあるんじゃないかって思っちゃうよね。
ほんの一呼吸、僅か一歩違っただけでこの出会いはなかったわけだし、閉廷したからって仕事中なわけでしょ?仕事最優先の御剣がちょっとの時間でもぼくを優先してくれるなんて驚きじゃない?明日は槍が降るかもね!高確率で降っちゃうかもね!
他愛もない会話や、御剣の寛いだ表情、ささやかな触れ合い、新しい記憶として刻まれる一面はぼくにとって宝物みたいに大切なものだったしこの上ない喜びでもある。
このまま浸ってしまいたいと思ったけれど思い出したんだ。
回答が保留になっていた問いがあったってことを。
次、君に会う時…。
それが今なわけで、今なら答えが得られそうな予感がする。
だってこんな素敵な巡り合わせ、運命以上の何かが背中を押してるような気がしてしかたない。
ぼくは少し苦いコーヒーをぐっと喉に流し込み、御剣には聞こえないよう静かに深呼吸をして喜びに高鳴る心を静めた。
検事と弁護士。
同級生の幼馴染。
失踪した男友達。
様々な事柄を一度リセットしてまっさらな気持ちで御剣と向かい合った。
ドキドキするよ?
今までモヤモヤしてきたもん。普段味わえないような感情をたくさんたくさん味わったし、普通では考えられないような事もした。
胸に痞えていた大きな疑問に何かしらの答えが出るかもしれないし、それによって本当の意味でスッキリするかもしれないじゃん。

会えないと寂しくて、会えたらすごく嬉しい。
ずっと一緒に居たいと思い、別れる時は無性に哀しい。
離れていても姿や声を脳内再生できて、ぼく好みのパーツをほとんど持ってる。
楽々妄想できちゃって、オナペットにしちゃった。
そんな御剣はぼくにとってどんな存在だ?

どんな答えでもよかった。
微かな閃きでも十分だった。
欲を言うなら言葉として。単純に理解できる言葉で分かるならかんたんだった、のに。
閃くより先に突き動かされたのは身体。
まっさらな心に煌いた一筋の情動。

微笑みの残る御剣の唇にぼくはキスをしたのだ。

「ご、ごめん‥その‥ぼく自身も何でこんなことしたのか分からなくて。で、でも嫌がらせとかじゃないのは確かなんだ」
置いてけぼりの思考が徐々に追いついてくる中、重ねた唇の感触が痛いくらいに心に沁みて行く。
所謂とこの常識や枠にはまった概念よりも心が、身体が、御剣を求めた事実。
お気に入りだった写真誌のどんな子より、身近な恋愛対象と成り得る女の子達より惹かれた。
否、ぼくの好むもの全てが御剣を指していたんだって今なら容易に解る。
純粋に触れたいと思ったんだ。
キス、したかった‥どうしても。
明らかに憤慨する御剣がすっごい形相で睨み付け、普段なら縮み上がってしまうぼくだったけどこの時ばかりは震えてなんかいられない。
じんわり胸に広がる切なくも暖かい感情にただ、ただ、嬉しくて‥。
最高の答えを得た事が途方もなく幸せで逃げ腰の御剣に詰め寄った。
ねえ、ぼくは腹を括ったよ?
ここまですっごく時間がかかったけれど、やっと得られた答えを疑うことなく信じる心は決まったよ?
「御剣、君が好きだよ」
さあ、思いっきり恋のバトルをしようじゃないか。
理屈屋で世間の常識にがんじがらめの君と、今まさに君への恋心を自覚したぼくとの真剣勝負。
ぼくの人生全てを賭け、君をオトシに掛かるから、覚悟してね。


そう内心呟くと、ぼくは困惑を隠さない御剣に向かい不適に笑った。








おしまいv

  



2011/07/26
mahiro