月に叢雲 俺とお前  其の九











 見たことのない天井に、無機質な言い換えれば機能的な電気が下がっていた。

 倒れた所まで覚えている。その後の記憶はぼんやりとしていて夢か現実か区別がつかない。
だが、体を包んでだ温もりは、確かにイタチのものだった。
 



 ――― だとしたら、家ではないここは恐らく・・・・・。




 少し頭を整理したくて、何か現実な物を探してみると、部屋の冷たさとは対照的に窓から月明りが射し込んでいた。


 起き上がりゆっくり窓を開くと、大きな月が浮かんでいる。
満月かそれに近い月は、昼間の謙虚さとはうって変わった優雅な顔を見せていた。



「・・・・・ 綺麗 ・・ もう、夜なんだ ・・・・・」



 あれからどれくらい経つのだろう。
体にだるさは残っていない。その日の夜なのか、もっと日にちが経っているのか。

 出来れば何事も無かった様に、家で目覚めたかったと、ポツリと弱気な言葉が口を吐く。


 サスケはあれからどうしたのだろう。
もしかしたら、イタチが殺しているかも知れない。
どうしようもないのだけれど、自分の存在の意味を今更ながら迷い始める。



 まるで心を映すかの様に、綺麗な月に雲が流れ邪魔をする。
雲間に浮かぶ月は、嫌いじゃない。
でも、今の自分には、悔しいほど似ていて。



「・・・・ 月に叢雲、花に風 ・・・・ そして、イタチに私 ・・・・・なんだよね ・・・・」

「ああ 俺には、お前しかいない ・・・・・」


 きっと寝ていると思い忍んで来たのだろう。
待ち焦がれているはずの声にも、振り向かずそのまま月を見上げる。

 そんなに着ていた暁の外套をそっと掛け、その細い肩を抱きしめた。
 しかし、その身はイタチに預けられる事無く立ち尽くす。


「体は、大丈夫か?」
「・・・・・ うん ・・・・・・ ねぇ 此処は? ・・・・・」


 解かりきっている事だけど、少しだけの期待を込めて聞いてみた。

「暁だ ・・・・・ お前はあの後、気を失って眠り続けた」
「・・・・ どれくらい?」
「これが二度目の月だ。 お前と見られて良かった」


 優しく髪に口づけながら、囁くイタチ。
どれだけ心配したか、痛いほど伝わってくる。そんな優しさも、今のには責める言葉だ。


「私、何でこの世界に来たんだろう ・・・・・・」

 俺の為だと、優しく後から抱きしめるイタチ。でも、溢れ出した涙は止らない。

「うそ ・・・・・ イタチに迷惑掛けてばかりで。
 サスケ君にだって、悲しい思いをさせた。
 それに ・・・・・ それに ・・・・・・」


「そんな事はない。 俺は、お前の事を、一度だって迷惑だと思った事は無い。
 お前が、一番知っているはずだ。 落ち着け ・・・・ まだ、疲れているんだ」

 

「私さえ、いなかったら、イタチだってもっと違った生き方が出来たはずよ。
 あんな思いまでして木の葉を抜けたのに ・・・・・・
 私なんかに、躓いて ・・・・ 本当に迷惑だよね ・・・・私 ・・・・」


「違う。 そんな風に考えるな。 
 もっと、落ち着いて俺との事を、思い出してくれ」

しかし、は否定し腕の中で暴れはじめた。

「違わない!!! だって、此処(暁)に居るのよ。
 なぜ、家じゃないの?
 私、何かしちゃったんでしょ? 
 また、イタチに迷惑掛けたのよ ・・・・・ 私なんか ?! ・・・・・・・」


 一瞬、腕を緩め体の向きを変えさせ、逃げぬように片手で後頭部を掴むみ自由を奪うと、唇を塞いだ。
 胸を叩き暴れるの腰をしっかりと体に密着させ、息が苦しくなり力が抜けるまで、それは離される事は無かった。

 息の上がったをしっかりと抱きしめた。


「俺は、お前のために存在する。お前と出逢うために、この世に生を受けたのだ。
 たとえ、お前がこの世界に来なくとも、俺たちは必ず何処かで出会い、愛し合っている。
 ・・・・・・・ 今の、俺たちの様に」

「そんな、おとぎ話みたいな事、信じられない。
 ・・・・・・・・ でも ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・ 私も、そう思う ・・・・・・ きっと、どこかで 必ず イタチと ・・・・・・」



 両手を大きな背中へとまわし、ぎゅっと抱きしめ返しながら、ごめんねと小さく呟く
何度も、もうこれ以上愛しいと想う事はないと思っても、その想いはあっさりと上限値を塗り変えていく。



「ごめんね。心配掛けて。強くなるって決めてたのに ・・・・。
 もう、こんな事ぐらいで負けないから ・・・・・・ 。
 一生、イタチに付いてくって決めたんだもん、私。」


 もう大丈夫と、いつもの笑顔でにっこり微笑む。
けっして強がりではない、イタチが強く惹かれた柔らかな強さ。
 その強さの源(みなもと)が、自分への愛だと確かめたくて、魂の全てがざわめき始める。

 窓を閉め羽織らせていた外套を床へと落とすと、を抱き上げそっとベットへと戻す。
てっきり布団を掛けてもらえると思っていたら、ベットが小さく軋んだ。


「?! ・・・・ ここ、家じゃないよ ・・・・びょ、病室でしょ?」

 無駄だと解かっていても、とりあえず正当な物言いでやんわりと、決して止らないだろうその瞳に、聞いてみる。


「ああ、解かっている ・・・・。
 だが ・・・・・・ 確かめたい ・・・・・・ 俺たちが、どれほど深く愛し合っているか ・・・・・。
  ・・・・ 抱きたい お前を ・・・・・」

 ほんのりと染まる頬に触れながら、素直に気持ちを言葉にすると。
さらに頬を染ながら、触れた手へとその手を重ね。

「・・・・ 確かめたい ・・・・・・・ 私も ・・・・」
「俺たちを、邪魔するモノなど、何も無い ・・・・」

 全てを過去へと誘うような、優しいくちづけ。
そして、また一つ、愛の証を刻んでいった。





お付き合いありがとうございました。
あまり甘くないお話ですみません。
いつかは、サスケとの事をお仕置きされる話が
書けたらなぁと、思っています。

2007/7/14
 二つ紅 壱

二次創作者:風見屋 那智那