二つ紅 〜壱
あれから一ヶ月。
何事もなかった様に時間は過ぎていった。
自分の身に何が起こったのか知らされる事はなく、すぐにいつもの生活に戻った。
しかし、暁から戻って片時も離れないイタチを見ると、やはり何かが変ってしまったのだと思わざるを得ない。
そんな事を思いながら朝食の片づけを終えて部屋に戻ると、イタチが声を掛けてきた。
「今日は、久しぶりに里に出ないか? ちょうど祭りがあるはずだ、市も出てるだろう」
「里? ほんとに!? ・・・・・ でも、大丈夫なの ・・・・・・?」
輝かせた瞳をすぐに曇らせて心配そうに言葉を足すに、痛む心を押さえて微笑み返す。
「俺も一緒だ、心配はいらない」
満面の笑みを返すと仕度するねと、奥の部屋へ。
久しぶりの明るい笑顔に、口元がさらに緩む。
だが、その表情はすぐにいつものイタチに戻り、庭へと流された。
蹲(つくばい)に遊ぶ二羽の雀。
むつまじい二羽の様子に、小さく息を吐いた。
「・・・・・・ ・・・」
「えっ? 何 ・・・・・・? わっ?!! ・・・ んっ ・・・・・・・・」
漏れた言葉に返事が返り思わず苦笑いが浮かぶ。
見下ろすを引き寄せて腕の中へ閉じ込めると、しっかりと抱きしめた。
「このまま ・・・・ このままお前を閉じ込めてしまいたい ・・・・・・・・」
「・・・・・・・ イタチ ・・・・・」
らしくない言葉にぎゅっと服を掴んで胸にその身を預けた。
規則的に響くイタチの鼓動が静かに伝わる。
「・・・・・・ いいよ ・・・・ このまま ・・・・・ このままイタチの中に溶けて行きたい ・・・・・・」
――― ・・・・・・
込み上げる愛しさを胸にしまい髪にひとつくちづけを落とす。
「・・・・・・ それは困ったな。お前を抱けないのは、何よりも辛い」
「?!・・・・・・ もう ・・・・ どうしてソコに行くわけ? っ ........ ?!」
言葉に素直に反応し頬を染めて見上げるその唇を、有無を言わさず塞いだ。
舌を絡めたまま何度も角度を変え、を翻弄する。
本当にこのまま溶けてしまいそうだと次第に熱くなる自分にそう思った時、名残惜しそうにゆっくりと唇が、そして、最後まで絡め取られていた舌が、その熱を置き去りにしたまま離れていった。
そんなつもりはないのだろうが、煽るような潤んだ瞳で見つめるを、迷いを振り切るように再び抱きしめた。
「このまま抱きたい所だが、楽しみはとっておくとしよう」
はっと我に返って、ぱっと体を離すと真っ赤になって、もうとふくれる。
柔らかい笑顔を浮かべながら、右手でそっと頬を撫でると、左の耳元で艶のある囁き。
「・・・・・・ はしゃぎすぎて、先に寝るなよ ・・・・・・」
「?!!!!!・・・・・・ っ ・・・・・ もう!」
行くぞと見返りで誘うイタチに、反則だよとポツリと呟き、その差しだされた大きな手に小さなそれを重ねた。
その温もりに全てを委ねて、久しぶりの逢瀬へと出かけて行った。
2007/8/3 連載開始