二つ紅 〜十三





 
 やっと浴衣が縫いあがった頃には、夏の盛りは終わっていて、残り一つの祭りを残すのみだった。
それでも、完成したのが嬉しくて、サスケを心待ちにしていた。

 なんとなく予感がしたのだろう。
来てくれた時に出す菓子でもと、あれこれ頼んだ翌日、サスケは昼過ぎにを訪ねて来た。

「いらっしゃい! 待ってたのよ」

 の笑顔にフンと無関心を気取ると、つかつかとあがり込み居間にどんと腰を下ろす。
開けた襖の奥に掛かる浴衣に気づかぬフリをして。

 すると、は、団子とお茶を出してから、掛けてあった浴衣をにこにこしながら持って来た。



「ねえ、ほら、やっと出来たのよ」

 嬉しそうなとは全く反対に、不機嫌オーラ全開のサスケは浴衣に見向きもしない。

「誰が食うんだ、こんなもの」

 忌々しそうに三色の団子を睨みながら言い捨てる。そのまま、を見上げると、不思議そうにサスケを見つめている。


    俺はアイツじゃない!


と怒鳴りたかったが、言葉にするのもしゃくに障るので飲み爪を咬む。


「好きじゃなかったんだ・・・・」

 不思議そうに団子を下げ台所へと入っていったの後ろ姿をを、今度はサスケが訝しげにみつめた。




あいつ(イタチ)が好む物が、自分まで好むと思ったのか?




 そう思えない事もないが、あの戸惑いは少し違うようだ。
明らかにサスケが好むと確信していた様子だった。




「ねえ、せっかくだから、少し羽織ってみてよ」

 嬉しそうに浴衣を広げるに、熱くなる頬を誤魔化すかの様な物言いで、そっけなく突き放す。
サスケの言葉に、がっかりした様子のは、仕方なく浴衣を畳むと文庫紙に丁寧に仕舞った。




 イタチのした事を考えれば、当然の反応のはず。
なのに、なぜここまで落胆するのだろうか?



 ふと先ほどの、団子の件を思い出す。
イタチが恋しいあまりに、少し頭がおかしくなってしまったのではと、真剣に心配した。
しかし、自分の口からイタチの名を出すなど、サスケにとって一番避けたい事。
仕方なく、自分の事を問うてみても、サスケ君でしょ?と、不思議そうな表情が添えられる。


 あれこれ思案しつつ、のしぐさを観察していると、ふと目が合って恥ずかしそうに視線を逸らした。

「あんまり、見ないでよ ・・・ 恥ずかしい ・・・」
「別に見てなどいない。 お前、少し自意識過剰なんじゃないのか?」
「え〜、ひどいよ! じろじろ見てたじゃない!」
「見てないって、言ってるだろう!」
「ううん、絶対見てた!」
「だから、見てない!」
「ううん、ぜった ・・」
「「?!」」

 言い合いをしていて、ふと気付くとお互いの顔がすぐ近くに来ていた。
同時に気付き、慌てて互いに顔を逸らす。


「ごめん、言い過ぎたね ・・・」

 再び言い返す言葉を捜していたサスケに、素直に謝るの言葉が届く。
それでも、意地っ張りなサスケは、素直になれない。
黙って立ち上がると、そのまま玄関へと歩いていった。
その後を、黙って見送りに来たに、玄関の扉を開けながら言い捨てる。


「最後の祭りの日に、見せてやる。 お前も支度しておけ」
「えっ? ちょっ ! サスケ君!」

 追おうとしたを遮るように、扉が閉まる。
何事もなかった様に、閉められた扉をしばし見つめていたは、はっと気がついた様に居間へと戻った。
そして、は、置いてあった文庫紙が跡形もなく消えているのを見て、嬉しそうに微笑んだ。


2009/2/23

執筆者 天川 ちひろ